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一段

長安の城門が、重々しい音を立てて開かれた。


初平三年、春。并州を平定し終えた高順は、十万の兵を引き連れて長安へと到着した。正確には、十万のうち九万七千は董卓への献上兵であり、彼直属の兵は三千の陷陣営のみである。しかし都の民にとって、十万の軍勢が押し寄せてくる光景は、謀反の前触れ以外の何物でもなかった。


城門の衛兵たちは慌てて門を閉ざそうとし、物見高い民たちは家々の窓や屋根の上から、その様子を固唾を呑んで見守っている。街道の両側には、焼け出された避難民たちも群がっていた。彼らは洛陽から逃れてきたが、長安でも安息の地を得られず、市場の隅や橋の下で雨露をしのいでいる。衣服は襤褸を重ね、子供たちの頬はこけ、老人の目には生気がなかった。


「あれが高順か。百万の賊を一人で討ったという男だ」


「十万の兵を連れてるぞ。戦になるんじゃないか」


「馬鹿言え、相国様の召喚に応じて来たんだ。見ろよ、あの隊列の整い方。まるで生き物みたいじゃねぇか。おい、誰かあの将軍に物を投げるなよ。殺されるぞ」


民たちの囁きは、恐怖と好奇心が入り混じっていた。高順は驍風の上で、その喧騒を静かに聞いていた。彼の背後では、七千の陷陣営が完璧な隊列を保ち、さらにその後方には九万三千の献上兵が続いている。黒い甲冑に身を包んだ騎兵たちは鐙を踏み締め、槍の穂先を揃えて進む。その行軍は大地を揺るがし、長安の街全体が微かに震えているかのようだった。


「将軍、ずいぶんと物々しい歓迎ですな」


張五が苦笑しながら馬を寄せてきた。彼の肩には、并州での戦いで負った傷跡がまだ生々しく残っているが、若さゆえの回復力で、今はすっかり元気を取り戻していた。


「当然だ。十万の兵を連れてくると言えば、誰だって謀反を疑う。だが、それでいい。董卓に俺の力を思い知らせる」


「しかし将軍、あまり刺激すると、相国様が本気で兵を向けてくるのでは?」


「董卓は合理的な男だ。十万の兵を殺すより、十万の兵を手に入れる方を選ぶ。それに、俺は献上すると言っている。献上されたものを蹴るほど、董卓は愚かじゃない」


驍風の蹄が、長安の石畳を叩く。その音は、新しい時代の足音のようにも聞こえた。


この時の高順の長安入城は、単なる武将の帰還ではない。并州という一つの国を従え、十万の兵を引き連れた男が、中央の権力者と対峙する瞬間である。高順を厚遇すれば董卓の権威は高まる。しかし処断すれば并州全土が叛旗を翻す。董卓はその選択を迫られていた。


(十万の兵を連れて来たのは賭けだ。董卓がこれを脅威と見るか、貢物と見るか。どちらに転んでも、俺の命運は今日決まる。だがそれだけじゃない)


高順は背後を振り返り、九万三千の献上兵の隊列を見やった。その中には、并州での戦いで降伏した白波賊や黒山賊の残党も多く含まれている。彼らは高順の水路と農地政策によって一度は農民となったが、そのすべてが心から高順に従っているわけではなかった。中には張燕への忠誠を密かに保ち続ける者、董卓の威光を頼んで新たな略奪の機会を窺う者、あるいは単に乱世の風に流されるままに生きる者もいる。


(こいつらは、并州に置いておけばいずれ火種になる。張燕が再び動けば、あるいは董卓が何か仕掛ければ、いつでも寝返る可能性がある。だが、長安に連れて来て董卓に献上すれば、話は別だ。董卓の直轄軍に組み込まれれば、彼らは董卓の規律の下に置かれる。統率が取れなければ董卓が処断する。統率が取れれば董卓の戦力になる。どちらに転んでも、俺の手を離れる)


