第24話:最後の声
それは――
逃げ場のない形で届いた。
「……連名?」
レオンハルトの手が、わずかに止まる。
差し出された書簡。
そこに記されていたのは――
複数国家の印章。
「……我が国の周辺全国家、連名にございます」
報告の声が、わずかに硬い。
室内に、沈黙が落ちた。
「……読め」
低く命じる。
「はっ」
文面は、簡潔だった。
――アルヴェリア王国の軍事行動準備を確認した
――その理由として挙げられている外部干渉は、いずれの国も関与していない
――内政の混乱の原因を外部に求める行為は、断じて容認できない
一拍。
――いずれかの国への軍事行動が確認された場合
――当該国のみならず、周辺各国が連携して対応する
それだけ。
だが。
「……」
誰も、すぐには言葉を発せなかった。
「……脅し、か」
ようやく、誰かが呟く。
「いいえ」
フェリクスが首を振る。
「これは――」
一拍。
「“宣言”です」
「……」
空気が、重く沈む。
「なぜだ」
レオンハルトが、低く言う。
「なぜ、ここまで」
「我々の改革が」
ノアが、言葉を探すように言う。
「脅威と見なされたのでは……」
「だから包囲した、と?」
「はい……」
「……」
その理屈は、都合がよかった。
だからこそ――
飲み込まれる。
「やはり、外だ」
誰かが言う。
「我々は間違っていない」
「ええ」
「正しいからこそ、潰される」
言葉が、繋がっていく。
「違います!」
その流れを、ユイが断ち切った。
「違います!」
もう一度。
「これは……」
必死に言葉を探す。
「警告です!」
「やめてほしいって言ってるんです!」
「ユイ……」
レオンハルトが、少し困ったように言う。
「だってそうでしょう!?」
「みんな戦いたくないから、こうして言ってきてるんです!」
「……」
「今なら、まだ止まれます!」
「話し合えば――」
「甘い」
低く、遮られる。
フェリクスだった。
「これは、交渉ではない」
「圧力だ」
「でも……!」
「全国家連名ですよ?」
静かに言う。
「それが何を意味するか、分かりますか?」
「……」
「我々は、すでに“敵”と見なされている」
「違う……」
首を振る。
「違います……」
「では、なぜこの文面になる?」
「それは……」
言葉が出ない。
「……」
沈黙が、重くのしかかる。
「ユイ」
レオンハルトが、静かに言う。
「君の気持ちは分かる」
優しい声。
だが。
「だが、現実を見なければならない」
「……」
「このままでは、我々は押し潰される」
「だからって……!」
「守るためだ」
言い切る。
「国を、民を守るために」
「戦う……?」
「必要ならば」
その一言で。
何かが、切れた。
「……違う」
小さく、呟く。
「そんなの、違う……」
顔を上げる。
「守るって……」
「傷つけることじゃない……!」
必死の言葉。
だが。
「……感情論だ」
エリオットが、冷たく言い放つ。
「現実は、もっと厳しい」
「……」
「それとも」
一歩踏み込む。
「何もせず、滅びろと?」
「違う……!」
「では、どうする」
「……」
答えられない。
その瞬間。
決定的な“溝”が生まれた。
「……王」
フェリクスが、静かに言う。
「このままでは、意思決定に支障が出ます」
「……」
「内部の統一が必要です」
遠回しな言葉。
だが、意味は明確だった。
「……」
レオンハルトは、目を閉じる。
一瞬の沈黙。
そして。
「……ユイ」
その声は、どこか遠かった。
「しばらく、外に出てもらう」
「……え?」
「落ち着く時間が必要だ」
「待って……」
「護衛をつける」
「違う、そうじゃなくて……!」
言葉が、届かない。
「決定だ」
その一言で。
すべてが、終わった。
ユイは――
国外へと、追い出された。
静かに。
だが、完全に。
そして。
「……これで」
フェリクスが、呟く。
「障害はなくなりました」
「……ああ」
レオンハルトが、ゆっくりと頷く。
「進める」
「対象は」
一拍。
「……ルミナス王国」
その名が、出た。
「やはり、あそこか」
「中心だろうな」
「他国をまとめているのも……」
疑念は、確信へと変わる。
「エリシア……」
誰かが、呟く。
「あの女が、すべての元凶か」
その結論は――
あまりにも、都合がよかった。
「……準備を整えろ」
王が、命じる。
「我々は、正しい」
「ならば」
「進むのみだ」
こうして。
アルヴェリア王国は――
完全に、引き返す道を失った。
戦火は、まだ上がっていない。
だが。
もはや、それは時間の問題だった。




