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社畜が目覚めたら将軍!? 史実(未来予知)で成り上がり、乱世を生き抜く  作者: 八月河
第十四回 高順帰朝斥急政 遼東郡王開新制
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第十四回 高順帰朝斥急政 遼東郡王開新制 三段

第十四回 高順帰朝斥急政 遼東郡王開新制


第三節 献策


前殿に集まった諸大臣たちの視線が、高順に集中していた。丞相・曹操はすでに座り込み、天井を見上げて笑みを浮かべている。尚書令・荀彧は疲れ切った顔で高順の言葉を待ち、太常・楊彪は深いため息をつきながら背筋を伸ばした。将作大匠・孔融は柱に凭れたまま、うつらうつらと舟を漕いでいる。光禄勲・伏完は気まずそうに目を伏せ、車騎将軍・董承は複雑な表情で高順を見つめていた。長水校尉・種輯は包帯を巻いた右手を摩り、議郎・吳碩は腫れ上がった指をさすり、昭信将軍・吳子蘭は疲れ切った顔で苦笑している。太医令・吉本は深く嘆息し、安西将軍・段煨は「せっかくお役に立とうとしたのに」とぼやき、御史中丞・郗慮はまだ青白い顔で小さく手を挙げていた。尚弘、裴茂、王子服もそれぞれに頷き、あるいは力なく笑っている。全員が高順の言葉を待っていた。


高順は太師・蔡邕に目を向けた。蔡邕は静かに頷き、彼に発言を促した。


「陛下、ならびに諸卿。まずは学堂の設立を最優先に」


高順の声は静かだが、前殿の隅々まで響き渡る重みを持っていた。全員が背筋を伸ばし、彼の言葉に耳を傾ける。


「各地に少なくとも一校、可能ならば郡ごとに一校。教師は太師の人脈と、并州で育成した者たちを充てます。并州の学堂はすでに数百人の卒業生を輩出しており、彼らが各地の学堂で教鞭を執ることができます。ただし、それだけでは足りません。新たに教師を養成するための師範科を洛陽と晋陽の学堂に設置し、優秀な卒業生を教師として育成します」


太常・楊彪が手を挙げた。


「驃騎将軍、学堂で何を教えるのか、その基準はすでにおありですか」


「読み書き算術を基本とし、法律、歴史、医学、農学、兵法を加えます。儒学の経典も無論教えますが、それは教育の一部であり、すべてではありません。学堂の目的は、有能な官僚と教師と技術者を育成することにあります」


孔融がむくりと起き上がった。彼は疲れ切った顔でありながら、その目には学者としての意地が輝いている。


「驃騎将軍、儒学を軽んじるおつもりか」


「軽んじてはいない。しかし儒学だけでは国は治まらぬ。法を理解し、税を計算し、医学で民を救い、兵法で国を守る。そうした実学もまた、必要なのだ。私は儒学を補完するものを加えたいだけです。儒学を排するつもりは毛頭ない」


孔融はしばらく高順の顔を見つめていたが、やがて小さく頷いた。


「ならばよい。しかし儒学の経典だけは、必ず正規の教科として残してもらう」


「無論です。太師もまた、儒学部の総長として学堂の教育内容を監督されます」


蔡邕が静かに頷いた。彼はすでに并州の学堂で儒学を教えながら、法学や算術との共存を模索してきた経験を持っている。その蔡邕が保証することで、孔融もようやく納得したようだった。


高順はさらに言葉を続けた。


「次に官吏登用試験の制度を整え、学堂の卒業生を実務に就けます。現在の官吏登用は孝廉や茂才といった推薦制度に頼っていますが、これはどうしても縁故採用の弊を免れません。并州ではすでに官吏登用試験を実施しており、身分や出身地を問わず、読み書き算術ができ、法を理解し、民のために働く意志がある者ならば誰でも受けられます。答案は無記名とし、公正に採点する。この制度を天下に広げます」


尚書令・荀彧が顔を上げた。彼はこの二ヶ月間、三権分立の法案起草に追われながらも、官吏登用試験の草案にも目を通していたのである。


「驃騎将軍、試験制度はいつから実施されますか」


「洛陽と晋陽ではすでに準備が整っています。来年の春には最初の試験を実施できるでしょう。他の州郡については、まず学堂を設立し、教師を育成し、試験を受けられるだけの人材を育てることから始めます。それには少なくとも三年はかかる」


「三年……それならばなんとかなるかもしれませぬ」


荀彧の顔に、かすかな希望の色が浮かんだ。彼はすでに何十もの法案を起草しながら、その実行に必要な人材がいないことに絶望していたのである。しかし高順の説明を聞き、それが十年という長期的な計画の一部であることを理解した今、彼の心は少しだけ軽くなっていた。


