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社畜が目覚めたら将軍!? 史実(未来予知)で成り上がり、乱世を生き抜く  作者: 八月河
第十一回 論功行賞高順封公 白門楼呂布帰順
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第十一回 論功行賞高順封公 白門楼呂布帰順 二段

建安二年、春。淮南の寿春で、一つの重大な出来事が起きた。袁術が皇帝を自称したのである。


発端は一年前に遡る。興平二年、献帝が長安から脱出し、曹陽で李傕と郭汜の追撃を受けて大敗したとの報せが天下を駆け巡った。この知らせを聞いた袁術は、漢朝の命脈がすでに尽きたと判断した。彼は側近たちを集め、帝位につく意思を初めて口にしたのである。


「漢室はすでに四百年。その命数は尽きた。天下は新たな主を求めている。そしてその主こそ、この私ではないか」


側近たちは驚き、必死に押し留めた。楊弘は「まだ時期尚早です。孫策も江東で離反の動きを見せております。今ここで帝位を称すれば、天下の敵となりましょう」と諫言した。袁渙もまた「漢室の臣として、そのような不遜な振る舞いは許されません」と正面から反対した。しかし袁術は不機嫌になるばかりで、側近たちの言葉に耳を貸そうとはしなかった。彼の野心は消えるどころか、日増しに燃え上がっていった。


袁術の心を捉えて離さなかったのは、ある讖緯書の一節だった。『春秋讖』という書物には「漢に代わる者は当塗高なり」という言葉がある。讖緯説とは経書の隠された意味を解き明かし、未来を予言する学問であり、前漢末に王莽が帝位を簒奪した際にも利用された。袁術はこの言葉を独自に解釈した。「塗」には道という意味があり、自分の名の「術」も字の「公路」も道という意味がある。ゆえに当塗高とは自分を指しているのだ、と。


この解釈は、袁術の側近の一人である張炯が進言したものだった。張炯はもともと占卜や讖緯に通じた男で、袁術に取り入るためにこの解釈を披露したのである。袁術はこれに飛びついた。自分が天命を受けた者であるという考えは、袁術の自尊心をこの上なく満足させるものだった。


さらに袁術は、伝国璽を手にしていた。これこそが、彼の野心を決定的なものにした最大の要因である。伝国璽は、かつて洛陽の廃墟から孫堅が見つけ出した由緒正しき玉璽だった。孫堅は董卓との戦いのさなか、洛陽の井戸の中からこの玉璽を発見した。秦の始皇帝が作らせ、前漢の高祖劉邦が受け継いだとされるこの玉璽は、まさに天子の証である。孫堅の死後、その遺児である孫策が袁術のもとに身を寄せる際、この玉璽を差し出していた。孫策は、自分の独立のために袁術の歓心を買う必要があったのである。


袁術はこの玉璽を手にしたことで、自らの天命を確信した。彼は玉璽を箱から取り出し、その鈍い輝きを愛おしげに見つめながら、側近たちに語ったという。


「これこそが天命の証。始皇帝より伝わるこの玉璽は、本来ならば天子が持つべきもの。洛陽の廃墟からこれを救い出したのは、我が配下の孫堅だ。そして今、これを手にしているのは私だ。天命が私にあることは、誰の目にも明らかではないか」


楊弘はなおも諫めた。「その玉璽は、孫策が一時的にお預けしたものに過ぎませぬ。これを根拠に帝位を称するのは、あまりに危うい」


しかし袁術は聞かなかった。彼の目には、すでに現実が見えていなかった。玉璽と讖緯書。この二つの証拠が、袁術の頭の中で完璧な論理として成立していたのである。


袁術が皇帝を自称した背景について、後世の学者・柿沼陽平は興味深い指摘をしている。汝南袁氏は代々『京氏易』という経典を家学としており、この『易』には易姓革命を是認する記載が含まれているというのである。つまり、王朝が交代することは天の理にかなっているという思想が、袁家には受け継がれていた。袁術は単なる個人的な野心だけでなく、家学の伝統に基づいて自らの即位を正当化していたのだ。


