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幕間2 何も知らない少年の思案

「ねえお姉ちゃん、最近おかしいと思わない? カイル」


 訊ねると、エレナお姉ちゃんは驚いたようにちょっとだけ目を見開きました。基本的にお兄ちゃんもお姉ちゃんも滅多なことじゃあまり驚かないので、これでもだいぶ驚いてる方。……うー、唐突すぎたかな?

 けれどその直後、お姉ちゃんは困ったように微笑んで、頷きます。


「やっぱりエディも気づいていたのね。何か、考え込むような表情が多いわ」

「うん、子供らしくないよねー」

「それを貴女が言うのかしら」


 あらら、苦笑されちゃった。

 ……も、もしかしてこの間のこと、まだ引きずってるのお姉ちゃん? エディは全然なのに! むしろ忘れそうなのに! いつも通りすぎて自分でもびっくりだよ! 自分のことを『わたし』って言うのも、普段やると物凄~く変な感じがするんだよね……この間みたいなときは、自然に出てくるんだけどなぁ。エディもまだまだ子供なのかなぁ。でもそれはたった今お姉ちゃんに否定されたばっかりだし。


 まぁ、それはおいといて。


「ほんとにどうしたんだろ、カイル。お姉ちゃん、何か知らない?」

「そうね……強いて言うならこの間の、アレスの誕生日までは普通だったかしら」

「あっ、そういえばそうかも」


 一月もそろそろ終わり。一週間くらい前にお兄ちゃんが誕生日だったから、みんなでお祝いしたんだっけ。うん、あの時までは確かに普通だった、かな?


「じゃあ、カイルが変なのはそのせい?」

「断言は出来ないけれど。でも、だとしたらどうして」


 困ったように少しだけ頷き、お姉ちゃんが考え込みます。同じように考え込むものの、いくら考えても答えは分からず、やがてエディは勢いよく立ち上がりました。ここでいくら考えてても、分かりそうにないんだもん!


「どうしたの、エディ?」

「ねえお姉ちゃん、カイルどこに行ったか知らない? テオと一緒に外に行ったわけじゃないみたいだけど」

「ええ、今日は家の中にいると言っていたわ。そうね、最近は書庫にいることが多いみたいだから、行ってみたら?」

「ありがとっ」


 微笑むお姉ちゃんに笑みを返し、今までいた食堂から出ます。

 黙ってても良いことなんて無いのは、エディだってよく知ってるもん! だったら直接訊いちゃった方が早いんじゃないかな、って思うのです。それでカイルを傷つけちゃったら、そのときは謝ればいいんだし。


 地下への階段だけど、多分魔法による灯りで照らされて、いくら下っても薄暗さは全くありません。うん、この光球、多分お姉ちゃんが作ったのかな。まだこの世界に来て三ヶ月くらいのはずなのに、お姉ちゃんったら普通の魔法は大体使えるようになっちゃうんだもん。魔力だって普通よりはずっと多くて、多分お兄ちゃんよりも上かな? お兄ちゃんはちょっと色々と事情があるから、そうとも言い切れないのが微妙なところです。……って、それ言ったらお姉ちゃんの方も何かありそうだけど。


 そういえば、エディが地下の書庫に行くと必ず何かある気がするなぁ……ふと、そんなことを思い出しました。まさかエディのせい? 違うよね?


「っと、わ」


 ぼんやりと考えているうち、書庫の扉は目の前に迫っていました。あ、危なー! ぶつかるところだったよー!


「カイルー、いる?」


 念のためノックし、返事は待たずに扉を開けます。お姉ちゃんやお兄ちゃんの場合は入ってすぐのところにあるテーブルで読書していることが多いんだけど、そこにカイルの姿はありません。

 いないのかな? と首を傾げたところで、カイルの声が聴こえました。


「……エディ?」

「あ、やっぱりここにいたんだ!」


 奥から聴こえたその声に、エディは急いで駆け寄ろうと……したものの、こういうところで走っちゃ駄目だというお姉ちゃんの言葉を思い出し、歩いて声の方向に向かいます。喋れないカイルの『声』は精霊を介したものではあるけど、でも普通に過ごしている分にはカイル自身の声と全然変わらないんだよね。こうして声の方向なんかも分かるし。


 カイルが立っていたのは書庫の一番奥、子供向けの少し簡単な本が並んだところでした。……んー、でもカイルが見てるのはそっちじゃなくて、壁にかかってる絵の方……かな?


「カイル、どしたの?」


 声をかけると、ぼんやりと壁の絵を眺めていたカイルはハッとしたように振り向き、首を傾げました。


「エディ、こそ……どうかしたの?」

「あー……うん、あのね」


 ちょっとだけ躊躇ったものの、そのためにカイルを探していたのです。傷を癒すためには、抉ることだって必要。それも、エディが一番よく知っています。……えっと、荒療治、だっけ?


