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社畜が目覚めたら将軍!? 史実(未来予知)で成り上がり、乱世を生き抜く  作者: 八月河
偽帝袁術伝 四強連手滅仲氏 聯軍到寿春落日
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偽帝袁術伝 四強連手滅仲氏 聯軍到寿春落日 四段

寿春の戦いが終わって三日目、高順は本営の前に降伏者たちを集めた。


文官では袁渙、閻象、恵衢、舒邵、楊弘、馬日磾、張範。武官では張勲、劉詳、萇奴、戚寄、秦翊、祖郎、師宜官。それぞれが高順の前に引き据えられ、それぞれが異なる表情を浮かべている。


袁渙は泰然自若としていた。彼は袁術が皇帝を僭称した時も、表立っては祝さず、かといって正面から反対もせず、ただ静かに自分の職務を果たし続けた男だった。馬日磾は高順の顔をまともに見ることができず、俯いたまま震えていた。彼は朝廷から袁術のもとに使者として赴き、そのまま拘留されたという経歴を持つ。漢臣としての誇りと、生き延びるために袁術に仕えた現実が、心の中で激しく葛藤しているようだった。張範は無表情だった。彼はかつて袁術に囚われ、家族を人質に取られて仕方なく仕えていた男である。その心の内は誰にもわからない。


高順は一人ひとりの顔を見渡し、静かに言った。


「諸君には、并州に来てもらう」


その言葉に、降伏者たちの間にざわめきが走った。死を覚悟していた者も少なくなかったのだ。袁術の偽帝に仕えた咎で、処刑されるものとばかり思っていた。


袁渙が一歩進み出た。彼は他の降伏者たちを代表するように、高順の前に立った。


「高順様。我々は仲帝に仕えた者たち。叛逆者の臣下でございます。なぜ処刑なさらないのです。我々を生かして、どのような益があるとお考えか」


「偽帝に仕えた咎は、確かにある。その罪を問わないとは言わぬ。しかしだ……偽帝を諫めた者、持ち場を守り抜いた者、民のために税の軽減を訴えた者。そういう者たちの才を、死なせて埋もれさせるにはあまりに惜しい」


高順はそこで言葉を切り、張勲を見た。張勲は肩と脇腹に包帯を巻き、杖をついて立っている。まともに立っているだけで精一杯のはずだが、彼は背筋を伸ばし、高順の目をまっすぐに見つめ返した。


「張将軍。貴殿は東門の甕城で、味方が逃げ散る中ただ一人で戦い続けた。主君を裏切らなかったその忠義は、并州でこそ活かせる。これからは俺の下で戦ってほしい。貴殿のその忠義を、今度こそ正しい主君のために使ってほしいのだ」


張勲は深く頭を下げた。その目には涙が光っていた。杖を持つ手が震え、言葉が喉に詰まる。


「……私のような者を、そこまで」


「貴殿は間違っていない。主君を間違えただけだ。そしてそれは、貴殿だけの責ではない。あの御方を止められなかった我々全員の責だ」


閻象にも高順は声をかけた。閻象は終始無表情で、降伏者の列の一番後ろに控えていた。


「閻象殿。貴殿は袁術が皇帝を僭称しようとした時、ただ一人正面から諫言したと聞く。そして最後まで、主君の側を離れなかったとも。その正しさを并州の子らにも教えてほしい。諫言の勇気とは何か、主君を見捨てないとはどういうことかを」


閻象は深く平伏し、声を震わせて応えた。


「この私に、まだできることがあるとは……思いもよりませんでした。私は、ただの老いぼれです。陛下を止められなかった、無力な老臣に過ぎませぬ」


「それを止められなかった者は、天下に幾万といる。だが、止めようとした者は片手で数えるほどだ。貴殿のその勇気を、無駄にしたくはない」


一方、同じ戦場には、もう一つの「戦後」があった。


張闓は曹操の一族を殺そうと企て、高順の親衛隊に捕らえられた。曹操の父・曹嵩を殺そうとして財産を奪った過去を持つこの男は、袁術のもとに逃げ込んだ後も曹操への敵意を捨てていなかったのである。寿春陥落の混乱に乗じて曹操の一族が宿営する天幕に迫った張闓は、しかし高順の防諜網に察知され、取り押さえられた。彼が短剣を抜くより早く、闇の中から現れた親衛隊が彼の腕を捻り上げ、地面に押さえつけた。


