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社畜が目覚めたら将軍!? 史実(未来予知)で成り上がり、乱世を生き抜く  作者: 八月河
第十四回 高順帰朝斥急政 遼東郡王開新制
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第十四回 高順帰朝斥急政 遼東郡王開新制 一段

建安六年、冬。


驃騎将軍・高順が許昌に到着したのは、年の瀬も迫ったある雪の日のことだった。北伐の戦後報告を携え、驍風に跨がって城門をくぐった彼を待っていたのは、疲れ果てた表情の諸大臣たちだった。


本来ならば朝廷は北伐の成功を祝う華やかな空気に包まれているはずだった。鮮卑、匈奴、烏桓の三部族を平定し、呂布を単于として草原の統一を成し遂げ、遼東の公孫度残党も掃討した。百万の軍勢は九万にまで減ったとはいえ、北方の脅威は今後数十年にわたって取り除かれた。これは漢帝国始まって以来の大勝利であり、衛青や霍去病の北伐に匹敵する、いやそれ以上の戦果だった。にもかかわらず、未央宮の前殿はまるで葬儀の後のように重苦しく沈み込んでいる。高順はその異様な空気に、思わず眉をひそめた。


「これは……どういうことだ」


高順が側近の賈詡に耳打ちすると、賈詡は苦笑しながら答えた。


「将軍が提案された立憲君主制、三権分立、義務教育の国策三本柱です。あれを一気に実行しようとして、朝廷が機能不全に陥っているのです」


「一気にだと? 私は十年かけて徐々に進めよと言ったはずだ。誰が一気にやれと言った」


「どうやら丞相が『高順が戻る前に形にせよ』と号令をかけられたようで」


高順はしばらく言葉を失った。確かに彼はそれらの改革を提案した。丞相・曹操もそれを受け入れた。しかし、それは数十年かけて徐々に進めるべきものであり、まさか一気に実行しようとするとは夢にも思っていなかったのである。彼は深いため息をつき、前殿へと歩を進めた。


未央宮の前殿に足を踏み入れた高順の目に最初に飛び込んできたのは、柱に凭れて舟を漕ぐ将作大匠・孔融の姿だった。


孔融は孔子の子孫として当代随一の名士であり、その博学と剛直さで朝廷に欠かせぬ存在だった。曹操に対しても臆することなく直言し、儒学の立場から高順の法家思想にも真っ向から反論してきた老儒である。その孔融が、今は書簡を手にしたまま微かな寝息を立てている。彼の前には学堂の設計図が広げられ、そこには各地に建設予定の学堂の配置図が細かく書き込まれていた。墨痕も新しく、つい昨夜まで作業を続けていたことを物語っている。


「将作大匠」


高順が声をかけると、孔融はびくりと肩を震わせて目を覚ました。


「う、うむ……ああ、驃騎将軍か。北伐のご成功、まことにおめでとうございます。いやはや、お恥ずかしいところを」


孔融は慌てて書簡を拾い集めながら、気まずそうに咳払いをした。その顔は以前よりも明らかに痩せこけ、豊かだった頬がこけている。高順は孔融の前に積み上げられた書簡の束を手に取った。そこには「洛陽学堂建設計画」「晋陽学堂拡充案」「各州郡学堂設置に関する奏上」といった表題が並んでいる。


「将作大匠、これらはすべてあなたが一人で」


「そうです。丞相から『高順が戻るまでに全国の学堂建設計画を策定せよ』と命じられましてな。私は学堂の設計など初めてのことで、并州から技術者を呼び寄せ、洛陽と晋陽の学堂を参考にしながら、なんとか形にしようと。しかし学堂と言っても、ただ教室を作ればよいというものではない。教師の宿舎、書庫、実習場、武芸の稽古場。それらをすべて備えた学堂を、各州に少なくとも一校。図面を描いては太師・蔡邕に意見を求め、修正してはまた描き直す。この一ヶ月、私はほとんど床に就いておりません」


孔融の声は疲労でかすれていたが、その目にはなおも情熱の火が消えずに残っていた。彼は本気でこの改革を成功させようとしていたのである。高順はその姿に、ある種の敬意を覚えた。


