第14話:うまくいっている、はず
新体制は――
驚くほど順調に見えた。
「すごいじゃないか!」
「うまく回ってる!」
「やっぱり俺たちの判断は正しかったんだ!」
王城の会議室。
王となったレオンハルトは、満足げに頷いていた。
「ほら見ろ!」
机を軽く叩く。
「古い連中がいなくても、問題ない!」
その言葉に、側近たちも力強く頷く。
「ええ!」
「むしろスムーズです!」
「しがらみがない分、早い!」
確かに。
“決断”は早くなっていた。
「では次に」
文官の青年が書類を掲げる。
「税制の簡略化案です!」
「いいな!」
即答だった。
「分かりやすいのは重要だ!」
「はい!」
その場で承認される。
議論は、ほとんどない。
だが。
「決まるのが早い……!」
若い官僚たちは、むしろ感動していた。
「無駄な会議も減りました!」
「いいことだ!」
「現場の自由度も上がっています!」
「素晴らしい!」
報告は、すべて前向きだ。
誰も、水を差さない。
差す理由もない。
「ねえ、すごいよね……!」
王城の廊下では、侍女たちが興奮気味に話していた。
「前より雰囲気いい気がする!」
「うん、なんか明るい!」
「怖い人たちいなくなったし……」
小声で笑う。
その“怖い人たち”が誰なのかは、あえて言わない。
「ユイ様のおかげですよね!」
「うん、絶対そう!」
「新しい考え方って感じ!」
ユイの存在は、象徴になっていた。
変化の象徴。
希望の象徴。
「こういう国が理想なんだよね……!」
誰もが、そう信じている。
「市場も悪くないぞ」
「むしろ活気が出てきたな!」
商人たちも、今のところは笑っていた。
「規制が減ったから、やりやすい!」
「新しい商売も始めやすいしな!」
確かに、動きやすくなっていた。
“今のところは”。
「……どう思う」
例の年配の商人が、低く問う。
「何がだ?」
「この流れだよ」
「いい流れだろ?」
「そう見えるか?」
「見えるだろ」
きっぱりと言い切る若い商人。
「ほら、結果も出てるし!」
「……結果、な」
年配の男は、少しだけ目を細めた。
だが、それ以上は何も言わない。
一方、現場では。
「指示、来てるか?」
「いや、まだだ」
「まあいいか、自由にやろうぜ」
兵士たちも、どこか緩い。
「細かいこと言われなくなったしな」
「楽でいいよな!」
笑い合う。
それでも――
今は、まだ問題は起きていない。
「ねえ」
ユイが、会議の後で言った。
「なんか、うまくいってますよね!」
「ああ!」
レオンハルトは満面の笑みを浮かべる。
「当然だ!」
「よかった……!」
心から安堵したような顔。
「みんなが自由に動けるようになったからですよ!」
「その通りだ!」
王は力強く頷く。
「これが、新しい時代だ!」
側近たちもまた、満足していた。
「思ったより簡単でしたね」
「ああ」
「もっと大変かと思っていたが」
「案外、なんとかなるものだな」
誰もが、そう感じている。
そして何より。
「みんなが喜んでいる」
それが、彼らにとって最大の証拠だった。
「これでいいんだ」
「これが正しいんだ」
その確信は、日ごとに強くなる。
誰も、疑わない。
なぜなら――
今はまだ、うまくいっている“ように見える”からだ。
問題は、起きていない。
綻びも、見えていない。
むしろ。
すべてが、良くなっているようにすら感じられる。
だからこそ。
誰も気づかない。
小さなズレが、確実に積み上がっていることに。
そしてそれが――
ある日、まとめて顔を出すことにも。
だが、その日はまだ来ない。
今はただ。
新しい時代の始まりに、誰もが酔っているだけだ。




