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第13話:静かなる再起動

 “休暇”は、三日で終わった。

 誰も驚かなかった。


「では、本日より正式に動きます」

 エリシアの一言で、すべてが切り替わる。

 空気が変わる。

 柔らかかった空気が、引き締まる。


 だが――

 張り詰めてはいない。

 余裕を残したまま、整っていく。



「改めまして」

 エリシアは、受け入れ先の王宮で頭を下げた。

「この国の一員として、お力添えできれば幸いです」

 形式としては、あくまで“協力者”。

 決して上に立つ者ではない。


 その姿勢が、最初の印象を決めた。

「……ずいぶんと、丁寧だな」

 小声で、現地の文官が呟く。

「ええ」

 隣の者も頷く。

「もっと……押してくるかと思っていました」


 元公爵令嬢。

 元王国中枢。

 そう聞けば、誰もが“強引な介入”を想像する。


 だが、実際は――

「こちらの手続きに従わせていただきます」

 あくまで、相手のルールを尊重する。


「では、この書類の流れですが」

 現地の担当者が、ややぎこちなく説明する。

「一度こちらで確認し、その後――」

「ええ」

 エリシアは、最後まで聞く。

 途中で口を挟まない。

 否定もしない。

 すべてを受け取ってから。

「承知いたしました」

 静かに頷く。

「その上で、一点だけ提案がございます」


 “否定”ではなく、“提案”。

 その違いは大きかった。



 一方。

「……あなた」

「なんだ」

 元国王アルベルトと元王妃クラリスは、別室にいた。

 こちらもまた、新たな立場に就いている。


「この国の王太子、少し焦りが見えますわね」

「ああ」

 アルベルトは腕を組む。

「周囲との距離の取り方に慣れていない」

「ええ」

 クラリスは頷く。


「だからこそ、無理をしている」

 一拍。

「……どう動く」

「助言はいたします」

 クラリスは静かに言う。

「ですが、決めるのはあちらです」

「当然だな」

 そのやり取りは、かつてと変わらない。


 ただし――

「……お前」

「なんでしょう」

「少し、楽しそうだな」

「そう見えますか?」

 ほんの少しだけ、笑う。

「ああ、少しだけ」

「なら、きっとそうなのでしょうね」

 距離は、やはり近い。


「……」

「……」

「……」

 廊下の向こうで、それを見てしまった三人。

「……仕事に集中しましょう」

 エリシアが即座に言った。

「賛成です」

 ガイウスも即答。

「異議なしだ」

 レオンも頷く。


 だが。

「……楽しそうですな」

 ガイウスがぼそりと漏らす。

「否定はしない」

 レオンも小さく笑った。

「ええ」

 エリシアもまた、ほんのわずかに微笑む。


 ガイウスは、すでに動き始めていた。

「まずは現状の把握からですな」

 資料を受け取り、読み込む。

 速い。

 だが、急がない。


「……なるほど」

 数枚めくっただけで、全体像を掴む。

「無理はしておりませんな、この国は」

 隣の文官が目を見開く。

「なぜ、それが」

「帳簿の“余白”です」

「余白……?」

「詰めすぎていない」

 淡々と説明する。


「だからこそ、余力がある」

 その視点に。

「……」

 文官は、思わず言葉を失った。


 レオンもまた。

「配置は悪くない」

 訓練場を見渡しながら言う。

「だが、連携が弱いな」

「え?」

 現地の隊長が戸惑う。

「個は強いが、繋がっていない」

 一歩前に出る。

「少し、やってみせてもいいか」

「……ぜひ」


 結果は、数分で出た。


「……なんだ今の」

「動きが……噛み合ってる……?」


 同じ人員。

 同じ装備。


 だが、まるで別物だった。

「難しいことではない」

 レオンは肩をすくめる。

「互いを“見る”だけだ」

 それだけで、空気が変わる。



 令嬢たちもまた、それぞれの持ち場で動く。

「この手続き、少し整理してもよろしいですか?」

「え、あ、はい」

 最初は戸惑われる。

 だが。

「……あれ?」

「早い……?」


 気づけば、流れが滑らかになっている。

「無理に変えてはいません」

 令嬢は穏やかに言う。

「少しだけ、順番を整えただけです」


 それだけ。

 本当に、それだけだった。



 数日後。

「……不思議だな」

 最初に戸惑っていた文官が、ぽつりと呟く。

「何がです?」

「もう……普通に一緒に働いている」

「ええ」

 隣の者が笑う。

「違和感がありません」


 それは、事実だった。

 押しつけない。

 否定しない。

 だが、確実に改善する。


 その積み重ねが。

 いつの間にか、“信頼”に変わっていた。


「……よろしいのではありませんか」

 エリシアは、静かに全体を見渡す。

 無理はない。

 歪みもない。

 自然に、馴染んでいる。


「順調ですな」

 ガイウスが言う。

「ええ」

 レオンも頷く。

「想定通りだ」

「いえ」

 エリシアは、わずかに首を振った。


「想定以上ですわ」

 一拍。

「この国の方々が、優秀だからこそです」


 その言葉に。

 近くにいた現地の者たちが、少しだけ誇らしげな顔をした。


 こうして。

 彼らは、新たな場所で動き始めた。


 奪うでもなく。

 支配するでもなく。

 ただ、支え。

 整え。

 そして――共に働く。


 それは、派手ではない。

 だが確実に。


 国を強くしていくやり方だった。

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