表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/32

第25話:交差する意志

 夜だった。

 風を切るように、ユイは馬に乗って走っていた。


「はぁ……はぁ……!」

 息が乱れる。


 それでも、止まらない。

「……止めなきゃ」

 ただ、その一心だった。


 何が正しいのかは分からない。

 誰が間違っているのかも分からない。


 でも。

「戦争だけは……ダメ……!」

 それだけは、はっきりしていた。


 だから。

 向かう先は、一つだった。

「……エリシア様」

 かつて、レオンハルトの婚約者だった女性。

 そして。

 誰よりも“正しく物事を見ていた人”。


「あなたなら……」

 願うように、呟く。


◇◆◇◆◇◆


 その頃。

「……確定です」

 ルミナス王宮。

 静かな声が、落ちる。

「アルヴェリアの戦意は、こちらに向いています」


 ルークの報告だった。

「やはり、か」

 カイルが頷く。

「ええ」

 エリシアも、迷いなく同意する。

「他国ではなく、こちらを中心と見ています」

「理由は」

「私たちがいることを前提に、三国連携の要と判断したのでしょう」

「……的確だな」

「ええ」

 短い肯定。

「だからこそ」

 エリシアは続ける。

「こちらも、的確に対応します」


「方針は」

「迎撃」

 一拍。

「ただし」

「戦わせない形で」


 その言葉に。

 全員が、わずかに目を細めた。


「具体的には」

 ガイウスが問う。

「まず」

 エリシアは整理する。

「周辺各国へ、侵攻の自制を要請」

「……攻めない?」

「ええ」

 頷く。

「過剰反応は、相手の正当化材料になります」

「なるほど」

「我々はあくまで、防衛」

 その線は、絶対に崩さない。

「各国には、『旗』の提供のみを要請します。」

「旗?」

「はい。周辺全国家が意思を統一していることを示します。

 加えて、場合によっては軍容を大きく見せることも考えられます」


「次に、戦力の集中」

「場所は?」

「ヴァルディア商業国」

 あの、交易の要衝。

「……経路か」

 カイルが理解する。

「ええ」

「アルヴェリアが動くなら、必ず通る」

「ならば、そこで止める」

 明確だった。

「戦場を限定する、か」

「はい」

「民間被害を最小限に抑えられます」


 その一言で。

 全員の意識が揃う。

「……いい判断だ」

 ローデリック王が頷く。

「では、ヴァルディアへ」

「ええ」


 動きは、決まった。

 その時。

「……人影が」


 外の警備が、声を上げる。

「止まれ!」

「待って!」

 かすれた声が、響く。

 全員が、振り向く。


「……ユイ?」

 そこにいたのは――

 息を切らし、泥にまみれた少女だった。

「……エリシア様……!」

 そのまま、崩れるように膝をつく。


「お願い……!」

「戦争を……止めて……!」

 静寂。

 全員の視線が、エリシアに集まる。


 エリシアは、ゆっくりと近づいた。

「……お久しぶりですわね」

 声は、変わらない。

 静かで、落ち着いている。

「エリシア様……!」

「まず」

 そっと手を差し出す。

「立てますか?」

「……」

 ユイは、その手を取った。


 震えている。

「……怖かったでしょう」

「……うん」

 小さく、頷く。

「でも……」

「戦争だけは……ダメ……!」


 同じ言葉。

 だが今度は、確かに届く。

「……ええ」

 エリシアは、静かに頷いた。

「その通りです」

「……え?」

 ユイが、目を見開く。


「私たちも」

 一拍。

「そのつもりで動いています」

「……」

「戦わせないために」

「止めるために」

「準備しています」

 言葉が、落ちていく。


「……本当に?」

「ええ」

 迷いはない。

「民を傷つけることは、避けます」

「……」

 ユイの目に、涙が浮かぶ。

「……よかった……」

 力が抜ける。


「……でも」

 エリシアは、続ける。

「何もせずに止まる段階は、過ぎています」

「……」

「ですので」

「迎え撃ちます」

 はっきりと。


「ただし」

「終わらせるために」

 その言葉は――

 優しくて、冷静だった。


「……私に、できることある?」

 ユイが、顔を上げる。

 その目は、まだ揺れている。


 だが――

 逃げてはいない。

「……あります」

 エリシアは、答えた。


「あなたにしか、できないことが」

 その意味を。

 まだ、誰も完全には理解していない。


 だが。

 戦いは、決まった。


 場所は、ヴァルディア。

 目的は、迎撃。


 そして――




 “終わらせること”。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