これは、高順なりの「膿を出す」行為だった。并州という新生国家にとって、潜在的な反乱分子を中央に送り出すことは、一見すると兵力の削弱に見えて、実は内部の純化につながる。しかも、それを董卓への「貢物」という形で行うことで、董卓の猜疑心を和らげ、自らの忠誠心をアピールする効果もあった。


(一石二鳥だ。董卓は俺を「使える男」と見るだろう。そして俺は、并州に残った忠実な兵たちと共に、次の手を打つ。今はまだ、董卓の庇護が必要だ。だが、いつまでも庇護に頼るつもりはない。いずれ、俺自身の国を作る)


相国府の広間には、西涼から連れてきた武将たちが左右に居並び、中央には玉座に近い格式で董卓の席が設けられている。


董卓は青銅の酒杯を手に、不機嫌そうに眉をひそめていた。酒杯の中の酒は洛陽の宮殿から略奪してきた五十年物の美酒だったが、今の彼にはその味も分からぬほど神経が尖っている。彼の傍らには、痩せぎすの参謀・李儒が控え、涼州の猛者たち牛輔、李傕、郭汜、樊稠、張済らが左右に居並んでいる。


「十万の兵を連れて来たそうだな。高順め、どういうつもりだ」


董卓の声は低く、広間の空気を震わせた。その一言には、猜疑心と警戒心がありありと滲んでいる。彼は単なる暴君ではない。涼州の辺境から身を起こし、朝廷の中枢にまで上り詰めた男には、それ相応の政治感覚が備わっていた。高順が十万の兵を連れて来たことの意味を、彼は正確に理解している。これは力の誇示であり、同時に取引の材料でもある、と。


「相国様、おそらくは自らの身を守るための布石かと」


李儒が低い声で応じた。彼は董卓の最も信頼する参謀であり、この数年の間に朝廷を掌握するための策を幾度となく献じてきた。その目は常に冷たく、相手の心の奥底まで見透かすような鋭さを持っている。


「高順は十万の兵を相国様に差し出す代わりに、自らの安全を確保しようとしているのでしょう。既に并州の将兵の多くは高順に心服しております。下手に処断すれば并州全域が叛旗を翻す。ならば、厚遇して手懐けるのが得策かと。十万の兵はそのまま相国様の戦力になります」


董卓は酒杯を卓に置き、李儒の顔をじろりと見た。


「李儒、お前は高順を買いすぎではないか。奴はかつて奉先の副将だった男だぞ」


「だからこそ、でございます。奉先と高順を分断し、互いに競わせる。それが最も安全な統制の方法です」


李儒のこの進言は董卓軍の内部力学を熟知した巧妙な策だった。呂布は武勇において天下無双だが、統率力と民政においては高順に遠く及ばない。高順は并州を平定し、民を治め、経済を立て直した実績がある。この二人を競わせれば、互いに牽制し合い、董卓に反旗を翻す余裕など生まれない。


(それに、高順は賢い男だ。十万の兵を献上するという行為には、もう一つの意味がある)


李儒は心の中で呟いた。彼は高順の真意を見抜いていた。献上兵の中には、并州で降伏した賊徒の残党が多く含まれている。高順は自軍の「膿」を絞り出し、董卓への貢物として差し出したのだ。それは自軍の純化であり、同時に董卓への忠誠の証でもある。ここまで計算して動ける男は、董卓軍の中でも稀有だった。


「うむ。まあいい。高順が来たら、すぐにここへ連れて来い。直に話を聞く」


衛兵が高順の到着を告げると、広間の空気が一変した。西涼の猛者たちが好奇と警戒の入り混じった目で値踏みしている。かつて胡軫の側近だった将たちは、高順への恨みを隠そうともせず睨みつけていた。胡軫は陽人の戦いで高順に面目を潰され、失脚したのだ。その恨みは涼州閥の将たちに深く根付いている。


「鎮北将軍、開府儀同三司、河内太守、并州牧、高順。相国様のご召喚に応じ、只今参上つかまつりました」


高順は片膝をつき、深く頭を下げた。董卓は玉座からじろりと彼を睨みつけた。


「面を上げよ、高順」


「はっ」


「遅かったではないか。勅使を送ってから、どれだけ待たせたと思う」


「申し訳ございません。并州の平定を完遂するために、どうしても時間が必要でございました。張楊、張燕、白波の残党。すべてを片付けるまでは、長安へ参内するわけには参りませんでした」


