*ルネ視点* 正体とそして・・・
どうにも気になることがあって今年が王と向き合うことを逃げずに巡行参加することにした。
あの王と顔を合わせるとやたら勧誘がすごそうで怖いものであるから。
そもそも、以前から書類作業の合間をぬって手紙の処理もしていたが、王たちからの勧誘もすごくてこっちとしてはもともと頭の痛いことだったがさらに面と向かって、一方の王と顔を合わせるのは危険と判断していた。
王以外にもまわりからぎゃんつく入れ入れと言われるのは鬱陶しい限りである。
ま、それで出なかったというのもあるけど、それ以上に年の瀬なのだから心静かに一年を反省して来年に備えたい思いがあったからね。
しかし、今回は出ざるを得ない。
あの寵姫について調べていても何も出てこないというのがどうにも腑に落ちないところだったからだ。
それが今回出張ってくる。
様子を探るのが常というものだが、今まで使っていた密偵からの応えがここひと月途絶えてしまっている。
その少し前から微妙に間隔があいていたが、ついにひと月前になんの応えもなくなってしまった。
鳥を使った伝書方法がメインだったが郵便に紛れてわからない時勢の言葉で暗号化しておいた手紙も送ったりしたがそれでもなんの反応もなかった。
そもそも、あの襲来からおかしくなってきたのは否めない。
ラスには特に言っていなかった面もあるがそもそも、寵姫の出自も奇妙なものであった。
ある日ひょっこりと出現したというのが正確かもしれない。
何せ、気がついたらいたということなのだから。
いつ、どこで、どういう経緯で王の寵姫にまでのぼりつめたのかがさっぱりわからない。
どれほど密偵に使っているものに尋ねても風聞を集めてもわからない。
風聞にすら載らずにきているのが不思議でならない。
少なくとも、物語めいたものがでてきてもおかしくはないのに。
得体がしれない。
その不安が気になることとなりこうして出てきた次第である。
さて、王を迎える準備も整ったし、年間の損益の書類もまとめた。
成果や人口増減も記したし、地図も渡せる。
これだけすれば少しはこの村のことも考えてもらえるだろう。
今のところ、力あるとすればエイル王のところなのだし、他国から攻めてこさせないように、平和にこの村を治められるのならばそれで構わない。
ラスやヒィロにはのんびりと過ごさせてやらないとな。
ん・・・触れの鐘に行進の物音がしてくる。
人のざわめきもあるし、そろそろ王が到着するか。
さて、代表連も隣室にいることだし、もう少しだけまとめおわったら、代表連のあとに会う算段になっているし、そこで提出するかな。
そして、時刻も周り、王が施設内に入っているはず。
案内役はミルエラさんで、隣室から順にということだしな。
「・・・・」
「・・・」「・・・」
なにか話し合っているか。
うん、静かにしていればなんとなく聞こえてくるものだ。
「さて、役に立て」
つと、その声だけがいやに耳に響いた。
聞いたことのない艶美な声。
寵姫か。
にしてはなにか禍々しい気配がする。
なんだ、これは?
そっと壁に耳を寄せる。
妙なうめき声と、風の音。
ざりざりと不快音まで混じっている。
なんだ?
何が起こってるんだ?
でも、こうざわつく不安感は強くなる一方。
武器は何もない。
そもそも、王に会うのに帯剣などはご法度だ。
ゆえにそれ用のものなど、この部屋にはなにもない。
ソファにテーブル。あと、紐で閉じた今年の年間の書類とインク壺にペン。
あとは植木と書棚にその中に年間の書類をまとめたものくらいか。
それらを確認し終わるとき、隣室でゴゥっと激しい音が一瞬してやけに静かになった。
何かが終わったのか。
となれば次はこちらに来るか。
落ち着け。
こうなれば何が起こっても驚かずにいるように心がければいい。
トントン
扉をノックする音。
普通ならミルエラさんだろう。
だけど、なんだろう、ドア向こうから流れてくるこの得体の知れないものは・・・・・
黄色っぽい霧?
