*ルネ視点* 本当の護衛
「ふぅ」
預かったヒィロを包むように抱きつつ、一息つく。
どうにもあのようなぎくしゃくした雰囲気は苦手だ。
それに賑やかすぎるところもどことなく遠慮したいところもある。
静かなところでゆっくりと本を読んで知識欲を満たす方がどれほど心地よいものか。
まぁ、いい。
この子自身も安堵したように眠っている。
私自身にこれほどなれてくれている様子は素直に嬉しいものだ。
あまり乳児を抱くような機会はないものではじめは怖々であったが、今はもうこうして抱かれて眠ってくれるまでになれてくれた。
わりと人懐っこい子である。
警戒心が強いのははじめだけ。
でも、だいじょうぶと心から語りかけるように触れていけば徐々に笑顔を向けてくれる。
時間は関係なく、密にすること。
人との触れ合いはそれに尽きるかもしれない。
そもそも、ルイナにいる間は多少年上であれ同輩がいて話せてもここではそうもいかないし、気も抜けないものだからな。
にしても、
今回のミルエラの訪問に関してはなんとなく察しはつく。
基本は仕事内容を伝えることと適性を見ること。欲を出せば、自分のいる部所を優位にできればというところか。
ただ、おそらくは内心ではそれ以上のものを抱えているだろう。
というかラスはどうして気がつかないのか不思議なのだが、あれはどう見ても好意を寄せている目である。
私自身にも経験はあるが、あのなめるような品定めするような目にはどうしても好きにはなれない。
関係がこじれて私の目の届かないところで刃傷沙汰だけは勘弁して欲しいものだから。
ともあれ、ミルエラが護衛として連れてきてくれている二人も面識があり、この二人はいい。
ただ、ラスはさらっと言っていた。
確か少なくとも『四人』いると。
ミルエラとあの護衛の二人はわかった。
合わせれば三人いる。
それにそれ以外に声をかけたり目線を送ったりする様子もない。
では、あとの一人はいったいどこにいる?
ちらりと扉の向こうをみたくらいだし、自分の身間違いや、見えない死角にいる可能性もあったが、立ち位置や目線など、その場にいる人の雰囲気はあの三人のみしかなかった。
ラスの索敵の間違いか?という可能性もなくはないが、あいつは霧の魔獣の力を有して、昼にその力の顕現をさんざん調べていたはず。
昨夜語っていた時にも、笑顔で、まるで新しいおもちゃをもらった子供のように、純粋に私にできた力の種類を話してくれた。
なんといったらいいのか、どの力も、人が有するには桁が違うものばかりだ。
しかし、どれだけ力をもっていようともどうも根は争いとは無縁のようである。
もしかしたら、護衛としてついてきているとしてもそれぞれいる距離など、大雑把にしか見ていないのではないのではないだろうか。
それに常時気配を察知できるといっていても、どこまで『常に』気配が察知できるのかわからない。
常に気を張っているわけにはいくものでもないだろうから。
だとしたら、まずいな。
少しだけ、気になる点で、このまま何もない可能性もあるが、こうして尾行されているとなるとここを出たあと、何かが起こる可能性があるかもしれない。
こういうときにフィラ殿がいればどれだけありがたいことか。
冒険者時代に培われた、そして、今でも色褪せることのない知恵など手助けして頂ければ。
意見の一つの聞きたいものである。
とりあえず、危険のない範囲として、こうして木の上にいる以上は対応もどうにかなる。
木に備え付けられている階段以外から登られていれば不自然な音がするように設計されているので、気づくがそれがないので、私とラスをのぞく三人以外は誰も登ってきてはいないだろう。
少しだけ、ベランダから外へ出て、護衛の二人から探りを入れてみよう。
ヒィロはまだ胸の中で寝ているがおいて一人にするのは不安があるな。
ふむ、外套が傍のチェストの中にあったし、それを羽織れば二人暖かくできるだろうな。
無駄な心配に終わればそれに越したことはないのだから。
二人が面談して会話する声をよそに邪魔しないように外へ出る。
二人はそっとしておこう。
それなりに弾んでいる様子だしね。
外套を羽織って、ベランダに出て外の様子を眺めやる。
暗いがそれでも月明かりでわかる。
別に変わった様子はない。
ないが、なんとなく胸騒ぎだけが残る。
下の様子を確認する術が今はないのでしようがない。
とにかく、ベランダから玄関へと細い道を伝う。
木の柵のようにしている扉を開けて玄関へと回り込み・・・・
護衛が二人あぐらをかいているのを見て、声をかけてみようとした。
が、そのあぐらの掻き様にふと、不自然な様子を見た。
うつむいて顔の表情が伺えない。
ふたり揃って話しているような様子はない。
二人共に面識時はそれほど寡黙な雰囲気はなく、むしろ陽気な二人であったはず。
あぐらをかいていても二人向かい合っていれば話ぐらいはしているはずなのだが、まるで彫像のように動かない。
「えと、二人共、どうしましたか?」
そう、声をかけ、あたりに気を配りつつ、そばへと近づく。
が、返事はない。
もう一度さらに近づいて、声をかけたが、それでも返事はなくうつむいたままだ。
不気味な様子である。
「ちょっと、おい!」
強めの声と共に肩をゆする。
その反動で首がかくんと揺れる。
そして、よだれが口元から流れ落ちる。
「おい、しっかりしろ」
かなり、強めに肩を揺すったが反応はなく、揺すった動きでバランスを崩したか横へずるっとずれて倒れこんだ。
死んでいる?
いや、なんというか寝息を立てている。
横にいる別の護衛もそうだ。
護衛が二人共に寝てる。
不自然極まりない。
「どういうことだ?」
ヒィロを抱く力に力をこめ、倒れた男の体を目視で調べる。
別に大きな傷はない。
だがむき出しになっている首のあたりに刺のようなものが刺さっているのに気がついた。
吹き矢の一種か。
こんな暗い中で正確にあててきているのは並大抵ではない。
この付近でできるとしたら・・・・
思い当たるのが本当であれば、あたりへの警戒を一層強める。
それがよかったのだろう。
風に紛れて不穏な気配。
横にステップをふむ。
ストっと柱に何かが突き刺さる音がした。
男の首筋に打たれたものと同じ刺。
それをみやり、目線を射線上の向こうへ向けた。
一本の木の上のあたりか。
木陰や闇に紛れて姿は確認できないがそこから打ち込まれたものだろう。
こちらからは手すりがあってもむこうからは丸見えの状態。
身を大きくかがめて横に移動しつつ、さっきの出てきた扉まで退く。
「いったい、何が起こっているんだ?」
そう小声で呟くや、階下から誰かが登ってくる音がした。
うん、打ち込んだやつ以外でもまだいたか。
そういえば『少なくとも四人』だったか?
つまり、身を隠すのがうまいやつがほかにいたということか・・・・
もう少し、はっきりした索敵を身につけてもらいたいものだね。
穴がないようこれが終わったらラスに注意してやらなきゃな。
手早くベランダに戻り、吊るしてある、予備の弓と矢、それに小さめのナイフを持ってくる。
この間、一息の間。
それだけで十分。
待ち構えながら装備して、来るであろう招かれざる客を待った。
とりあえず、この場で不穏な様子があれば応戦するしかないな。 矢の数を確認しつつ、扉を遮蔽物として用意。
向こうに気づかれないように中の二人にはあえて今は声掛けはしない。
まだ、話し込んでいるようだし、むしろ中にいるほうが安全か。
こっちはこっちで、なんとか対処していくしかないな。
ま、なんとか頑張るか。




