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外伝 児郎嫁禍棄紅顔 高順大罵王司徒 五段

長安では、董卓亡き後の政権が徐々に動き始めていた。


丞相となった王允は、その潔癖すぎる正義感ゆえに、日々董卓の残党狩りに腐心していた。朝議で高順に痛罵され、群臣たちに押し切られる形で大赦を出したものの、王允の心は少しも晴れていなかった。むしろ、あの時の屈辱が彼の心をさらに硬化させていた。


大赦は確かに発令された。涼州の諸将は罪を問われないという詔が天下に布告され、牛輔、李傕、郭汜、張済らは形式的に朝廷への恭順を示した。表向きは、董卓の残党問題は決着したかに見えた。


しかし王允は、それで終わりにするつもりは毛頭なかった。


「悪の芽は摘まねばならぬ」


王允は側近たちにそう繰り返した。彼にとって大赦は、群臣たちに押し切られて渋々認めたに過ぎない一時的な措置だった。涼州の将兵たちが董卓の下で重ねた罪は、大赦で帳消しにできるようなものではない。正義は必ず執行されねばならない。いつか必ず、あの者たちを断罪する。その信念だけが、王允を動かしていた。


「西涼の訛りがある者は片っ端から調べ上げよ。特に牛輔、李傕、郭汜あの三者は董卓の手足として最も多くの血を流してきた。大赦の名の下に安堵している今こそ、彼らの罪状を集める好機だ」


王允の指令は、表向きの大赦とは裏腹に、苛烈さを増していった。彼は密かに配下の者たちを涼州に送り込み、牛輔らが過去に犯した暴行や略奪の証拠を収集させた。董卓在世中に行われた村落の焼き討ち、無実の民の虐殺、婦女暴行それらの証言をまとめ上げ、いずれ大赦を反故にして彼らを断罪する法的根拠とするつもりだった。


しかし王允は気づいていなかった。そのような裏の動きが、涼州の将兵たちの耳に入らないはずがないことを。大赦に安堵したのも束の間、朝廷が密かに自分たちの罪状を集めていると知った牛輔らは、再び猜疑心に駆られていった。


王允はまた、朝廷内部の引き締めにも着手した。


「董卓に仕えていた者は、その期間の長短を問わず、一度は審査を受けるべきだ。表面的な恭順など信用できぬ。誰が董卓の真の忠臣で、誰がそうでなかったかそれを明らかにせねばならぬ」


彼はそう言って、董卓政権下で官職にあった者たちの過去を洗い直し始めた。かつて董卓に推挙されて任官した者はもちろん、董卓が主催した宴席に同席しただけの者、董卓から賜り物を受け取っただけの者にまで、嫌疑の目が向けられた。朝廷内には再び密告が横行し、同僚を売る者が続出した。


皇甫嵩は何度も諫言した。


「司徒、これ以上は朝廷が持ちません。董卓の残党を根絶することに固執すれば、いつか必ず反動が来ます。どうか寛大な処置を」


しかし王允は聞く耳を持たなかった。


「皇甫将軍。あなたは董卓に膝を屈した。洛陽の門を開け渡し、董卓の軍門に下った。そのあなたに、私のやり方を批判する資格があるとお思いか」


皇甫嵩は言葉を失った。彼は董卓の軍勢を前に洛陽の門を開いた。戦わずして屈した。それは皇甫嵩の生涯最大の汚点だった。王允はその傷口を容赦なく抉った。


「私は違う。私は一度も董卓に膝を屈したことはない。十年耐え抜いて、ついに董卓を倒した。妥協しなかったからこそ、悪は滅びたのだ。これからも妥協はしない。悪は根絶する。それが漢室を救う唯一の道だ」


王允の声には確信があった。しかしそれは同時に狂信でもあった。彼はもはや、自分が正しいと信じる以外の道を完全に見失っていた。


皇甫嵩が退出した後、王允は書斎の奥から一人の人物を呼び出した。


現れたのは、四十代半ばの武官だった。面長で、細い目が特徴的な男である。董承、董卓の部将、董卓政権下では目立たぬよう息を潜めて生きてきた。今は、王允が密かに目をかけている腹心の一人だった。


