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社畜が目覚めたら将軍!? 史実(未来予知)で成り上がり、乱世を生き抜く  作者: 八月河
第十一回 論功行賞高順封公 白門楼呂布帰順
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第十一回 論功行賞高順封公 白門楼呂布帰順 一段

高順が異民族から接収した軍馬は、正確に十五万匹だった。烏桓から五万匹、鮮卑から六万匹、匈奴から四万匹。いずれも草原で鍛え抜かれた戦闘用の軍馬であり、老馬や病馬は一頭も含まれていない。高順は晋陽に戻ると、この膨大な軍馬をどのように配分するか、すぐさま軍議を開いた。


政庁の広間には、賈詡、董昭、張遼、徐栄、張楊、華雄ら并州を支える面々が顔を揃えている。中央の卓上には并州と幽州の地図が広げられ、各地の守備状況が駒で示されていた。


「まず幽州の徐栄に三万匹を送れ」


高順は地図の上で幽州を示す駒を指差しながら言った。


「遼東半島から烏桓、鮮卑を睨む抑えとして、騎兵戦力は欠かせない。蹋頓は表面上は停戦に応じているが、いつまた牙を剥くかわからん。烏桓は騎馬民族の中でも特に執念深い。公孫瓚を二十年も苦しめた男だ。油断はできん」


「承知しました。三万匹あれば、幽州の騎兵戦力は飛躍的に向上します。特に遼東方面の抑えとして心強い」


徐栄が深く頷く。彼は董卓のもとで長く軍を率いてきた歴戦の将であり、騎兵の重要性を誰よりも理解していた。高順はさらに言葉を続けた。


「次に雁門の張遼に三万匹。鮮卑の扶羅韓と歩度根は兄弟で互いに争っている。扶羅韓は武勇に優れ、歩度根は知略に長ける。この二人が組めば厄介だ。文遠には常に備えを万全にさせておけ。鮮卑の動きはお前の判断で対処しろ」


「御意。三万匹あれば、騎兵の機動力を活かした迎撃が可能になります。これで鮮卑がいつ動いても対応できます」


張遼は冷静に応じた。彼の防衛手腕は雁門の戦いで実証済みであり、高順も全幅の信頼を置いている。弩兵の連続射撃と騎兵の側面突撃を組み合わせた彼の戦術は、鮮卑の大軍を二度も退けていた。


「残る九万匹のうち、三万匹は并州各地の守備隊に分配する。河内郡、上党郡、太原郡、雲中郡、五原郡。それぞれの守備隊に必要な数を割り振れ。董昭、お前に任せる」


董昭が几帳面に記録を取る。


「六万匹は晋陽に留め置き、品種改良と繁殖に充てる。すでに馬の専門家たちに交配計画を立てさせている。持久力に優れた馬と瞬発力に優れた馬を掛け合わせ、より優れた軍馬を作り出す。五年、十年かけてな。我々は草原から馬を奪っただけでは終わらせない。この地で、より優れた馬を生み出すのだ」


「それは壮大な計画ですな」


賈詡が静かに言った。


「壮大だが、必要なことだ。今は十五万匹あっても、戦が続けば馬は消耗する。補充がなければ、いずれ騎兵戦力は弱体化する。そうなる前に、自前で軍馬を生産できる体制を整える」


「将軍は常に十年先を見ておられる」


「十年先を見なければ、乱世は生き残れない」


高順はそう言って、少しだけ目を細めた。彼は現代の知識で、軍馬の品種改良が戦争のあり方を根本から変えることを知っていた。強靭な馬は戦場における機動力を飛躍的に向上させる。いずれ来るべき曹操や袁紹との決戦に備えて、この軍馬の改良は不可欠な投資だった。


「それと、白馬だけは別枠で管理しろ。白馬の血筋を調べ上げ、特に優れた素質を持つものを選別するんだ。何か面白い馬が生まれるかもしれん」


「将軍は馬にも夢を見るお方ですな」


賈詡が微かに笑った。その顔には、主君の無邪気な一面を見るような親しみが浮かんでいる。


「夢を見るくらいは構わんだろう。どうせタダで手に入れた馬だ」


高順がそう言うと、居並ぶ将たちから笑声が漏れた。戦勝の余韻がまだ残る政庁の空気は、久しぶりに和やかだった。華雄が「それなら俺も白馬に乗ってみたいものだ」と冗談を言い、張楊が「その巨体で白馬に乗れば的が大きくなるだけだぞ」と返す。高順はそんな部下たちのやり取りを、口元をわずかに緩めて見守っていた。


