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後日談2:橋をかける少女(だいたい毎日トラブル)

 ルミナス王国・外務補佐室。


「……」

 ユイは、机に突っ伏していた。

「むり……」

 小さく、呟く。


「無理じゃありません」

 即座に返ってきた声に、びくっと顔を上げる。


「リディアさん……」

「本日の“むり”は三回目です」

「まだ午前なのに!?」


「ええ」

 容赦がない。

「本日の予定を確認します」

 淡々と書類をめくる。


「午前:アルヴェリアからの穀物流通再編案の確認」

「昼:ヴァルディアとの関税調整協議」

「午後:セレーネとの水運ルール整備会議」

「多い!!」

「通常業務です」

「橋渡しって、こんなにガチなの!?」

「“橋”ですので」

 リディアは、淡々と言う。


「落ちると困ります」

「確かに!!」

 納得した。


 その時。

「ユイー!」

 元気な声とともに、扉が開く。

「マリアさん……」


「大変よ」

「えっもう!?」

「アルヴェリア側の代表が“それは聞いてない”って言ってる」

「昨日説明したよね!?」

「したわね」

「なんで!?」

「理解してなかったみたい」

「あるある!!」

 思わず叫ぶ。


「行きましょう」

 ユイは立ち上がる。

「……行きます」

 半分やけくそだった。


■会議室


「だから!」

 アルヴェリア側の代表が声を上げる。

「その条件では、我々の負担が大きすぎる!」

「いえ」

 ルミナス側が冷静に返す。

「現行の輸送効率を考慮すれば、妥当です」

「妥当なわけが――」

「ちょっと待って!」

 ユイが、間に入った。


「……ユイ様」

「説明、もう一回いい?」

「……」

「分かるように話すから」

 にこっと笑う。


「まずね」

「今までって」

 紙に図を描く。

「ここからここに運ぶのに、遠回りしてたの」

「……」

「で、今回の案だと」

「こっち通るから、短くなる」

「……それは分かっている」

「うん」

「でも」

「“誰が得して誰が損するか”で揉めてるんだよね?」

「……」

 図に、印をつける。

「ここ」

「ここが一番得する」

「……ヴァルディアか」

「そう」

「で、アルヴェリアはここ」

「……」

「ちょっと損」

「やはり――」

「でも」

 ユイが、遮る。


「その分」

「ここで補填される」

 別の線を引く。

「……これは」

「関税調整」


「ルミナスが間に入って、バランス取る」

「……」

「だから」

「全体で見れば、損してない」


 沈黙。

「……」

「……分かりやすい」

 ぽつりと呟かれる。


「でしょ?」

「……」

「……最初からそう言ってくれ」

「言ってたよ!?」

「難しかった!」

「ごめん!!」

 即謝る。


 そのやり取りに。

 場の空気が、少し緩んだ。


「……では」

 ルミナス側が言う。

「この条件で」

「……承認する」

 アルヴェリア側も、頷いた。


「よし!」

 ユイが、小さくガッツポーズ。


■会議後


「……お見事です」

 ルークが声をかける。

「えへへ……」

「でも、めっちゃ疲れた……」

 その場に座り込む。

「専門用語多すぎる……」

「覚えていけばよろしいかと」

「うん……がんばる……」


 その様子を、少し離れた場所で。

「……成長してますわね」

 クラリスが微笑む。

「ええ」

 エリシアも頷く。


「“繋ぐ力”がある」

「理屈ではなく、理解させる力」

「ええ」

「……あの子にしかできませんわね」

 その評価は。

 静かで、確かなものだった。 


■その日の夜

「今日ね!」

 ユイが、女性陣に話していた。

「ちゃんと通ったの!」

「おめでとうございます」

「すごいじゃない」

「やりましたわね」

 褒められて、照れる。


「でもね、3回くらい“むり”って言った」

「少ないですわね」

 フィオナが真顔で言う。

「えっ」

「最初は10回は言いますもの」

「基準がおかしい!!」

 笑いが起きる。


 その光景は。

 戦いのあった日々とは、まるで違う。


 穏やかで。

 少し騒がしくて。


 でも。

 確かに前に進んでいる。

 そんな日常だった。


■締め

 橋をかけるのは、難しい。


 揺れるし。

 壊れそうになるし。

 何度も、“むり”って思う。


 それでも。

 誰かが渡ってくれるなら。


 その橋は――


 きっと、意味がある。

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