~三十三理霧中~ 他の存在
ルネの家に帰ってきて、扉を開けると
「うきゃぁぁ」
笑顔を浮かべながら高速でよたよたしながらもハイハイしてくるヒィロちゃんが来た。
もう、どこどこ突進してくるからかわいい・・・・って、床って・・・・
と、よくよく下を見下ろしてみれば、床には隙間なく柔らかい絨毯がしかれていて、心地よさそうな感じである。
家を出る前にはこんなのはなくて土足でのものだったのに・・・
ヒィロちゃんを抱き上げつつふと見れば、扉脇にはくつおきのような箱があってそこにルネが履いていた靴がいくつか置かれていてそのそばにはちょこんと小さめの靴があった。
「あ、おかえりなさ~い☆」
気の抜けたような声。
うん、なんていうかあまりに特徴的な感じだったからわかる。
フィラさんか。
「どうも、ただいまです」
靴を脱いで絨毯越しに足を載せる。
とはいえ、靴といっても霧でできたものだったので脱いだ途端に必要ないという意識からぽわんと消えてしまった。
別に脱ぐ行為はしなくても消えるイメージで言ったらそれでなくなっただろうけどもでも日本で慣れ親しんだ行為だっただけについ身にしみた習性から脱ぐ行為をついしてしまった。
まぁ、別にだからといってなにがどうというわけではないけどね。
にしても、なぜにこんな時間にフィラさんがいるんだろ?
昨日の様子からすると、昼前にはいなくなってしまう感じだったのに・・・・
ひょっとして、今朝にルネが相談事するとかいってたからそれに関しての何かあるのかな?
ひょっこりとヒィロちゃんとリビングへ顔を出すとやっぱりというかフィラさんがいた。
その横には指定席のごとくルネが座っている。
うん、定位置ってのは自分にもあるわけだし、なんか晩御飯も用意されているわけだ。
あと、向かいにはなかった子ども用の座面の高い椅子があり転落防止用に手すりにはひもがついている。
なかなかいいもののようである。
これ、どうしたのか聞いてみると、フィラさんが知り合いからもらってきたとか。
知り合いってどんな人なんだろうと思っていると
「ルネ様のところで、働いていたときの元同僚でぇ、少し遠いけど、子供もおっきくなったから、もらってきたのぉ」
ふむ、それならものはしっかりとしてそうだし、ありがたく使わせていただくとします。
ヒィロちゃんをのっけるとちょうどいい感じに座れた。
ではその横に自分は座るとしますか。
ちなみに、晩御飯は半熟卵やクルトンが載ってるサラダにさっくりとしていそうなクロワッサン。ベーコンと葉物のパスタで香草が色鮮やかだわ。それに、ミルクの暖かいスープ。それに冷たそうな水差し。
相変わらずとてもおいしそうである。
そういえば、お昼には炊き出しのご飯を食べたが、スープとパンだけの簡素なものだった。
ほかのみんなも似たようなものだったし、そういうものなのかなと食べている様子を首をかしげてみていたがとてもおいしそうに食べていた。
歓迎会のときもそれなりに豪勢なものが出ていたが考えてみれば、飲むことが多くみな、あまり食事には手が伸びていなかったような気がする。
残ったものは皆のものとして食べているということもありえるが・・・・
と、そこではたと思った。
そもそも農業の村が襲われたわけだから食料に関してはいったいどうなるんだろう?
備蓄などもあるだろうけどけっこう節約しないといけないのではなかろうか・・・・
そう考えるとこうして暖かなご飯を頂いているのが申し訳なく思えてくるとともにいったいどこからこんなご飯が出てくるのかちょっと疑問に思えてきた。
まぁ、食べながら聞けたらいいかな。
そうしていざ食べようとしたけどもフィラさんがなにか思案しているかのようにじっとこちらを見ていた。
「えっと・・・・」
どうしたんですか?と聞こうとしたがその前にフィラさんが口を開いた。
「ラス様、よく聞いてくださいね」
なんだか晩御飯の前でそう改められるとちょっと食べづらい。とはいえ、聞かなくてはならない雰囲気なだけに姿勢を正す。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
三人ともに無言となる。
なんともいえぬいよーな雰囲気である。
なんだろ?
