第十三回 遷都洛陽立憲法 高順改制開新天 四段
暫定国憲院の設立から数ヶ月が過ぎ、朝廷の空気は徐々に変わりつつあった。法と秩序の枠組みが形を整え始めるにつれて、曹操の幕僚たちの間に不満が蓄積されていったのである。彼らは高順の改革が曹操の権力を制限するだけでなく、自分たちの既得権益をも脅かすものであることを敏感に察知していた。特に夏侯惇や曹洪といった曹操の親族たちは、高順が十万の兵で許昌を囲んだことを決して忘れてはいなかった。
ある夜、曹操の丞相府で開かれた非公式の会合で、夏侯惇が声を荒げた。
「丞相、高順はもはや朝廷にとって最大の脅威です。彼は并州、幽州、冀州の三州を支配し、二百万の兵を擁している。董承を裁き、伏完を抑え、今度は国憲院で立法府まで手中に収めようとしている。このままでは朝廷は高順のものになりましょう」
曹洪も同調した。
「同感です。高順は表向きは漢室の忠臣を装っておりますが、その実、自らの法と秩序で天下を支配しようとしております。丞相、今のうちに手を打たねば、後悔することになりますぞ」
程昱もまた、慎重な口調で懸念を表明した。
「高順の改革は確かに理に適っております。しかし、その速度が速すぎる。豪族たちの反発を抑えるために、あえて強硬な手段に出ているのでしょうが、それがかえって混乱を招く可能性もあります。特に冀州での崔氏の裁判は、豪族たちに大きな衝撃を与えました。彼らが一斉に反旗を翻せば、河北は再び戦乱に陥りましょう」
曹操は彼らの意見を黙って聞いていた。彼自身、高順の行動に危うさを感じていないわけではなかった。国憲院の設立は確かに必要な改革だったが、高順のやり方はあまりに性急であり、既存の権力者たちを無視しすぎている。曹操は高順の理想を理解していたが、同時にその理想がもたらす現実的な反発もまた理解していた。
しかし曹操は、高順を排除する気にはなれなかった。彼は高順の理想に共感する部分があり、何より高順が自分を守ろうとしていることを知っていたからである。董承の陰謀を未然に防ぎ、公開裁判で法に基づいて裁いたのも、結局は曹操が後世に奸雄として罵られるのを防ぐためだった。曹操はそのことを理解していた。
「高順を排除するのは簡単だ。しかしその後に何が起きるか、お前たちは考えているのか。高順が率いる二百万の兵、三州の民、そして国憲院の官僚たち。彼らが一斉に朝廷に反旗を翻せば、この国は再び大乱に陥る。それだけではない。高順の法と秩序を支持する民衆もまた、我々に敵対するだろう」
曹操は立ち上がり、窓辺に歩み寄った。
「だが、お前たちの言うことも理解できる。高順の権力は確かに大きすぎる。彼がその気になれば、朝廷を乗っ取ることなど容易いだろう。だからこそ、彼を朝廷から遠ざける。軍権を理由に、北方の異民族問題を解決させに行かせるのだ」
「異民族問題でございますか」
程昱が尋ねると、曹操は頷いた。
「ああ。鮮卑、匈奴、烏桓は以前、高順に軍馬の九割を奪われて以来、表面上は従順だが、その実、復讐の機会を窺っている。彼らは部族の命運をかけて朝廷に使者を送り、なんとか解決を図ろうとしている。この問題を高順に任せるのだ。北の草原で異民族と向き合えば、高順も朝廷から離れざるを得まい。そして、異民族問題が解決すれば、それはそれで朝廷にとって利益となる」
夏侯惇はなおも不満げだったが、曹操の決断が変わらないことを悟り、それ以上は追及しなかった。
一方、高順は朝廷内での自分の立場が危うくなりつつあることを、賈詡を通じて把握していた。彼は曹操の幕僚たちが自分を排除しようと動いていることを知っていたし、曹操自身もまた、その圧力に抗しきれなくなりつつあることも理解していた。
