後日談3:再建の設計図
アルヴェリア王国、王都。
静かだった。
かつての喧騒は消え。
怒号も、理想も。
ただ。
「……数字が、出ました」
現実だけが、積み上がっていた。
「財政は?」
レオンハルトが問う。
「歳入、三割減」
淡々と報告される。
「歳出は」
「削減しましたが、それでも赤字です」
「……」
「交易は」
「グランド商会を始めとする大商会の撤退により、流通網が寸断されています」
「地方は?」
「自律的に動き始めていますが、統制は取れていません」
沈黙。
それが、現実だった。
「……これが」
「我々の、今か」
誰も否定しない。
その時。
「失礼いたします」
扉が開く。
入ってきたのは――
エリシア。
ガイウス。
そして、各国の代表。
「……来たか」
「ええ」
エリシアは、静かに頷く。
「では」
一拍。
「始めましょう」
◇◆◇◆◇◆
「まず」
ガイウスが口を開く。
「前提を確認します」
「アルヴェリアは」
「“自立を維持する”」
「……」
全員が頷く。
「ただし」
「現状では単独運営は不可能」
「よって」
「三国連盟の支援下で再建する」
「……」
反論は出ない。
「では」
「具体に入ります」
■①財政再建
「赤字の原因は三つ」
「税収の減少」
「支出構造の硬直」
「流通の停滞」
「対策は単純です」
「削る」
「戻す」
「繋ぐ」
「……雑だな」
誰かが呟く。
「分かりやすくしています」
ガイウスは平然と返す。
「まず削る」
「不要な支出の停止」
「理想政策の一部凍結」
空気が、わずかに揺れる。
「……」
「痛みは必要です」
誰も、反論できない。
「次に戻す」
「徴税システムの再構築」
「人員の再配置」
「そして」
「最後に繋ぐ」
「交易網の復旧」
「これは、ヴァルディアと連携します」
商業国の強み。
「……」
「異論は」
「……ない」
■②行政再編
次に口を開いたのは、エリシアだった。
「問題は“人”です」
「……」
「制度はあっても運用する人材がいない」
「……」
「よって段階的再配置を行います」
「旧体制人材の復帰」
「新体制人材の再教育」
「混成運用です」
「……対立は?」
「起きます」
即答だった。
「ですが、調整します」
その一言に。
誰もが理解した。
(この人がやるなら、成立する)
■③軍事の再定義
レオン(元騎士団長)が前に出る。
「軍は守るためのものだ」
「……」
「攻めるためではない」
その言葉は。
今のアルヴェリアに、最も必要なものだった。
「再編する」
「規模を縮小」
「指揮系統を一本化」
「そして」
「防衛特化へ」
「……」
誰も、否定しない。
■④統治構造
最後に。
「最も重要です」
エリシアが言う。
「責任の所在」
「……」
「これまで、理想が先行し、誰も責任を取らなかった」
「……」
「それを変えます」
一拍。
「決定権と責任を一致させる」
「……」
「王は最終責任者です」
視線が、レオンハルトに向く。
「……ああ」
今度は、迷わない。
「引き受ける」
その言葉に。
空気が、変わった。
◇◆◇◆◇◆
「……重いな」
誰かが呟く。
「ええ」
「だが」
「現実です」
それ以上でも、それ以下でもない。
◇◆◇◆◇◆
数日後。
「税の計算が、合う……」
「物資が届いた!」
「命令が、通る……」
小さな改善。
だが。
確実な前進。
「……ようやく分かった」
夜。
「国は、思い通りにはならない」
「……」
「だが、だからこそ作る意味がある」
それは。
理想ではなく。
“現実を見た上での意志”だった。
◇◆◇◆◇◆
「順調ですわね」
クラリスが微笑む。
「ええ」
エリシアも頷く。
「時間はかかりますが、崩れません」
「……」
「“自分で立つ”方向に進んでいます」
それが、何より重要だった。
◇◆◇◆◇◆
国は。
一度壊れた方が。
正しく組み直せることがある。
痛みを知り。
失敗を知り。
それでもなお。
立ち上がるなら。
その国は――
以前より、強い。




