~十三里霧中~ あなたの価値はいくらですか?
「霧・・・・まさか、霧の魔獣!?」
ルネさんが腰を低めて警戒態勢を取る。
ちょっと、何?いきなり霧さんって言われてその体勢取るの?
戸惑う自分をよそに事態は深刻な状況へ・・・・
「もう、ルネ様のお・ば・か・さ・ん☆」
行く訳もなく、なんていうか流れブレーカーとばかりにえいっとルネさんの頭にチョップを決めた。
「少しは冷静になってくださいな。魔獣魔獣っていうけども、霧さんは優しい魔獣さんだって前にも言ったでしょ?」
「ですが、魔獣は災厄の源。歩く災害とも言われています。しかもそれが<あの>霧の魔獣ですよ。それが目の前にいると言われては」
「じゃぁ、ルネ様、目の前にいるラスさん、でしたっけ?どう見えるですか?」
ふたり揃ってこっちを向く。
何?なんかの審判に立たされてる?
オドビクついているのかしら・・・・仕事でもあまりこういうのはなれないものだったなぁ・・・・・
「まぁ、確かに、危害という観点からは程遠いところですが」
なんか馬鹿にされてる?!
「ね☆それにもともと彼女のことはそこそこは知っていたもの。それに彼女の雰囲気がこの人に流れてる・・・・・ルネ様、何か知っていることはないかしら?」
「ああ、まぁ、それを私は少し聞いてみたいと思っていましたからね」
つと、弛緩した空気が流れ、フィラさんがにこやかにどこやらか出した大きめのバスケットを取り出して、テーブルの上に乗っていた書類をひとまとめにしてから、中身を取り出して並べ始めた。
美味しそうなハムとチーズ、それに葉物の野菜を挟んだたくさんの白っぽい丸パンのサンドイッチ、ローストビーフの塊に、卵。ゆでたものなのかけっこう固そう。あと、木製の筒とコップを取り出し黄金色のでも透明なスープを注ぎ込み、これも中にあった小袋に指を突っ込んでスープにかけた。香り付けかな。バジルとかかしら?
みるからに食欲をそそりそうな食事類である。
それと、それ以上に温かみがある食卓であった。
「とりあえず、お互い腰を落ち着けましょ☆」
にこっとフィラさんが微笑む。
なんか、口調はともかく、前世の存命時の田舎のおばあちゃんを思い出す。
それを思い出し、自分も朗らか気分になっていく。
「はい」
三人揃って席に着く。
ちなみにヒィロはそのまま抱っこされたままである。
「ちびちゃんは、そうねぇ。もうちょっとだけ大人の難しいお話するから、もうちょっとだけねんねしててねぇ」
抱っこされているヒィロの頭をなでて顔の前に中指と親指をちょんちょんと触れ合わせてあやす。
すると、さっきまで起きていたのにまたうとろうとろとして、また眠っていった。
「ふふ、なんだかなつかしいですわ。またこういうふうに赤ちゃんを抱っこする日がくるなんて。確か、ルネ様もこんな感じであやされて穏やかになっていったものですわ」
「そ、それはちょっと話すのはこの場では」
なんかやたら照れている端正な顔のイケメンはこの場合かわいいと表現すべきかしら?
まぁ、知的体育会系な雰囲気もあるし、そういう表現もありか。
何があり?!
「はいはい、ルネ様はわがままさん。さ、とりあえず食べましょう。えと、ヒィロちゃんよね?」
「はい、そうです」
「ふふ、そんなにかしこまらなくてもいいですよ☆」
「いえ、でも、えっと」
ルネさんをちらっと見る。
「ああ、ひょっとして師匠とかいうお話かしら?だとしてもそんなに堅苦しくなくてもいいよぉ。ルネ様は昔から堅苦しかったけどねぇ」
「はぁ、まったく」
片手で頭を抱え嘆息しつつも、四脚あり二脚ずつ向かい合わせになっている椅子でごく自然に隣同士に座った。
なんのかんのいってもいい師弟関係なのかもしれない。
「んじゃぁ、お話をしていこうかしらね」
にこやかに言うフィラさん。
ただ、さっきまではわざわざ和やかにしてくれていた雰囲気が一気に緊迫化する。
ご飯を食べると言いながらもその手は全然食事に伸びない。
「まずはラスさん自身のことかもしれないけども・・・・そもそも貴方はどこからきたの?それを教えて」
そう言われても言葉がつまる。
『別世界からきました』って言ったところで何をゆめみがちと言われるのがオチだろう。
実際にこうして体験するまでそんな荒唐無稽な話は物語の中のみと思っていたのだから。
でも、ルネさんには難民といったのにこうして一目あったフィラさんにはさらっとばれている。
どうしよう・・・・
っていやまてよ。
これってある意味好都合なのでは?