何か話があるなら早く教えて欲しいけども・・・・
バンバン
ふと、自分の横を見てきゃっきゃとしながらテーブルを叩いているヒィロちゃんの姿が。
ん、そういえば、座らせたらけっこう我慢できずに早めに食べさせないとぶーたれてしまうんだっけか。
ヒィロちゃんの御飯は・・・・あ、白いふんわりしたパンにスープがあるし、細かく刻まれた野菜が浮いている。
なら、ちょっと申し訳ないけども。
「すみません、ヒィロちゃんが待てませんですし、それに暖かなご飯ができているなら早く食べてしまいましょう。自分が言うのもなんですけども、せっかくのごはんですから」
そういって固まっていた空気が溶けていくことを願った。
願いが叶い、弛緩した空気が流れ
「はぁ・・・ん、ヒィロちゃんのためですもんねん。しょがないか」
そう言って、にこぱっとしわくちゃであれど朗らかな笑みを浮かべて軽く祈りを捧げてからごはんをいただくことになった。
そうそ、ちょっと今まで知らなかったことだけどこの世界って「いただきます」というのがないそうな。
代わりにキリスト教とかそういうのかな、お食事前のお祈りというのがあるんだとか。
ただ、ほんとうに軽い祈り程度で、晩御飯の時にのみ行われるんだそうな。
なんでも、晩御飯の時にのみするのはその日が無事に終わったことに感謝してのことでまだ一日が終わっていない朝や昼にはしないんだそうな。
ふぅん、と思ってきいたけども、現代世界の多種多様な有様を知っているだけに抵抗なく「そうですか」と納得してそれに従うことにした。
別に祈りの言葉があるだけでなく、数秒程度の黙祷のみ。
ま、いただきますと大差ないものだし、私たちもそれに習ってみて、そして食べ始めた。
ご飯中に関しては終始和やかな感じで進んだがさっきの言いよどんだ雰囲気がくすぶっていて今ひとつ食事そのものを楽しめなかったところはあった。
ただ、ヒィロちゃんも、パンとかはぱくぱく食べて野菜を煮たものとかも渡してみたがそれは味がなかったかぽいぽいと床にほおっていたが、ほほえましく見ながらもみな食事を終えて、一服したところで「さて、話しますか」とフィラさんが気合を入れ直した。
「えとね、さっきね、ルネ様から聞いたことだんだけども、朝に襲われた、ってことであってるのよねぇ?」
「え、ええ、まぁ」
「そっかぁ・・・・えとね、今後ね、ラス様しっかり修行して今よりももっともっとしっかり強くなっていってくださいませんこと?」
「へ?」
突然何を言い出すの?
まぁ、自衛手段として今後もちょこちょこ修行するつもりではいるけども、でもそこまで切羽詰ってはいないけども・・・・
「多分、ぴんときていないかもしれないですけども、おそらく、貴方の存在に気づかれた気配があるですの」
「は?気配?でも、そもそも自分には狙われるようなことはないかと」
うん、だって、今日村で働いてたけども変な様子なんて全然なかったけども。
「いえ、必ず、何かくるです!断言するですぅ」
って、そもそもそんな鼻息荒くしていわんでも、一体何が来るっていうのか教えて欲しいんだけども。
「えとね、ラス様が霧の魔獣でありますのよね?」
こくりとうなずく。
うん、まぁ、そういうことになっているみたいだね。
「で、ですね、薬の材料になったりとかも昨日お話したことは覚えておいでですよね」
これにもこくりと同じくうなずいた。
もう、忘れてなんかないですよ。
いったいなんだっていうんだろ?
「その・・・実はもうひとつだけ、狙われる可能性があるんですけども・・・・でも、確証はないですけどもぉ、こんなのほんとうに初めてで・・・」
「もう、なんなんですか?ハギレが悪い」
「・・・・じゅう」
「はい?」
「まじゅう」
「・・・え?」
「ん、ですから、魔獣なんです、狙っているのが」
「え?」
いや、魔獣は自分なんですけども。自分が自分を狙ってどうするよ。
「うん、まだよくわかってないようで今度はこっちがそわそわですけども、いいですか、ラス様とは違う魔獣が狙っているってことですの」
「・・・・・へ?」
魔獣ってほかにもいんの?
