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社畜が目覚めたら将軍!? 史実(未来予知)で成り上がり、乱世を生き抜く  作者: 八月河
第十五回 諸侯連合討遼東 高順孤軍戦黎陽
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第十五回 諸侯連合討遼東 高順孤軍戦黎陽 三段

高順の檄文が朝廷に届いた時、許昌の未央宮は静かな衝撃に包まれた。檄文を携えた使者が前殿で朗読を終えると、広間は水を打ったような静けさに包まれ、誰もが互いの顔を見合わせた。これほどまでに痛烈で、これほどまでに容赦のない批判の書を、漢帝国四百年の歴史の中で誰が読んだことがあるだろうか。曹操を「閹遺孽種」と罵り、劉備を「編席販屨之賤隸」と嘲り、孫堅を「錢塘剽悍之小吏」と断じ、馬騰を「辱沒祖宗之徒」と糾弾する。その一言一句が、まるで刃のように諸侯たちの心を抉る。


最初に口を開いたのは太常・楊彪だった。彼はゆっくりと立ち上がり、震える声で言った。


「見事……見事としか言いようがありませぬ。この檄文は単なる罵倒の書ではありませぬ。驃騎将軍は我々に問うておられるのです。『我、何の罪ありや』と。三州の民を救い、草原を平定し、洛陽を復興し、学堂を建て、法と秩序を広めた。その功績を、誰が否定できるというのか。この檄文は、驃騎将軍の半生を凝縮した魂の叫びでございます」


太師・蔡邕もまた、深く頷いた。彼は高順の義父であり、誰よりもその人となりを知る者である。


「この檄文には、驃騎将軍のすべてが込められております。自らの功績を誇るでもなく、かといって卑下するでもない。ただ事実を淡々と列挙し、『我、何の罪ありや』と問う。これは古今未曾有の名文です。陳琳が袁紹のために書いた檄文など、これに比べれば児戯に等しい」


献帝は玉座から身を乗り出し、二人に問うた。


「太常、太師。この檄文には難解な語句も多い。朕のために、一行ずつ説き明かしてはくれまいか」


楊彪と蔡邕は顔を見合わせ、深く頷いた。二人は檄文を広げ、一行ずつ丁寧に読み解きながら、献帝に説明を始めた。


「まず冒頭、『蓋聞明主図危以制変、忠臣慮難以立権』。これは聡明な君主は危機を予測して変に対処し、忠臣は困難を考慮して権宜の策を立てる、という意味です。驃騎将軍は自らを『忠臣』と位置づけ、今回の防衛戦もまた漢室のための『権宜の策』であると宣言しているのです」


「『曹操者、贅閹遺醜、本無懿徳』。これは丞相を痛烈に批判した箇所です。丞相の祖父・曹騰は宦官であり、父・曹嵩はその養子となりました。驃騎将軍はその出自を『贅閹遺醜』と断じたのです。さらに丞相が天子を奉戴しながら実権を独占し、朝廷の要職をことごとく自派で固めていることを『挟聖駕以自重、名為漢相、実乃漢賊』と糾弾しております」


「『劉備者、編席販屨之賤隸、市井亡命之小人』。左将軍を『筵を編み草鞋を売っていた賤しい隷属』と罵り、その中山靖王の末裔という自称を『史閣に潜み簡冊を翻し、前朝の余灰に藉りて偽族の虚名を捏ねた』と完全に否定しております」


「『孫堅者、錢塘剽悍之小吏』。孫将軍が若い頃、海賊を追い払った故事を『私行逮捕、越権逞欲』と断じ、法を無視した行為だと批判しております」


献帝は二人の説明を聞きながら、時折深く頷き、時折苦笑した。特に曹操の出自を「閹遺孽種」と罵った箇所では、思わず吹き出しそうになるのを必死に堪えた。かつて長安で震えていた少年は、今やこの痛烈な批判の書を前にして、為政者としての冷静な目を養いつつあった。


説明が終わると、献帝はしばらく黙り込んだ。やがて彼は静かに口を開いた。


「太常、太師。朕はふと思ったのだ。もし朕が驃騎将軍と敵対したならば、どのような罵りが待ち受けているのだろうか、とな」


楊彪と蔡邕は顔を見合わせ、二人同時に苦笑した。楊彪が答える。


「陛下、それは考えぬ方がよろしいかと。驃騎将軍は陛下に対しては一片の不敬も抱いておりませぬ。この檄文にしても、陛下に対する批判は一字もありませぬ。むしろ、『天子感吾之忠』と記し、陛下のご英断を讃えております」