「将軍、このまま許昌に留まれば、いずれ曹操と衝突することになります。今のうちに、自ら身を引くべきです」
賈詡の進言に、高順は静かに頷いた。
「わかっている。私はもともと、朝廷の権力争いに加わるつもりはなかった。法と秩序の枠組みはすでに作った。国憲院も動き始めている。あとは曹操がそれを守るかどうかだ。私がこれ以上朝廷に留まれば、かえって曹操の立場を危うくするだけだろう」
「ならば、どこへ」
「北だ。鮮卑、匈奴、烏桓の使者が朝廷に来ていると聞く。彼らは部族の命運をかけて、我々に解決を求めている。私が直接、彼らと向き合う。まだ解かれていない軍権を行使して、草原に向かう」
高順は曹操に上奏し、北方の異民族問題を解決するため、自ら草原に向かうことを申し出た。表向きは遊牧民の使者を歓待し、狩猟を共にすることで親交を深めるという名目だったが、その実、朝廷から自ら距離を置くための方便でもあった。曹操はこれを即座に裁可した。これで曹操は高順を朝廷から遠ざけることができ、高順もまた、曹操にこれ以上迷惑をかけることなく、自らの役割を果たすことができる。
曹操は裁可の返事を書きながら、微かに苦笑した。高順は朝廷から追い出される形でありながら、それを自らの意思で選んだ。あの男はいつだって、自分で自分の道を決める。誰かに決められることを、決して良しとしない。曹操はその生き方が、羨ましくもあり、妬ましくもあった。
高順は許昌を発つ前に、河内郡にいる呂布のもとを訪れた。呂布は河内郡太守として、高順の監視下で新たな人生を歩んでいた。陳宮が政務を補佐し、他の配下らが軍務を支え、河内郡は安定した統治が行われていた。
「将軍、久しいな」
「孝父か。どうした、珍しくお前から訪ねてくるとは。何か面倒な話だろう」
呂布は相変わらずの無遠慮な口調で高順を迎えたが、その顔には以前のような猜疑心や不安定さはなかった。河内郡での落ち着いた生活が、彼の心を少しずつ癒やしていたのである。
「面倒な話だ。北方の異民族、鮮卑、匈奴、烏桓が朝廷に使者を送ってきている。彼らは以前、私に軍馬の九割を奪われて以来、表面上は従順だが、その実、復讐の機会を窺っている。私はこれから草原に向かい、彼らと向き合う。お前にも同行してもらいたい」
「俺にか。なぜだ」
「将軍の騎射と弓術は天下無双だ。草原の民は武力を尊ぶ。彼らの前でお前の力を見せつければ、抑止力になる。私はお前を匈奴、鮮卑、烏桓の使者たちの前で、漢の武威を示す将として立てたい」
呂布はしばらく考えていたが、やがて口元を歪めて笑った。
「わかった。お前には借りがある。俺の弓術が必要だというなら、貸しを返す機会だ。付き合ってやる!暇つぶしになるしな!」
高順は呂布の言葉に微かに笑った。かつては主従だった二人が、今は借りを返し合い、認め合う奇妙な関係になっている。呂布は不器用な男だが、その不器用さが今はむしろ頼もしかった。
高順は献帝に上奏し、呂布を草原の遊牧民に対する威圧の任に当たらせることを許された。こうして高順は、自らに同行する将として呂布を朝廷に推薦し、正式に認められたのである。
草原に到着した高順は、鮮卑の扶羅韓、匈奴の呼廚泉、烏桓の蹋頓が派遣した使者たちを手厚く歓待した。使者たちは以前、軍馬の九割を奪われた屈辱を忘れてはいなかったが、それでも部族の命運をかけて朝廷に解決を求めてきた者たちである。高順は彼らに酒と肉を振る舞い、数日間にわたって狩猟の宴を開いた。
広大な草原に、色とりどりの旗が立てられ、狩猟の陣が組まれた。高順はこの狩猟を、単なる娯楽ではなく、漢の軍事力を示す絶好の機会と考えていた。彼は自ら弓を携え、呂布と夏侯淵を左右に従えて草原を駆けた。
