後日談1:進まない二人と、進ませたい人々
ルミナス王国、王城の庭園。
「で?」
フィオナ王太子妃が、優雅に紅茶を置いた。
「いつまで“あの距離”なんですの?」
その問いに。
「本当にそれ」
ユイが、即座に頷く。
「もう見ててじれったい!」
「……分かりますわ」
クラリス(前王妃)も、ため息混じりに微笑む。
「ここまで分かりやすいのに、進まないというのも珍しいですわね」
「珍しい、で済ませていいんですか?」
リディアが冷静に突っ込む。
「国家運営レベルで有能なのに、恋愛だけ致命的に遅いってどういうことですの」
「バランスが悪いのよ」
マリアがさらりと言う。
「むしろ均等だったら怖いわ」
「確かに」
セシルが頷く。
女性陣、全員一致。
「でもさ」
ユイが身を乗り出す。
「絶対好きだよね、あれ」
「「「「ええ」」」」
満場一致だった。
「問題は」
フィオナが優雅に指を組む。
「どちらも“踏み込まない”ことですわね」
「……」
「エリシアは、相手の立場を考えて距離を取る」
「ルークは、職務を優先して線を越えない」
「結果」
「永遠に進まない」
「詰みじゃないですか」
ユイが素直に言った。
「ですから」
フィオナが、にっこり笑う。
「“外圧”が必要ですわ」
その笑顔に。
全員が同時に理解した。
(あ、これロクなことにならない)
一方、その頃。
「……寒気がする」
ルークが、ぽつりと呟いた。
「奇遇だな」
カイル王太子も頷く。
「理由は分かっている」
「ええ」
「女性陣だ」
断言だった。
「……何をされるんでしょうか」
「分からん」
「だが」
一拍。
「ろくでもないことだ」
完全に一致した認識。
そして。
「ルーク様」
侍女が現れる。
「エリシア様がお呼びです」
「……」
ルークとカイルが、同時に顔を上げる。
「……そうか」
ルークが、静かに立ち上がる。
「……行ってきます」
「……健闘を祈る」
まるで戦場送りだった。
庭園の奥。
「お待たせいたしました」
ルークが頭を下げる。
「いえ」
エリシアは、穏やかに微笑む。
「こちらこそ、お呼び立てしてしまって」
距離、一定。
完璧な礼儀。
(近いのに遠い)
どちらともなく、そう思う。
「その……」
珍しく、エリシアが言葉を探す。
「最近の件ですが」
「はい」
「各国との調整が、非常に助かっております」
「いえ、職務ですので」
完璧な受け答え。
「……」
「……」
沈黙。
(違う)
(違うな)
二人とも、思っている。
だが。
「……」
言えない。
その時。
「いい加減にしなさい」
背後から、声がした。
「!?」
振り向くと。
いた。
全員。
「えっ」
ユイが手を振る。
「偶然通りかかったの!」
「偶然ですわ」
フィオナが優雅に頷く。
「偶然ね」
マリア。
「偶然です」
リディア。
「偶然ですわね」
クラリス。
※全員バレバレ
「……」
エリシアが、そっと目を閉じる。
「……これは」
「介入です」
セシルが即答した。
「ええ、介入です」
開き直りが早い。
「二人とも」
フィオナが一歩前に出る。
「分かっていらっしゃいますわよね?」
「……何をでしょうか」
エリシアが冷静に返す。
「お互いの気持ちを」
直球だった。
「……」
沈黙。
「……否定は?」
「……しません」
エリシアが静かに言う。
「同じく」
ルークも答える。
「なら」
ユイが、身を乗り出す。
「なんで進まないの!?」
「……」
「……」
完全に詰まる二人。
「……立場が」
ルークが言う。
「……影響を」
エリシアも続ける。
「考えると」
「軽率な判断は」
「できません」
完璧な理屈。
だが。
「面倒くさい」
ユイがバッサリ切り捨てた。
「えっ」
「長い!」
「結論だけ言って!」
「……」
押される二人。
「……好いております」
ルーク。
「……同じく」
エリシア。
「はい成立!」
ユイ。
「早い」
「では」
フィオナが優雅にまとめる。
「まずは」
「“お茶から”ですわね」
「それはもうしているのでは」
「“二人で”です」
「……」
沈黙。
「……承知しました」
ルークが折れた。
「……ええ」
エリシアも頷く。
その瞬間。
「よし!!」
女性陣、ガッツポーズ。
遠くで見ていた男性陣。
「……恐ろしいな」
カイルが呟く。
「ええ」
ガイウスも頷く。
「戦より強い」
「間違いない」
満場一致だった。
こうして。
二人の関係は。
ようやく、ほんの一歩だけ。
前に進んだ。
――なお。
進みは、やはり遅い。
だが。
今度はもう。
止まらない。




