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梟雄伝 時逢乱世梟雄起 涿郡市井興大義 二段

盧植の門を去った後、劉備は故郷の涿郡に戻った。彼は学問の道を選ばなかった。机の上より、市井の方が自分の居場所だと、何となく感じていたのだ。


彼は、同郡の簡雍という男と共に、徒党を組んだ。簡雍は劉備よりいくつか年上で、細面の顔にはいつも薄笑いを浮かべている男だった。幼い頃からの付き合いで、口が達者で世渡りに長けた簡雍は、劉備の相棒としてぴったりだった。彼は涿郡のどこにでも顔が利き、誰とでもすぐに打ち解ける才能を持っていた。役人のところへ行けば酒を酌み交わし、市場へ行けば商人たちと値段の駆け引きをし、賭場へ行けばならず者たちと肩を並べる。そういう男だった。


「玄徳、このまま草鞋編んでても仕方ねえ。何かやろうぜ」


簡雍の言葉に、劉備は笑った。


「そうだな。俺たちは、この町で『侠客』を名乗ることにしようぜ」


侠客。それは、単なるならず者ではない。弱い者を助け、強い者に立ち向かい、筋の通らねえことは絶対に許さない。表向きはそういう建前だ。実際は、賭場の用心棒をしたり、商人の護衛を請け負ったり、揉め事の仲裁に入って袖の下をいただいたり。時には、他の侠客の組と縄張り争いの殴り合いも辞さない。それが侠客の仕事だった。


劉備の徒党は、最初は十人にも満たない小さな集まりだった。劉備の家の庭に集まり、酒を酌み交わし、町の揉め事の話を聞いては、時には首を突っ込み、時には知らん顔をした。彼らの名が知られるようになったのは、ある事件がきっかけだった。


涿郡の市場で、若い農民が大店の主人に殴られていた。借金の取り立てだというが、利子があまりに法外で、農民は元金すら返せなくなっていた。周りの者たちは見て見ぬふりをしていた。大店の主人は町の顔役で、逆らえば自分たちも危ないからだ。


そこへ劉備が通りかかった。


「おい、旦那。ちったァ加減しろよ。死んじまったら借金も取れねえぜ」


大店の主人は劉備を一瞥し、鼻で笑った。


「何だ、てめェは。草鞋売りのガキが口を出すな」


「ガキでも筋は通す。その借金、利息が高すぎやしねえか」


劉備の声は穏やかだったが、その目は笑っていなかった。主人は少し怯んだが、ここで引けば面子が丸潰れになる。


「うるせえ! てめェに関係ねえ!」


主人が劉備に掴みかかろうとした瞬間、劉備はその腕をひねり上げ、地面に押さえつけた。手際は鮮やかで、周りの者たちは息を呑んだ。劉備は主人の耳元で低く言った。


「元金だけなら、俺が立て替えてやる。だが、利息はまけろ。それが筋ってもんだろうが」


主人は青ざめた顔で何度も頷いた。劉備は懐から金を出し、主人に渡した。そして農民を助け起こし、笑って言った。


「お前、今日から俺のとこで働け。草鞋の編み方、教えてやる」


この一件で、劉備の名は一気に広まった。「筋を通す男」「弱い者の味方」。そんな噂が、町の隅々まで行き渡った。


涿郡には、中山から馬の売買に来る大商人がいた。張世平と蘇双という二人の男だ。彼らは毎年、多くの馬を連れて涿郡を訪れ、豪族たちに売り捌いていた。馬は当時、戦力であり、富であり、ステータスであった。彼らの商いは、この地でも随一の規模を誇っていた。


しかし、商いが大きくなればなるほど、厄介ごとも大きくなる。運搬中の盗賊、取引先との揉め事、代金の支払いを渋る豪族。そうした問題を解決するには、金だけでは足りなかった。力が必要だった。張世平と蘇双が目をつけたのが、劉備の徒党だった。


「劉玄徳殿とお見受けする」


ある日、劉備の家に、上等な絹の服を着た男が訪れた。張世平である。彼は四十がらみの、がっしりとした体格の男で、その目は商人特有の鋭さを持っていた。劉備の家の粗末さに一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに礼儀正しく頭を下げた。


