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社畜が目覚めたら将軍!? 史実(未来予知)で成り上がり、乱世を生き抜く  作者: 八月河
第十四回 高順帰朝斥急政 遼東郡王開新制
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第十四回 高順帰朝斥急政 遼東郡王開新制 五段

建安六年、冬。


遼東郡王に封じられた高順は、洛陽に留まっていた。許昌を発った後、すぐに薊県へ帰還するつもりだったが、洛陽復興の進捗を自ら確認する必要があったのである。洛陽には郝萌、魏続、宋憲、侯成、公孫鍛らが駐屯し、城壁の修復と宮殿の再建に当たっていた。かつて董卓に焼き払われた廃墟は、今では再び都としての体裁を整えつつある。まだ完全ではないが、街の随所に職人たちの槌音が響き、市場には人々の賑わいが戻り始めていた。高順は洛陽の城壁に立ち、復興の進捗を自らの目で確かめながら、賈詡に静かに語った。


「賈詡、私はこれから遼東の地で新しい国を作る。それは小さな国かもしれない。しかしその国で育てた法と秩序の種は、やがて天下に広がるだろう」


賈詡は静かに笑った。


「驃騎将軍は天下を取らず、法に天下を与えるおつもりか」


「天下を取るつもりはない。ただ、この乱世を終わらせるための仕組みを作りたいだけだ」


洛陽の冬は厳しい。城壁の上に立つ高順の肩に、粉雪が静かに積もっていく。眼下には復興途上の街並みが広がり、遠くには董卓に焼かれた宮殿の跡地が、雪に覆われて白く沈んでいた。かつてこの都が炎に包まれた夜、どれほどの命が失われたか。その記憶が、高順の胸に重くのしかかる。


「洛陽を再建することは、漢室を再建することだ。董卓が奪ったものを、我々の手で取り戻す。それだけで、天下は変わる」


「将軍は洛陽に、それほどの意味を見ておられるのですか」


「洛陽は高祖劉邦が都を置こうとした地だ。後に光武帝が天下を統一したのも、この洛陽だった。洛陽を復興させることは、漢室の復興そのものだ。曹操は許昌にいるが、いずれ天子はこの洛陽に戻られる。その時に、この都が廃墟のままでは困る」


賈詡は高順の言葉に、深く頷いた。彼は高順が洛陽に込めた思いを、誰よりもよく理解していた。洛陽は単なる戦略拠点ではない。漢帝国四百年の歴史を象徴する都であり、その再建は天下の人心を一つにする力を持っているのである。


洛陽の仮庁に戻った高順は、すぐさま執務室に賈詡、沮授、董昭、田豊を集めた。仮庁とはいえ、かつての官庁を修復した建物であり、柱には新しい木の香りが残っている。室内には火鉢が置かれ、炭火が静かに燃えていた。卓の上には遼東の地図が広げられ、その傍らには真っ白な絹の巻物が置かれている。


「諸君、これより遼東の国造りを始める。その基本となるのが、この建国策諭だ」


高順は筆を執り、自ら絹に向かった。彼がこれから記すのは、遼東という一郡を未来の理想国家の縮図として位置づける壮大な構想だった。


第一条は「権枢分立、王為天衡」と題された。これは三権分立の具体的な設計図である。中尉府に兵権、内史府に行政権、諫議大夫府に監察権を独立させ、郡王はその均衡を司る象徴として立つ。


「中尉には誰を据えるべきか」


賈詡が静かに問うた。高順は即座に答えた。


「張遼だ。文遠は騎兵指揮官として并州の草原から遼東の山岳まで、あらゆる戦場で功績を挙げてきた。漢軍きっての騎兵指揮官である彼ならば、遼東の兵権を預けるに足る」


「内史は誰に」


「沮授、お前に任せる。あなたは袁紹の幕僚として冀州の行政を支えてきた。その手腕を遼東で存分に発揮してほしい。遼東の戸籍、税制、屯田、教育——行政のすべてを統括してもらう」


沮授は深く頷き、その目には新たな使命に燃える光が宿っていた。彼は袁紹のもとではその献策の多くを退けられ、最後は官渡の敗戦と共にすべてを失った。高順に降ってからは、并州と冀州の行政を支える参謀として着実に実績を積み重ねてきたが、一つの郡の行政全体を任されるのはこれが初めてである。