張闓は木箱に詰められて曹操の本営に送られた。木箱は粗末な松材でできており、中では張闓が身動きできないよう、手足を縛られている。箱に添えられた高順の書状には、ただ一言。


『友として、貴殿の心の重荷を、少しでも降ろす手伝いがしたい。この男は貴殿が裁くべきだ。他人の手を汚させるな。孟徳、これはお前の戦いだ』


曹操は書状を読み終えると、しばらく無言で木箱を見つめた。彼の目には、様々な感情が去来しているようだった。父・曹嵩を含めて一族を守れなかった無力感、そしてこの男への憎しみ。それらすべてが、曹操の胸の中で渦巻いていた。


彼は木箱の蓋を開けさせた。中から現れた張闓は、縄で縛られ、口には布を噛まされていた。曹操の顔を見た瞬間、張闓の目が恐怖に見開かれる。


曹操は自ら剣を抜き、一太刀でその首を斬り落とした。鮮血が天幕の布を染め、張闓の首が地面を転がった。剣を鞘に収めながら、曹操は天を仰いだ。その目からは、静かに涙が流れていた。


「高順……貴様という男は……どこまで俺の心を読むのか……」


彼は声もなく涙したという。それは父の無念を晴らした安堵の涙か、あるいは高順という男のあまりの出来過ぎた友情に打たれた涙か。おそらくその両方だった。


許昌の宮殿。


天子・劉協の御前で、袁術の処刑が執り行われた。この場には異母兄の袁紹も招かれ、弟の首が落ちる様を目の当たりにすることとなる。


袁術は囚人服を着せられ、縄で縛られて引き立てられてきた。彼の顔は痩せこけ、髪は白く混じり、かつての面影は消え失せている。天子の御前で、彼は膝をつかされた。


「反逆人・袁公路。汝、天命を偽り、皇帝を僭称し、漢室を冒涜した罪は万死に値する。何か言い残すことはあるか」


刑部の尚書が読み上げる罪状の中、袁術は顔を上げた。その目は虚ろで、何を見ているのかわからない。


「……私は、ただ」


袁術は何かを言おうとしたが、言葉は続かなかった。彼は俯き、絞り出すように言った。


「私は、袁家の者として、天下に名を残したかった。ただ、それだけだった」


それだけだった。その一言に、袁術という男のすべてがあった。天下に名を残したい。その一念だけで、彼は暴走した。臣下の諫言も聞かず、現実も見ず、ただ自分の野心だけを見つめて走り続け、そしてここに行き着いた。


袁紹はその様子を無表情で見ていた。いや、無表情を装っていた。彼の心中は誰にもわからない。弟に対する憐れみか、あるいは「お前はやり過ぎた」という冷めた感情か。それとも、袁家の嫡子として育った自分と、庶子として生まれて常に認められたがっていた弟との、複雑な確執が去来していたのか。


刀が振り下ろされた。袁術の首が落ち、地面に落ちた。鮮血が宮殿の石畳を染める。漢室を僭称した男の最期は、あまりにも呆気なかった。


同じ頃、寿春の城外では、徐璆が伝国の玉璽を胸に抱き、息絶え絶えになりながら許昌を目指して歩き続けていた。彼の足は傷つき、衣服は破れ、体力は限界に来ている。それでも彼は歩いた。長く袁術に拘留されていた彼は、寿春陥落の混乱に乗じて玉璽を持ち出し、単身で許昌へと向かったのである。


途中、彼は何度も倒れそうになった。野盗に襲われ、飢えに苦しみ、道に迷った。しかしそのたびに、胸に抱いた玉璽を確かめ、再び歩き出した。この玉璽を天子のもとにお返しする。それだけが、彼の心を支えていた。


許昌の宮殿にたどり着いた徐璆は、衛兵に支えられながら玉座の間に進んだ。天子の御前に平伏し、震える両手で玉璽を差し出す。五匹の龍が刻まれた金の印璽、一角が欠けた黄金の塊。これこそが伝国の玉璽、秦の始皇帝以来、中国の正統な支配者の証とされてきた至宝である。


「陛下……伝国の玉璽を、ここに、お返しいたします……これでようやく……漢室の宝が、あるべき場所に戻りました……」


玉璽が劉協の手に渡った瞬間、徐璆の体から力が抜け、その場に崩れ落ちた。侍医が駆けつけた時には、彼の息はすでになかった。彼は玉璽を天子に渡し終えるまで、死ぬことができなかったのだ。その使命が、彼の命を繋いでいた。