「ほう。で、結果はどうだ。言葉だけでなく、証拠を見せよ」


「并州全土、完全に平定いたしました。これが降伏した頭目たちの名簿と、各郡の戸籍調査の報告でございます」


高順はあらかじめ用意していた竹簡を差し出した。それは並々ならぬ量の竹簡で、二人の衛兵がかりで運び込まれた。董卓はそれを一瞥し、李儒に手渡した。李儒は黙って竹簡を開き、その顔にわずかに驚きの色が浮かんだ。


「相国様、これは。并州全土の人口が八百万を超え、軍勢も二十万以上に達しております。高順の報告に誇張はないかと」


董卓の目が細められた。八百万という数字は、冀州や豫州といった中原の大州に匹敵する。つい一年前まで賊徒の巣窟だった并州が、これほどまでの復興を遂げたというのは、にわかには信じがたいことだった。


「よかろう。その功績、認めてやる。して、十万の兵を連れて来たそうだな。どういうつもりだ」


この問いは、董卓の真意を探るものだった。高順が十万の兵を率いて来たことの意味を、董卓はすでに理解している。しかし、それを高順自身の口から語らせることで、彼の忠誠心と本音を測ろうとしているのだ。これこそが董卓の政治手腕、恩と威を併せて施し臣下を制御する、権力者の常道であった。


「全て、相国様に献上いたします。もとより、相国様に差し出すために連れて参った兵でございます。長安の守りを固めるためにお使いください」


高順は平然と答えた。その声には一片の動揺もない。


(この十万の兵は、俺にとっては二重の意味で必要なものだった。一つは、董卓への恭順の証。もう一つは、并州の内部を純化するための排膿だ。これで董卓は俺を「有用な臣下」と見なし、俺は并州に残した忠実な兵だけで国を固められる。互いに利益がある取引だ)


董卓の顔に、初めて笑みが浮かんだ。それは獣が牙を剥くような笑みだったが、確かに笑みだった。董卓は高順の計算を見抜いていた。そして、その計算高さこそが、彼が高順を評価する理由でもあった。


「気に入った。高順、貴様は単なる武人ではないな。李儒、こやつに長安の内城近くに邸宅を与えよ。鎮北将軍府として、幕僚も置くがよい」


「はっ。相国様の寛大なる御配慮、痛み入ります」


「だが忘れるな、高順。俺は貴様を買っているが、それは貴様が有用だからだ。用済みになれば、どうなるか分かっているな」


「肝に銘じておきます」


恩を与え、同時に威を示す。董卓のその言葉こそが、彼の統治術の真髄だった。高順に邸宅と地位を与えることで恩を売り、同時に「用済みになれば処断する」と宣言することで威を示す。この二つを併せて初めて、臣下は完全に支配される。董卓はそれを本能的に理解していた。


部屋の隅で、王允がこのやり取りを見つめていた。司徒として朝廷の最高位にありながら、董卓の前では常に一歩引き、表情を読ませない老臣。その彼が、高順の一挙手一投足を注意深く観察している。董卓に媚びず、されど逆らわず、十万の兵を差し出す大胆さ。この男は只者ではない。王允の脳裏に、そう刻まれた。


長安の内城近くに与えられた邸宅は、元は洛陽から逃れてきた高官の屋敷だった。中庭を囲んで三つの棟が立ち並び、古い銀杏の木が一本、大きく枝を広げている。春の気配を感じさせる小さな芽が、その枝の先に膨らみ始めていた。


高順はすぐに行動を開始した。将軍府の一角に鍛冶工房を設立し、洛陽の武庫にも納めていた熟練鍛冶師・公孫鍛とその弟子たち十数名を集めた。高い塀で囲み、出入りできる者を厳重に制限する。中庭には水路を引いて小型の水排を設置し、安定した送風が可能な炉を築いた。


