~二十一里霧中~ 避難所での出迎え
さて、改めて避難所である。
というか、何度も心の中で『避難所である』と連呼させている。
避難所避難所避難所・・・・と
うん、ここは避難所だ。
連続した木の柵で周囲を囲われ大きな体育館みたいな木造の建物がいくつも並び、中心には集会所と井戸も複数。
普通に村よりも大きめの集落規模で普段は前世で言う公民館や鉱石堀や旅人、または臨時の代官職などの一時宿泊施設として利用されているところ。
そういうところだから、今は争いで住民が避難してきて賑やかであるのは認めるがけっこう事務的なにおいのするところであるのは確かだった。
昨日、ヒィロちゃんが母乳をもらってた、母親コミュニティのあった建物も確認したし、どうみても昨日きた避難所だ。
だけど・・・・
入口の周りに下げられた大きな垂れ幕と幡、加えて入口に何やらデンと両端にピンと張られた幕に何やら大きな文字が書かれて、それ以上に
何やら期待をする眼差しでこっちを見ている村人衆がいた。
そして、何やら入り口付近で叫んで中の村人たちを呼んだのかどんどん入口付近にてその数はましていっているように見えた。
「?」
一歩その光景を見て後ずさり、何が何やらよくわからない気分に陥った。
何が始まるのか、ヒィロちゃんを抱っこする腕に力がこもった。
だけど、今回の自分はちょっと違う。
何かあれば対処出来るだけの方法はある。
霧の特性を使えば、逃げるくらいのことは・・・・
「大丈夫ですよ」
にこっとルネが言った。
「昨日、移住の件についてお話してだいじょうぶとお話しましたが、こういうことです」
え?どういうこと?よくわかんないんだけど?!
「構えられた幕にもありますが急ごしらえですがよくできています」
まぁ、できているできていないという光景ではよくできている光景だが、そもそもこの光景がどういうものなのかを問いたいところだ。
「えーと・・・」
幕には何やら文字が書かれていて途中一枚余分に貼り付けてある布があり、それにも何やら文字が書かれていた。
文字はハングル文字のような象形文字のような、少なくとも法則性のある文字であった。
ただ、なんて書いてあるのかは読めはしなかった。
何語?
「ごめん、なんて書いてあるのか読めないんだけど」
手をぱんと合わせてルネに教えをこう。
「ああ、話しててつい失念してました。えっと、『ようこそ我が村へ、ラス&ヒィロちゃん』ってありますね」
「はい?」
なにそれ?異例の歓迎ぶり?
昨日一日で何があった?
「えっと、移民の件についてですが、先ほど道中で話しましたけど、職についてで、都市はよく職を求めに行く話はしましたよね」
「ええ」
そのまま歩き出す。
村の入口へ。
「ただ、そう言う人は都市に居着いてしまう人もけっこういたりします。で、村へは一時的に稼ぎに来る人はいてもそのまま居着く人はそういないんです。村の人の数はそのまま村の力。そういうわけで移住に関しては非常に寛容なんですよ」
いや、寛容といってもこれってそれを越してすごい歓迎じゃないの?
「まぁ、確かに、これはどういうことなんだろうな・・・・普通は村長に話をして終わりなんだが・・・」
と、村の入口前までついて歓迎ぶりに拍車がかかる。
「おお、ようこそ」
「待ってましたァ」
「お越しいただきありがとうございます」
「おお、歓迎だぜ」
あちらこちらから来る歓迎モードに嬉しいどころか警戒色がばりばり出るんですけど。
なにこれ?イタリアマフィアなんかは殺したい相手に贈り物をするってきいたことあるけど、まさかそういう系ではないよね?!
「ささ、ラス様ですね。どうぞどうぞ」
と、一歩前へ出てきたのはいかにもお偉いさんといった感じの初老をやや超えた男性だった。
別に勲章をじゃらりと下げていたりふんぞり返って歩み寄ってきたわけではないが、自然とにじみ出る雰囲気、軽く羽織った灰色のローブにもっておる硬そうな樫の杖。賢者かタロットの隠者みたいな様相でその目には力がこもっている。
その男性が妙にフレンドリーに接してきている。
全然接点ないんだけど、どういうわけだろう?
名前まで知ってるのはどうして・・・・
「長殿、これはいったいどういうことですか?」
ルネさんが男性に問いただす。
ふむ、やっぱり、村長さんなんだ、この人。
「おお、ルネ様、言われたとおり移住したいものを歓迎する用意ですが」
「いや、それはわかるがこれはちょっと度を超えているのでは」
「いやいや、ご謙遜を。ラス様は非常に優秀な方だそうで、その方を迎えるにこのくらいは大した歓迎にも入りますまい。むしろ貧相で申し訳ないとすら思えるくらいで」
え?これで?村人のほとんど集まって紙吹雪やらもまいていてちょっと目を凝らすと、中心の集会場めいたところは宴会用意が整っているかのような様子で貧相?
いや、そもそも、優秀ってここへ来たのってヒィロちゃんのおっぱいをもらいに来ただけでそれ以外何にもしていないというのに。
「いや、長殿、ラスはそんなに仰々しいのは苦手かと」
あ、『殿』がなくなってる。って、まぁ、道中時間に話してていつまでも『殿、殿』呼ばれるのもなんだかなって思って呼び捨てで構わないよって伝えてはじめは渋ってたけど、こっちもフレンドリーに「じゃぁ、こっちもルネって呼ぶからいいよね。頼むよ」と笑って、でもけっこう考えてみたら森林官に大して妙に尊大すぎたかと内心ヒヤヒヤもので言ってみたがルネも「あ、いいでしょう」と承諾してくれた。
やっぱりこういうときさん付けはよそよそしいものね。
憧れてたのもあったけども。
で、自然と自分以外に対しても出たってことは意を汲んでくれたかってところである。
やっぱり、いい人だし、友人としていたいと心から思えるようになってるから。
だから、ノンケだからね。
「おお、やはりお互い認め合っている様子。これは余計に歓迎に身を入れねば」
って、なんか妙な墓穴掘った?
呼び捨てでいくのにこんなに盛り上がるものなの?
ルネもなんだか怪訝な表情してるし、ほんとうに状況が飲み込めていない。
んー、ここは自分がきいたほうがいいかな。
「えと、すみません、ちょっと自分からも聞きたいんですけど。どうしてここまで自分を歓迎してくれてるんですか?」
小首を傾げながらきいた。
「なに、理由はすぐにわかりますよ。ここで立ち話もなんですからどうぞどうぞあちらへ」
と、村長は宴会場へと向かい始めた。
それに伴って村人たちもにこやかに「どうぞどうぞ」とルネ共々誘って歩き出している。
まぁ、どういう理由かは知らないけど、ちょっとぶらりよったつもりの避難所で唐突な歓待は疑問しかわかない。
でも、行かないと理由もわからないし、今後、ここに居着くとなれば余計に内情という村人から自分に向けられている感情が何かを知らないといけない。
この世界についてよくわからない以上、下手なことして反感を買うことだけは避けないといけない。ただ、今ここに伝手ができそうな種があることだから、拾わない手はない。拾ってから慎重に吟味して詮議すればいいことだしね。
今後につながることなれば、虎穴に入るつもりで行ってみますか。




