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社畜が目覚めたら将軍!? 史実(未来予知)で成り上がり、乱世を生き抜く  作者: 八月河
第十三回 遷都洛陽立憲法 高順改制開新天
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第十三回 遷都洛陽立憲法 高順改制開新天 五段

呂布が草原に向かい、高順が北伐に出る。二人の男の道は、ここで一度分かたれることになった。


曹操は許昌の丞相府で、高順からの書簡を読み終えると、しばらく天井を見上げていた。高順はこの書簡で、自らが并州と冀州で進めてきた改革のすべてを曹操に委ねると記していた。法と秩序の枠組みはすでに作った。国憲院も動き始めている。あとは曹操がそれを守り、育てるだけだ。高順はそう書いていた。


「孝父、お前はいつもそうだ。すべてを準備して、私に託して、自分は戦場に向かう。私に天下を取らせるために、お前は自ら身を引くのか」


曹操は書簡を卓の上に置き、窓の外を見た。冬の陽が、丞相府の庭園を柔らかく照らしている。彼は今、これまでにない高揚感に包まれていた。高順という最大の障壁が自ら去り、朝廷には曹操の意のままに動く官僚たちが残っている。高順の勧めた政策を自分が運営し、皇帝を奉り、天下を主宰する。それは曹操が長年夢見てきた光景だった。


「これでようやく、誰にも邪魔されずに天下を動かせる。高順の法と秩序は確かに素晴らしい。しかしそれを現実の政治として動かすのは、この俺だ。俺は俺のやり方で、天下を太平にする」


曹操は立ち上がり、丞相府の広間に集まった幕僚たちに向かって宣言した。


「高順は北伐に向かった。これより并州、冀州、河東郡、河内郡を丞相府の直轄とする。各郡県に官吏を派遣し、高順が残した法と秩序を引き継ぎつつ、新たな統治を始める」


荀彧が静かに問うた。


「丞相、高順殿の法と秩序は、まだ始まったばかりです。急激な変更は混乱を招きます。まずは現状を維持し、徐々に我々の統治に切り替えていくべきかと」


「わかっている。私は高順の理想を否定するつもりはない。あの男の理想は正しい。しかし正しすぎて現実が追いつかぬのだ。私はそれを、現実の速度に合わせて進める。それが私の役目だ」


曹操はそう言って笑った。その笑みには、長年の宿願が叶った喜びが溢れていた。彼は天子を奉戴し、天下に号令する丞相として、いよいよ誰にも邪魔されずに自分の理想を実現できるのである。曹操の笑い声は、丞相府の広間にこだました。


しかし、その喜びも束の間だった。并州、冀州、河東郡、河内郡を接収したのはよかったが、そこには肝心の民がほとんど残っていなかったのである。高順は北伐に先立ち、これらの土地の民の多くを幽州へと移住させていた。それは高順なりの戦略だった。冀州は袁紹との最前線であり、戦火に巻き込まれる可能性が高い。民を安全な幽州に移し、戦争が終わった後に再び戻せばよい。理屈としては正しかった。


だが、曹操にとっては厄介な置き土産だった。領土は手に入れたが、民がいなければ税も取れず、兵も集まらない。広大な土地が、まるで空っぽの箱のように曹操の手に渡されたのである。


「高順の奴め、こんなことをしてくれるとは思わなかったぞ。領土をくれたのはありがたいが、民がいなければどうにもならんではないか」


曹操は苦笑しながら、幕僚たちに指示を出した。


「兗州と豫州の民の一部を并州と冀州に移住させよ。黄巾の乱以来、流民となって各地を彷徨っている者たちもいる。彼らを募り、新たな土地を与えて定住させるのだ。時間はかかるが、民がいなければ国は成り立たぬ。高順が空っぽにした土地に、我々が新たな民を根付かせるのだ」


荀攸が進言した。


「丞相、民を移住させるとなれば、莫大な費用と時間がかかります。それまでの間、冀州は無防備に近い状態です。袁紹が青州からこの機を狙わぬとも限りません」


「わかっている。袁紹はまだ青州に健在だ。官渡で十万の軍を失い、冀州の大半を失ったが、青州には袁譚がおる。あの親子がこの機を見逃すはずがない」


曹操の言葉通り、袁紹は青州で再起を図っていた。彼は官渡の大敗で十万の軍を失い、冀州の大半を高順に奪われたが、なおも青州には袁譚が刺史として統治しており、数万の兵力が残っていた。袁紹はこの青州を拠点に、冀州への反攻の機会を虎視眈々と窺っていたのである。