「董承よ。皇甫嵩は頼りにならぬ。朱儁も劉虞も、みな日和見だ。董卓という悪を倒すために身を粉にしてきたのは、結局この私だけだったのだ」


「司徒のお気持ち、痛いほどわかります」


董承は恭しく頭を下げた。


「私は牛輔、李傕、郭汜の誅殺を諦めてはおらぬ。大赦は出したが、あれは時間稼ぎに過ぎぬ。彼らが郿塢に蟄居している間は手が出せぬ。だが、いずれ必ず隙が生じる。その時、すかさず討てるよう、手勢を用意しておけ」


「承知しました。しかし、兵を動かすには大義名分が要ります。大赦が出ている以上、表立って兵を出すわけには」


「大義名分ならば、これから作る」


王允は卓の下から一通の文書を取り出した。それは涼州の諸将が過去に行った暴虐の数々を詳細に記した告発状だった。署名欄は空欄だが、そこにはすでに、涼州の民たちの血判が押されている。


「これはもしもの時の備えだ。彼らが少しでも朝廷に逆らう素振りを見せれば、これを根拠に討伐の詔を出せる。天子の名の下にな」


董承は文書を恭しく受け取った。その細い目が、かすかに光ったように見えた。


「董承、お前は皇室外戚の血を引く者だ。いずれは朝廷の中枢で重きを成す器だ。今は雌伏の時だが、時期が来れば必ず引き上げる。その時まで、私を支えよ」


董承は深く平伏した。その顔は伏せられ、王允には見えなかったが、その唇には微かな笑みが浮かんでいた。王允に利用されていることを、董承はよく承知していた。しかし同時に、自分もまた王允を利用している。董卓が死に、呂布や高順といった武断派が去った今、朝廷に残された権力の空白は大きい。そこに食い込むには、今は王允の威光を借りるのが最も確実な道だった。


ある夜、士孫瑞が王允の私邸を訪ねた。彼は長年王允を支えてきた側近であり、董卓誅殺の計画にも最初から加わっていた。王允の才能を誰よりも高く評価していたが、同時にその危うさにも気づいていた。


「司徒、遅くに申し訳ございません」


「士孫瑞か。入れ」


王允は相変わらず書斎で酒を呷っていた。机の上には積み上げられた上奏文と、董承に渡したのと同じ涼州諸将の告発状の写しが置かれていた。


「司徒、お体に障ります。酒はほどほどに」


「うるさい。お前まで私に指図するのか」


士孫瑞はしばらく黙っていたが、意を決して口を開いた。


「司徒、私はあなたを敬愛しております。董卓という悪を倒すために十年耐え抜いたあなたの胆力と知略は、まさに不世出のものです。しかし」


「しかし、なんだ」


「高順の言葉は乱暴でしたが、理がありました。涼州兵を追い詰めれば、彼らは必ず反撃してきます。今は大赦で収まっていますが、司徒が裏で罪状を集めていることは、すでに牛輔たちの耳にも入っております。今からでも遅くはない、寛大な処置を」


王允の声が急に静かになった。


「士孫瑞。お前もか。お前まで私を裏切るのか」


「裏切るのではありません。私はただ、あなたを案じて」


「私は間違っていない。悪を憎み、善を愛する。それのどこが間違っている。董卓の残党を殺して何が悪い。彼らは董卓の手足だ。董卓が死んでも手足が残っていればいつかまた動き出す。それを断つのが私の役目ではないか」