「中山の張世平と申します。こちらは同じく中山の蘇双でございます」


後ろに控えていた蘇双が、にこやかに会釈する。蘇双は張世平よりも若く、三十路を少し過ぎたばかりに見えた。どこか軽やかな印象で、初対面の相手にもすぐに打ち解けられる男だった。


「何の用だ」


劉備がぶっきらぼうに問うと、張世平は懐から皮袋を取り出した。中には、ずっしりとした重みの金が入っていた。劉備はその金を見て、内心で舌打ちした。草鞋を何千足売れば、この金が稼げるか。母は、こんなに楽をできるだろうか。しかし、彼はすぐにその誘いを呑まなかった。


「用心棒、ねえ。俺たちゃただのならず者だぜ。そんな大商人の相手、務まるかどうか」


劉備の言葉に、蘇双が口を挟んだ。


「玄徳殿の噂は聞いております。筋を通す男だと。我々が求めているのは、腕っ節の強さだけではありません。信用できるかどうかです」


「そうだ。お前らみたいな大商人が、俺たちを頼るってのは、よほどのことがあるんだな」


張世平は苦笑した。


「お察しの通りです。このところ、道中の盗賊がやけに増えまして。それだけではありません。取引先の豪族の中には、代金を踏み倒そうとする者もおります。我々は商人、刀を取って戦うことはできません。そこで、玄徳殿のお力をお借りしたいのです」


劉備はしばらく黙っていたが、やがて頷いた。


「わかった。ただし、条件がある。俺の連中の顔と名前、ちゃんと覚えろよ。使い捨てにする気なら、その時は」


彼は腰の剣の柄をトントンと叩いた。張世平と蘇双は顔を見合わせ、笑った。


「承知いたしました。それでは、よろしくお願いします、『親分』」


この日から、劉備の徒党は正式に張世平と蘇双の後ろ盾となった。彼らは商人たちの護衛を務め、取引の仲裁に入り、代金の回収を請け負った。その見返りに、劉備は十分な報酬を得て、徒党を大きくしていくことができた。


侠客の仕事は、決して楽なものではなかった。


ある時は、道中で山賊に襲われた。場所は涿郡から中山へ向かう山間の街道である。両側を切り立った崖に挟まれた狭い道で、馬車がようやく一台通れるほどの幅しかない。そこを狙って、三十人ばかりの山賊が待ち伏せていた。


「親分、前方に賊です!」


斥候を務めていた若者が、慌てて駆け戻ってきた。劉備は馬上から前方を見据えた。崖の上に、何人もの人影が見える。弓を持っている者もいる。


「総員、戦闘用意! 馬車を盾にしろ! 簡雍、あんたは商人たちを後ろに下がらせろ!」


劉備は素早く指示を飛ばした。彼は自ら刀を抜き、先頭に立って戦った。双剣を操り、山賊の首魁に斬りかかるその姿は、まさに鬼神の如くであった。右の剣で敵の槍を受け流し、左の剣で喉を突く。劉備は馬を駆り、次々と賊を斬り伏せていった。彼の後ろでは、関羽が大いに奮戦していた。彼はまだ徒党に加わったばかりだったが、その腕前は群を抜いていた。長い柄の刀を振るい、賊の首を撥ね飛ばす。張飛もまた、大声で吠えながら賊に突っ込んでいった。


「かかってこい! この張益徳様が相手になってやる!」


半刻ほどの戦いで、山賊は潰走した。劉備の徒党にも数人の負傷者が出たが、命を落とした者はいなかった。


山賊を追い散らした後、張世平が震える声で礼を言った。


「た、助かりました。玄徳殿がいなければ、我々は」


「気にすんな。これも仕事だ」


劉備は血まみれの顔を雑巾で拭いながら、あっさりと言った。その後ろで、簡雍が商人たちに酒を振る舞い、笑顔で慰めている。彼はこういう役目がうまかった。侠客の組には、腕っ節の強い者だけではなく、交渉役や調停役も必要なのだ。