蔡邕もまた、静かに言った。


「陛下、驃騎将軍はあなたを守るために戦っておられます。どうかそのことをお忘れにならぬように」


献帝はその言葉に深く頷いた。彼は玉座の肘掛けに手を置き、遠くを見つめるように目を細めた。


「朕は思うのだ。朕がこれまで無事に過ごせてきたのは、ひとえに驃騎将軍と丞相のおかげだと。そして今、朝廷が上手く運営できているのも、驃騎将軍が蒔いた法と秩序の種が芽吹き始めているからだと。しかし朕は、それに甘えてばかりではいられぬ。朕は天子として、自分の役目を果たさねばならぬのだ」


献帝は翌日、新たに学堂の卒業生から登用された若い官吏たちを自ら呼び集めた。彼らは身分や出身地を問わず、試験によって選ばれた者たちだった。名門の子弟もいれば、農民の子もいる。かつては決して交わることのなかった階層の者たちが、今は同じ官服を着て天子の前に平伏している。


献帝は彼らに声をかけた。


「そなたたちは、驃騎将軍の作った制度によってここにいる。朕はそなたたちの力を借りたい。漢室を立て直すために、朕に力を貸してほしい」


若い官吏たちは感動に打ち震え、深く頭を下げた。彼らはこれまで、天子と直に言葉を交わすことなど夢にも思っていなかったのである。献帝は一人ひとりの名を尋ね、出身を尋ね、どのような志で官吏を志したかを尋ねた。それは彼にとって、為政者としての自覚を深める貴重な経験となった。


黎陽では、ついに開戦の時が訪れた。


連合軍の先鋒を務めたのは、江東の猛虎・孫堅だった。彼は七万の軍勢を率いて黄河を渡り、黎陽城の正面に陣を敷いた。孫堅の軍は江東の精鋭であり、長江の水戦で鍛え上げられた戦士たちだった。彼らは船を降り、整然と隊列を組み、黎陽の城壁に向かって前進を開始した。その軍容はまさに精強そのものであり、城壁の上から見守る高順軍の将兵たちにも緊張が走った。


高順は城壁の上から孫堅の軍勢を見渡し、静かに言った。


「孫文台。江東の虎が、ついにその牙を剥いたか。魏越、開門せよ。私が直々に出る」


「将軍、危険です。ここは城壁に籠もって迎え撃つべきです」


「孫堅は誇り高い男だ。奴が自ら先陣を切ってきた以上、こちらも応えねばならぬ。それが武人の礼儀というものだ」


高順は重槍を手に驍風に跨がり、自ら城門を出た。彼の後ろには精鋭の重装騎兵三千が続く。城門の外には、孫堅が自ら槍を手に待ち構えていた。二人は陽人の戦い以来、実に十年ぶりの再会だった。あの時、董卓討伐の先鋒として戦った二人の将は、今や敵として向かい合っている。


「孫将軍、久しいな」


高順が驍風を止めて声をかけると、孫堅は獰猛な笑みを浮かべた。


「高順か。陽人では共に董卓を討った仲だ。あの時、お前はまだ若かったな。今や遼東郡王か。出世したものだ」


「将軍も変わらぬな。その勇猛さ、健在のようだ」


二人はしばらく無言で見つめ合った。彼らの間には、奇妙な友情とも呼べるものが確かに存在していた。陽人の戦いで共に戦った記憶、洛陽の廃墟で交わした言葉、そして互いの武勇を認め合う敬意。それは敵味方を超えた、乱世に生きる武人同士の絆だった。


「高順、お前はなぜここまでする。法と秩序で天下を変えるだと。そんなものが、この乱世で通用すると思うのか」


「通用するかどうかは、これからの戦いで決まる。私はただ、民が安心して暮らせる国を作りたいだけだ」


「甘いな。天下は力で取るものだ。法など、勝者の後付けに過ぎぬ。お前の理想は美しいが、現実はもっと醜い」


「醜い現実を変えるために、法が必要なのだ」


孫堅はそれ以上何も言わなかった。代わりに彼は手にした槍を掲げ、全軍に突撃を命じた。


「行くぞ、高順! お前の法とやらが、我が江東の槍にどこまで耐えられるか、見せてもらう!」


孫堅の槍が風を切り、高順の重槍がそれを受け止めた。二人の得物が激しく打ち合わされ、金属の悲鳴が戦場に響き渡った。一合、二合、三合。孫堅の槍は重く、速い。彼は江東の虎と呼ばれるだけのことはあり、その剛力は高順にも匹敵した。高順は孫堅の一撃を受け止めるたびに、腕に痺れが走るのを感じた。