「しばらくお休みなさい。学堂の設計は、并州の技術者たちに任せればよい。あなたはあなたの得意分野で力を発揮してもらう」


「得意分野……とは」


「学堂の教育内容です。何を教えるか。それはあなたのような学者の知恵が必要だ。図面を引くことだけが仕事ではない」


孔融はしばらく高順の顔を見つめていたが、やがて小さく笑った。


「驃騎将軍にそう言われると、不思議と肩の力が抜けますな。わかりました。しばらく休ませてもらいます」


高順は孔融を柱に凭れさせると、さらに前殿の奥へと進んだ。


その先には太常・楊彪がいた。太常は九卿の一つであり、祭祀と教育を掌る重職である。学堂の設立は彼の管轄であり、そのために彼は各州との折衝に追われていた。高順が楊彪の前に立つと、楊彪はゆっくりと顔を上げた。その目は血走り、手にした竹簡がかすかに震えている。彼の周りには数人の属官が控えていたが、いずれも一様に疲れ切った表情を浮かべている。


「驃騎将軍か。北伐のご成功、まことにおめでとうございます」


楊彪の声はかすれ、その口調には生気がなかった。高順は楊彪の前に積み上げられた竹簡と木簡の山を見つめた。


「太常、これはいったい」


「各州から上がってきた学堂設立の嘆願書と、それに対する異議申し立てです。学堂を建てるとなれば土地が必要です。土地を提供する豪族は自分たちの子弟を優先的に入学させろと言い、土地を提供しない豪族はなぜ自分たちの土地を取らないのかと詰め寄る。弘農の楊氏からは『学堂で法学を教えるとは何事か。儒学を軽んじるものだ』との抗議が届き、汝南の袁氏からは『学堂を建てる費用はすべて朝廷が負担すべきだ』との要求が来ております」


楊彪は深いため息をついた。


「ひとつ返事を出せば、さらに三つの異議が届く。この一ヶ月、私はほとんど床に就いておりません。おかげで持病の腰痛が悪化し、立っているのもやっとの状態です」


「太常、あなたはやりすぎだ。このような嘆願書や異議申し立ては、すべてあなたが一人で対応する必要はない」


「しかし、学堂の設立は太常の管轄です。私が責任を持って」


「責任を持つことと、一人で抱え込むことは違う。属官を育て、仕事を分け与えよ。それができないのであれば、太常としての器が問われる」


楊彪は高順の言葉に、しばらく黙り込んだ。彼の顔には怒りと反省が入り混じった複雑な表情が浮かんでいる。


「驃騎将軍はいつもそうですな。我々が必死になればなるほど、涼しい顔で正論を言う」


「それが私の役目だからだ。太常、少し休め。あなたが倒れれば、誰がこの国を支える」


楊彪は小さく笑い、ゆっくりと立ち上がった。


「わかりました。今日は帰って休みます。妻が心配しておりましてな」


高順はさらに前殿の中央へと進んだ。そこには尚書令・荀彧が数十人の属官たちに囲まれて立ち働いていた。普段は冷静沈着で知られるこの名臣が、今は目の下に濃い隈を刻み、やつれた顔で矢継ぎ早に指示を飛ばしている。彼の前には三権分立に関する法案の草案が山と積まれ、属官たちが次々と新しい書簡を持ってくるたびに、荀彧はそれに目を通し、朱筆を入れては次の書簡に手を伸ばす。その様子はまるで、終わりの見えない戦いに一人で立ち向かう兵士のようだった。


「尚書令」


高順が声をかけると、荀彧はようやく彼の存在に気づき、わずかに頭を下げた。


「驃騎将軍、お戻りでしたか。北伐のご成功、心よりお祝い申し上げます」


荀彧の声はかすれ、その手にした筆が微かに震えている。高順は荀彧の前に積み上げられた書簡の束を手に取った。そこには「三権分立実施法案」「司法権独立に関する草案」「立法府設置のための予備調査報告」といった表題が並んでいる。


「尚書令、あなたのその顔色は尋常ではない。いつから休んでいない」


「休む……でございますか。私はこの二ヶ月、ほとんどここに詰めております。おかげで家にも帰れず、妻からは離縁状が届きそうな勢いで」


荀彧は苦笑しながら言ったが、その目は笑っていなかった。


「離縁状は冗談として、なぜそこまで」


「驃騎将軍がおっしゃった立憲君主制と三権分立の草案を、丞相が『一刻も早く形にせよ』と。私もその理念に共感し、なんとか形にしようと努力いたしました。しかし、いざ法案を書こうとすれば、誰が法を執行するのか、誰が法を監視するのか、誰が議会を構成するのか、すべてを一から決めねばなりません。しかも丞相は『高順が戻るまでに完璧な草案を用意しろ』とおっしゃる」


荀彧は深いため息をつき、手にした書簡を卓の上に置いた。


「私はこの二ヶ月、毎日この有様です。夜は法案を書き、昼は属官たちと議論し、夕刻には丞相に進捗を報告する。食事は一日一食、睡眠は一日二刻。おかげで体重は十斤減りました」