「ええ、他にもいたりするんですけども・・・・」
「文献的なことなら私が説明するよ」
横入り的にルネが補足する。
「もともと魔獣というのはこの大陸では神話時代から示されているのが全部で七匹存在しているとされている。一匹一匹それぞれにその身に宿している力というものがあって、そのうち、存在を確定されているのは今の所、四匹いる」
すると、用意していたのか傍らから一冊の分厚い本を取り出して、テーブル上のお皿をささっと片付けてから本を置いてページをめくった。ドッグイヤーがついているページがまとまっている部分がありそこを開いた。
「現状では船での航路で確認されている巨大な蛇のようにのたくって海上をさまよっているのを見かけられた海の魔獣。晴れた青空にごくごくまれに見かけられる鳥とは違う巨大な六枚翼の空の魔獣。砂地に生息していてくねくねと砂嵐とともに移動する砂の魔獣。そして、ラス、君の霧の魔獣だよ」
一ページ一ページ、まるでモンスター図鑑みたいに、注釈付きで大きく描かれている獣の絵が一匹ずつ載っていた。
それぞれ言われたとおり、蛇みたいだったり、歪な鳥というか羽のついたオオトカゲだったり、砂嵐と一緒にいる大イモムシだったり、不定形のスライムみたいな物体だったり・・・・
って、自分、スライムって思われてるんか。
まぁ、納得。
だって、自在に体を変化させられるってのはまさにそれだしね。
にしても、今朝の襲撃と魔獣と一体何の関係があるんだろ?
「実はミルエラさんがいる手前あまり一般の人に魔獣のことは言えないんだが、砂嵐が三人の男たちを消したことを今朝フィラ殿に言ったらその可能性を指摘されてね」
うん?でも、そもそも魔獣の生体ってあんましわかっていなかったのでは・・・・
「だから、さ。だから、可能性の話になるんだょぉ・・・・」
力なくも怖々と頭を抱えてうなってる。
にしても、砂嵐でそういう可能性がってことだから。
「ひょっとして、この中の砂の魔獣ってのが自分たちを狙ってるってこと?でもなんで?魔獣同士で争うんだ?」
「むぅ、理由はわからないよぉ。でもぉ」
「神話の内容にこんなおとぎ話、というか詩があってね」
と、ページを数枚めくった。
途中のページは残りの魔獣なんだろうなぁ。
まぁ、こうして自分が存在してるんだし、ほかの魔獣もいる以上それ以外にもいる可能性があるだろうに・・・・
どんなのがいるのか気になるなぁ。
ともあれ、今は詩だよね、詩。
そして所定のページをめくったときにただ一文だけ、ちょこんとその文だけが載っていた。
なんて書いてあるのか、言葉が読めないんですけども・・・・
「とりあえず、読みますけども・・・・」
と、ルネが読んでくれた文。
それを聞いて、なんとなくだけども、どっかできいたことがあるようなそんな気に囚われたがそれと同時に、背筋が寒くなった。
何それ。
薬の材料にされるよりもさらにやばいんじゃないのかな?
普通の人間相手なら遅れなんて取らないけども、同じような力をもった魔獣に襲われたならそれはガチでやばい。
でも、神話の時代からのもので、未だに続いているなら眉唾的なものの可能性もあるのではないのか。
そう思ったが・・・・
なんかルネの表情から楽観はできなさそう・・・・
なんで?
うん、ただ、もし、自分が狙われているというのなら、まだ対処はしようがあるか。
とにかく、その砂の魔獣とかよりも強くなればいいんだし、それを目処になんとかすればいいかな。
あー、でも仕事もあるから基本的には夜のみか・・・・
一応、仕事のことも話したら村を味方につけるのはいいことみたいだし、そのまま仕事続けつつ修行していくことにしよう。
うん、だって・・・・
『七つの獣 喰いあいて 天地の定まりとせん
其は偉大なり 其は全てなり 其は統べる糧とせん』
だから、ね、
食われてたまるもんですか!!!
あすの分はまた、ちょい更新遅れしますわ。夕方までには投稿しますわん☆




