~三十里霧中~ 初めての実戦
慌てて、声のする方へかけていく。
つとさっきのルネの「頭を下げて」という言葉に、この家の周りの手すり兼柵のような囲いの形状を思い出し、何か壁になるような何かはないかと思ったが、つと触れた扉を思い、内心ごめんと思って、えいとばかりに扉を外した。
けっこう簡単に外れたのでつくりは存外簡素かもしれない。
あとで直すからと思いつつ、脇に抱えて玄関へと急行した。
「ルネ」
「ラス」
とりあえず、持ってきた扉で壁を作り、お互いに声をかけあってからまわりを一瞥して状況判断する。
ちょっとばかり、ルネから扉を見て目を丸くしたような感じだったけどしょうがないかとばかりに苦笑してから顔をひきしめた。
「なにがどうなってるの?」
「わからん。だけど、何かを追ってここまで来ているのは確かでおそらくはその拿捕が目的じゃないか?」
「何かって?」
心配そうに倒れている二人に寄り添っているミルエラさんを見たが、ルネは首をふった。
「いや、それならここに来る間に襲われているだろうから、むしろ狙いはこっちではないか?」
そういわれると確かにそれのような気がする。
でも、そうなると目的はルネということか?
わからない。
ストっ、ストっ
扉越しに矢が飛来する。
とりあえず、現状をどうにかするのが先決だな。
「ラス、頼めるか?こっちはこっちでこの人たちとそれに」
抱っこしているヒィロちゃん。起きてはいるが泣きもせずじっとルネに抱っこされている。
まぁ、こういうときは助かる。
こっちもおもいっきり動かして昼間の成果を試してみるか。
言われずともやれることはやってやろうじゃないの。
「おぅ!」
にっと笑って壁の向こうへと駆け出した。
と同時に索敵開始。
感じる気配は全部で後ろの五人を除けば、階下に二人、木の上に一人。
計三人か。
さっきミルエラさんが来た時には感じなかった気配が随分とある。
常時発動できているものでもないだけに仕方がないのかもしれないが、それでもこれだけの人数が感知できていなかったのはちょっとひどいかも。
うん、なんとか常時発動できないか特訓しないとね。
もちろんこれが終わったあとだけど。
まずは階下の二人をどうにかしないとね。
ツリーハウスは螺旋を描いたような階段の作りで、上に行くにも下に行くにもそれを使わなくてはならない。
でないと、無理に木登りしようとしても結局階段に阻まれてしまうので意味がない。それに底を避けても不自然な形になって音がなってしまうような仕組みになっている。
よくできた家である。
で、階下の二人は玄関付近に一人と真ん中に一人、なんかこっちを向きつつも態勢を整えているみたいな格好である。
ルネさん何度か迎撃でもしたのか?
とにかく、それなら初戦ということで動きを封じさせてもらいます。
「ぬぁ、また来やがったか」
立ち上がってぼやく声は男の声。
顔は黒いずきんで隠しているから判別はできず、全身黒ずくめの装束で闇に紛れているがそれでも目だけは出ていてそれが月明かりで反射して光って見える。
それが殺気をはらみつつこちらへと迫る。
なんか、片手に短剣まで握りしめてやってくる。
ちょっと怯みつつも、歯を食いしばって恐怖を押しとどめて、神経集中。足元を掴むイメージで。
霧が男の足を包み込み、それが白い帯のようになる。
男が前にでようとするとつんのめって態勢を崩した。
そこへすかさず走り寄って腕を横なぎにして男を殴りつけた。
こっちは階上にいるから階下にいる男へちょっと間があるけど一足飛びでいける。
「ぐぁ」
男が一声叫ぶと階段の手すりにぶつかる。
短剣が手からこぼれ落ちる。
目線で短剣をみて、霧でできた足にから見つけていた白い帯で今度は短剣を外へと弾く。
この間短剣が足元に落ちるまでの間である。
そして、今度は男との立ち位置が上下入れ替わるとくるりと向き直って男の足をつかみ、霧の帯で男の体を引っ張らせて柔道の背負投のような要領で投げ飛ばした。
ちなみに帯は木に絡みつかせてバネのような要領で引っ張らせたからそんなに力をいれなくてもどうにかなる。
面白いように男が階下へと飛んでいく。
さっきの男も自分とそんなに体格変わらないけど筋肉は掴んだ感じでかなりありそうだったし、それでもあんなふうに投げ飛ばすことができた。
うん、なんとかなりそうだ。
時折、矢の飛来音がしたが、ルネさんがどうも家の周りで走り回ってあっちこっちを牽制してくれているみたい。
ヒィロちゃんがいるのにどうやってるんだろ?
落ち着いている状況だったからミルエラさんに任せたか?