この話を聞いた高順は、深く沈黙した後で言ったという。


「あの男こそ、真の漢臣だ。己の命を賭して、天子の宝を取り戻した。私などより、よほど立派な漢臣だ。せめてその名を、歴史に刻まねばなるまい」


建安二年の冬、寿春に初雪が降った。


包囲が解かれ、連合軍がそれぞれの領地に引き上げ始めた頃である。焼け落ちた城門、破壊された城壁、泥と血に塗れた街路。戦いの爪痕は生々しく、いたるところに残っていた。城門の前にはまだ死体が転がり、それを野良犬が漁っている。壊れた武具や割れた陶器が散乱し、煤けた壁には矢傷が無数に刻まれている。冬の訪れと共に、戦場の臭いは薄れていったが、そこで失われた命の重みは消えようもなかった。


高順は十万の并州軍を率いて北へ帰る途上、一度だけ馬を止めて寿春を振り返った。彼の傍らには魏越が控え、さらに後ろには降伏した者たちが静かに続いている。


雪に覆われ始めた城には、もはや袁術の旗も「仲氏」の看板もない。ただ漢の旗が掲げられ、曹操の任命した新しい太守が統治を始めている。淮河は変わることなく流れ、八公山もまた変わらぬ姿でそびえている。自然は変わらない。変わるのは常に人間の側だ。


新たに并州に加わることになった者たち――張勲、袁渙、閻象、劉詳、萇奴、戚寄、秦翊、祖郎、師宜官、恵衢、舒邵、楊弘、馬日磾、張範。彼らはそれぞれの想いを胸に、高順の後を追って北へ向かっていた。ある者は仕えるべき主君を見つけ、ある者は己の才を活かす場所を得、ある者はただ生き延びただけだったが、それでも彼らは前を向いていた。


「主、何を見ているのだ?」


傍らの魏越が訊ねると、高順は静かに答えた。


「ひとつの時代の終わりだ」


馬を返し、北へ向かう。彼の帰るべき場所は并州である。そこには彼の理想がある。身分や出自に関わらず、才ある者が活躍できる国。過ちを犯した者にも、償いやり直す機会がある国。彼はその理想を実現するために、これからも戦い続ける。


雪は静かに、すべての血を覆い隠すように降り続けた。城壁の残骸も、散乱した武具も、折れた旗も、すべてが雪の下に消えていく。しかし高順は知っていた。血は雪で覆い隠せても、記憶までは消せない。この戦いで何が起きたのか、誰が何のために戦い、死んだのか。それを忘れず、語り継ぐことこそが生き残った者の責務なのだ。


北へ向かう隊列の最後尾で、張勲は振り返らずに歩いていた。彼は寿春にすべてを置いてきた。彼の主君も、彼の十五年間も、彼の忠誠も。これから北で、新しい人生が始まる。その人生がどのようなものになるかはわからないが、少なくとも彼は、自分を裏切らなかった。それだけが、彼の心を支えていた。


閻象は馬の背に揺られながら、静かに目を閉じていた。彼の胸の中には、最後まで側にいた袁術の姿が焼き付いている。あの日、彼がもっと強く諫言していたら、袁術は道を誤らなかっただろうか。いや、それは違う。自分にできることはすべてやった。その上で、主君は道を誤った。それを受け入れることこそが、諫言した者の責任なのだ。彼はこれから并州で、若い者たちに諫言の大切さを教えよう。正しい主君に、正しい言葉を届ける勇気を。それが自分の罪滅ぼしになるとは思わないが、せめてもの償いだとは思った。


袁渙は黙って并州の旗を見上げていた。彼には才がある。その才を偽帝のために使った過去がある。しかし高順はそれを咎めず、むしろ并州で活かせと言った。彼は決意した。今度こそ、この才を正しい主君のために使おう。それが、自分にできる唯一の償いだと。


北へ、北へ。隊列は続く。風は冷たく、雪は容赦なく降り続けるが、それでも彼らは歩みを止めなかった。ひとつの時代が終わり、新しい時代が始まろうとしている。その新しい時代の中で、彼らがどのような役割を果たすのかは、まだ誰にもわからない。ただ確かなことは、彼らが皆、この日を境に変わったということだった。

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