夏侯淵は曹操軍の将であり、本来ならば高順の指揮下にはない。しかし曹操は、今回の狩猟に夏侯淵を同行させることを許可した。表向きは高順への援軍だが、その実は高順の動きを監視させるための密命も帯びていた。夏侯淵は曹操から「高順が草原で何か企てば、すぐに報告せよ」と命じられていたのである。
高順はそのことを承知の上で、夏侯淵を狩猟の先鋒に抜擢した。
「妙才兄、お前の騎射の腕を見せてやれ。草原の民は武力を尊ぶ。お前の弓が、彼らの心を挫く」
夏侯淵は高順の意図を理解し、狩猟の開始と共に馬を駆った。彼は曹操軍の中でも最も騎射に優れた将の一人であり、その腕前は草原の民にも引けを取らなかった。夏侯淵は疾走する馬上から次々と獲物を射抜き、その正確な弓術は使者たちの度肝を抜いた。
「なんという技だ。あの速さで馬を駆りながら、あれほどの正確さで矢を射るとは」
鮮卑の使者が驚きの声を上げた。続いて呂布が馬を進めた。彼は草原の民にとってはすでに伝説的な存在だった。かつて丁原の下で異民族を震え上がらせた飛将軍の名は、今も草原に轟いている。呂布は無言で弓を構え、風の向きを読み、距離を測り、空高く舞う鷹を見上げた。
「あの鷹を射落とすつもりか。無理だ。あの高さでは矢は届かぬ」
匈奴の使者が嘲笑するように言った。しかしその瞬間、呂布の矢が放たれた。矢は風を切り裂き、一直線に空へと昇っていく。鷹は矢を察知して旋回したが、呂布の矢はその動きを読んだかのように軌道を変え、鷹の翼を正確に射抜いた。鷹は悲鳴を上げて草原に落ちた。使者たちは言葉を失った。あの高さで、あの風の中で、しかも動く標的を射抜くなど、人間業ではない。
高順自身もまた、馬上から弓を構えた。彼はかつて呂布から騎射と弓術を徹底的に叩き込まれていた。その成果を示す時が来たのである。高順は風の向きを読み、馬の動きを感じ取り、前方を駆ける鹿の群れに向けて矢を放った。一射、二射、三射。三本の矢が次々と鹿の首筋を射抜き、使者たちはさらに驚愕した。高順ほどの武将が、これほどの弓術を身につけているとは誰も予想していなかったのである。
「高順将軍、あなたは漢の武将だと聞いていたが、これほどの騎射の腕前とは」
蹋頓の使者が震える声で言った。高順は静かに弓を下ろした。
「私は戦場で生き残るために、必要なことはすべて学ぶ。武芸も、そして戦略も。お前たちが誇る草原の武威も、決して超えられぬものではない。これが漢の力だ」
狩猟の宴が終わった夜、使者たちは密かに集まって協議した。漢の武力は自分たちの想像を遥かに超えていた。軍馬の九割を奪われ、戦う力も回復しきっていない今、正面から戦えば全滅は免れない。彼らは部族の命運をかけて、一か八かの宣戦布告をするかどうかで激論を交わした。
「もはや戦うしかあるまい。このままでは我々は漢の属国となり果てる。部族の誇りを守るために、戦って死ぬべきだ」
鮮卑の使者が声を荒げた。匈奴の使者も同調した。
「同感だ。軍馬はまだ回復していないが、それでも戦士たちはいる。誇りを失えば、部族は内部から崩壊する」
しかし烏桓の使者だけは沈黙していた。彼は狩猟の宴での呂布の姿が忘れられなかった。あの男はただの漢将ではない。何か別のものを感じる。蹋頓から「慎重に行動せよ」と命じられていたこともあり、彼は開戦に反対の立場だった。
使者たちが宣戦布告を決断しようとしたその刹那、匈奴の老将が立ち上がった。彼は匈奴の使者団の中で最も年長であり、誰もが尊敬する古強者だった。老将は震える足で幕舎を出ると、呂布の前に進み出て、草原の土に膝をつき、深く頭を下げた。
「お待ちください。このお方に弓を向けることはできませぬ」