高順はさらに言葉を続けた。


「それと並行して、試験的に一州で三権分立の試行を行います。具体的には并州です。并州はすでに学堂の卒業生が実務に就いており、官吏登用試験も実施されています。また董昭を中心に、司法と行政の分離も進んでいます。この并州で三権分立の試行を行い、その成果を検証した上で、徐々に他の州に広げていきます」


車騎将軍・董承が、疑わしげな表情で口を開いた。


「驃騎将軍、三権分立とはつまり、天子の権力を制限するものではないのか」


「違います。三権分立は天子の権威を守るためのものです」


董承の顔に、驚きの色が広がった。高順は続ける。


「天子がすべての責任を負う必要はありません。法を定める者、法を執行する者、法を監視する者。この三つの権力を分けることで、誰か一人が専横することを防ぎます。それは董卓のような暴君を二度と生まないための仕組みであり、同時に天子の権威を守るための仕組みでもあるのです。天子は象徴として国家の上に立ち、実際の政務は合議体が担う。そうすれば天子が誤った決断を下すこともなく、天子が責任を問われることもない」


董承はしばらく高順の顔を見つめていた。彼は漢室の外戚として、天子の権威を誰よりも重んじてきた。しかしその天子が董卓や李傕に弄ばれ、今も曹操の庇護下にある現実を、彼は誰よりも苦々しく思っていたのである。高順の言葉は、そんな董承の心の奥底に、かすかな光明を灯した。


「天子の権威を守る……ためだと」


「そうです。立憲君主制とは、天子を守るための仕組みなのです。天子は統治せず、しかし君臨する。実際の政務は合議体が担い、最終的な裁可は天子が下す。天子が誤った決断を下しそうになれば、合議体がそれを諫めることができる。これは天子を縛るものではなく、天子を守る盾なのです」


光禄勲・伏完が静かに口を開いた。


「驃騎将軍、その合議体とは、どのような者たちで構成されるのですか」


「各州の代表、朝廷の重臣、そして学堂で教育を受けた官僚たちです。まだ具体的な構成は決まっていませんが、まずは試験的に并州で評議会を設置し、そこに各郡の代表を集めて議論させることから始めます。それを数年かけて成熟させ、やがては天下の合議体とします」


伏完は深く頷いた。彼は光禄勲として宮中の宿衛を預かる身であり、政治の表舞台に立つことは少なかったが、高順の言葉に確かな理があることを理解していた。


「すべてが整うまで、立憲君主制の完全実施は待つべきです。この順序で進めれば、十年後には形になるでしょう」


「十年か」


献帝はその言葉を噛みしめるように呟いた。


「朕はそれまでに、しっかりとした天子にならねばならぬな」


「陛下はすでに、立派な天子であられます」


高順の静かな言葉に、献帝は少しだけ目を輝かせた。


太医令・吉本が進み出た。


「驃騎将軍、私からも一言よろしいでしょうか。この二ヶ月、私は倒れた官吏たちを治療しながら、学堂で教える医学の教科書を執筆しておりました。驃騎将軍のご提案に心から賛同いたします。しかし医学の教育には、実際の患者を診る実習が不可欠です。学堂に医学寮を併設し、貧しい民を無償で診療しながら、学生たちに実地の経験を積ませる仕組みを作ってはいただけませんか」


「良い提案だ。并州の学堂ではすでに医学寮を設置し、戦傷者の治療法を体系化している。それを天下に広げよう。太医令には、医学寮の総括を任せたい」


吉本は深く頭を下げた。彼はこれまで、倒れた者たちを治療するだけで手一杯だった。しかし今、高順の言葉によって、より大きな使命を与えられたのである。


安西将軍・段煨が、遠慮がちに口を開いた。


「驃騎将軍、私はあなたに命を救われた身です。学堂の資材調達に奔走しながら、ふと思ったのです。学堂を建てるだけではなく、学堂で学んだ者たちが、いずれは国のために働く。そのためには、学堂を卒業した者たちの就職先も用意せねばなりません。そうでなければ、せっかく学んでも活かす場がありません」


「良い指摘だ。官吏登用試験はそのためのものです。試験に合格した者は、まず郡県の吏員として実務を経験させ、その後に中央の官僚として登用する。さらに、試験に合格しなくとも、学堂で学んだ知識は農業や商業、医療の場で必ず役立つ。学堂は官吏を育成するだけの場ではない。民全体の知識水準を底上げするためのものでもある」


段煨はその言葉に深く頷いた。高順に救われ、彼の理想に触れる中で、自分もまた何かを変えたいと思うようになっていたのである。


長水校尉・種輯が、包帯を巻いた右手を掲げて発言を求めた。


「驃騎将軍、私は学堂で教える武芸の教科書を書いているうちに倒れてしまいました。しかし執筆しながら考えたのです。武芸もまた、体系化して教えるべきものだと。単に腕力に任せるのではなく、兵法と組み合わせ、規律と共に教える。そうすれば、学堂の卒業生は文と武の両方を兼ね備えた人材となります」


