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社畜が目覚めたら将軍!? 史実(未来予知)で成り上がり、乱世を生き抜く  作者: 八月河
第十五回 諸侯連合討遼東 高順孤軍戦黎陽
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第十五回 諸侯連合討遼東 高順孤軍戦黎陽 二段

曹操は高順が洛陽を脱出したことを知ると、ただちに軍議を開いた。彼の顔には、怒りと焦りが同居している。洛陽の仮庁に集まった幕僚たち荀彧、程昱、夏侯惇、曹仁、許褚を前に、曹操は低い声で言った。


「孝父は黄河を目指している。奴が北岸に渡る前に、必ず討ち取らねばならぬ。虎豹騎を全隊投入する。追いつけるのは騎兵だけだ」


荀彧が静かに問うた。


「丞相、高順殿はすでに洛陽を離れて半日以上が経っております。黄河の渡しまであとわずか。虎豹騎が追いつけるでしょうか」


「追いつかせるのだ。孝父は自ら殿を務める。あの男は決して兵を見捨てない。その性分が、今回は命取りになる」


曹操は曹純を呼び、虎豹騎五千に追撃を命じた。曹純は曹操の従弟であり、虎豹騎の指揮官として数々の戦場で功績を挙げてきた猛将である。


「曹純、孝父の首を取れ。ただし、決して侮るな。あの男は十万の兵を一人で相手にできる」


曹純は深く頷き、ただちに虎豹騎を率いて洛陽の城門を駆け抜けた。五千の精鋭騎兵が一糸乱れぬ隊列で官道を疾走する。蹄の轟きが大地を揺るがし、その速度は風のようだった。


高順の軍勢は黄河の渡しまであとわずかの地点まで来ていた。しかし十万の大軍の移動は遅く、特に歩兵と輜重隊の足取りは重い。高順は自ら殿を務め、最後尾で虎豹騎の追撃に備えていた。


「将軍、前方に黄河の渡しが見えました。渡河の準備を急ぎます。将軍もどうか先に渡られよ」


魏越が馬を寄せて進言した。高順は首を振った。


「殿を捨てて将が逃げるわけにはいかぬ。渡河の準備を急げ。私はここで虎豹騎を食い止める」


地平線の彼方から、砂塵が立ち昇るのが見えた。虎豹騎である。五千の騎兵が一直線に迫ってくる。その速度は凄まじく、みるみるうちに距離を縮めてきた。


「弩兵、構え! 騎兵が射程に入り次第、一斉射撃!」


高順の号令に、弩兵たちが一斉に弩を構えた。虎豹騎が射程に入った瞬間、無数の矢が放たれた。矢の雨が騎兵の先頭を襲い、十数騎が落馬する。しかし虎豹騎は速度を緩めず、倒れた戦友を乗り越えて突き進んできた。


二射、三射と弩兵の連続射撃が続くが、虎豹騎の勢いは止まらない。彼らは曹操軍最精鋭の騎兵であり、並の弩射ごときで怯む者たちではなかった。先頭を駆ける曹純が大刀を掲げて叫んだ。


「高順の首を取れ! 功名を立てるはこの一戦ぞ!」


虎豹騎が殿軍に突入した。騎兵の突撃は圧倒的であり、高順の歩兵部隊はたちまち分断された。殿を務めていた孫輕の部隊は虎豹騎の波状攻撃に遭い、多くの兵を失って潰走した。杜長の部隊もまた、渡河の準備中に側面から襲われ、恐慌に陥った。虎豹騎の騎兵たちは、まるで草原の狼のように散開し、逃げ惑う兵士たちを追い詰めては次々と討ち取っていく。


孫輕は自ら大刀を振るって敵騎兵に斬りかかったが、曹純の一撃を受けて馬から落ちた。肩口から血を噴き出しながら、孫輕は地面に倒れ伏した。側近が必死に彼を担ぎ上げ、かろうじて戦場から脱出したが、孫輕の部隊は壊滅状態に陥った。