しかし高順もまた、一歩も退かなかった。彼は重槍を自在に操り、孫堅の攻撃を受け流し、時に反撃に転じた。二人の戦いは壮絶を極め、周囲の将兵たちは息を呑んで見守った。かつて陽人で肩を並べて戦った二人の将が、今は命を賭して戦っている。その光景は、まさに乱世の縮図だった。


高順は孫堅の猛攻を受け流しながら、かつて陽人で肩を並べて戦った日々を思い出していた。あの時、二人は董卓の暴虐を止めるために共に戦った。同じ理想を抱き、同じ敵を討った。しかし今、二人は刃を交えている。乱世とは、そういうものだ。友情も信頼も、大義の前では脆くも崩れ去る。高順はそれを誰よりもよく知っていた。だからこそ、彼は法と秩序にこだわるのだ。人の心は移ろいやすい。しかし法は変わらない。法こそが、この乱世を終わらせる唯一の力なのだ。


高順は孫堅の攻撃を受け流し、驍風を駆って距離を取った。彼は孫堅とこれ以上戦うつもりはなかった。孫堅を討つことよりも、戦局全体を見据えて動くことの方が重要だったからである。


「魏越、全騎兵を率いて左翼に回れ。孫堅の側面を突き、本陣との連絡を断て。私はこのまま中央を突破する」


「御意!」


高順は孫堅との一騎打ちを巧みに離脱すると、自ら重装騎兵を率いて一路前進を開始した。彼の狙いは孫堅の本陣だった。孫堅が自ら先陣に出てきた以上、その本陣は手薄になっているはずである。高順は驍風を駆って敵陣の間隙を縫うように進み、孫堅軍の中央を突破した。


「高順め! 逃げるか!」


孫堅が馬首を返して追撃しようとしたが、その時すでに高順の重装騎兵が孫堅軍の左翼を分断していた。孫堅は仕方なく軍を立て直すために後退を余儀なくされた。


他の戦場でも、両軍は激戦を繰り広げていた。


城壁の正面では、張遼が率いる騎兵隊が曹操軍の夏侯惇と激突した。夏侯惇は曹操軍の中でも最も武勇に優れた将の一人であり、彼が率いる青州兵は精強を誇った。張遼は夏侯惇の戦術を冷静に分析し、正面から戦いながら側面から華雄の大刀隊を突入させ、夏侯惇の軍を混乱に陥れた。


張遼と夏侯惇の一騎打ちは、数十合に及んだ。両者の得物が激しく打ち合わされ、火花が散る。夏侯惇の大刀は重く、一撃ごとに張遼の槍を押し返した。しかし張遼はその剛力に正面から抗わず、巧みに受け流しては反撃の隙を窺った。両者譲らず、勝負はつかなかったが、その間に華雄の大刀隊が夏侯惇の側面を突破し、曹操軍の陣形は大きく乱れた。


張遼は夏侯惇に向かって短く言った。


「夏侯将軍、あなたは筋の通った男だ。私はあなたのような敵将を、心から尊敬する」


夏侯惇は無言で張遼に一礼し、軍をまとめて後退していった。


左翼では、田豫が劉備軍と対峙していた。劉備は関羽、張飛、趙雲、公孫続、陳到を率いて田豫の陣地に攻めかかった。劉備軍の兵力は八万と多いが、その多くは劉表から借り受けた荊州兵であり、結束力に欠けていた。田豫は若いながらも軍略に長け、この弱点を正確に見抜いた。彼は正面から戦わず、荊州兵を狙い撃ちにして包囲し、降伏を呼びかけた。


「荊州の兵たちよ! お前たちはなぜこの戦いで死なねばならぬのか! お前たちの故郷は遠い荊州だ。この河北の地で死んで、誰がお前たちの家族を養うのか! 武器を捨てよ! 投降すれば命は保証する!」


田豫の呼びかけに応じて、荊州兵の多くが武器を捨てて投降した。劉備は必死に軍を立て直そうとしたが、兵たちの士気は著しく低下し、もはや戦闘を続けることができなくなっていた。