またある時は、取引先の豪族が代金の支払いを渋った。相手は涿郡の西の端にある范陽県の豪族で、広大な田地を所有し、数百人の小作人を抱える大身だった。名前を公孫某といい、公孫瓚とは遠縁にあたるという。そのせいか、自分は特別だと思い上がっている節があった。


劉備は簡雍を連れて、その豪族の屋敷に乗り込んだ。馬車で二日かかる道のりだった。


「劉玄徳殿、これはこれは。どういったご用件で?」


豪族は慇懃無礼な態度で劉備を迎えた。彼の目には、侠客風情が何をしに来たという軽蔑があった。客間には高価な調度品が並び、壁には名のある書家の書がかかっている。これ見よがしの金持ち自慢だった。


劉備は無言で、懐から借用書を取り出し、卓の上に置いた。


「これ、覚えてるよな。期限は三日前だ」


豪族の顔色が変わる。彼は借用書を一瞥し、わざとらしく首を傾げた。


「いや、それが少し都合が…」


「都合が悪いだと?」


劉備の声のトーンが一段低くなった。彼はゆっくりと立ち上がり、豪族の前に歩み寄った。


「てめェ、取引する時にゃあの手この手で値切って、こっちは安くしてやったんだぞ。そんで今更『都合が悪い』だと? それって、俺たちを舐めてるってことか?」


豪族の顔から血の気が引いた。周りにいた使用人たちも、劉備の放つ異様な圧力に縮み上がっている。劉備は決して大声を出しているわけではない。むしろ、声は静かだった。しかしその静けさが、かえって相手の恐怖を煽った。


「ち、違います。決してそんな…!」


「じゃあ払え。今すぐだ」


劉備は腰の剣の柄に手をかけ、豪族をじっと見つめた。その目は、獲物を狙う野獣のそれだった。豪族は震える手で奥から金を持ってこさせ、劉備の前に積んだ。劉備はそれを一つ一つ数え、借用書を豪族に突き返した。


「これでチャラだ。次からは約束は守れよ。こっちもただでやってるわけじゃねえんだ」


そう言い残し、劉備は簡雍と共に屋敷を後にした。帰り道、簡雍が笑いながら言った。


「お前、あの豪族、震え上がってたぜ。お前の目、本気で殺す気だったろ」


「当たり前だ。嘘をつく奴は、侠客の世界じゃ生きていけねえ」


後日、この話は町中に広まった。「劉玄徳にだまし討ちは通用しない」と。以後、劉備の徒党に支払いを渋る者は一人もいなくなった。


ある日、劉備は簡雍と共に、近隣の町で酒を飲んでいた。場所は范陽の市場に面した小さな酒屋で、店の主人は劉備の顔なじみだった。


その時、一人の男がふらりと店に入ってきた。男は無造作に束ねた髪に、旅の埃をまとい、腰には剣を差している。年の頃は劉備と同じくらいか、少し上か。どこか物憂げな雰囲気だったが、その眼光は鋭く、劉備は直感的に「この男、只者じゃない」と感じた。


その男牽招と名乗った。彼は、劉備の隣に座り、酒を注文した。二人は何のきっかけもなく、酒を酌み交わし始めた。最初は当たり障りのない話だった。天気の話、旅の話、どこの町が良いか悪いか。しかし杯を重ねるうちに、二人の話題は次第に深いものへと変わっていった。語る言葉は、世の不正、腐った役人、苦しむ民衆のこと。牽招もまた、劉備と同じく、この乱世を生きる侠客であった。


「俺はな、若い頃は役人を志したこともあった。だが、どうにもならねえ。上の連中は賄賂を貪り、下の連中はそれに苦しむ。正しいことをしようとすれば、逆に弾かれる。そんな世の中だ」


牽招は酒を呷りながら、ぽつりぽつりと自分の半生を語った。彼は安平国の観津県の出身で、同郷の楽隠という学者に師事したことがあるという。楽隠は後に車騎将軍の何苗の長史となったが、牽招はその道を選ばなかった。学問で身を立てるよりも、自分の腕一本で世の中を渡っていくことを選んだのである。