使者たちは驚きの声を上げた。匈奴の老将が、漢の将に跪くなど前代未聞のことだったからである。高順もまた、この予期せぬ光景に眉をひそめた。
「老将、これはどういうことだ。なぜ呂布に跪く」
老将は涙を浮かべながら、震える声で語り始めた。
「このお方は、我らが先代の単于、伊陵尸逐就単于の御子にございます。単于がお隠れになる時、内輪揉めにより幼い御子を守ることができず、私に託されました。『この子を漢の地に送り、漢人として育てよ。いつか必ず、草原に戻る日が来る』と。私は単于の遺言に従い、このお方を漢の地に送りました。それがこの呂布将軍でございます」
広間は水を打ったような静けさに包まれた。その場に居る全員この言葉に息を呑んだ。呂布自身もまた、自分の耳を疑うような表情で老将を見つめている。
「私の父が……匈奴の単于だと」
「左様にございます。将軍の身体に流れる血には、匈奴の誇り高き血が流れております。将軍が漢の地でどのように育たれたかは存じませぬが、あなたはまぎれもなく、我らが単于の御子。草原の民の子にございます」
この言葉を聞いた瞬間、高順の中で何かが音を立てて繋がった。これまで長年、呂布の行動には不可解な点が多かった。なぜ彼はあれほどまでに主君を裏切り続けたのか。なぜ彼は漢の倫理や儒教の価値観に縛られず、自らの欲望と武力だけを頼りに生きてきたのか。高順は長らくその理由を測りかねていたが、今そのすべてが合点がいった。
呂布は漢人ではなかった。彼は遊牧民の子として生まれ、遊牧民の論理で生きていたに過ぎないのである。
遊牧民の社会では、弱い者が強い者に従い、強い者が弱い者を支配する。それは儒教の説く君臣の義や忠孝の道とはまったく異なる価値観だった。遊牧民にとって、主君を裏切ることは恥ではない。より強い主君に従うことは、むしろ当然の生存戦略なのだ。丁原から董卓へ、董卓から王允へ、王允から袁紹へ、袁紹から呂布が去ったのも、すべては弱き者を見限り、強き者に従うという遊牧民の論理に基づく行動だったのである。
漢人から見れば、それは「三姓の家奴」と蔑まれる背信行為だった。しかし遊牧民から見れば、それはきわめて合理的な生存戦略に他ならなかった。呂布は決して異常な男ではなかった。彼はただ、漢の地で育ちながらも、生まれつき備わった遊牧民の価値観に従って生きていただけなのだ。
高順の脳裏に、ふとある言葉が蘇った。モンゴル帝国の創始者であるチンギス・カンが、重臣の一人であるボオルチュ・ノヤンに「男として最大の快楽は何か」と問うた時の話である。ボオルチュは「春の日、逞しい馬に跨り、手に鷹を据えて野原に赴き、鷹が飛鳥に一撃を加えるのを見ることであります」と答えた。別の将軍ボロウルも同じことを答えた。するとチンギスは「違う」と言い、「男たる者の最大の快楽は敵を撃滅し、これをまっしぐらに駆逐し、その所有する財物を奪い、その親しい人々が嘆き悲しむのを眺め、その馬に跨り、その敵の妻と娘を犯すことにある」と答えたという。
これこそが遊牧民の価値観だった。呂布の行動原理は、まさにこのチンギス・カンの言葉に集約されていた。彼は漢の倫理では生きていなかった。遊牧民として、強き者に従い、弱き者を蹂躙し、欲するものを奪い取る。その行動は遊牧民の社会では何ら恥ずべきことではなかったのである。
高順は静かに呂布を見た。呂布はまだ老将の言葉を咀嚼しているようだった。自分の出生の秘密を初めて知らされた衝撃は、計り知れないものだったろう。しかし高順にはわかっていた。呂布は今、初めて自分が何者であるかを理解したのだ。
