伯爵令嬢、婚約者の筋肉を褒め称える
ジョンとの婚約が、両家立ち合いの元、正式に成立。貴族院にも受理された。
両家の話し合いの結果、婚約式はハワード伯爵領で執り行われることとなった。
久しぶりの帰省に、ヒルダは朝から上機嫌だった。
「お母様にお会いするのも久しぶりですわ!」
「そうだな。母さんも、ヒルダが帰ってくるのを楽しみにしているよ。」
父のクロードが微笑む。
その隣では、ジョンもまた、どこか浮き立った様子だった。
「ハワード伯爵領を見て回れるのが楽しみです。これから暮らすことになる土地ですからね。」
「まあ!でしたら、私がご案内いたしますわ!」
ヒルダは勢いよく身を乗り出した。
「領地の特産品や農地はもちろん、治水設備や堤防の状態もご説明いたしますね。
それから、熊の出没地点と過去の被害記録もまとめてありますので!」
「それはありがたい。ぜひ拝見したいです。」
「まあ、ジョン様!お話が合いますわね!」
「ええ。熊の生態と堤防の維持管理は、領地経営において重要ですから。」
二人は顔を見合わせ、にっこりと微笑んだ。
クロードは娘の幸せそうな顔を見て、目元を緩める。
(……本当に、良い相手を見つけてくれた。)
なお、この時点で二人の会話に恋愛らしい要素は一切なかった。
しかし、本人たちは至って幸せそうだった。
***
婚約式の前祝いとして、ハワード伯爵親子は再びローゼンベルク公爵邸に招かれた。
ローゼンベルク公爵邸内でも最大の広さを誇るパーティー会場には、エドワード王太子と婚約者のレティシア、マーガレット王女、そして両家の関係者が集まっていた。
「ヒルダ嬢、ジョン卿。婚約成立、おめでとう。」
エドワードが笑顔で祝福する。
「ありがとうございます、殿下。」
ヒルダとジョンは揃って礼をした。
その後、和やかに歓談が始まった。
ヒルダは、向かいに座るエドワードとレティシアを眺めていた。
金髪碧眼の王太子と、気品あふれる公爵令嬢。
並んでいるだけで絵になる二人である。
(はぁ……美しいわぁ……。)
ヒルダはうっとりと二人を眺めた。
(エドワード殿下も素敵やけど、レティシア様、本当にお美しい……。
あの凛とした佇まい、すらりと伸びた背筋、涼やかな眼差し……。)
隣に座るジョンが、ちらりとヒルダを見た。
「……ヒルダ嬢。」
「はい?」
「殿下とレティシア様が、そんなに気になりますか?」
「えっ?」
ジョンは少しだけ眉を下げた。
「いえ……お二人とも大変お美しいですから、見惚れるのも分かりますが……。」
(あっ!しまった!)
ヒルダは慌ててジョンへ向き直った。
「ジョン様!」
「はい?」
「ジョン様の上腕二頭筋と大胸筋は世界一です!」
会場が静まり返った。
「…………。」
「…………。」
「…………え?」
最初に声を上げたのは、マーガレット王女だった。
ヒルダは真剣な表情で続ける。
「先日、騎士団の鍛錬場で拝見いたしましたが、あの筋肉の均整、鍛え上げられた肩幅……。
そして体幹の安定感!日頃の鍛錬の賜物ですわね!」
「そ、そうですか?」
ジョンの顔が、みるみる明るくなった。
「ありがとうございます。実は、最近は背筋の鍛錬にも力を入れておりまして……。」
「まあ!ぜひ詳しくお聞かせくださいませ!」
「もちろんです!」
二人はさっそく筋力トレーニングについて語り始めた。
エドワードが、ぽつりと呟く。
「……あれでいいのか?」
レティシアは扇子で口元を隠した。
「ふふっ。よろしいのではありませんか?お二人とも、とてもお幸せそうですわ。」
マーガレットも、兄とレティシアを見比べながら首を傾げた。
「……仲睦まじいのは、良いことですけれど。」
その場にいた全員が、なんとも言えない表情で二人を見守った。