キィ
扉が開く。
「ほほほ、久しぶりということになるのかしら」
すたすたと何事もないように入ってくる。
豪奢なドレス。
長く伸びた金色の髪。
白い肌。
百人がいればまず間違いなく百人ともに美人ととるだろう。
だが、なんだ、視線をあげればその瞳。
真っ黒ではないか。
後ろには代表連やミルエラさん、それに王の姿もある。
だが、なんだ、皆一様に生気がない。
いや、それよりも目の前の女だ。
なんだ?ただ人ではない。
平人種だが、単なる平人ではない。
何か化けている?
「ふふ、やっぱり気づいているみたいね。この格好でははじめましてだものね。今は『マルガレータ』って名乗ってるわ。うん、あなたは・・・・私の中での反応もあるみたいだから・・・・ようやく会えたわ」
ぶわっと、背後から黄色のもやが広がる。
「なんだかすっかり弱々しくなってるみたいだけど、抜き取られた分がとっても多かったってことかしらね」
艶然と笑う。
いや、その中に嘲笑が混じっている。
というかもしかして、これってなにか勘違いしてるのでは・・・・
「にしても、男って、まぁまぁまぁ、珍しい形態をとるのねぇ。化けるなら女かと思ったけど。それともそういう趣味かしら。えっと、確か、隣にいるのはあの王様の頭みて、シンリンカンっていってたから、ルネディク、でいいのよね。今はそうなのってるんだ。うふふ、もとのシンリンカンは殺したのかしら?」
一歩前に出る。
「さぁ、ここまできてあげたのだからあたしの目的もわかってるでしょ。多少歓待してくれてもいいんだけど、最後には食われるからせめて抵抗はしてほしいところだわ。後ろの連中はもうあたしのお人形だから気にしないでいいのよ。霧の」
あ、やはりか。
ということはこうしてゆっくりと来ているのは出方を伺っているからか。
にしては余裕がありすぎるほどである。
でも、こうしてくれているのならば、まだだいじょうぶか。
というよりもこうして相対して言葉を交わしてみて、ようやくガテンが言った。
ここ最近、妙におかしくなってきていたエイル王の進退や軍の動き。
そして、密偵の返事がこなくなったのはこれか。
では・・・・
「そう、でも、ただ、こうして待っていたというのでもないがね」
「ん?」
おし、ちょっと歩が緩んだ。んで、カマかけをちょっとしてみて・・・・
「改めて、あなたは砂、でしょ?」
「ふふ、正解。やはりわかるってことは霧ね。改めて、久しいわね。もう、あなたってば、男の見た目だから、変わりすぎてて気がつかないところだったわ」
別におとぎ話と先日の砂嵐を考えてみてヤマカンでいってみたが当たったか。
先日から魔獣同士の争いについてちょっと神話を紐解いていたときがあったから、特徴を鑑みてそうかと思った。なら、弱点とかはわからないが、砂の特性なら、多少、霧とわかっている以上対抗策を考えられる。
私にはそんあ能力がないのは百も承知だが、そう、相手が思い込んでいるなら好都合だ。
「ふ、そうだな。だが、それでもこうしていられるのはなかなかなものだぞ」
「そうなの?わからないわ。男なんて象るだけ無駄な造形なのに、ともあれ、さ、お茶でものましてもらってから心臓を早めにお渡しなさいな。もう私には王の力で風を捕まえてくれたおかげで砂の特性以外でも風も食って移動ができるようになったから逃げられないわよ」
ふむ、ちょっと考えても、厄介なことをぽんぽんと・・・・
これって自己顕示欲の現れか?
とはいえ、言ってる内容としては本当に厄介であるし、かつ、食うと言っている以上その特性をとりこめるというのもあるのか。
となれば余計に逃げの手を売ったあと、ラスと合流して早急になんとか打開しないと・・・・
どうする?
どう逃げる?
つと、座っている私に対してまた一歩前に出てくる。
「早く渡しなさい。そうしたら、すぐに終わるわ。痛みなんてないからだいじょうぶよ」
「そうかい。それなら」
胸に手を当てて、素晴く握り締める。
「ふふ」
観念したと思ったのか手を伸ばしてくる。お茶とか言ってたけどせっかちだな。
だけども、
「違うよ」
当てていない手でテーブルにあったインク壺を顔めがけて投げつける。
顔に黒インクがぶちまけられて、真っ黒。
「あああああ!!」
思わずのけぞり、歩が止まる。
そして、開けっ放しになっているドアの向こうへ一目散に駆け出した。
モヤはなんか嫌な予感がしたのでうまくさけて、廊下に出た。
廊下に出ると生気のない顔をしたみんながこっちを見るでなく、どこか別の方向をむけていた。
(人形って言っていたから、あの傭兵たちとおなじことになったか)
が、まだ動きが見られないとわかり、そのすきに扉の向こうへとダッシュで逃げ込む。
おし、すぐに走り込んで玄関へ。
にしても体がやけに軽い。
動きも俊敏だし、なんかの効果か?