「将軍は今までずっと、自分がなぜ漢の倫理に馴染めないのか、なぜ周囲から疎まれるのか、その理由がわからずに苦しんできたのだろう。しかし今日、その謎が解けた。将軍は遊牧民の子だ。将軍の行動原理は、遊牧民のそれだったのだ。それは決してお前の罪ではない。お前はただ、自分の生まれ持った価値観に従って生きてきただけだ」
呂布は高順の言葉を聞き、しばらく沈黙していたが、やがて微かに笑った。
「そうか……俺は間違っていなかったのか。いや、間違っていたとしても、それが俺の生き方だったのだな。孝父、お前は俺を漢の倫理で裁かなかった。いつだって俺の力を認め、俺を利用し、そして俺を見捨てなかった。お前は俺が何者であるかを、ずっと前から見抜いていたのか」
「見抜いてはいなかった。ただ、お前の中に何かがあることは感じていた。今日、その正体がわかった。私はお前を正しく理解していなかった。すまなかった、奉先」
「謝るな。お前だけは、俺を裏切らなかった。それだけで十分だ」
二人の間に、新たな絆が生まれた瞬間だった。
この事実を知った曹操は、すぐさま軍議を開いた。彼は高順を呼び、呂布の処遇について協議した。
「孝父、呂布が匈奴の単于の血を引く者であるならば、これは好機だ。呂布を匈奴の単于として擁立すれば、草原の民を統率することができる。そして残りの二部族を討伐するのだ」
高順は曹操の提案に深く頷いた。
「私も同じ考えだ。呂布を単于とし、草原の民を一つにまとめる。これは単なる戦争ではない。草原と漢が共存するための新たな秩序を作る戦いだ」
曹操はすぐさま献帝に上奏し、呂布を匈奴の単于として擁立し、草原の統一を目指す戦争の許可を求めた。献帝はこれを裁可し、高順が主将、呂布が単于として草原の統一戦争に臨むことが正式に決定された。
高順は呂布に向かって、静かに言った。
「将軍は今まで、誰にも理解されずに生きてきた。しかしこれからは違う。将軍には帰るべき場所がある。草原だ。将軍の父が治めていたこの大地で、将軍は王となられよ。私が将軍をお支えする」
呂布は高順の言葉に、少しだけ目を潤ませた。
「孝父、俺は今までずっと、自分が何者かわからずに生きてきた。漢人でもなく、遊牧民でもなく、ただ戦場だけが俺の居場所だった。しかし今、初めてわかった。俺は草原の子だ。そしてお前は、俺をここに連れてきてくれた。この恩は、生涯忘れない」
高順は呂布の肩を軽く叩いた。
「恩などいらぬ。将軍が草原で王となれば、それは漢にとっても大きな利益となる。将軍の騎馬民族としての才覚を、今こそ存分に振るえ。私はそのための戦略を練る」
こうして高順を主将とし、呂布を単于とする草原統一戦争が幕を開けた。匈奴、鮮卑、烏桓の三部族の使者たちは、呂布が単于の血を引く者であると知り、もはや戦うことを選ばなかった。彼らは呂布を新たな単于として認め、草原の統一を受け入れたのである。
草原に立つ高順は、遠くに見える馬の群れを見つめながら、静かに呟いた。
「これで、草原と漢の間に新しい関係が生まれる。武力ではなく、血の絆によって結ばれた関係だ。呂布という男が、これほど大きな鍵を握っていたとはな」
賈詡が微かに笑った。
「将軍は人を見る目が確かだ。呂布を生かし、河内郡で更生させ、今度は草原の王にしようとしている。これで袁紹を倒し、曹操を抑え、草原までも手に入れた。将軍は天下を取りたくないと言いながら、天下のすべてを動かしている」
「私は天下を取っているのではない。法と秩序を作っているだけだ。この草原にもまた、法と秩序が必要になる。それが終われば、私は遼東に戻る。あの地で、法による共同体を作る。それが私の最後の仕事だ」
高順はそう言って、草原の風を深く吸い込んだ。彼の目は、すでに次の未来を見据えていた。