高順はしばらく荀彧の顔を見つめていた。彼はこの名臣がこれほどまでに消耗している姿を初めて見た。官渡の戦いで十倍の敵を前にしても、荀彧は決してこのような顔はしなかった。戦場の緊張とは異なる、官僚としての責務に追い詰められた疲労が、そこには刻まれていた。


「尚書令、私は今すぐやれとは言っていない」


荀彧の手が止まった。彼はゆっくりと顔を上げ、高順の目を見つめた。


「では、いつやれと」


「十年かけてやれと言った。丞相にもそう伝えたはずだ」


荀彧はしばらく高順の顔を茫然と見つめていたが、やがて手にしていた筆が床に落ちた。彼はその場にへたり込むと、天を仰いで小さく笑った。


「十年……十年でよかったのですか。私はてっきり、来年の春までにすべてを整えねばならないのだと。丞相が『高順が戻るまでに』とおっしゃるから、私はてっきり」


高順は床に落ちた筆を拾い上げ、荀彧に手渡した。


「丞相はどこにいる」


「奥の執務室です。ここ数日、ほとんど部屋から出ておられません」


高順が執務室へ向かおうとした時、廊下の影から一人の男が進み出た。車騎将軍・董承である。彼は献帝の外戚であり、かつて「衣帯の詔」による曹操暗殺計画の首謀者だった。計画は露見し、多くの同志が処刑されたが、董承だけは高順の取りなしによって法に基づく公開裁判で裁かれ、終身禁錮を言い渡されていた。後に恩赦によって朝廷への復帰を許されたが、彼の権勢は以前とは比べ物にならないほど縮小されている。しかしその目には、依然として曹操への敵意と、高順への複雑な感情が渦巻いていた。


「董承殿、久しいな」


高順が短く声をかけると、董承は微かに口元を歪めた。


「驃騎将軍、お戻りでしたか。北伐のご成功、まことにおめでとうございます」


その声には、祝意と同時に、かすかな皮肉が込められていた。董承にとって高順は、命の恩人であると同時に、自分の計画を粉砕した男でもある。高順が曹操を抑えなければ、董承は処刑されていた。しかし高順が曹操を抑えなければ、計画は成功していたかもしれない。その矛盾が、董承の心の中で常に渦巻いていた。


「して、今回の混乱について董承殿はどう見る」


董承は小さく鼻を鳴らした。


「私は反対しました。立憲君主制も三権分立も、漢室四百年の伝統を覆すものだと。しかし丞相は聞く耳を持たず、結果がこの有様です。まあ、私にとっては好都合ですがな。丞相が自ら墓穴を掘ってくれたのですから」


「董承殿、あなたは何も学んでいないようだ。過去の過ちを繰り返すつもりか」


高順の声が一段低くなった。董承はその声に、かつて公開裁判で自分を追い詰めた時の冷徹さを思い出したのか、わずかに後ずさった。


「私はただ、漢室を守りたいだけです」


「漢室を守る方法を間違えるな。私が前にも言ったはずだ。法と秩序こそが漢室を守る唯一の道だと」


董承はそれ以上何も言わず、深く一礼してその場を去った。


その先には、光禄勲・伏完が待っていた。伏完は伏皇后の父であり、董承と並ぶ外戚の重鎮である。彼は董承とは異なり、曹操に対して表立って敵対することはなかったが、内心では曹操の専横に強い不快感を抱いていた。彼は高順の姿を見ると、静かに頭を下げた。


「驃騎将軍、お帰りなさいませ。北伐のご成功、心よりお慶び申し上げます」


「伏完殿も、この混乱に巻き込まれた口か」


伏完は苦笑した。


「私は光禄勲として、宮中の宿衛を預かる身です。本来ならば政策論争とは無縁のはずでした。しかし丞相が『光禄勲も学堂の警備計画を策定せよ』とおっしゃいまして。おかげで私も連日の徹夜です。これが学堂の警備計画書です。ご覧になりますか」


高順は差し出された書簡を受け取った。そこには学堂の警備体制、生徒の安全確保、教師の護衛などが詳細に記されている。さすがは光禄勲、警備計画に関しては実に手際が良い。しかしその完璧さが、かえって彼の疲労の深さを物語っていた。


「伏完殿、あなたはよくやっている。この計画書は後日、学堂設立の際に必ず役立つだろう」


「ありがたきお言葉。しかし驃騎将軍、私はあなたに礼を言わねばなりません」


「礼だと」


「以前、董承が処刑されそうになった時、あなたが法に基づいて彼を裁いた。あの時、私はあなたの真意を測りかねていました。しかし今はわかります。あなたは権力争いを望んでいない。ただ法と秩序を作ろうとしているだけだと。あなたがいなければ、私もまた董承と同じ道を歩んでいたかもしれない」