案の定、袁紹は冀州が手薄になっていると知るや、青州から軍を動かした。袁譚が先鋒を務め、冀州の東部に進軍してきたのである。


しかし曹操はすでに備えを整えていた。彼は夏侯惇、曹仁、朱霊、徐晃ら精鋭を率いて袁譚を迎え撃ち、これを撃退した。袁譚の軍は数では勝っていたが、官渡で主力を失った袁紹軍に、曹操の精鋭を打ち破る力は残っていなかった。袁譚は青州に退却し、袁紹は冀州奪回の夢を完全に断たれたのである。曹操はこの勝利によって、冀州の支配を決定的なものとした。


一方、幽州では高順が北伐の準備を着々と進めていた。


彼は配下の将兵をすべて幽州に配備し、草原を睨んだ。その軍勢は実に百万。并州、幽州、冀州からかき集めた最大限の兵力だった。この百万という数字は、高順がこれまでに動員した最大の戦力であり、それだけ今回の北伐が本気の戦いであることを示していた。


高順はまず、賈詡、董昭、沮授の三人を集めて軍議を開いた。この三人は高順の参謀陣の中でも最も信頼できる知恵者たちである。賈詡は毒士としての冷徹な分析力を持ち、董昭は行政と兵站の専門家であり、沮授は袁紹の幕僚だった経験から河北の地勢と草原の民の習性を誰よりも熟知していた。


「鮮卑、匈奴、烏桓の三部族は、表面上は呂布の単于即位に従っている。しかし草原の民は力こそがすべてだ。呂布の血筋だけでは、長くは持たぬ。我々は今、武力で草原を制圧し、その後で法と秩序による統治を確立する。これが北伐の目的だ」


賈詡が地図を広げながら言った。


「将軍、草原の民は機動力に優れています。正面から戦えば、こちらの大軍は逆に機動力を削がれます。まずは三部族を分断し、一つずつ叩くべきです。幸い、鮮卑と烏桓の間には長年の確執がある。これを利用しない手はありません」


沮授が続けた。


「草原の気候は厳しく、冬が近づけば補給線が途絶えます。戦うならば、夏のうちに決着をつけねばなりません。また草原の民は飢えに弱い。彼らの放牧地を制圧し、水場を押さえれば、戦わずして降伏させることも可能です」


董昭が補足した。


「百万の兵站を維持するには、膨大な物資が必要です。すでに幽州の倉庫には十分な備蓄がありますが、長期戦になれば心許ない。短期決戦を前提に、補給線の確保を最優先すべきです」


高順は三人の意見を聞き終えると、静かに立ち上がった。


「よし、方針は決まった。鮮卑、匈奴、烏桓を分断し、一つずつ叩く。戦は夏のうちに決着をつける。補給線を確保し、長期戦は避ける。そして」


高順は地図の上に、百万の軍勢の編成を描き込んでいった。


先鋒は張遼、華雄、田豫。張遼は雁門で鮮卑を幾度も退けた名将であり、華雄はその剛力で草原の民を震え上がらせてきた。田豫は若いながらも軍略と民政の両方に長け、草原の地理にも詳しい。この三人が先陣を切って敵陣を切り裂く。


中軍は高順自身が率いる。副将には魏越と成廉。魏越は長年高順の側近として仕えてきた腹心であり、成廉は并州軍の中でも最も勇敢な騎兵指揮官の一人である。高順はこの中軍で戦場全体を指揮し、状況に応じて各軍に指示を飛ばす。


後軍は宋憲、魏続、侯成。三人は、今や高順の麾下で兵站と予備兵力の管理を任されるまでに成長していた。彼らは後方から全軍の補給を支え、必要とあらば前線に援軍を送り出す。


左翼には郝萌と曹性。郝萌は騎兵指揮に優れ、曹性は弓兵を率いて敵将を狙撃する名手である。この二人が左翼を守り、敵の側面攻撃を防ぐ。


右翼には徐栄と牽招。徐栄は董卓の下で曹操を破ったこともある歴戦の古強者であり、牽招は元袁紹の幕僚でありながら軍事にも通じた万能型の将である。この二人が右翼を固め、敵の退路を断つ。