軍議が終わり、将たちが退出した後、高順は賈詡と董昭を執務室に残して、もう一つの懸案について相談した。


「それで、李儒と張繍の受け入れ準備は整っているか」


「はい。李儒には政務の補佐と情報収集を担当させる予定です。彼は董卓のもとで洛陽遷都や呂布の懐柔など、数々の策を練った実績があります。贾詡殿と共に参謀役として活躍してもらえるでしょう」


「張繍は騎兵指揮官としての手腕が確かです。宛城で曹操を破った戦いでも、その采配は見事でした。彼には騎兵隊の再編と訓練を任せてはどうかと」


賈詡が補足した。賈詡は張繍の旧主であり、彼の能力を誰よりもよく知っている。


「よし、その線で進めろ。二人とも、それぞれの才を活かせる場所を与えれば、必ず結果を出す」


高順は二人の処遇を決めると、卓の上の茶を一口啜った。


その日の午後、高順は予期せぬ来客の報せを受けた。李儒、李粛、張繍の三名が揃って晋陽を訪ねてきたのである。


「李儒と張繍は予定通りだが、李粛も一緒か」


高順は使者からの報告を受けて、少しだけ眉を動かした。李粛が来るとは聞いていなかった。彼は少し考えてから、三人を別々に引見することにした。


最初に通されたのは李儒だった。


李儒は董卓の参謀として悪名を轟かせた毒士だが、今はかつての傲然とした態度は影を潜め、疲れ切った旅装で高順の前に立った。彼は董卓の死後、幼い董卓の遺児たちを連れて逃亡し、高順に助けられて并州に匿われた。その後、しばらくは各地を流浪していたが、結局は并州に身を寄せる決断をしたのである。董媛の夫である高順のもとが、最も安全だと判断したのだろう。


「李儒、よく来たな」


高順は李儒を温かく迎えた。彼は李儒を毒士として恐れるのではなく、一人の現実主義者として評価していた。感情に流されず、常に最善手を打とうとする李儒の思考様式は、高順のそれと通じるものがあった。


「高将軍、このたびは受け入れていただき、感謝に堪えません。私は董卓に仕え、多くの過ちを犯しました。洛陽遷都では多くの民が死に、呂布の懐柔では董卓を増長させた。この汚名は一生消えません。しかし、もし私の才が将軍のお役に立つならば、この命、惜しみなく使っていただきたい」


「お前の才は必要だ。過去の過ちは問わない。ただし、これからは并州の法と秩序に従え。私情で動くな。それさえ守れば、お前の知略は存分に活かせる場所を与える」


李儒は深く頭を下げた。彼は董卓に仕えていた頃とは明らかに違う、どこか憑き物が落ちたような表情をしていた。愛する家族を守るために奔走した数年間が、彼を変えたのである。


次に通されたのは張繍だった。


張繍は宛城で曹操を破った後、南陽で孤立していたところを高順が賈詡を通じて招いた将である。彼は指揮官として優れた手腕を持っていた。曹操の長子・曹昂を討ち取ったのは彼の奇襲によるものだが、高順はそのことをとがめるつもりはなかった。戦場での勝敗は時の運であり、張繍は自らの判断で最善を尽くしたに過ぎない。


「張繍、お前には騎兵隊の再編と訓練を任せる。お前の騎兵指揮の手腕は、宛城で証明済みだ。并州には今、十五万匹の軍馬がある。これを使いこなせる騎兵を育ててほしい」


「承知しました。この命、将軍のために使わせていただきます」


張繍は若々しい声で応じた。彼には野心があるが、同時に武人としての誇りも持ち合わせている。高順はその野心を危険視するのではなく、適切に方向づければ大きな力になると考えていた。