「カイル、最近様子が変だなって。お兄ちゃんの誕生日辺りから、かな? だから、ちょっと気になっちゃって」

「……それで、訊きにきたの?」

「うん。あ、もちろん無理やり話させたりはしないけど! 嫌だったら嫌って言っていいんだよ」

「……変なの」


 僅かにくすっと笑い、カイルは壁にかけられた絵に視線を戻しました。それほど大きくはないものの、それでもエディやカイルにとっては十分に大きいその絵は、確かここが保護施設になる前……まだ貴族が住んでいたときからあったものだとお兄ちゃんに聞いたことがあります。それ言ったらここにある本とかも全部そのときからあるものらしいんだけど。精霊術者を迫害してるのも貴族だから正直ちょっとだけ微妙な気分だけど、でも役に立つからとみんな割り切ってるみたい。


 暖かい色合いのその絵には、家族で食事をしているところが描かれています。初めて見たときには凄く……何て言うか、泣きたくなりました。あ、でも今はこの家がこんな風になれば良いな、って思うよ? 今でも十分家族みたいで暖かい場所だけど、それよりももっと。


 その絵に視線を戻して、カイルはぽつりと呟きました。


「……家族、って、何?」

「どしたの突然」

「一緒に、誕生日を祝ったりするのは、家族だから? この絵みたいにしてれば、家族なの? ……ぼくたちも、家族?」

「違うの?」


 少しだけ不安に思って、エディは訊ね返します。不思議そうに首を傾げて、カイルは言葉を続けました。


「だって……血とか、繋がって、ないよ。他人なのに……家族、なのかな」

「カイル」


 エディの声を無視して、カイルは絵を見上げます。絵の中の、幸せそうな表情の家族を、いつものぼんやりしたような顔で。


「エディは、知ってるよね。……ぼくがここに来たの、凄く小さい頃、だったから……ぼく、お父さんとかお母さんの顔も、何も知らないんだよ」

「……嫌われてるより、ずっと良いよ」


 化け物、という『お母さん』の声を思い出して、エディはそっと呟きました。それが聴こえたのか、カイルはエディの方を見ます。


「それでも……ぼくは、エディが羨ましい。どうして生まれたのか、とか、ぼくは知らないから。愛されてたのか、嫌われてたのか、それだけでも、知りたかったのに」


 少しだけ眩しそうに目を細めて、再び絵に視線を戻すカイル。……エディにとっては知っていることが不幸だけど、カイルにとっては知らないことが不幸、なのかな? うん、多分エディたちの中で一番幸せなのはテオで、一番辛いのもテオなんだろうなぁ。


「ねえ、エディ。……家族、って、何だろ? ぼくたちは、本当に家族なのかな? ……ぼくと『お父さん』や『お母さん』は、家族だったのかな」


 カイルの言葉に、答えることは出来ませんでした。


 ……その答えは、エディにも分からないから。



 ***



「と、いうわけなんだけど……」

「なるほどな」


 喋り終えて息を吐くエディと、納得したように僅かに苦い顔で頷くアレス。そんな二人に向けて、私は僅かに首を傾げた。


「私が聴いてしまっても良かったの?」

「むしろエレナが聴くべきだっただろう」

「そうだよー、お姉ちゃん! お姉ちゃんが聴いてくれなきゃ話にならないよ!」

「……そうやって、また私に任せる気ね、アレス」


 嘆息し、私は上目遣いにアレスを見る。けれどこればかりは、どうしようも無いだろう。様子がおかしくはあるものの、カイルはエディのときのように目に見えて辛そうなわけではない。……それに、私にだって分からないもの。


「両親の顔を知らない……ね」


 胸に浮かんだ苦い思いを無視し、私は呟いた。それが聴こえたのか、アレスが私を見て首肯する。


「ああ、そうだな。カイルがここに来たのは、あいつが三歳になる少し前のことだ。小さい町で、住人には暴力を振るわれていたが……両親らしき人間は、その中にはいなかった」

「そう……カイルを捨てた、ということかしら? それとも……」


 考え込む私を見て、不意にエディが楽しそうな笑顔を浮かべる。


「やっぱりお姉ちゃん、カイルのことも助けてくれるんだよね?」

「え? ……それは、分からないわ。私に出来るかどうかは」

「エディのこと助けてくれたんだもん、絶対出来るよ!」

「そうだな。俺には出来なかったが、エレナなら」

「……二人とも、買い被りすぎよ」


 投げかけられた言葉に、私は再び嘆息する。家族とは何なのか、そんなもの私の方が訊きたい。愛すら知らない私が、その答えを知っているわけがないでしょうに。


 だけどそう思う一方で、何か出来ることがあるはずだと考える私もいて……そんな自分自身に、私は苦笑したのだった。


お久しぶりです。半年も間が開いてしまいましたが、覚えていてくださったでしょうか。高良です。

ご存知の方もいるかもしれませんが、こちらの更新が止まっている間に新連載を始めてそちらは定期更新を続けているため、久しぶり感があまりありません。……ごめんなさいこっちも頑張ります。


さて、そんなわけで今回は幕間の第二話となります。幕間はほのぼの成分が多めと言いながら今回はほぼシリアスです。……シリアス? うんシリアス。

前章のエピローグと次章のプロローグを兼ねている(ということになっている)幕間。読んでくださった方には、もう次の章の主人公がお分かりだと思います。


というわけで、いつお届けできるか分かりませんが、なるべく早くお届けしようと思いますので、第三章もお楽しみに。

ではでは。

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