なんとなく今の自分のことがとんでもない秘密ではないかという思いにとらわれすぎていていうのをはばかられていたところがあったが、少なくともこの人ならだいじょうぶかもしれない。
それに今の自分には何であれ情報が欲しいところ。
なら、いっちゃおう。
どっかで賭けないといけないし、これがこの世界での私の初の賭けだね。
「難民、というのはうそではありません。でも、ほんとうのことでもありません」
ひと呼吸。
「確かに、私は霧の魔獣、というよりも『霧竜』というものからその身を託されたものです。ヒィロは多分、その子どもです」
「断言するのね」
「はい、我が子ともいいましたし、そもそも本人自身が頭に直接語りかけてきましたので」
それだけ言い切るとちょっと脱力してしまった。
さて、どうでるだろう。
さっき、ルネさんが『魔獣は災厄』っていっていたこともありこのまま何かひと波乱あるかもとしれないと身構えた。
ヒィロは向こうの手の中にいる。
でも、信じたい、という気持ちもある。
ヒィロがあんなふうに安らかに寝ていることもあるし。
「うん、確かに、貴方の言うとおり、なのかもしれないわね」
深刻そうにフィラさんが目線を落とした。
「そうすると、もう、セティはこの世にはいないのね」
セティ?
誰?文脈からすると霧竜のことかもしれないけども・・・・
聞きたそうにしていたからだろうかこちらを見てまるで泣き笑いのような表情になった。
「セティっていうのはね、ラスさんが霧竜っていう存在の愛称みたいなものかな。ちょっとした友人だったのよ」
「ゆ、友人というのとはやはり違うのではないのですか?」
真剣な表情でルネさんがいった。
「霧竜が貴女になにをしたのかお忘れなんですか?」
「いいのよ。それでもお互いを知り、いろいろ話の合う人だったんだから、い・い・の☆それにそもそも悪かったのは私、というかこちら側だったんだから」
「ですが、何も貴女が犠牲にならずとも」
「もう何回もした話でしょ。もう、ほんとにラス様はわがままさんね。フィラちゃん、怒っちゃいますよ、ぷんぷん☆」
「いや、ぷんぷんて言葉で言っちゃだめでは」
ついツッコミをいれてしまった。
「あは、ごめんね、つい調子に乗っちゃって」
ぺろっと舌を出す。
「改めて、うん、ちょっと昔にいろいろとあった仲なんだけどもそのおかげでお互いにいろんなお話をする仲になったのよ。そのときに特性というのを聞いてね、お互い口外しないようにって約束ごとをたてていろいろきいたのよ。もちろん、私のひみつも交換してね」
今度は彼女が一息ついた。
「ルネ様、霧の魔獣についての報告、なにかあがっていないのかしら?」
「はい、どうやら密偵の報告から退治されたというのは聞いていますが」
「どこの国とかはきいてる?」
「いえ、ですが情報を総合しますとおそらくは両国ともう一国が合同で行ったとのことですが」
「そう・・・」
ちょっとちょっと、密偵とかそういう話、私の前でしていいの?
「ラスさん、慌てているようですけども、もう貴方は当事者の一方。今後、ちょっと心しないと危ういですよ」
げっ!
ってことはまじで危ういの?
やはり話をするんじゃなかった!
「なにか落胆しているようだけども、後悔はしなくてもいいですよ☆というよりも話してくれて良かったと思いましたわ。そのことはこれまでにお話したことは?」
「いえ、誰にも・・・」
「それならよかった。万が一他の人に知られてそれが各国の首脳に知れ渡ったらえらいことですからね」
え、えらいこと?
「最悪、ラス殿に向けて軍が進軍してくることすらありえますからね」
ぐ、軍!
なに?私の価値ってそんなに高いの?
「まぁ、懸賞金的なものまで出て賞金稼ぎとかまで出てくるでしょうけども私は、そんな輩どもに大切な友人を巻き込ませたくはないですからね。って、まぁラスさんはセティではないけど、でも、その身がセティから託されたものなら友人も同然だものね」
にこっと、微笑んだ。
「なら、貴方自身の自衛手段もしっかりと身につけないとね。そもそもあなた自身の価値ってわかるかしら?って、わからないかもしれないわね、その様子からすると」
まぁ、確かに、運良くいい人たちに巡り合えたからいいものの初めにあった人がどんな人であれ警戒は多少していてもほいほいとその人についっていっていたことだろうから。
「うん、ラスさんの体に流れている血、というか体液から肉、骨、その全てに至るまで不死の霊薬ともいわれているほどの万能薬なんですよ。傷を一瞬で塞ぎ、病の体もたちどころに全快する、ね」
・・・・・えーっと、それってわたしそのものが素材ということだから・・・・
いえー、前世人間からエリクサー素材にもなるレアモンスターに進化だぜ(←ヤケクソ気味?)




