第23話:静かな包囲
三国の連携は――
すぐに、次の段階へと進んだ。
「連絡網を拡張します」
エリシアの一言で、動きが決まる。
「対象は」
カイルが問う。
「アルヴェリアを取り巻く、すべての国」
一瞬の沈黙。
だが、異論は出ない。
「……やるべきだな」
ローデリック王が、静かに頷いた。
「ああ」
アルベルトも同意する。
「局地で終わらせてはならん」
「波及する前に、囲む」
ガイウスが補足する。
「……見事に、逃げ道を塞ぎますわね」
クラリスが、わずかに微笑む。
「逃げ道は用意します」
エリシアは、淡々と答える。
「ただし」
一拍。
「“現実に戻る道”だけを」
その言葉に、誰もが理解する。
これは排除ではない。
矯正だ。
各国への書簡は、迅速に送られた。
内容は、簡潔で明確だった。
・アルヴェリア王国は現在、軍事行動の準備を進めている
・その理由として、内政崩壊の原因に外部干渉を主張している
だが――
・周辺各国はいずれも、そのような干渉を行っていない
・内政の混乱の原因を外部に求める行為は、断じて容認できない
そして。
・いずれかの国に対する軍事行動が確認された場合
・当該国のみならず、周辺各国が連携して対応する
明確な、意思表示だった。
返答は、早かった。
「同意、です」
「こちらも同意」
「全面的に協力」
各国とも内政崩壊と戦争準備の情報は得ていたのだろう。
反応は、完全に一致していた。
「……当然、ですな」
ガイウスが呟く。
「ええ」
エリシアは頷く。
「誰も、無用な戦火は望みません」
「だが」
カイルが言う。
「備えはする」
「ええ」
その一言で、全てが通じる。
こうして。
アルヴェリア王国の周囲には――
見えない壁が築かれた。
それは、軍ではない。
だが、軍よりも強い。
意思の連携。
情報の共有。
そして。
共通の理解。
どこか一つを攻撃すれば。
すべてを敵に回す。
その構図が、完成した。
「……これで」
ローデリック王が、ゆっくりと言う。
「抑止は成立したな」
「はい」
エリシアが応じる。
「戦えば負ける」
「戦わなければ、生き残れる」
「選択肢は、明確です」
その言葉は。
冷酷なようで――
むしろ、優しかった。
一方で。
「……届いたか」
ルークが、静かに呟く。
アルヴェリアへ向けた通達。
「これで止まればいいが」
「止まりますか?」
小さく問う。
エリシアは、少しだけ考え。
「……難しいでしょうね」
静かな答えだった。
「なぜ」
「すでに」
一拍。
「“自分たちは正しい”と結論を出してしまっていますから」
「……」
「その状態で外から否定されると」
「引き返せない」
ルークは、理解する。
「では」
「止まらない?」
「ええ」
エリシアは、静かに頷いた。
「だからこそ」
「備えたのです」
その言葉は、冷静で。
そして、決定的だった。
戦争は――
避けるために準備され。
それでもなお。
近づいてくる。
だが今。
その戦争は――
すでに“詰んでいる”。
アルヴェリア王国は。
気づかぬまま。
完全に包囲されていた。