「その通りだ。并州の学堂ではすでに武芸と兵法を教えている。長水校尉には、その教科書の完成を改めて任せたい。ただし今回は、太医令の許可が出るまでは執筆を禁じる」


吉本がすかさず「最低でも十日間は安静が必要です」と口を挟み、種輯は苦笑しながら頷いた。


議郎・吳碩が、腫れ上がった指をかばいながら発言した。


「驃騎将軍、私は各州から上がってきた学堂設立の上奏文を整理する中で、多くの豪族が学堂設立に反対していることを知りました。彼らは学堂ができれば、自分たちの子弟が優位に立てなくなると恐れているのです。彼らをどう説得するおつもりですか」


「説得ではなく、実績で示す。并州ではすでに、学堂の卒業生が各地で成果を上げています。戸籍の整備、税収の増加、裁判の公正化。これらはすべて学堂で学んだ者たちの手によるものです。その実績を天下に示し、学堂が国にとって不可欠であることを証明する。豪族たちも、自分たちの子弟を学堂に入れれば、より高い地位に就けると理解すれば、反対は和らぐでしょう。さらに、試験の成績次第では豪族の子弟も寒門の子弟も平等に登用される。豪族にとって不利な制度ではないのです」


吳碩は高順の言葉を聞き、小さく頷いた。彼はこの二ヶ月間、反対意見にさらされながらも、学堂設立の必要性を信じて上奏文を整理し続けてきた。その信念が、ようやく報われる時が来たのである。


昭信将軍・吳子蘭が、疲れ切った顔で発言した。


「驃騎将軍、私は学堂建設のための労働力確保に奔走してまいりました。その過程で、多くの流民が仕事を求めて集まってきました。彼らに学堂建設の仕事を与え、賃金を支払うことで、彼らの生活も安定します。これは一石二鳥の策です」


「ならばそれをさらに推し進めよ。学堂建設は、単なる教育政策ではない。それは雇用政策でもあり、治安対策でもある。仕事を与えられた者は賊にならず、学びを得た者は国を支える。その連鎖を作り出すのだ」


吳子蘭は深く頷いた。彼はこれまで、ただ命じられるままに労働力を集めていた。しかし今、高順の言葉によって、自分の仕事がより大きな意味を持っていることを理解したのである。


御史中丞・郗慮が、まだ青白い顔で口を開いた。


「驃騎将軍、予算について一言よろしいでしょうか。私が計算したところ、これらの改革をすべて実行するには、莫大な財源が必要です。并州の塩と鉄の専売益だけでは、とても足りません」


「財源は三つある。第一に塩と鉄の専売益。これは并州だけでなく、冀州と幽州にも広げる。第二に胡市の交易税。草原の統一により、烏桓、鮮卑、匈奴との交易は今後拡大する。その交易を朝廷が管理し、適正な税を課す。第三に屯田制の拡大。遼東ではすでに董昭が屯田を開始している。これらの財源を合わせれば、十年計画ならば十分に賄える。御史中丞には、その財政計画の策定を任せたい。ただし今回は、太医令の許可が出るまでは計算を禁じる」


吉本がすかさず「最低でも五日間は計算禁止です」と言い、郗慮は力なく笑った。


尚弘、裴茂、王子服もそれぞれに発言し、学堂の教材編纂に関する具体的な提案を行った。尚弘は法律の教科書に実際の裁判例を盛り込むこと、裴茂は農業技術の教科書に図版を多用すること、王子服は歴史の教科書に漢室の正当性を明確に記すことを提案した。高順はそれらの提案を一つ一つ検討し、必要な修正を加えた上で承認していった。


高順はすべての議論を聞き終えると、献帝に向かって深く平伏した。


「陛下、臣が申し上げたいことは以上です。これらの改革は、一日や一ヶ月で成し遂げられるものではありませぬ。しかし十年の計をもって臨めば、必ずやこの国は変わります」


献帝は玉座から立ち上がった。彼は諸大臣たちの顔を見渡し、それから高順に目を向けた。


「朕はこれまで、何もできない天子だった。董卓に脅え、李傕に追われ、ただ生き延びることだけで精一杯だった。しかし今は違う。朕は太師から学び、丞相に守られ、そして驃騎将軍の理想に触れた。朕はこの改革を、天子として支持する。諸卿、これからは朕もまた、この国のために働く」


献帝の声は震えていたが、その目には確かな決意が宿っていた。蔡邕が深く頷き、曹操が小さく笑い、荀彧が目頭を押さえた。楊彪は深いため息をつきながらも、その顔には安堵の色が浮かんでいる。孔融は舟を漕ぎながらも、その口元には微笑みが浮かんでいた。


高順は献帝の言葉を聞き、深く頭を下げた。彼の心には、確かな手応えがあった。この国は変わる。十年かけて、ゆっくりと、しかし確実に。その第一歩が、今この場で踏み出されたのである。

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