「皆、よく来てくれた。単刀直入に言う。私はここで、炒鋼法と百錬鋼の技術を極める」


公孫鍛が一歩進み出た。彼は三代続く鍛冶師の家系で、その腕前は洛陽でも一目置かれていた。


「将軍。炒鋼法は我々三代が研鑽を重ねてきた技。一朝一夕に極められるものでは」


「一朝一夕でやるとは言っていない。時間をかけて、徹底的に改良する。そのために、お前たちの腕が必要だ」


高順が鍛冶工房で行おうとしていることは、単なる技術革新ではない。職人の勘と口伝に頼っていた製鋼技術を、誰もが同じ品質の鋼を打てる「システム」へと昇華させること。それはまさに、法による統治の縮図だった。


「公孫鍛、炒鋼法では生鉄を炉の中でかき混ぜて鋼の粘りを整える。その火加減を、職人の勘だけに頼らず、炎の色で判断できる基準を作りたい。暗赤色ではまだ溶けず、橙赤色で撹拌を始め、黄色以上では火が通りすぎる。これを基準として、誰にでも分かるようにする」


「炎の色を基準……ですか。これまで師から弟子へ口伝で継いできた火加減を、誰もが同じように扱えるようにするということでございますか」


「そうだ。それから、検品の考え方を取り入れる。鍛え上がった鋼を一本一本調べ、出来映えに応じて等級をつける。脆いものは容赦なく弾き、安定した粘りと硬さを持つ鋼だけを陷陣営に配備する。打ち損じも無駄にはしない。兵器に使えぬものは農具や建築用の金具に回す。鉄は貴重だ。一粒たりとも粗末にできん」


公孫鍛は深く息を吐いた。


「将軍は武人であられながら、鍛冶の理にも通じておられる。我々三代の技が、将軍の前ではまだ未熟だったと思い知らされました」


「過分な言葉だ。俺はただ、効率が良い方法を知っているだけだ。実際に手を動かすのはお前たちだ。よろしく頼む」


こうして将軍府の一角には、高い塀で囲まれた鍛冶工房が設けられた。炉の火は今日も赤々と燃え、規則正しい槌音が響き始める。表向きは董卓に従順な将軍の邸宅。しかしその実、ここは未来への準備を静かに進める一つの城塞だった。


一方、長安の蔡邕邸では、一人の若い女性が憤慨していた。


「父上……聞き間違いではありませんよね? 寧ろ聞き間違いであって欲しいのですが…私が、董卓の将軍に嫁ぐですって」


蔡昭姫は蔡邕の娘であり、幼い頃から父のもとで学問を修め、詩や音楽にも通じた才媛である。彼女は父から董卓の意向を聞かされ、怒りに震えた。その手に握られた書簡が、微かに揺れている。


「昭姫よ、落ち着きなさい。これは朝廷の詔勅だ。逆らうことはできぬ」


「しかし父上。董卓の将軍など、いずれも洛陽を焼き、民を虐げた者ばかり。私の矜持が許しません」


「高順という男は、他の董卓の将軍とは違うと聞く。この前、政殿で会ってきた。あの男は武人ではない。それなりに学問も修めておるそうな。私がこれまで会った誰よりも深く物事を考える男だった」


「見ろとおっしゃいますが、嫁ぐ前に会うなどできませぬ」


「そこを何とか折れよ。お前の才覚ならば良き夫婦になれるであろう……今更未亡人のお前を娶ってくれる家などどこにもありはせんであろう…」


「……分かりました。この目で確かめましょう」


蔡昭姫は決意した。自ら高順の将軍府に忍び込み、どのような人物かを観察してやろうと。彼女は幼い頃から学問だけでなく、武芸や騎乗もそれなりに嗜んでいた。身分を隠して動くことなど、造作もない。


数日後、将軍府に一人の新しい侍女がやってきた。名を「昭」と名乗り、洛陽から避難してきた商家の娘だという。董昭の面接を受けた際も、洗練された言葉遣いや立ち居振る舞いを、洛陽の商家で行儀見習いをしていたせいだと説明した。