まぁ、今はとにかく目の前のことに集中しないと。
階下まで降りると倒れて気絶している男とそのそばで身構えている男の二人。
だが、それを確認したと思ったら、そばにいた男がこちらを見た瞬間にいっきに距離をつめてきた。
ちょちょちょ、なにその速さ?!
煌く短剣がこちらに迫る。
慌ててバックステップと同時にさっきまで使っていた霧の帯を自分にくっつけてそれを一気に後ろへと手繰り寄せた。
ぐんと不自然な飛び方で後ろへと下がる自分。
その様子にどこか距離をつめてきた男が驚いたような目をしたがそれでも、すぐに無表情のような冷静な目になってこちらをにらみつけてきた。
昨日の夜、か、フィラさんから霧化できて自分が『物理無効かな』って思ったりしたはいいけどやはり反射的に斬られたりするのは身構えもするし逃げもする。
そういえば、その辺はまだ試したことないし、そもそも自分を切り刻もうとかいう発想はそういえばなかった。痛かったりして動きを止めて取り押さえられでもしたら目も当てられない。
一応、さっき、男を投げ飛ばしたり、それに自分をこうして引き寄せたりした自衛用に編み出したものの一つ、霧の帯はそれなりに役に立ってくれている。
動きも変則的にできるし、もしかしたら、やりようによっては三次元的立体機動ができると思う。
まだ、伸ばしたり引いたり巻きつけたりという位しか試していなかったけど、使ってみた感触でいけそうである。
武器はそれ以外にもあるけど、今はとにかく理由というものも知りたいから無力化して捕縛できればそれが一番かな。
理由吐かせないと。
そう思って動かない向こうの状態を見て今度は自分が相手に距離をつめ、さっきの霧の帯を背中から右手に持ち替えて、鞭のように振るった。
鞭なんて使ったことないけど、巻きつけたりひっぱたりできるとイメージしてある程度は誘導できる。
思ったとおり、男は鞭の動きとしてしなりから動きの予測をして後ろへと下がった。
だけど、甘い。
蛇のように帯はうねり、軌道を変えて相手に迫る。そもそも、帯そのものも長さの伸長自由に変えられるのだから逃げても無駄よ。
そのまましゅるりと後ろに飛び上がった男の足に帯が絡みつき、それを見て帯をもった腕を上に振り上げた。
同時に帯が上に持ち上がり、男は弧を描くようにして飛び上がり、やおら、腕を振り下ろして男を地面に叩きつけた。
「がはっ」
大きな息を吐かせて衝撃と痛みでのたうつ。
見た感じ、戦闘続行不可のよう。
しばらくは動けないはず。
その隙に帯を二つに分けて二人の男をぐるぐる巻きにしてやった。
とりあえず、こっちはおっけーと。
続いてさっきから向こうでルネと矢の応戦をしている男をどうにかしないと。
どうも木々の合間合間を器用に飛び回っているようだ。
多分、この二人が前衛であっちの矢をはなつほうが援護して突っ込む予定だったのかもしれない。
今の所どうも変則的に打っているようだが矢を放つものは一人のようだ。
こっちは二人取り押さえたからもしかしたら矢のやつは逃げるかもしれない。
それはちょっとおしい。
捉えられないかな・・・・
「ラス、そっちはだいじょうぶか?!」
家のほうで声がする。ルネの声だ。
「大丈夫!」
どう一声かけてからふと、声の伝達で向こうにいろいろ悟られて逃げられたらどうしよう?
それにぐずぐずしてるとこっちの状況がばれてそれで逃げられるかもしれない。
どうしようか。
索敵するにしても周囲の木が多くて気配は探れても正確な位置となると少しの間集中して一本一本しらみつぶしにしないといけないし。
どうしようか迷っていると、木の上の家から矢が一本、とある木へと吸い込まれる。そこの木が大きく揺れ、次いで隣の木が大きく揺れた。
あの木か。
左手を掲げて、一本の木全体を霞のように白くさせるイメージを展開。
木の周囲が濃密な霧に一気に覆われる。
なんか展開が速く感じるけど、今はその速さに救われる。
木まで一気に詰め寄って索敵する。
いた。
正確な場所さえわかればこっちのもの。
霧散している霧を凝縮して、それでもって男をしばりつけた。
ちなみに、縛って遠くにいるもののその感触がわかり、こちらも男とわかった。
とりあえず、男を降ろして全員一つところにまとめるか。
初めての実戦で、無我夢中だったところもあったけど、終わってみればあっさり・・・・
ほっと、安堵の息を吐いた。
とにかく理由をこいつらから聞き出しますか。
明日はコミケに行き、ちょいと遠出になるものなので次回更新が遅れます。
夜になるかもしれませんのであしからず・・・・・