「しかし、そうなれば長安は戦場になります。民が」


「民のためだ。民のためにこそ、悪は根絶せねばならぬ。多少の犠牲はやむを得ぬ。いま悪を断たねば、後世により大きな禍を残す。それがわからぬか」


士孫瑞はそれ以上何も言えなかった。彼は深く一礼し、退出した。廊下に出た士孫瑞は小さく呟いた。


「高順の言った通りだ。この方は、純粋すぎる正義に自分自身を焼き尽くされようとしている」


長安の夜は更けていった。王允は一人、書斎で酒を呷り続けた。


「なぜだ……なぜ誰も私を理解しない……」


その呟きは、誰にも聞かれることなく闇に消えた。


一方、朝廷が持ちうる数少ない武力であるはずの呂布は、奇妙なほど静かだった。


かつてのように酒色に溺れることもなく、遊郭に通うこともない。彼はただ黙々と練兵場で汗を流していた。戟が唸りを上げ、空気を切り裂く。その鋭い軌跡は、彼の孤独そのものを切り刻んでいるかのようだった。


いない。誰もいない。


呂布は戟を止め、周囲を見回した。かつて自分の左右を固めていた質実剛健な高順はいない。冷静沈着な張遼もいない。勇敢な魏越も成廉も郝萌も侯成も、みな高順と共に并州へ去ってしまった。


今の呂布に残されたのは、有象無象の兵たちだけだった。彼らは呂布の武名に憧れて集まった者たちだが、統率も規律もなく、ただ強い者に従っているだけの烏合の衆だった。董卓の下にいた頃は、高順の陥陣営が精鋭として呂布軍を支え、張遼が戦術を立案し、魏越や成廉が前線で暴れていた。呂布はただその先頭に立って戟を振るえばよかった。しかし今は、すべてを自分でやらねばならない。彼は初めて、自分がどれほど仲間に依存していたかを痛感していた。


「フン。ならば、鍛えるまでよ」


呂布は弱音を吐かなかった。彼は自ら兵の先頭に立ち、泥にまみれて調練を行った。彼は天性の武人だったが、決して教える側の人間ではなかった。自分ができてしまうことを、なぜ他人ができないのか理解できなかった。だから彼の指導は苛烈を極めた。


「遅いっ。そんな動きでは戦場で死ぬぞ。もっと速く、もっと鋭く」


兵士たちは必死に食らいついたが、呂布の基準には遠く及ばなかった。呂布は苛立ち、時には戟の柄で兵を打ち据えた。怪我をする者も出たが、呂布はそれを鍛錬の一言で片付けた。


しかしそれでも兵たちは呂布を見捨てなかった。なぜなら呂布は、自分自身にも誰よりも厳しかったからだ。彼は兵たちに命じるよりも先に、自らが十倍の稽古をこなした。朝から晩まで戟を振り続け、泥にまみれ、傷だらけになりながら、それでも立ち続けた。失った手足の代わりを探すのではない。自らがより強大な怪物となり、兵そのものを己の肉体とするために。飛将軍は孤独の中でさらに研ぎ澄まされようとしていた。


ある日、呂布は練兵場の片隅で一人の若い兵が倒れているのを見つけた。熱中症だった。他の兵たちは見て見ぬふりをしていたが、呂布はその兵を抱え上げ、日陰に運んだ。そして自分の水筒を渡し、言った。


「無理をするな。死んだら何にもならん」


その言葉に、兵は涙を流した。呂布は戸惑いながらも、その兵の肩を軽く叩いて立ち去った。彼は他人に優しくされることに慣れていなかったし、他人に優しくすることにも慣れていなかった。しかしこの時、彼の中で何かが少しだけ変わった。自分は一人ではない。この兵たちを育て、共に戦えば、いつか高順たちに匹敵する軍団を作れるかもしれない。呂布はそう信じることにした。


南陽郡では、長安を追われるようにしてこの地に拠点を移した涼州軍閥の一角・張済が、独自の勢力を築きつつあった。その背後には、稀代の謀臣・賈詡がついている。


賈詡は涼州出身の文人で、董卓の幕僚として頭角を現し、洛陽遷都や呂布の寝返り阻止など数々の策を練ってきた男だった。彼は自分のことを毒士と呼んでいた。それは自嘲だったが、同時に誇りでもあった。乱世を生き抜くには毒が必要だ。甘い理想や綺麗事はすぐに破滅を招く。賈詡はそれを誰よりもよく知っていた。