建安二年正月、袁術はついに寿春を都と定め、国号を「仲」として皇帝に即位した。彼は宮殿を造営し、百官を任命し、独自の年号を定めた。皇后には寵愛する側室を立て、太子には長男の袁燿を指名した。これにより、漢帝国は洛陽の献帝と寿春の袁術という、二人の皇帝を抱えることになったのである。


しかし、この即位を認めた者はほとんどいなかった。袁術の家臣ですら、この暴挙に戸惑いを隠せなかった。孫策はただちに袁術のもとを離れ、江東で独自の勢力を築く動きを加速させた。孫策は袁術に書簡を送り、「漢室は未だ滅びてはおりません。どうかご再考を」と諫めたが、袁術はこれに耳を貸さなかった。孫策はこれをもって袁術と完全に決別し、自らの道を歩み始めた。


さらに袁術は董承の下に部下の萇奴を派遣し、献帝の身柄を確保しようと画策した。これは袁術が献帝を手中に収め、自らの正統性を高めようとしたものだったが、董承はこの動きを見抜き、萇奴を追い返した。董承を中心とする朝臣たちは、むしろ曹操を頼ろうとする動きを強めており、やがて董承も曹操と手を結ぶことになる。献帝の身柄は完全に曹操の手中に収まり、袁術の目論見は完全に外れた。


袁術に従う者は日を追うごとに減り、逆に袁術から離反する者が相次いだ。袁術はこれに焦り、私欲による奢侈放蕩な生活を改めようとせず、ますます重税を課して民を苦しめた。この暴政により兵士や領民は大いに飢え困窮し、袁術の陣営は内部から崩壊し始めていた。


劣勢を挽回するため、袁術は徐州の呂布に韓胤を使者として送り、婚姻を持ちかけた。自分の息子と呂布の娘を娶わせることで、呂布を味方につけようとしたのである。最初、呂布はこの申し出に応じようとした。袁術と手を結べば、曹操に対抗するための強力な同盟が得られると考えたからである。


しかし、徐州の名士である陳珪が呂布を諫めた。


「将軍、袁術と婚姻を結べば、あなたは天下の逆賊と見なされます。袁術は漢室を否定し、自ら皇帝を名乗った大逆人です。そのような者と縁を結べば、将軍の名に傷がつくだけでなく、曹操の討伐を受ける口実を与えることになりましょう」


呂布は陳珪の言葉に動かされた。彼はもともと袁術が最初に自分を迎えなかったことを恨んでいた。洛陽を追われ、流浪の身となった呂布を、袁術は「信用できぬ」と冷たくあしらった過去がある。その屈辱が、呂布の心の奥底でくすぶり続けていた。呂布は韓胤を捕縛し、書簡と共に曹操のもとへ送りつけた。曹操はこれを即座に処刑した。


激怒した袁術は、楊奉と韓暹に呼びかけて共同戦線を結び、大将軍の張勲に数万の大軍を預けて呂布を攻めさせた。楊奉と韓暹はもともと白波軍の出身で、李傕と郭汜の乱の後に流浪していたが、袁術の誘いに乗って参戦したのである。


しかし呂布の陣営には、陳珪の息子である陳登がいた。陳登は父に劣らぬ智謀の持ち主で、楊奉と韓暹が袁術に心から従っているわけではないことを見抜いていた。陳登の策により、呂布は楊奉と韓暹に密使を送り、物資と官位を餌に寝返りを誘った。楊奉と韓暹はあっさりとこの誘いに乗り、袁術から離反して呂布に味方した。形勢は一気に逆転し、張勲の軍は壊滅した。袁術はまたしても大敗を喫したのである。