杜長の部隊もまた、虎豹騎の包囲に遭って潰走した。杜長は兵をまとめようと必死に叫んだが、恐慌に陥った兵士たちは誰も彼の声に耳を貸さなかった。虎豹騎の騎兵が杜長の目前に迫った時、彼は観念して目を閉じた。しかし次の瞬間、一陣の風が彼の前を横切り、迫っていた騎兵が鞍から吹き飛んだ。


高順だった。


「杜長、兵をまとめて渡河せよ。ここは私が引き受ける」


高順は重槍を手に驍風に跨がり、迫り来る騎兵を次々と討ち倒していく。一振りで三人の騎兵が鞍から吹き飛び、返す刃でさらに二人が黄河の泥濘に倒れた。高順の重槍は唸りを上げ、虎豹騎の包囲を打ち破っていく。彼の動きはまさに鬼神の如くであり、虎豹騎の騎兵たちは高順の姿を見るだけで恐慌に陥った。


「あれが高順だ! あの男が驃騎将軍だ!」


「一騎で我々を相手にするつもりか! 狂ってる!」


高順は驍風を駆って敵陣の最も厚い場所に自ら突入し、周囲の敵兵を次々と薙ぎ倒しながら、その速度を一切緩めなかった。彼の狙いは曹純だった。敵将を討てば虎豹騎の指揮系統は崩壊する。


曹純もまた、高順の接近に気づいた。彼は大刀を構え、自ら高順に斬りかかった。曹純の大刀が唸りを上げて高順の肩口を襲う。しかし高順はその一撃を重槍で受け止めると、逆に曹純の大刀を弾き飛ばした。曹純は体勢を崩し、馬から落ちかけた。高順はその隙を逃さず、重槍を振り下ろした。


曹純は必死に身をかわし、かろうじて致命傷は避けたが、肩当てが砕け、深い傷を負った。側近が必死に曹純を守り、彼を戦場から引きずり出した。指揮官を失った虎豹騎は混乱に陥り、高順の猛追の前に次々と討ち取られていった。


高順はそれでも追撃の手を緩めなかった。彼は虎豹騎を黄河の渡しから遠ざけるために、自ら囮となって敵を引きつけた。彼の重槍が一振りされるたびに、虎豹騎の兵士が一人、また一人と倒れていく。気がつけば、高順の周囲には数十の虎豹騎の遺体が折り重なっていた。


黄河の渡しでは、高順が時間を稼いでいる間に、本隊の渡河が着々と進められていた。魏越と成廉が指揮を執り、兵士たちを次々と船に乗せていく。黄河の濁流は雪解け水を集めて激しく渦巻いていたが、幸いにも風は穏やかで、渡河は順調に進んだ。


「将軍はまだか! 早く将軍を!」


魏越が叫んだ。その時、地平線から一騎の騎影が現れた。驍風に跨がった高順である。彼の鎧は血に染まり、重槍には無数の刃こぼれがあった。しかし高順自身にはかすり傷一つなかった。


「将軍! ご無事で!」


魏越が駆け寄ると、高順は静かに頷いた。


「虎豹騎は退いた。曹純も深手を負った。これでしばらく追撃はあるまい。全軍、渡河を急げ」


黄河を渡り終えた高順は、黎陽城に入るとすぐに防衛戦の構築を命じた。城壁の補強、塹壕の掘削、弩兵の配置、補給線の確保すべてを自らの目で確認しながら、矢継ぎ早に指示を飛ばしていく。


黎陽城は黄河の北岸に位置する要衝であり、河北平原を見渡す要害の地だった。城壁は高く、堀も深い。しかし連合軍四十万を相手にするには、十万の兵力ではあまりに心許ない。高順は城壁の上に立ち、全軍の配置を確認しながら、賈詡に静かに言った。


「曹操は本気だ。虎豹騎を全隊投入してきた。これは私の首を何としても取るつもりだということだ」


賈詡は微かに笑った。


「将軍はそれでも生き延びた。虎豹騎を相手に、たった一人で殿を務め、敵将を討ち取り、無事に帰還なされた。これで兵たちの士気は大いに上がりましょう。将軍は不死身だと」