最後に通されたのは李粛だった。


李粛はかつて呂布と同郷の騎都尉であり、董卓暗殺の際には囮役を務めた男である。董卓が死んだ後は流浪の身となり、曹操にも袁紹にも相手にされず、伝手を頼って并州にやってきたのだった。高順は李粛と短く言葉を交わしただけで、すぐに董昭を呼んで路銀を渡すよう指示した。


「李粛殿、はるばる御苦労だった。これは路銀だ。どうかこれで郷里にでもお戻りいただきたい」


李粛は驚きの表情を浮かべた。彼は何か言いかけたが、高順の目を見てすべてを悟り、何も言わずに頭を下げた。彼は自分が拒まれたことを即座に理解したのである。路銀を受け取ると、足早に部屋を辞した。


この対応に、賈詡も董昭も戸惑いを隠せなかった。


「将軍、今は一人でも多くの将が欲しい時です。李粛は確かに大した武功はありませんが、董卓暗殺の際には危険な囮役を引き受け、呂布を説得した実績もあります。なぜ追い返されたのですか」


賈詡が慎重に尋ねると、高順は静かに答えた。


「李粛は無能な毒だ。奴は董卓に昇進を抑えられたことを怨み、裏切った。そして呂布にも見限られ、曹操にも袁紹にも相手にされなかった。確かに奴には人を騙す才があるが、その才は味方には決して向けられない。敵に回せば利用価値がある。味方にすれば害悪でしかない。なぜなら奴は自分の利益のためならば、誰でも平気で裏切る男だからだ」


「無能な毒、ですか」


賈詡がその言葉を反芻した。


「そうだ。毒には二種類ある。有能な毒と無能な毒だ。賈詡、お前は有能な毒だ。お前は自分の才を誰のために使うべきか、誰を裏切れば利益になるかを正確に計算できる。だから私はお前を信じて任用している。裏切ることも計算に入れた上でな」


賈詡は微かに笑った。主君に面と向かって「裏切ることも計算に入れている」と言われて笑える者は少ないが、賈詡はそれをむしろ心地よく感じていた。偽りの信頼ではなく、打算を前提とした正直な関係。それこそが賈詡の最も好むところだった。


「だが、李粛は違う。奴はその場の感情と短期的な利益だけで動き、長期的な視点を持たない。手柄に焦り、短慮で動き、結果的に味方を危険に晒す。そういう男は、いつか必ず味方を食い破る。董卓暗殺の時も、奴は李儒の緻密な計画を無視して独断で動き、危うく計画全体を台無しにするところだったと聞く」


高順はそこで言葉を切り、李儒に視線を向けた。李儒は深く頷いた。


「将軍の仰る通りです。李粛は董卓暗殺の際、私が立てた計画を無視し、功を焦って独断で動きました。幸いにも董卓を倒すことはできましたが、もし失敗していれば、王允殿も呂布も、そして私も全員が処刑されていたでしょう。李粛はその後、呂布にも見限られました。呂布は『あの男は手柄のためなら誰でも売る』と言って近づけなかった」


「呂布がそこまで言うか」


董昭が驚きの声を上げた。呂布自身が裏切り者として名高い男である。その呂布に「誰でも売る」と言わしめるとは、李粛の信用のなさは相当なものだった。


「李粛は敵に回せば利用価値がある。しかし味方に置くには危険すぎる。ならば、あえて袁紹か曹操のもとに送り込むという手もありますが」


董昭が提案したが、高順は首を振った。


「いや、それもやめておけ。奴はどこに行っても同じことを繰り返す。そして誰かに利用され、切り捨てられる。それが奴の運命だ。我々が手を汚す必要はない。奴は放っておけば、いずれ勝手に滅びる」


賈詡はしばらく沈黙していたが、やがて深く頷いた。


「将軍の人物眼には、改めて感服いたします。確かに李粛は、そういう男でした。私も何度か利用を考えましたが、毎回、その短慮が気になって断念したものです」


「賈詡、お前がそう思うなら間違いない。お前は人を見る目だけは誰よりも確かだからな」


高順の言葉に、賈詡は苦笑した。毒士と呼ばれた自分が、人を見る目を褒められるとは思わなかったのである。しかしそれもまた、高順という男の度量の広さを示していた。高順は賈詡を「毒士」としてではなく、一人の有能な参謀として評価している。賈詡はそのことを、言葉には出さずとも深く感じていた。