夜が更けるにつれ、二人の間に壁はなくなっていた。


「玄徳、お前はどう思う? この世の中を」


牽招が、盃を傾けながら尋ねた。


「腐りきってる。だが、腐ったからこそ、俺たちみたいなもんが出る幕があるってもんだ」


劉備は笑った。牽招も笑った。


「違いない。俺たちが正さなきゃ、誰が正す」


その夜、二人は義兄弟の盃を交わした。刎頸の交わり、互いの命を預け合う、侠客としての最高の誓いであった。盃に酒を注ぎ、互いの指を少し切り、血を混ぜる。古くから侠客たちの間で行われてきた儀式である。


「牽招。これからは俺の兄弟分だ」


「ああ、劉備。お前のためなら、この命、いつでも捨てる」


『太平御覧』巻四百九・人事部五十・交友四に引く孫楚『牽招碑』に曰く「君與劉備少長河朔、英雄同契、爲刎頸之交」。


牽招はその後も劉備と共に行動し、数々の修羅場をくぐり抜けた。侠客としての仕事は、時に命のやり取りを伴う。それでも二人は互いの背中を預け合い、生き延びてきた。牽招は後に曹操に仕え、辺境の名将として活躍することになるが、その侠気と義理堅さは、劉備との絆が育んだものだった。


涿郡に、張飛という男がいた。


彼はこの地の大地主で、多くの田地と荘園を所有していた。肉屋を営んでいたのは、生計のためというより、むしろ道楽のようなものだった。現代で言えば、大企業の御曹司が暇つぶしに小さな会社を経営しているようなものだ。体躯は堂々としており、声は雷のようで、酒を好み、人の良さと粗暴さが入り混じった男だった。


張飛の屋敷は涿郡の中心部にあり、その門構えはちょっとした豪族にも引けを取らなかった。彼は若くして父を亡くし、広大な田地と多くの使用人を一人で切り盛りしていた。年の頃は劉備より十ほど下だが、その体格はすでに大人の男を凌駕していた。


ある時、張飛の土地を巡って、近隣の豪族と揉め事が起きた。相手は涿郡の北の端にある遒国という県の豪族で、張飛の土地の一部が自分の領地だと主張してきたのである。向こうは役所にも手を回し、偽の証文まで用意していた。張飛は腕は立つが、こうした陰湿な手口には慣れていなかった。


「あの野郎、話が通じねえ。拳で語るしかねえか」


張飛は子分たちを連れて相手の屋敷に乗り込もうとしたが、子分の一人が止めた。


「親分、それはまずいです。相手は役人と組んでます。ここで騒ぎを起こせば、かえって親分が捕まります」


「じゃあどうすりゃいいんだ! このまま泣き寝入りしろってのか!」


その時、子分の一人が劉備の噂を持ち出した。


「親分、町外れに劉玄徳って侠客がいるそうです。筋を通す男だって評判で、揉め事の仲裁もうまいとか」


「劉玄徳? あの草鞋売りの?」


張飛は最初、その名を聞いて鼻で笑った。しかし他に当てもない。藁にもすがる思いで、彼は劉備の家を訪ねた。


「劉玄徳殿、ここに来れば助けてくれるってぇのは本当か?」


張飛が劉備の家の前に立った時、その巨体に劉備も少し驚いた様子だった。劉備は張飛の話を聞き、静かに頷いた。


「わかった。筋の通らねえことに、理屈をつけて押し通そうって奴は、この俺が許さねえ」


劉備は簡雍と共に、その豪族の屋敷に乗り込んだ。役所との癒着を暴き、証拠を突きつけ、張飛を陥れようとした者たちを論破した。簡雍が事前に集めていた情報が物を言った。相手の豪族が差し出した証文が偽物であることを証明する証人を見つけ出し、さらに役人との癒着を示す書簡まで入手していたのである。