その後も袁術の暴走は止まらなかった。彼は淮陽を支配していた陳愍王の劉寵に兵糧の援助を申し入れた。劉寵は明帝の後裔であり、漢室の正統な宗室である。当然ながら、劉寵は袁術の皇帝自称を認めなかった。陳国の相である駱俊もまた、袁術の使者を一蹴した。


「我が主君は漢室の宗室。逆賊に兵糧を差し出す謂れはない。疾く去るがよい」


この返答に、袁術は激怒した。彼は刺客を放って劉寵と駱俊を暗殺し、陳国を力ずくで奪ったのである。この暴挙は、袁術の残虐性を天下に知らしめることになった。漢室の宗室を殺害することは、もはや単なる反逆ではなく、漢室そのものへの宣戦布告に等しい。


しかし、ここで曹操が自ら迎撃に出た。曹操は天子を奉戴する司空として、袁術の皇帝自称を決して許すわけにはいかなかった。彼はただちに軍を動かし、袁術の本拠地である寿春を目指して進軍した。袁術はこの報せを聞くと、戦わずして逃走した。彼はもはや曹操と正面から戦うだけの兵力も気力も失っていたのである。代わりに、橋蕤、李豊、梁綱、楽就の四人の将軍に曹操軍を迎撃させたが、いずれも討ち取られて大敗した。


この敗戦により、袁術の勢力はほぼ完全に壊滅した。彼は命からがら逃亡したが、もはや頼れる者は誰もいなかった。かつて皇帝を自称した男は、わずかな側近と共に放浪の末、まもなく病死したという。袁術の皇帝即位は、わずか数ヶ月で幕を閉じたのである。


袁術が皇帝を自称したという報せは、数日のうちに并州にも届いた。早馬が晋陽の城門を駆け抜け、政庁にその知らせをもたらした時、高順は賈詡や董昭と共に、并州各地に配備する軍馬の割り振りについて最終的な詰めを行っている最中だった。


伝令が政庁の広間に飛び込んできたのは、午後の遅い時刻だった。彼は額に汗を浮かべ、荒い息のまま報告した。


「申し上げます! 淮南の袁術が、寿春にて皇帝を自称いたしました! 国号を仲と称し、百官を任命、独自の年号まで定めたとのことです!」


この報告に、広間の空気が一変した。賈詡が手にしていた木簡を置き、董昭が眉をひそめる。高順はしばらく無言で伝令を見つめていたが、やがて手にしていた木簡を卓の上に置いた。彼の顔から、それまでの穏やかな表情がすっと消えた。


「袁術ごときが皇帝を名乗るだと」


高順の声は低く、しかし政庁の広間全体に響き渡る重みを持っていた。居並ぶ賈詡も董昭も、思わず居住まいを正す。高順がこれほど明確に怒りを露わにしたのは、長安で王允の独善を罵倒して以来のことだった。


「漢室を愚弄するにもほどがある。我々は董卓を倒し、李傕と郭汜を退け、ようやく朝廷の体裁を整えたばかりだ。陛下はまだお若く、蔡邕先生が心血を注いで教育されておられる。桓帝や霊帝の時代に宦官どもが跋扈し、黄巾の乱が天下を揺るがし、董卓が洛陽を焼き、李傕と郭汜が長安を血の海に変えた。この十年、どれだけの人間が漢室の衰えを嘆き、どれだけの忠臣が命を懸けて漢室を守ろうとしたか。そのすべてを踏みにじる行為だ」


高順の言葉は、普段の彼からは想像もつかないほどの熱を帯びていた。


「董卓ですら、そこまではしなかった。董卓は暴虐だったが、少なくとも形だけは漢室を立てていた。少帝を廃し献帝を立てたのも、漢室の枠組みの中で権力を握るためだった。しかし袁術は違う。漢室そのものを否定し、自らがそれに取って代わろうとしている。これは反逆の中の反逆。古今東西、これ以上の大罪はない」