「不死身ではない。私はただ、死にたくないだけだ。その一心で、今日も生き延びた」


その時、捕虜の中から一人の男が引き出されてきた。虎豹騎の校尉、文稷である。彼は虎豹騎の中でも最も勇敢に戦い、高順に自ら斬りかかってきた男だった。文稷の槍は高順の肩当てをかすめ、あと数寸で命中するところだった。高順は彼を討ち取らず、わざと生け捕りにしたのである。


文稷は縄で縛られたまま、高順の前に引き据えられた。彼の顔には無数の擦り傷があり、甲冑は血と泥にまみれていたが、その目はまだ闘志を失っていなかった。高順はしばらく文稷の顔を見つめていたが、やがて自らその縄を解いた。


「文稷、お前は勇敢だ。虎豹騎の中で、ただ一人私に斬りかかってきた。その胆力は見上げたものだ。お前のような男を、みすみす死なせるには惜しい。どうだ、私の麾下で戦わぬか」


文稷は高順の言葉に驚きの表情を見せた。敵将でありながら、自分を討たず、配下に迎えようというのか。彼は曹操に仕える将であり、高順はその曹操が討つべき敵である。しかし、高順の目には一片の曇りもなかった。


「驃騎将軍、私は曹操様に仕える身です。あなたは曹操様の敵。その敵の配下に加われと言われても……」


「曹操はお前を見捨てた。虎豹騎を撤退させる時、曹純はお前を置き去りにした。お前は死ぬはずだった。しかし死ななかった。それを天命と言わずして何と言う」


文稷は唇を噛みしめた。確かに、曹純は負傷して撤退する際、捕虜となった文稷を救出しようとはしなかった。虎豹騎は常に「最強」を誇りとしてきたが、その最強の部隊が、たった一人の男に打ち破られたのだ。文稷はその現実を、捕虜となった今、骨身に沁みて感じていた。


「驃騎将軍、私はあなたの武勇に心服いたしました。どうか私をあなたの麾下に加えてください」


文稷は深く頭を下げた。高順は彼の肩に手を置き、静かに言った。


「よかろう。これからは我が軍の将として、その剛勇を振るえ。ただし、私の法と秩序に従ってもらう。略奪も暴行も許さぬ。それが我が軍の掟だ」


高順は文稷をそのまま伴い、黎陽城の防衛線の視察を続けた。この時、高順の脳裏には、文稷を後に虎豹騎への抑えとして使えるかもしれないという計算が働いていた。虎豹騎の内部事情を知る文稷の存在は、今後の戦いにおいて大きな武器となる。しかしそれ以上に、彼は文稷の勇敢さを純粋に評価していたのである。


翌朝、高順の本営には、張五が急行してきた。洛陽での情報収集を終え、高順に危機を知らせた後、彼はただちに徐栄と張遼のもとへ使者を送り、全軍を率いて黎陽に向かうよう伝えていたのである。


「将軍、徐栄将軍と張遼将軍が、幽州と并州から五十万の軍を動員し、昼夜兼行で黎陽へ向かっております。あと三日もすれば到着するかと」


張五の報告に、幕舎の中の空気が一変した。五十万の援軍が来る。その報せは、十万の将兵たちに希望の光をもたらした。


高順は静かに頷いた。


「よし。全軍に伝えよ。援軍は来る。それまで持ちこたえろ、とな」


三日後、徐栄と張遼が率いる五十万の大軍が黎陽に到着した。幽州からは徐栄が、并州からは張遼が、それぞれに精鋭を率いて駆けつけたのである。黎陽の城壁の外には無数の旗が立ち並び、兵士たちの活気が街中に満ちている。これにより黎陽の兵力は合計六十万となり、連合軍の四十万を数で上回ることになった。