「大変な火事で両親を亡くし、一人長安に逃れて参りました。どうか、この将軍府で働かせてくださいませ」


「うむ。将軍は避難民を積極的に雇い入れよとおっしゃっている。よかろう」


こうして蔡昭姫は、高順の将軍府で侍女「小昭」として働きながら、密かに高順という男を観察し始めたのである。彼女の正体に気づいている者は、将軍府にはまだ誰もいなかった。中庭の銀杏が、春の風に枝を揺らしている。この将軍府で、彼女の運命は静かに動き始めようとしていた。


その夜、高順は将軍府の執務室で一人、今後の計画を練っていた。机の上には并州からの報告書が積まれ、壁には并州全土の地図が掛けられている。


(董卓は俺を信用していない。それは当然だ。俺も董卓を信用していない。だが、今は互いに利用し合う関係だ。董卓は俺の軍事力と統治能力を必要とし、俺は董卓の庇護を必要としている。この関係が続く限り、俺は安全だ)


高順は筆を執り、并州に残してきた張遼と郝萌に宛てて書簡をしたためた。内容は簡潔だった。并州の守りを固めよ。水路の拡充を続けよ。民の生活を第一に考えよ。そして、張燕の動きを警戒せよ。


(董卓がいつまでも続くはずがない。歴史を知る俺には分かっている。王允と呂布が動き、董卓は死ぬ。その時、俺はどう動くべきか。董卓の残党として追われるか、それとも独立した勢力として認められるか。それはすべて、これからの俺の動き次第だ)


高順は窓の外を見つめた。長安の夜空には星が瞬いている。一千八百年後も変わらぬ星々の下で、彼は静かに次の一手を考えていた。


(まずは董卓の信任を得ること。次に、長安での地盤を固めること。そして、并州との連絡を密に保つこと。この三つが揃えば、董卓が死んでも俺は生き延びられる。いや、むしろ董卓の死を契機に、さらに飛躍できるかもしれない)


その時、廊下から静かな足音が聞こえた。新しい侍女の小昭が、茶を運んできたのである。


「将軍、お茶をお持ちしました」


「ああ、ありがとう。そこに置いてくれ」


高順は何気なく彼女を見た。年の頃は二十歳前後。洗練された物腰と、どこか才気を感じさせる目。ただの避難民の娘にしては、あまりに教養が高すぎるように思えた。


「君は、洛陽の商家の出だと言ったな」


「はい。父は洛陽で小さな絹問屋を営んでおりました」


「そうか。洛陽は良い街だった。私も何度か訪れたことがある」


「将軍は洛陽に?」


「ああ。董相国に従ってな。今はもう、灰燼に帰してしまったが」


昭姫は黙って茶碗を置いた。彼女の心の中で、洛陽の記憶が甦る。董卓の兵によって焼き払われた都。逃げ惑う民たち。そして、すべてを失って長安に流れ着いた自分。その彼女が今、董卓の将軍の前で茶を運んでいる。その皮肉に、彼女は唇を噛んだ。


(この人が、本当に父の言うような人物なのか。それとも、他の董卓の将軍たちと同じ、野蛮な武人なのか。私は必ず、その真実を見極めてみせる)


「将軍、何か?」


「いや、何でもない。下がっていい」


昭姫は一礼して部屋を出た。廊下を歩きながら、彼女は心の中で静かに誓った。私は必ず、この男の正体を暴いてみせると。


高順は一人残された執務室で、再び筆を執った。彼にはまだ、やるべきことが山積みだった。明日からは、長安での地盤固めが本格的に始まる。象棋と麻将の発明、蔡邕との学問談義、そして董卓の娘・董媛との出会い。それらすべてが、高順の運命を大きく動かしていくことになる。


(さて、忙しくなるぞ。でも、それでいい。忙しい方が、余計なことを考えずに済む。俺は生き延びる。そのために、できることはすべてやる)


中庭の銀杏が、春の夜風に静かに揺れていた。将軍府の灯りは、夜遅くまで消えることはなかった。

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