伏完は深く頭を下げた。高順はその姿を静かに見つめ、小さく頷いた。


「過去は問わない。これからが大事だ。あなたも、この改革に協力してほしい」


「微力ながら、お手伝いいたします」


高順が執務室の扉を開けると、そこには卓に向かって書簡と格闘する丞相・曹操の姿があった。曹操は高順が入ってきたことにすら気づかず、朱筆を走らせ続けている。その顔は疲労で青白く、かつて官渡の戦いで十万の敵を前にしても決して崩さなかった覇気は影を潜めていた。彼の周りには、読みかけの書簡が散乱し、墨が乾いた筆が何本も転がっている。


「丞相」


高順の声に、曹操はようやく顔を上げた。その目は血走り、手にした朱筆が微かに震えている。


「高順か。ようやく戻ったな」


曹操の声には、普段の豪放磊落な響きはなかった。代わりに、深い疲労と、かすかな安堵が入り混じっていた。


「北伐の戦後報告は後で聞く。それより、お前が提案した立憲君主制と三権分立の草案だが、あれをどうやって各州に周知させるかで頭を悩ませている。尚書令がよくやってくれているが、いかんせん人材が足りぬ。それと、義務教育の件だが、学堂を建てる土地の選定が難航していて、太常が音を上げている。将作大匠は学堂の設計図を描きながら寝ている始末だ。まったく、誰かがやらねばならぬことを、なぜ私が一人で」


「丞相。私は今すぐやれとは言っていない」


曹操の手が止まった。彼はゆっくりと顔を上げ、高順の目を見つめた。その目には、苛立ちと困惑と、かすかな安堵が入り混じっていた。


「どういう意味だ」


「私はこの改革を十年かけて行えと言った。それをなぜ、たった数ヶ月でやろうとしている」


曹操はしばらく高順の顔をじっと見つめていたが、やがて深いため息をついた。


「私にもよくわからなくなってきた。お前が北で戦っている間、私はお前の理想を形にしようと必死だった。しかし気がつけば、すべてが手に余る規模になっていた。そして一度走り出した以上、止めることもできなかった。お前がここにいないから、お前に聞くこともできず、私はただひたすらに前に進むしかなかったのだ」


曹操の執務室の壁には、北伐中の高順の動きを示す地図が貼られたままだった。曹操はこの地図を見ながら、遠く草原で戦う高順を想い、少しでも自分も前に進まねばと自らを鼓舞し続けていたのである。しかし結果として、それは無謀な暴走に変わってしまった。高順はそんな曹操の姿を思い浮かべながら、静かに彼の肩に手を置いた。曹操の肩は想像以上に細く、骨ばっていた。


「丞相、あなたがここまで必死になってくれたことは、心から感謝している。しかし、国づくりは戦ではない。十倍の敵を一晩で打ち破るような真似はできぬ。ゆっくりと、着実に、一歩ずつ進めるしかないのだ」


曹操はしばらく高順の顔を見つめていたが、やがて小さく笑った。


「お前はいつもそうだな。私が必死になればなるほど、お前は涼しい顔で『急ぎすぎだ』と言う」


「それが私の役目だからだ」


高順はそれだけ言うと、曹操の前に置かれた書簡の束を手に取った。そこには三権分立の草案、義務教育の実施計画、立憲君主制の骨子がびっしりと書き込まれている。どれもこれも、曹操が寝る間も惜しんで書き上げたものだった。朱筆の跡が幾重にも重なり、修正に次ぐ修正を経て、ようやくここまで形になったことが窺える。高順はそれを静かに卓の上に置き、曹操の目を見つめた。


「あなたは急ぎすぎた。だが、その急ぎがなければ、これらの草案も生まれなかった。それは認める。尚書令も、太常も、将作大匠も、光禄勲も、車騎将軍も、みなあなたの号令に従ってよく働いた。これだけの草案を短期間で用意できたのは、あなたの指導力の証だ」


曹操は意外そうな顔で高順を見つめた。


「お前が私を褒めるとは珍しい」


「事実を言ったまでだ。しかし、これからは私のやり方で進めさせてもらう。まずは教育からだ。学堂を建て、教師を育て、読み書き算術から法律、歴史、医学までを体系的に教える。その卒業生が官僚となり、議員となり、教師となる。それには十年かかる。あなたはその間、じっと耐えられるか」


曹操はしばらく沈黙していたが、やがて静かに笑った。


「官渡で十倍の敵に耐えた男だ。十年くらい、なんということもない」


「では、明朝の御前会議で陛下にご説明申し上げる。あなたも同席してほしい」


「承知した」

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