「張将軍。劉表との小競り合いは、あくまで生存圏の確保に留めるべきです」


賈詡の進言により、張済軍は南陽を盤石にするため荊州牧・劉表の軍勢と一進一退の攻防を繰り広げていた。無理に攻め込まず、かといって引かず。このしぶとさこそが、乱世を生き抜く毒士の知恵だった。


「文和よ。お前はいつも慎重だな。たまには攻めてもいいのではないか」


張済は時折そう言って賈詡をからかったが、結局は賈詡の進言に従っていた。彼は董卓の腹心だったが、董卓ほどの野心はなかった。生き延びること。それが張済の最大の目標だった。そしてそれこそが、賈詡が彼を選んだ理由でもあった。


「将軍、焦ってはいけません。今、長安では王允が涼州兵の粛清に血道を上げています。大赦は出ましたが、あれは時間稼ぎに過ぎません。王允は水面下で罪状を集め、いずれ大赦を反故にして我々を断罪するつもりです」


賈詡の言葉には確信があった。彼の諜報網は、王允の裏の動きを正確に掴んでいた。


「王允の正義は鋭すぎる刃。あの刃は、いずれ持ち主の手も斬ります。しかし、斬られる前に我々を斬ろうとするでしょう。今は耐え、力を蓄えるべきです。いずれ王允が失脚するか、あるいは董承のような新たな権力者が台頭するかその時が我々の好機です」


「董承、だと」


「ええ。王允は自分が董承を利用していると思っている。だが実際は、董承もまた王允を利用している。いずれ独自の勢力を築こうとするでしょう。その時、王允との間に必ず軋轢が生じる。我々はそれを見極めるのです」


「して、高順という男はどう見る」


張済が尋ねた。高順は董卓の娘を娶りながら王允に協力して董卓を倒し、そして今度は王允と対立して并州へ去った。その行動は一貫性がないように見えて、実は筋が通っている。彼は董卓の娘を守るために王允に近づき、蔡邕や貂蝉を守るために王允と対立した。すべては守るべき者を守るという一点に集約されていた。


「高順は面白い男です」


賈詡は静かに言った。


「彼は我々と違って、何かを得るために動いているのではありません。ただ、守るために動いている。守るべき者のためなら董卓にも王允にも逆らう。それは強みであり、同時に弱みでもある。彼は自分のために戦うことができない。誰かを守るという大義がなければ戦えない男です」


「なるほど。それは確かに弱みだな」


「ええ。しかしそれだけに彼は手強い。守るべき者がいる限り、高順は決して折れません。そして彼が守ろうとしているのは董卓の娘だけではない。并州の民であり、彼に従う兵士たちであり、やがては天下万民になるかもしれない。高順は自分が思っている以上に大きな存在になりつつあります」


賈詡の目が遠くを見つめた。


「いずれ彼とは戦うことになるでしょう。その時は、こちらも相応の準備が必要です」


賈詡はそれだけ言うと、再び地図に向かった。彼もまた、乱世を生き抜くために今日も策を練り続ける。それこそが毒士の宿命だった。


青州、平原郡。劉備玄徳は公孫瓚の推薦により平原の相としてこの地を治めていた。だがその立場は、あくまで公孫瓚の配下・田楷の客将に過ぎない。


平原は小さな県だった。人口は数千、兵はわずか数百。城壁は低く、堀も浅い。とても戦乱を生き抜けるような要害ではなかった。しかし劉備はこの小さな土地を愛していた。ここに住む民たちは貧しくとも素朴で、劉備の施政に素直に感謝してくれた。それが劉備にとっては何よりの報いだった。