「そして諫議大夫には田豊を」


田豊は意外そうな顔で高順を見つめた。彼は袁紹のもとで投獄され、高順に救われてからも、その剛直な性格ゆえに朝廷では孤立しがちだった。その田豊を監察の長に据えるということは、高順自身の政策もまた田豊の監視下に置かれることを意味する。


「田豊殿、あなたの剛直さは誰もが認めるところだ。しかしその剛直さゆえに、あなたは袁紹に投獄された。私はあなたに、誰の顔色も窺うことなく、ただ法にのみ忠実であれと命じる。私の政策に誤りがあれば、遠慮なく弾劾せよ」


田豊は深く頭を下げた。彼の目には、かすかに涙が光っていた。彼はこれまで、誰にも理解されない剛直さを持て余し、ついには牢獄に繋がれた。その彼に、高順は「誰の顔色も窺うな」と言ったのである。


第二条は「府兵於農、耕戦一体」と題された。


高順の筆は淀みなく動く。「遼東は苦寒の地であり、常備軍を養うには莫大な費用がかかる。そこで府兵制を採用する。編戸に授田し、三時は農耕に務め、一時は武芸を講じる。有事の際は農民がそのまま兵となり、平定後はまた農に帰る。これを『耕戦一体』と称する」


「将軍、遼東の人口は少なく、府兵を揃えるだけの戸数が足りるでしょうか」


董昭の問いに、高順は地図の一点を指さした。


「流民を受け入れよ。中原の戦乱から逃れてきた者、黄巾の残党、烏桓や鮮卑から投降した者——出自は問わない。遼東に来た者には田を与え、三年間は税を免除する。三年後には彼らもまた遼東の民となり、府兵となる」


「しかし、流民を受け入れれば、それだけ食糧も必要になります」


「それについては第三条の屯田制で賄う。郡府が直接耕作する屯田を小遼水の流域に開き、収穫の四分を官が収め、六分を民に与える。さらに塩と鉄の専売で得た利益を、農具や灌漑設備の整備に充てる。幸い、遼東には平郭の塩田と襄平の鉄山がある。これを王府の直轄事業とし、豪族に利権を渡さぬ」


沮授が感嘆の声を漏らした。


「屯田と塩鉄専売を組み合わせ、さらに流民を受け入れて府兵とする。これならば財政と軍事の両方を一挙に解決できます。しかし将軍、塩田と鉄山の開発には技術者が必要です。并州から呼び寄せますか」


「ああ。張伯をはじめとする并州の工匠たちに声をかけよ。彼らにはすでに遼東行きを打診してある。遼東の地は寒冷だが、それゆえに新しい技術が求められる。并州で培った製鉄と製塩の技術を、今度は遼東で広げるのだ」


第四条は「破旧立新、四民同道」と題された。高順はここで、士農工商の四民を平等とし、奴隷売買を禁止すること、そして賤民と呼ばれる者たちにも平等に土地と教育の機会を与えることを宣言した。


「将軍、これはあまりに急進的です。豪族たちの反発は必至かと」


沮授が慎重な意見を述べた。高順は筆を止め、静かに答えた。


「遼東の豪族は、中原の名門に比べれば微々たるものだ。彼らが反発しても、遼東の秩序が揺らぐことはない。むしろ、奴隷を解放し、賤民に土地を与えることで、新たな生産者を生み出せる。遼東は人口が少ない。人一人の働きが、そのまま国力に直結する。身分や出自にこだわっている余裕はないのだ」


田豊が初めて口を開いた。


「将軍、あなたは袁紹とは違う。袁紹は名門の誇りに縛られ、改革を恐れた。しかしあなたは、どこまでも合理だ。合理の果てに、この策諭があるのですな」


「合理でなければ、この乱世は生き残れない。私はただ、死にたくないだけだ。そして、私が死なずに済む世の中を作りたい。それには、身分や出自にこだわっている余裕はない。有能な者が有能な場所に立つ。それこそが、最も効率的な国づくりだ」


田豊は高順の言葉に、深く感銘を受けたように頷いた。


第五条は「開蒙啓智、十年樹人」と題された。ここで高順は、男女を問わぬ義務教育を宣言する。


「六歳以上の童子は、すべて学堂に入れる。読み書き算術を基本とし、法律、歴史、医学、農学、兵法を教える。学堂の卒業生は官吏登用試験を受ける資格を得る。出身や性別は問わない。優秀な者はさらに襄平の太学に進み、専門教育を受ける。卒業後は各曹の吏員として採用する。これが遼東の人材育成の基本となる」