その他、高覧、蔣義渠、王摩、郭祖、何茂、韓猛、孟岱、劉献、劉詢といった将軍たちが各部队を率い、総勢百万の大軍が編成された。これは高順がこれまでに組織した最大の戦力であり、彼の軍事力の頂点を示すものだった。


軍議が終わり、諸将がそれぞれの持ち場に戻った後、高順は自らの天幕で休息を取っていた。そこへ、二人の幼い影がこっそりと忍び込んできた。まだ十歳になったばかりの高順の息子、高景と高昭である。


「父上!」


高景が声をかけると、高順は驚いて振り返った。


「景、昭!?なぜここにいる。お前たちは易京にいるはずだぞ!」


「どうしても父上と一緒に戦いたくて。僕たち、もう十歳だよ。弓も剣も練習したんだ。父上の役に立ちたい」


高景は真剣な目で父親を見上げた。高昭も兄の後ろからこっそりと顔を出し、小さく頷いた。


高順はしばらく言葉を失った。彼は息子たちを戦場に出したことはなかった。常に安全な場所で、母たちと共に過ごさせてきた。戦場の恐ろしさを知っているからこそ、幼い息子たちを戦いに巻き込むわけにはいかなかったのである。


「お前たちの気持ちは嬉しい。しかし戦場は遊びではない。命のやり取りだ。お前たちはまだ幼すぎる」


「でも父上は若い頃から槍を振るっていたって聞いたよ。僕たちだって、父上の子ならできるはずだ」


高景の言葉に、高順は思わず苦笑した。確かに彼自身、十歳の頃にはすでに武芸の稽古に明け暮れていた。しかしそれは彼が現代からの転生者であり、自分の置かれた状況を理解していたからだ。息子たちは純粋に父親の背中を追いかけているに過ぎない。


「わかった。そこまで言うなら、しばらく私の側で見ていろ。ただし、決して無茶はするな。戦場では私の指示に従え。いいな」


「はい!」


高景と高昭は顔を見合わせ、嬉しそうに笑った。高順はその笑顔を見ながら、心の中で深くため息をついた。どうやら彼の息子たちは、父親に似て頑固な性格のようだった。


そこへ天幕の外から、董媛と蔡琰の声が聞こえてきた。


「高景! 高昭! どこに行ったの!」


董媛が天幕の入り口を開けると、そこには高順と二人の息子が並んで座っている光景が広がっていた。董媛は一瞬で状況を理解し、額に青筋を立てた。


「あんたたち、まさか戦場に行くなんて言い出したんじゃないでしょうね! 母がどれだけ心配したかわかってるの!」


蔡琰もまた、呆れたように首を振った。


「夫君、あなたもあなたです。子供たちの無茶を許すなんて」


「い、いや……まだ何も言っとらん……俺も今知ったばかりだぞ?」


高順は珍しく言い訳がましい口調で答えた。董媛はしばらく息子たちを叱りつけていたが、やがて深くため息をついた。


「もう、これだから。わかったわ。でも絶対に無茶はしないって約束して。あなたたちが帰ってこなかったら、母さんは承知しないからね」


高景と高昭は真剣な顔で頷いた。


「約束する。僕たち、父上の言うことをちゃんと聞くよ」


「僕も。父上のお役に立ちたいだけなんだ」


董媛は息子たちの頭をぐしゃぐしゃと撫でながら、泣き笑いのような表情を浮かべた。蔡琰はそんな家族の姿を、優しい目で見守っていた。


翌朝、百万の軍勢が幽州の平原に集結した。先鋒の張遼、華雄、田豫が率いる騎兵隊が整列し、中軍には高順自身が立つ。その後方には宋憲、魏続、侯成が率いる後軍が続き、左右には郝萌、曹性、徐栄、牽招の部隊が展開する。百万の兵が一斉に動く光景は、まさに壮観だった。


高順は驍風の手綱を握り、全軍に向かって号令を下した。


「全軍、出陣! 草原の統一と遼東の平定、この二つを成し遂げる。これより北伐を開始する!」


百万の軍勢が、一斉に北へと動き出した。馬蹄が大地を揺るがし、無数の旗が風に翻る。高順の傍らには、高景と高昭が騎乗して続いていた。彼らの目は、父親と同じように北の大地を見据えている。