賈詡が静かに口を開いた。


「将軍、袁術の皇帝自称には、誰もが呆れております。孫策はすでに袁術のもとを離れ、江東で独立の動きを強めております。呂布もまた、袁術の婚姻の申し出を断ったとのこと。袁術に味方する者は、もはやほとんどおりません」


「当然だ。あれは自滅するために皇帝になったようなものだ。しかし問題はそこではない。袁術が皇帝を名乗ったという事実そのものが、これからの天下に禍根を残す」


高順の声は、いつにも増して鋭かった。彼は現代の歴史知識で、この先に何が起きるかを知っている。袁術の皇帝自称は、単なる一瞬の愚行では終わらない。この前例が、後に曹操の魏公即位や魏王即位、そして曹丕の禅譲への道筋を作ることになる。漢室の権威はここで致命的な傷を負い、やがて誰もが「漢に代わる者」を目指すようになる。高順が最も恐れていたのは、まさにこのことだった。


「袁術が皇帝を名乗ったことで、天下の野心家たちはこう思うだろう。『袁術にできたのなら、自分にもできるのではないか』と。これは伝染病だ。一人がやれば、次が現れる。董卓の専横を見て李傕と郭汜が真似をしたように、袁術の皇帝自称を見て、次に誰かが真似をする。そうなれば、漢室の権威は完全に地に堕ちる」


「将軍はどなたを想定しておられますか」


董昭が慎重に尋ねた。高順は少し間を置いてから答えた。


「今はまだ誰とも言えぬ。しかし、曹操も袁紹も、そして劉備も、いずれ天下を取ろうと考える時が来る。その時、彼らは袁術の前例を思い出すだろう。だからこそ、袁術の皇帝自称は断固として糾弾しなければならない。これが漢室を守る最後の防波堤となる」


高順はすぐさま文官たちを集め、献帝に上奏するための書簡を認めさせた。内容は袁術討伐の詔勅を求めるものであり、同時に天下に袁術の非を訴える檄文を発布することも書き添えられた。


「袁術の行為は、漢室に対する反逆である。これを許せば、天下の諸侯がこぞって帝位を狙うことになる。漢室四百年の歴史を、ここで終わらせるわけにはいかない。必ずや袁術を討ち、その罪を天下に示す」


高順は書簡を認めながら、賈詡に問うた。


「賈詡、お前は袁術の行動をどう見る」


「自殺行為です。孫策はすでに離反し、呂布も敵に回した。領民は重税に苦しみ、兵士は飢えている。内部から崩壊しつつある袁術に、曹操ほどの相手が勝てる道理はありません。袁術は遠からず滅びるでしょう。しかし将軍の仰る通り、問題はその先です。袁術が皇帝を名乗ったという前例は、この先、野心ある者たちにとって危険な道標となります」


「だからこそ、今のうちに強く楔を打ち込んでおく必要がある。漢室を守るとは、単に献帝を守ることではない。漢室の権威を守ることだ。その権威が失われれば、天下の秩序は根底から崩れる」


高順は筆を置くと、完成した上奏文を董昭に手渡した。


「これをただちに許昌へ送れ。それから、天下の諸侯にも檄文を発布する。袁術を討つことだけが目的ではない。漢室を守る意思を、天下に示すのだ」


董昭は深く頷き、上奏文を手に政庁を出て行った。


その後、高順はしばらく卓の上の地図を見つめていた。彼の頭の中では、すでに次の一手が動き始めている。袁術を討つだけでは足りない。曹操はこの機に乗じて徐州に攻め込むだろう。そうなれば、呂布と劉備の命運も風前の灯火となる。高順は呂布を生かしておくために、いずれ自ら徐州に赴く必要があるかもしれない。そして、その隙を突いて袁紹が動く可能性もある。高順は地図の上で駒を動かしながら、静かに次の戦いを見据えていた。

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