「女子も学堂に入れるのですか」


沮授が驚きの声を上げた。高順は静かに頷いた。


「私の妻、蔡琰は并州の学堂で数百人の学生を教えてきた。女子であろうと、学問を志す者に教育の機会を与える。それが遼東の国是だ。学堂で学んだ女子たちが、いずれ教師となり、医者となり、あるいは法を学んで裁判官となる。その日が来ることを、私は信じている」


深夜に至るまで、高順は筆を執り続けた。火鉢の炭が静かに燃え尽き、賈詡が新しい炭を足す。沮授と田豊は高順の筆の動きを食い入るように見つめ、時折、条文の文言について意見を述べた。董昭は遼東の地図と戸籍簿を広げ、どの県にどれだけの学堂が必要か、具体的な数字を割り出していく。


策諭の起草は、単なる理想の羅列ではなかった。すべての条文が、遼東の現実と向き合い、実現可能な計画として練り上げられていったのである。


高順は策諭の結びに、こう記した。


「諸卿、吾等身処絶域、非此不能自強。面對虎狼、非此不能図存。此策非一年之功、乃十年之約。当以非常之志、行非常之事、以待天時之変」


筆を置いた高順は、深く息を吐いた。賈詡がそっと茶を差し出す。


「将軍、お疲れでございましょう。少しお休みになられては」


「いや、これでようやく、やるべきことが見えた。これからが本番だ」


高順は完成した策諭を、沮授と田豊に託した。


「これを遼東の各県に届けよ。遼東のすべての官吏が、この策諭を理解し、実行に移せるように。私が自ら読み上げるよりも、お前たちが各地で説明した方がよい。私は一人でこの国を作るわけではない。お前たちと共に作るのだ」


沮授は策諭を受け取り、深く頭を下げた。


「承知いたしました。この沮授、洛陽を発ち、遼東の地でこの策を必ずや形にしてみせます。襄平に着き次第、まずは内史府の組織を整え、戸籍の調査に着手いたします」


田豊もまた、策諭を手に取りながら静かに言った。


「驃騎将軍、私はこれまで、袁紹のもとで投獄され、自分の信念を曲げずに生きてきました。しかし今、あなたのもとで初めて、その信念が報われる気がしています。この策諭を遼東の隅々にまで届けましょう。冬の道は厳しいですが、それだけの価値がある文書です」


二人が洛陽を発った後、高順は窓の外を見た。雪はすでに止み、冬の陽が洛陽の街を柔らかく照らしている。復興の槌音が、遠くから微かに聞こえてきた。


それから数日後、洛陽の城門に一人の将が帰還した。張五である。


張五は長らく各地で募兵と訓練に当たっていた。高順の命を受け、中原の各地を巡り、若者たちを募っては鍛え上げる日々を送っていたのである。彼は洛陽周辺に出没する賊徒の討伐を実戦訓練として積み重ね、二万の精鋭を組織した。彼らは今や天子に献上するにふさわしい近衛兵となっていた。募兵の旅は一年以上に及び、張五はその間、洛陽に戻ることなく各地を転戦していたのである。


張五が率いる二万の兵は、洛陽の城門を整然とくぐった。その隊列は一糸乱れず、兵士たちの目には確かな自信が宿っている。彼らは募兵の旅の中で賊討伐を重ね、実戦経験を積み、規律を身につけ、何よりも自分たちが漢帝国の正規軍であるという誇りを持っていた。洛陽に駐屯する郝萌、魏続、宋憲、侯成、公孫鍛らも、張五の帰還を出迎え、その精強な兵たちに目を見張った。


高順は洛陽の仮庁で張五を迎えた。張五の顔は、一年前よりもずっと精悍になり、その目には指揮官としての自信が宿っている。


「張五、よくぞ戻った。そなたの兵は見事だ。各地での募兵と訓練、ご苦労であった」


張五は深く頭を下げた。


「将軍、私はあなたの命に従い、各地を巡って兵を募り、鍛え上げてまいりました。この二万の兵は、すべて天子に忠誠を誓う近衛兵にございます。賊討伐で実戦を積み、規律も十分に身につけております」


高順は張五の顔をじっと見つめた。かつて彼の側近として共に戦場を駆け抜けた若者は、今や二万の兵を率いる将として、見違えるほどに成長していた。その顔には、若い頃の無鉄砲さは消え、代わりに一人

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