ともすれば今朝もらったあの飴のせいか。
ならば、もらって正解か。
ともあれ、なんでもいい、とにかくここから抜け出して、ラスのもとへいかないと。
狙いはあいつらだからな。
そして、玄関を抜けて、外へ飛び出せば・・・・・
むぅ、忘れていた事だった。
そもそも、ここまでくるのに、どうやってきたのか。
何を連れてきたのか。
多くの兵士たちが亡霊のように玄関前に立っていた。
そして、どうにも後方を見れば、ここの村のものたちの姿も見えた。だが、それもゆらゆらと立っているように見える。
「くそっ」
悪態をつく。
どうやら、ちょっと甘く見すぎていたか。
ほんとうにあっという間に、ここまで人を操れる力があるのか?
というか、こんなのが世の中にいるのか?
あまりにもあまりなものではないか。
最前列にいる兵士が動き出す。
こっちを捉えてくるような動きであるが、軍標準装備の剣を全員片手に襲ってくるのは驚異以外の何者でもない。ましてやこの人数だ。百や二百では聞かないぞ。
住人も加わっているとすれば万に届くやもしれんかってそれはないがそれでも千は軽く越している。
どうやって逃げる?
こんな人の壁の中。
けど、
「これでも、公国の騎士。逃げ切ってみせる」
だっと、駆け出して、最前列に飛び出し、人の合間をぬいつつ、一人の兵士から剣を奪い、一気に間を詰めつつ、駆けに駆けまくった。
体がやたら早く動くのはありがたい。
くぐり抜け、
叩き落とし、
昏倒させて、
時に体術でけりあげて飛び、
着地してすぐに走る。
人の波のせいでなかなか進めないがそれでも入口までこれた。
だが、その向こう。森の家までの間も人がいるし、その上、さっき巻いた兵士も横わきから走り抜けてこっちを囲い込んでくる。
それでも走って走って走り抜けて・・・・
「ふふふ、逃がさないわよぉ」
後ろから聞こえて来る声が禍々しい。
だけど・・・・・
あいつらとともに行けば、魔獣なんて・・・・
「ふふ、もうだぁめ」
森の中。
半分ほどまできたか、住人は振り切れた感じだが、未だ兵士はそこそこまわりにおり、そして、いつの間に回り込まれたかあの豪奢なドレスを身にまとうマルガレータが道の真ん中に立っていた。
顔には黒いシミがぽつぽつとあったが、それは砂に水をすいこませていくように消えていく。
「あんなことして、失礼な人」
そういうや、にこっと笑い、それに伴って口元が徐々に徐々に広がっていった。
「でもぉ、いっか。もう食べちゃおっかな」
がぱっと大きくなった口を開ける。
「さて、もう逃げられないよぉ」
周りには兵士が取り囲む。
ここまで、よくぞというところか・・・・・
けど、でも、一矢はむくいてやらんと
と、やおら、奪った剣を目の前の化物になった女に投げつけた。
というよりも矢のように放った。
剣は狙いたがわず、口の中に吸い込まれるようにして突き刺さった。
だが、しゅるしゅると剣は吸い込まれるように女の体内に入り込みやがて飲み込まれていった。
「むだよぉ。さぁ、のみこまれなさいよぉ」
そういって、風のように舞うようにこっちへと飛んできた。
「そう簡単に飲み込まれるか!」
叫んでから後ろに下がり、兵士の一人に体当たり。
当身をくわせてまた一本剣を奪う。
それと同時に兵士を女に向かって突き飛ばした。
すると
「じゃまぁ」
と、人をゴムボールのように横に弾き飛ばした。
むちゃくちゃすぎる。
そうこうするうちに二重三重に包囲が狭まる。
化物女は目の前。
逃げきれない・・・・・
「くそがぁ!!!」
私は、大声で叫びをあげた。