「兄者、これはまずい。兵が逃げ出している!」


張飛が叫んだ。劉備は深く息を吐き、撤退を命じた。


「致し方あるまい。退くぞ」


しかし右翼では、状況はさらに深刻だった。馬騰と韓遂が率いる西涼の軍勢が、高順軍の左翼に猛攻をかけていたのである。西涼兵は騎馬民族の血を引く精強な戦士たちであり、その猛攻は苛烈を極めた。ここを守っていたのは、元黒山賊や白波賊の将たちだった。李楽、胡才、孫輕、王當、杜長、楊鳳、于毒、白繞、張雷公、李大目、於羝根、左髭丈八、青牛角、黃龍、左校、劉石、白雀、浮雲、大洪、苦蝤、五鹿、司隸、羅市、緣城いずれもかつて高順が討伐した黒山賊や白波賊の頭目たちであり、降伏後に并州軍に吸収され、高順の法と秩序のもとで鍛え上げられてきた将たちである。彼らは元は賊徒であったが、今では規律ある兵団を率いる指揮官として、高順から全幅の信頼を寄せられていた。


西涼の騎兵が怒涛の如く押し寄せる中、彼らはそれぞれの持ち場で奮戦した。しかし西涼兵の猛攻は苛烈を極め、将たちは次々と倒れていった。


李楽は西涼の騎兵に包囲され、自ら大刀を振るって数十騎を討ち取ったが、ついに力尽き、馬から落ちて無数の蹄に踏み砕かれた。彼の最期の言葉は、「将軍、先に逝く」だったという。


杜長は黄河の渡しで虎豹騎に包囲された時、高順に救われた命だった。彼は「将軍に借りを返す」と言い残し、西涼軍の密集地帯に単騎で突入した。彼の突撃は西涼軍の陣形を一瞬だけ乱し、その隙に味方の退却を成功させた。杜長は数十の傷を負いながらも、笑みを浮かべて絶命したという。彼は最後まで、高順に救われた命の意味を全うしたのである。


王當は自ら先頭に立って西涼の騎兵を食い止め、部下たちが退却する時間を稼いだ。彼は全身に無数の矢を受けながらも、最後まで立ち続け、ついに息絶えた。その姿は、まるで仁王立ちのようだったという。


楊鳳は西涼の騎兵に包囲され、自ら火を放って敵中に飛び込み、数十騎を道連れにした。彼の壮絶な最期は、味方だけでなく敵からも「見事な最期」と称えられた。


左髭丈八はその名の通り丈八の矛を振るって西涼兵を薙ぎ倒したが、馬騰自らの槍に胸を貫かれた。彼は倒れる間際、馬騰の馬の脚を矛で斬り裂き、馬騰を落馬させた。


殘る将たちも、皆それぞれの持ち場で最後まで戦い抜き、一人として敵に背を向けることなく戦死した。胡才、孫輕、于毒、白繞、張雷公、李大目、於羝根、青牛角、黃龍、左校、劉石、白雀、浮雲、大洪、苦蝤、五鹿、司隸、羅市、緣城いずれも名を残すことはなかったが、彼らの犠牲によって西涼軍の猛攻はかろうじて食い止められ、高順軍の左翼は壊滅を免れたのである。


二十名を超える将たちが、この一日の戦いで命を落とした。彼らは元は賊徒と呼ばれた者たちだったが、高順の法と秩序に従い、規律ある兵団へと生まれ変わり、最後は漢の将として戦場で散った。


日が落ち、両軍は一時休戦となった。黎陽の城壁の上で、高順は戦死した将たちの報告を受け取った。彼は一人ひとりの名を聞きながら、静かに目を閉じた。李楽、胡才、孫輕、王當、杜長、楊鳳、于毒、白繞、張雷公、李大目、於羝根、左髭丈八、青牛角、黃龍、左校、劉石、白雀、浮雲、大洪、苦蝤、五鹿、司隸、羅市、緣城いずれもかつて自らが討伐し、吸収し、鍛え上げてきた将たちだった。元は賊徒と呼ばれた者たちだが、高順の法と秩序に従い、規律ある兵団へと生まれ変わり、最後は漢の将として戦場で散った。


「全員、よく戦った。彼らの犠牲を無駄にはせぬ」


高順は静かに呟き、戦死者の名簿を胸にしまった。彼の目には、かすかに涙が光っていたが、それを誰にも見せることはなかった。城壁の外には、まだ四十万の連合軍が布陣している。戦いは、まだ始まったばかりだった。

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