「雲長、翼徳。兵の様子はどうだ」


城壁の上で、劉備は二人の義弟、関羽と張飛に問いかけた。関羽は長い髭を撫でながら遠くを見つめ、張飛は退屈そうに城壁の石を蹴飛ばしていた。


「兄者、兵たちは皆、兄者を慕っておりますぞ。だが、ここは狭すぎますな」


関羽が言った。彼は劉備の右腕として常に軍の統率に気を配っていた。その眼光は鋭く、ひとたび戦場に出れば大刀を振るって敵を薙ぎ倒す豪傑だったが、普段は寡黙で本を読むことを好んだ。


「そうだそうだ。兄者、いつまでこんな小さな県でくすぶっているんだ。世は曹操や袁紹が天下を狙って動いているんだぞ。俺たちだって負けちゃいられねぇ」


張飛が大声で同意した。彼は劉備の弟分として常に最前線で戦う剛の者だった。長矛を自在に操り、その豪胆さは敵味方問わず恐れられた。しかし短気で酒癖が悪く、それが時として災いを招くこともあった。


劉備は苦笑した。


「焦るな。天の時は、まだ我らに来ていないだけだ」


「天の時、ですか」


関羽が聞き返す。劉備は遠くの空を見つめながら静かに言った。


「ああ。董卓が死んで、これから天下は乱れる。袁紹と袁術は兄弟喧嘩を始め、曹操は自分の勢力を固める。我らは今はまだ小さな県の長に過ぎない。だが、いずれ潮目が変わる時が来る。その時まで、民を守り、徳を積み、力を蓄える。それが今の我らにできることだ」


「なるほど。兄者は遠くを見ておられるのですな」


関羽は納得したように頷いた。張飛はまだ不満そうだったが、それ以上は何も言わなかった。彼は劉備の言葉を、時に不満に思いながらも常に信じていた。


劉備という男は不思議な魅力を持っていた。武力では関羽や張飛に遠く及ばず、知略でも諸葛亮のような天才にはかなわない。しかし彼には人を惹きつける何かがあった。それは徳と呼ばれるものかもしれないし、ただの人好きのする性格かもしれない。いずれにせよ、彼は人を集め、人を使い、人に慕われる才能を持っていた。


「さあ、今日も見回りに行こう。民たちが安心して暮らせるように、我らがまずはしっかりせねば」


劉備はそう言って城壁を降りていった。関羽と張飛もそれに続いた。彼の目は穏やかだが、決して光を失ってはいなかった。仁義を重んじ、民を愛する男。今はまだ泥の中に潜む龍だが、ひとたび雨を得れば天へと昇る器。彼もまた雌伏の時を耐え忍んでいた。


長安の落日はまだ遠い。だが、その傾きは確かに始まっていた。


王允はますます孤立を深め、正義という名の闇に沈んでいく。董承はその後ろで静かに牙を研ぎ、朝廷内での地歩を固めつつあった。呂布は孤独の中で牙を研ぎ、涼州軍閥は虎視眈々と反撃の機会を窺っていた。


高順が去った後、長安の朝廷は緩やかに崩壊への道を歩み始めていた。大赦は出されたものの、王允の裏の動きに涼州兵たちの不信感は日増しに高まり、いつ決起してもおかしくない状態が続いていた。しかも今や、王允に対する不満は涼州だけではなく、朝廷内部にも広がりつつあった。董承を中心とする新たな勢力が、王允の正義の陰で密かに胎動を始めている。


この時点ではまだ、誰も未来を知らなかった。王允は自分の正義を信じ続け、董承は権力の階段を静かに上がり、呂布は自分の武力を信じ続け、賈詡は自分の知略を信じ続けた。それぞれがそれぞれの正義と信念を持ち、それが衝突し、やがてさらなる大乱を引き起こすことになる。


しかしそれは、まだ少し先の話だった。


今はただ、長安の空に沈む夕陽だけがすべてを見つめていた。四百余年続いた漢帝国の最後の落日が、すぐそこまで近づいていたのである。

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