高順はこの時、心の中で密かに思っていた。自分は天下を取らない。法と秩序を作り、それを守る者たちを育て、そして静かに身を引く。それが自分の役目だと信じてきた。しかし今、自分の息子たちが同じ道を歩もうとしている。それは彼にとって、何よりも誇らしいことだった。


「景、昭。よく見ておけ。これが戦だ。そしてこれが、私たちが守ろうとしている世界だ」


高順の言葉に、息子たちは無言で頷いた。彼らの目には、父親と同じ決意の光が宿っていた。


曹操は許昌で、高順の北伐出陣の報せを聞いた。彼は丞相府の庭園で一人、杯を傾けながら空を見上げていた。青州の袁紹はまだ健在だが、冀州への反攻は食い止めた。高順は草原に向かい、自分は中原を固める。曹操の覇業は、着実に前に進んでいた。


「孝父、お前はいつもそうだな。最も危険な戦場に自ら赴き、最も困難な戦いを選ぶ。私はここで、お前が残した法と秩序を育てていく。どちらが正しいかは、歴史が決めることだ。だがな、孝父。私はお前のことを、心から尊敬している。お前がいなければ、私はとっくに董卓と同じ道を歩んでいただろう」


曹操は杯を掲げ、北の空に向かって静かに言った。


「達者でな、孝父。次に会う時は、天下は太平になっているはずだ」


曹操の背後では、荀彧と荀攸が静かにその姿を見守っていた。荀彧が静かに言った。


「丞相、高順殿は本当に天下を取らないのでしょうか。あれだけの力を持ちながら、自ら身を引くとは」


曹操は微かに笑った。


「高順は天下を取らない。しかしあの男は、天下そのものを変えようとしている。それは天下を取るよりも、はるかに難しいことだ。私は私のやり方で天下を太平にする。高順は高順のやり方で天下を変える。どちらの道が正しいかは、誰にもわからぬ。だが、あの男がいる限り、この乱世は必ず終わる。私はそう信じている」


幽州の平原を進む百万の軍勢の先頭で、高順は北の空を見据えていた。彼の胸中には、これまでの長い道のりが走馬灯のように蘇る。董卓の暴虐、王允の正義、呂布との奇妙な友情、曹操との約束、そして何よりも、自分が守ろうとしてきた法と秩序の理想。


「将軍、間もなく草原に入ります」


賈詡が馬を寄せて報告した。高順は静かに頷いた。


「ああ。これより草原に入る。鮮卑、匈奴、烏桓の三部族を統一し、草原に法と秩序をもたらす。それが終われば、遼東に向かう」


「将軍は本当に遼東に引かれるおつもりですか」


「ああ。私は法と秩序の種を蒔いた。それが芽吹き、大樹に育つまで、私は見守り続ける。遼東はそのための場所だ。朝廷から離れ、自分の手で法による共同体を作る。それが私の最後の仕事だ」


高順は手綱を握り直し、驍風の腹を軽く蹴った。百万の軍勢が、草原の大地を踏みしめて進んでいく。その後ろを、高景と高昭が懸命に追いかけた。高順は振り返り、息子たちの姿を見て微かに笑った。


「父上の背中は大きいね」


高景が呟くと、高昭も頷いた。


「うん。僕もいつか、父上のような将軍になりたい」


その言葉が風に乗って届いたのか、高順は振り返らずに言った。


「ならば、よく学べ。戦とは何か、法とは何か、そして守るべきものは何か。すべてをこの目で見て、お前たちの糧とせよ」


「はい、父上!」


高景と高昭は、声を揃えて答えた。


こうして高順の北伐が始まった。それは単なる戦争ではない。草原の統一と遼東の平定、そして何より、法と秩序による新しい国づくりの始まりだった。曹操は中原で、袁紹は青州でなお息を潜め、高順は草原で、それぞれが自分の信じる道を歩み始めたのである。


天下はまだ乱れている。しかし法と秩序の種は、確かに芽吹き始めていた。それが大樹へと育つ日まで、高順の戦いは続く。彼は天下を取らず、法に天下を与える。その選択が、漢帝国を滅亡から救い、新たな統治の形を中国史上初めて実現することになるのである。

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