事が解決した後、張飛は劉備の前にひざまずいた。


「玄徳殿、あなたのようなお方がいるとは知らなかった。どうか、俺もあなたの下で働かせてくれ。金ならいくらでも出します。力もいくらでも使うぜ!」


張飛の声は大きく、その場にいた全員が振り返るほどだった。劉備は張飛の豪快さに笑い、快く受け入れた。


「よせよ、頭なんか下げるな。気が合うなら、一緒にやろうぜ。金なんかより、てめェのその心意気の方が大事だ」


張飛は目を輝かせた。それ以来、彼は劉備の最も頼りになる兄弟分の一人となり、その財力は徒党の活動を大きく支えることになった。張飛は金に糸目をつけず、徒党のために武器や馬を買い揃えた。そのおかげで、劉備の徒党は一気に戦力が向上したのである。


同じ頃、一人の男が涿郡に流れ着いた。


関羽、字は雲長。司隸河東郡解県の出身であった。


河東には解池という巨大な塩水湖があり、そこから産出される鹽は天下の命脈だった。関羽はその解池で、鹽の密売を生業とする侠客たちの一人であった。彼はその腕前と義理堅さで、地元ではかなりの名を知られていた。


しかしある時、仕事上の揉め事がもとで、関羽は人を殺めてしまった。相手も侠客であり、その後ろ盾には大きな組織がついていた。関羽は逃亡せざるを得なかった。彼は故郷を捨て、北へ北へと逃げ続け、ついに幽州涿郡涿県にたどり着いた。


町に入った関羽は、まず酒場に落ち着いた。疲れ切った体で酒を啜りながら、彼は周囲の話に耳を澄ませた。この町で生きていくためには、誰が力を持っているかを知る必要があった。そこで耳にしたのは、劉玄徳という侠客の親分の噂だった。


「あの大耳の親分はな、筋の通らねえことは絶対に許さねえんだ」


「そうそう。この前も、役人と組んで弱い者いじめをしてた豪族を、見事に成敗したって話じゃねえか」


関羽はその噂に、何かを感じた。自分もまた、筋の通らねえ世の中に厭気がさして、人を殺めて逃げてきた身だ。そのような男が、この地で侠客の親分として認められている。会ってみたいと思った。


ある日、関羽は町はずれでならず者たちに絡まれていた。数が多く、関羽も疲れていたから、少し手こずっていた。その時だった。


「おい、てめェら。人を何人で囲んでるんだ」


低く、しかしよく通る声が響いた。現れたのは、耳の大きな、長い腕の男だった。その風貌はどこか滑稽ですらあったが、その目は鋭く、放つ威圧感は尋常ではなかった。ならず者たちはその男。劉備を見るなり、蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。


「怪我はないか」


劉備が関羽に手を差し出す。関羽はその手を借りて立ち上がった。


「助かった。恩に着る」


「気にすんな。この町に来たばかりか?」


「ああ。河東からだ」


「河東か。遠くから来たもんだな。なら、一杯どうだ?」


関羽はその誘いに応じた。酒を酌み交わすうちに、彼は劉備という男の器の大きさに圧倒されていった。この男は、自分が侠客として最も大切にしてきた「義理」と「人情」を、当たり前のように体現している。それでいて、決して偉ぶらない。誰にでも分け隔てなく接する、その懐の深さ。


「玄徳殿、私もあなたの下で働かせてください」


関羽がそう言った時、劉備は笑った。


「堅苦しいことはいい。気が合うなら、一緒にやろうぜ。お前の腕前、噂は聞いてたぜ。河東の関羽ってな」


関羽は驚いた。自分は身分を隠していたはずだ。だが劉備は、何も聞かずとも、関羽という男の正体を見抜いていた。その慧眼に、関羽はますます感服した。


「ただし、一つだけ約束してくれ」


劉備は真剣な顔で言った。


「お前が河東で何があったか、俺は聞かねえ。だが、これからは俺の兄弟分として、筋の通らねえことだけはするな。それでいいか」


関羽は深く頭を下げた。


「必ずや、お約束いたします」


その日から、関羽は劉備の最も信頼する片腕となった。

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