「李儒、お前にも聞くが、李粛の評価は同じか」


「はい。将軍の評価にまったく同意します。私もかつて彼を使おうとして、その短慮に何度も苦しめられました。董卓の生前、李粛を重要な任務に就けようとしたことがありますが、彼は手柄を焦って無断で動き、かえって状況を悪化させました。それ以来、私は彼を遠ざけていました。しかし董卓は李粛の追従を好み、逆に私の進言を退けたのです。結果、李粛は董卓を裏切りました。皮肉なものです」


李儒の言葉には苦い響きがあった。彼は董卓に仕えていた頃、何度も李粛の危険性を進言したが、董卓は聞く耳を持たなかった。そして結局、李粛は董卓暗殺の囮役を引き受けることで、自らの保身と出世を図ったのである。


「なるほど。李粛は己の利益でしか動かず、その利益も長期的に見通せない。有能な毒ですらない、無能な毒か」


董昭が納得したように言った。


「その通りだ。有能な毒は味方にすれば大きな力になる。しかし無能な毒は、持っているだけでこちらが害を被る。だから私は李粛を追い返した。それだけのことだ」


この一言で、李粛の処遇は決した。賈詡も董昭も、それ以上は何も言わなかった。高順の人物眼は、これまでも何度も証明されている。長安で王允の正義が独善に変わることを見抜き、宛城で賈詡の才を買って引き抜き、幽州で田豫の有能さを即座に評価した。その高順が「無能な毒」と断じた男を、無理に抱える必要はどこにもなかった。


「ところで、将軍。李粛を追い返したという報せは、いずれ袁紹や曹操の耳にも入るでしょう。彼らは李粛を拾い上げ、利用しようとするかもしれません」


賈詡が静かに指摘した。


「それでいい。李粛が袁紹に拾われれば、袁紹の陣営に無能な毒が紛れ込む。曹操が拾えば、曹操の陣営に同じことが起きる。どちらに転んでも、我々にとって損はない。むしろ得ですらある。李粛という男の本質を見抜けずに重用すれば、必ずその陣営に混乱が生じる」


「なるほど、追い返すこと自体が布石だと」


董昭は深く感心した様子で、几帳面に記録を取り続けた。彼は高順のこういう重層的な思考に、いつも驚かされるのである。


李儒と張繍が加わったことで、并州の陣容はさらに充実した。李儒は董昭のもとで政務の補佐と情報収集を担当し、張繍は騎兵隊の再編と訓練に着手した。賈詡は旧知の李儒が加わったことを喜び、二人で夜遅くまで并州の戦略について議論を交わすこともあったという。かつて董卓のもとで覇を競った毒士たちが、今は高順のもとで同じ釜の飯を食う。乱世の縁とは奇妙なものである。


高順は早速、全軍に対して大規模な軍事演習を行うことを布告した。目的は電撃戦術の浸透である。訓令戦術はすでに全軍に浸透しつつあるが、それをさらに徹底させ、各部隊が独立して判断し、迅速に行動できるようにするためには、実戦さながらの演習が不可欠だった。


「演習は三ヶ月にわたって行う。歩兵、騎兵、弩兵の連携を徹底的に鍛え上げろ。特に騎兵の機動力を最大限に活かす戦術を全軍に叩き込め。十五万匹の軍馬は、乗り手が使いこなせなければ宝の持ち腐れだ。演習では実際に各部隊に軍馬を配分し、騎兵の移動速度に歩兵と弩兵がどう追随するかを検証しろ」


高順の号令一下、并州全土で軍事演習が開始された。晋陽の北の平原には、整然と隊列を組む黒い歩兵隊と、新たに編成された騎兵隊の姿があった。演習は過酷を極め、兵士たちは連日汗と泥にまみれた。高順自身も陣頭に立ち、自ら黒鉄の重槍を手に演習を指揮した。彼の姿を見た兵士たちは、驃騎将軍自らが先頭に立つことに鼓舞され、誰一人として文句を言う者はいなかった。こうして并州軍は、次の戦いに向けて静かに、しかし確実にその力を研ぎ澄ましていった。

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