徐栄は全軍の配置を手際よく整えた。彼は董卓の下で曹操を汴水で破った経験を持つ歴戦の古強者であり、大軍の運用に関しては並ぶ者がない。張遼は騎兵隊を率いて黄河の渡しを封鎖し、連合軍が渡河する際に側面から攻撃できる布陣を敷いた。華雄は自ら大刀を手に城壁の上に立ち、連合軍がいつ攻めてきても迎え撃てるよう備えを固めた。田豫は斥候を四方に放ち、連合軍の動きを逐一報告させている。


高順は全軍を前にして、静かに宣言した。彼の声は決して大きくはなかったが、黎陽の大地に集った六十万の将兵の隅々にまで届いた。


「三軍将兵、我が命を聞け。此度は我ら存亡の秋である。興亡これにあり。総員一層奮励努力せよ。首戦即ち決戦、一戦にて乾坤を定める」


六十万の将兵の咆哮が、黎陽の大地を揺るがした。高順はその声を聞きながら、自らの決意を新たにした。この戦いは、単なる領土争いではない。法と秩序を守るための戦いであり、新しい時代を切り開くための戦いなのだ。


その夜、高順は筆を執り、一篇の檄文を認めた。それは連合軍の諸侯たちに向けた、痛烈な批判と宣戦布告の書だった。


檄文はまず、董卓の乱以来の歴史を振り返り、曹操、劉備、孫堅らが結集しながら董卓を討てなかった事実を抉り出す。そして曹操を「閹遺孽種」と罵り、劉備を「編席販屨之賤隸」と嘲り、孫堅を「錢塘剽悍之小吏」と断じ、馬騰を「辱沒祖宗之徒」と糾弾する。袁紹については触れず、むしろ無視することで最大の侮辱とした。


そして自らの功績を列挙し、「吾何罪哉」と天下に問いかける。最後に「生当為人傑、死亦為鬼雄」と結び、連合軍に宣戦を布告した。それは単なる罵倒ではなく、高順という男の半生を凝縮した魂の叫びでもあった。


「吾本無心為賊、奈何天下以賊目之。吾本願解甲帰田、還政天子、奈何三州父老牽衣而泣曰、公去、則曹兵至、我等皆為魚肉矣」


高順は筆を置くと、完成した檄文を魏越に手渡した。


「これを連合軍の陣営に届けよ。諸侯たちがこれを読めば、少なくとも結束は揺らぐだろう」


その檄文が洛陽の曹操のもとに届いた時、曹操は苦笑した。


「流石である、孝父。ここまでこき下ろされては、立つ瀬もないではないか」


曹操は檄文を読み終えると、深く息を吐いた。彼は高順の文才と胆力に、改めて感服していたのである。しかし同時に、この檄文が天下に広まれば、連合軍の大義名分は根底から揺らぐ。高順は単なる武人ではない。言葉によってもまた、戦っているのだ。


曹操は荀彧に檄文を手渡しながら、静かに言った。


「文若、孝父は本気だ。あの檄文は、ただの挑発ではない。天下に向けて、自らの正義を宣言したのだ。これで我々が討つべき『逆賊』は、天下の民から『忠臣』に変わった」


荀彧は檄文を読みながら、深く頷いた。


「高順殿はいつもそうです。戦わずして勝つ。この檄文一本で、連合軍の結束は確実に揺らぎます。劉備殿は自らを漢室の宗族と誇っておられる。『編席販屨之賤隸』と罵られて、黙っておられるはずがありません。孫堅殿も『錢塘剽悍之小吏』と断じられて、怒りを抑えきれないでしょう。高順殿は諸侯の心の弱点を正確に突いておられる」


曹操は苦笑した。


「だからこそ、あの男は恐ろしい。武力だけではない。言葉でも、法でも、あの男は戦える。我々は四十万の兵で黎陽を攻めるが、孝父はたった一本の檄文で我々の足並みを乱した。どちらが上か、わかったものではないな」


翌日、連合軍は黎陽城への総攻撃を開始した。高順は城壁の上からその光景を見渡し、静かに言った。


「これより、天下の命運を決する戦いが始まる」

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