~十八里霧中~ 着替え
「ん?!」
ちょっと目を向く。
ただ、あくまでもちょっと目を向いた程度であった。
どろんと服が消えて、少し固まりはしたが、寸の間考えた。
消え方に特徴があったからというのがあった。
霧散した、とでもいうのか。
ということで、さっきフィラさんが言っていた。霧の特性というのを思い返していた。
『自分の体を変化させる』ということ。
『体』というのがどこからどこまでを定義するかによる。
基本的には頭から足先まで、ようは今の自分の状態でのことが体とするけど、でも、ふとこの世界に来た当初のことを思う。
霧の竜ははっきり言ってた。
「・・・魂のみとなったものを引き寄せ・・・」
と。
つまり、あくまでも魂のみであって、肉体にしろ衣服にしろ向こうの世界からもってきたわけではないということ。
ではどうやって?
一度この世界に来て全身を探っていたことがある。
そのときか。
向こうでは『こうだった』という意識が現実として作用して衣服として纏わせた。
「要る」という考えとしてきていられたわけだけど、こうして脱いで「着ていない」と思ったら副そのものが消えてしまったということ。
で、もう一度服を着よう、ゼンラーマンではさすがにいろいろやばい。
では、もう一度衣服を着てみるか、ということでちょっと考えていたのは自分自身の霧化である。
人間、どうやって手を動かすか、足を動かすかは無意識で行っていたりするのもある。
癖なんかそういうところで出たりするしね。
手をじっと見て「ぼやける」意識づけてみる。
寸の間「無理だったら・・・」と不安が頭をかすめたが、目の前の視界がぼやっとしたような感じになった。
うん、手がぼんやりとしてきた。
では腕のあたりはどうかと見るとちゃんとピントがあっているかのようにしっかりとしている。
手のボヤけと相まって妙な違和感があるがそれでも自分なりの実験は成功したということだ。
となれば、その手を再構築する際にそのまわりに手袋をはめてみるとイメージしてみた。
そうしたら・・・
はい、軍手をはめた手の出来上がり☆
わりとゲームをしていたのでアイテムができる瞬間を想像してやってみて、軍手と一緒にそのまわりに星がきらめいたようなエフェクトまででてきた。
それでもきちんと想像した通りのものができたのがちょっとすごい。
その要領で今度は全身を構築。
イメージするのはさっきのルネさんの服装。
それでいくと・・・・・
しゅっと考えるのは戦隊ものとかどこぞのバッタのヒーローとかの変身シーン。
そうして、「よっ」とばかりに気合入れて想像してみると、さっきの星のエフェクトとは違うが一瞬ぴかっとカメラのフラッシュのように全身が光ったら、次の瞬間にはその光が収束してルネさんの服装と瓜二つになった。
ちょっと、これってすごく便利。
変身ヒーローになった気分。
前側、確認。
後ろ側、確認。
うん、ちゃんと着れてる。
どっかのおぼっちゃまみたいなことにはなっていない。
きちんと全部が全部服になってる。
腕を振ってもちゃんと服の感じになってる。指でひっぱってもしっかりとした触感になっている。
試しに、服はこのままで軍手になっている手を普通の手に戻してからすっと指のあたりだけ変えてみる。
ちょっと望んだ指だけでなくそのまわりもぼやっとなってしまったが、それでもまた収束して星エフェクトともに指の形状というかちょっとしたアクセサリーが加わった。
何もなかった指に小さな指輪。
はめている指は左手の薬指。
うん、未練というのは確か。
この世界でもこの論理が通じるかはわからないけどそれでも、この指輪は自分にとっての心の有りどころのひとつ。
これはもうこのまま固定してしまうということでじっとみてからぐっと握りしめて気合を入れ直した。
「ん」とばかり首を振って、気分入れ替えてヒィロちゃんの着替えに勤しんでみる。
ヒィロちゃん、さっきの光見てびっくりしたかなと思ったが、べしゃっと枕に横顔つけて「うーうー」言ってお尻をふりふりしてる。
うん、平気だね。
さて、ヒィロちゃん自身もまた魂のみでここにきたけど、服に関してはまぁ、このくらいの子はどういうものをきているのかあまり実感がないだろうけど、多少手から離れてもこうして着ている。
自分が着せたままにしていた寝巻き姿で。
意識は常に向けていたからかな?
寝ている間がどういう形だったのかはわからないけど、でも、きちんと思っているのを着ているところ見ると離れても維持はできるということか。
意識を外すというのはちょっと出来るかと思ったけど、ベッドに乗せてそれはちょっと危ないと思い、逆に服のみを変えられるかじっと見つめてみた。
視線のみでいけるかちょっとわからない。
で、しばらくじっとみていたがちょっと無理であった。
もとの寝巻きのまま。
「んー?」と、そばによって抱き上げる。
直に触れてはどうか?
イメージはいま自分が着ている服のミニバージョン。
そうしてじっと見つめ続けていると今度はすぅっとヒィロちゃんの首から下が光り、戻った時にはいま自分が着ている服のミニバージョン、かわいいぴったりサイズが出来上がってきていた。
ちょっと、これはすごい。
民族衣装というか、まぁ、きるのに「どう着たらいいんだろ?」という部分もわずかながらにあったがそれもあっさりとクリア。
特に、赤ちゃんの着替えってけっこう大変である。
まず、よく動く。
足やら手やら動き回るものだから、実際に着上がるのにかなり難儀することがある。
機嫌が良ければ素直に受けてくれるがこれで機嫌が悪ければ泣きに泣いて泣いて泣きまくって、終わったあとはげんなりしてしまうものであった。
だが、そうい面倒がなく、さらっと着替えてしまえるのは画期的なものではあった。
これ、かなりいいスキルかもしれない。
着せ替えるのにとても苦労しているママさんは多いみたいだし。
ただ、若干の触れ合いの乏しさからくるさみしさが付随するのはあったけども・・・・・
ま、何はともあれ、言われなかったちょっとした能力であるがそれはまぁ当然かもしれない。
「どんなふうに着ていますか?」って聞くのも変な話だしね。
とりあえずここを出よ。
いつまでも寝室にこもっていても妙な話だし、着替えについては、けっきょくベッドの上に置いたままではあったけど素直に返してありのままを言おう。
自分が霧の竜であることはばれているんだし、一つ二つ変な異能が加わっても多少の驚きこそあれ、もう知った瞬間ほどの驚きはないだろう。
ヒィロちゃんの頭をなでて着替えはとって小脇に抱えて部屋を出た。




