~十二里霧中~ メイド『?』女
「ふわぁ、軽く聞いてたけども確かに興味深いものだわぁ」
口を可愛らしく開けるメイド老女。
なんだか異次元の存在のように見える。
って、ここは異世界なんだからそういう存在がいてもいいのかもしれないけども・・・・
茄子紺色のふわっとしたフリルエプロン付きのドレス。
白いソックスと黒いローファーが良いコントラストを描き出している。
頭にはヘッドドレスにその両脇から猫の耳。
時折耳が動くので実物なのだろうと思える。
自分に角まで生えているのだからさっそうそれが実物であることは疑いようがない。
髪の色は白色となっているがところどころ銀色が混じっている。
これがほんとうに幼女であるならばどこぞの電脳街とかでは即座にさらわれでもしかねない勢いのあることであろうし、事実そうだったのかもしれない。
でも、そのお顔は、年輪をしっかりと刻んだであろうシワと皮膚のたるみ。
くちゃりとした梅干みたいな顔つきである。
まぁ、別視点から見たら『かわいい』とか言えるのかもしれないけども、その『かわいい』はなんていうかこー、無邪気なものであって、女性としては残念ながら見れないというか・・・・・
まぁ、そういうわけだが、どうにもこー、自分の価値観とちぐはぐすぎて逆に凝視してしまった。
特に、そのミスマッチ感があまりにも自然すぎて逆に不気味に思えてしまうくらいであった。
それがこうして、端正なイケメンのルネさんの横に並んでいるところをみれば異次元度合いがますところだ。
介護施設ならあるいはこういうシチュもあっただろうけども・・・・
とそうだ、ご家族ということならありえるのかな。
「ほほほ、そんなに見つめられると照れちゃいますわ☆」
老女がのたもうた。とやおら、ハッとした顔で身構えた。
「はっ、ま、まさか、わたしに一目ぼれしちゃったとか?!やーーん、照れちゃいますわん☆☆あ、でもでも、わたしはぁ、ルネ様一筋ですからごめんなさいですわwww」
と、ぺこりとごめんなさいいわれちゃいました。
なんか思考がかたまってしまいそう。
「はぁ、フィラ殿、そのくらいでよろしいのではないでしょうか」
「ふふふ、ごめんなさいねぇ、ついついいつもの癖で」
ぺろっと舌を出す。
つくづくもう少し・・・いや、わりにかなりお若いときなら可愛らしい仕草だったろうに・・・・・まぁ、今は愛嬌があるということかなぁ。
「では、改めまして、ラスさん、わたしはフィルディエッラ。フィラって呼んでくださいね。多分普段遣いならそのほうがいいし、かわいいし☆」
「は、はぁ」
生返事でしか返せないよ。まぁ、いろいろ置いておくとして確かに呼びやすい方がいいのは自分も同感。
なら、そう呼ばせてもらいますかね。
「こほん、ええ、よろしく、フィラさん」
軽く立ち上がりおじぎをする。
ちびがちょっとふにゃふにゃいう。
下を見ると、あ、起きちゃったみたい。
「おやおや、めんこい子もいるねぇ。抱かせてもらってもいいかい?」
すたすたとにこやかにフィラさんがこちらへとくる。
あ、でも、この子、人見知りもあるし、ここで泣かれてしまうのはちょっとまずい。
「いえ、お構いなく。ちょっと人見知りがあるのもありますしお手をわずらわせるのも」
「ま、そういわない、のっと☆」
って、ちょっ、いつの間に懐に?!
しかも、お腹の辺りが軽くすかすかに
「おー、よしよし、ほんとうにめんこい子だなぁ」
にこにことフィラさんがいつの間に抱っこしたのかヒィロちゃんをしっかりと抱きしめている。
「え、待って、この子は・・・」
慌ててみたが、あれ?この子泣いてない。
それ以上になんかちょっとにこっとしているような気もする。
っていうか、現実にけらけらと笑ってる?!
初対面の人なのに。
「ほらね、だいじょうぶでしょ☆」
「え、ええ、まぁ、はい」
それだけいうのが精一杯だった。
また、あの霧をそれも目の前で表してしまうと、今こうしてにこやか和やかなムードもいっぺんに消し飛んでしまうかもしれない恐怖があったから。
波風立てないようにするは日本人の心の一つですからね。
一概にそうは言えないこともあるかもしれないけどね。
「にしても、本当に、いたんだねぇ」
「え?」
ふと聞こえたその言葉に怪訝な顔をした。
なにやら言葉に何か面妖な雰囲気をのせていたから。
そして、こっちをじっと見ている。
「フィラ殿?」
「フィラさん?」
不審に思ったのか、ルネさんもこっちを見てフィラさんを見た。
「ルネ様自身が興味をもったのは存外こっちじゃないのかしらん。言葉やそれに雰囲気もあろうけど、この子の場合、もっと異質な空気だよ」
「え?」
空気?何の話?
「わからないですか?」
「いえ、いったい何の話でしょう?」
ルネさん自身にもわからないみたい。なんだろ?
「はぁ、知識を溜め込むのはいいけどもそれを活用することもしっかりとしておかないとだめですよぉ☆前にもお話しましたでしょ?ルネ様はとてもとても優秀ですけども目で見たもの以外も感じないとね」
と、ウィンク一回、ルネさんに向けた。
何それ?何を一体行っているの?
「はぁ・・・・確かに、まだまだ、若輩ではありますけども・・・・」
なんかフィラさんの立ち位置がよくわかんない。
メイドさんってことはようは召使的な位置かなと思ったのにこの口ぶりだとなんか上の人みたいな・・・・
口調は変わらずだけども。
「あの、フィラさん。フィラさんってどういう方ですか?」
おずおずと聞く。得体の知れなさがあるだけにちょっと、ね。
「ああ、ルネ様の、まぁ、言ってみればお師匠様ポジションってところですわ。ラスさん」
にこっと笑顔で言う。
師匠って、えっと、どういう師匠なのかしら?
「ああ、言わんとしていることはわかりますわよ☆武術とか知識とかいろーんなことの先生だったからね。ねぇ、ルネ様」
「は・・・はぁ」
ルネさんまで生返事。
『様』付なのにほんとうにどういう関係なのかな。
「で、本題」
急に真顔になる。
「本当にあなたは、だぁれ?」
真顔のまま小首をかしげる。
「誰って、それは・・・」
「本当に、誰?霧さん」




