↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
16/19

世界は、創造主の斜め上を爆走する

天界。


人間界を映し出す水晶玉の前で、一人の女神が頭を抱えていた。


「なんで……どうして……。」


水晶玉には、仲睦まじく寄り添うヒルダとジョンの姿が映っている。


「真実の愛、という素晴らしいものを用意したのに……。みんなどうして幸せそうなの?」


ヒルダは婚約者と領地経営について語り合い、熊対策と堤防の維持管理に胸を躍らせている。

エドワードとレティシアは、互いの衣装を交換して舞踏会に出ることを楽しんでいる。


そして、ヒルダは前世のオタク趣味を存分に満喫していた。


誰も不幸になっていない。

誰も真実の愛を求めて苦悩していない。


女神が用意した物語の筋書きなど、どこにも存在していなかった。


「……どうしてなのぉ……。」


女神が涙目になった、その時。


「人間というのは、神の思い通りにならないのさ〜。」


「全王神様!!」


いつの間にか、女神の隣に一柱の神が立っていた。


男とも女とも見て取れる美貌。

長い年月を生きてきた者だけが持つ、どこか達観した雰囲気。


全王神は水晶玉を覗き込み、楽しそうに笑った。


「いやあ、君の世界はまだマシじゃないか。」


「……マシ?」


女神は涙を拭い、顔を上げた。


「そうそう。隣の世界の女神のところなんて、恋愛ファンタジーを作ったはずなのに、気付いたらストリートファイターが始まっていたんだよ?」


「…………は?」


「ヒロインと攻略対象が拳で語り合う世界になっちゃってね。最終的には悪役令嬢まで参戦していたよ。」


「ちょ、ちょっと待ってください!恋愛ファンタジーですよね!?」


「うん。最初はね。」


全王神は、実に楽しそうだった。


「別の世界の神のところは、冒険ファンタジーから、いつの間にか国盗り物語になっていたし。」


「……。」


「魔王を倒す旅に出た勇者が、道中で出会った領主たちの政治的問題に巻き込まれてさ。

更に魔族の方が世界の王族たちに虐げられていると知って、魔王と手を組み、王政に憤りを募らせている諸侯をまとめ上げ、王都を包囲していたんだよ。」


「…………。」


「さらに、あっちの世界の神のところなんて、悪役令嬢が暴れ回って、メインカップルを地獄に落としてしまってね。」


「……あの、もう結構です。」


女神は両手で顔を覆った。


「私の世界は、そこまでひどくありません……。」


「そうだねえ。熊対策と堤防の維持管理で幸せになってくれるなら、平和なものだよ。」


「それは……そうですけれど……。」


女神は水晶玉を見つめた。


そこには、ジョンの筋肉を褒めちぎり、満面の笑みを浮かべるヒルダが映っている。


「でも、私は……。せっかく、真実の愛という素晴らしいものを用意したのに。」


全王神は、少しだけ笑みを和らげた。


「君は、真実の愛があれば人間は幸せになれると思っていたんだね。」


「……はい。」


「それ自体は、間違いじゃないよ。真実の愛で幸せになる人間だって、もちろんいる。」


全王神は水晶玉に視線を戻した。


「でもね。それが、すべての人間にとっての幸せとは限らないんだ。」


「…………。」


「見てごらん。」


水晶玉の中では、ヒルダとジョンが楽しそうに話していた。


「彼女は、自分と一緒に領地を守り、暮らしを支えてくれる相手を見つけた。彼もまた、彼女と一緒に生きていくことを望んでいる。」


「……はい。」


「エドワードとレティシアだって、二人なりの幸せを見つけている。

君が想定していた物語とは違うかもしれないけれど、誰かが不幸にならなければ成立しない幸せなんて、そもそも必要ないだろう?」


女神は黙り込んだ。

全王神は、穏やかな声で続けた。


「人間は、神が用意した筋書きを演じるために生きているわけじゃない。

自分で考えて、自分で選んで、その先で幸せになっていくんだよ。」


「……。」


「だからさ。」


全王神は、再び水晶玉を覗き込んだ。


「君の世界、ハッピーエンドじゃないか。」


女神は、もう一度ヒルダたちを見た。

ヒルダはジョンと並んで笑っている。


その表情に、迷いや後悔は見られなかった。


「…………そう、ですね。」


女神は、小さく頷いた。


「私が用意した筋書きとは違いますけれど……。」


「うん。」


「……幸せそうです。」


全王神は満足げに微笑んだ。


「それでいいんだよ。」


しばらくして、全王神はふと思い出したように付け加えた。


「そうそう。さっき話したストリートファイターの世界だけどね。」


「……まだ何かあるんですか?」


「最終的に、悪役令嬢が世界チャンピオンになったらしいよ。」


「…………。」


女神は、静かに水晶玉から目を逸らした。


「……私の世界は、平和でよかったです。」


「だろう?」


全王神は、楽しそうに笑った。


天界の片隅で、今日もまた一つ。


創造主の想定を超えた、幸せな物語が続いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。