*ルネ視点* ルネの日記
ルネディク=エインバークの日記より
(正確には現在日記を書いている人の思考の中より)
風鳥の月 中の15日
寒くなっていく今日、面白い人を見つけた。
子連れではあるが、興味を引く対象だった。
もともと、ルイナからの派遣でこの地にきたわけだが、調停を重ねてもなかなか争いが終わらない。
何人かの密偵も走らせ、両国を頻繁に往復させつつ情報を収集していったがどうしても大きな理由が見えない。
確かに銅と元素石の採掘権はだいぶ昔から争う理由として巷間に言われてきた理由だが、どうもそれだけではないようだ。
エイルとガラセンナ。
両国は二つともに根はルイナと同じく124年前にあった聖堂騎士団からの派生。
大陸南部の現状として23あった諸王国と公国の中でもとりわけ武辺国家として知られる国だ。
もともと初代王同士が同じ騎士団内にありながらも反目しあい、紆余曲折を経てお互い別々に建国したが何の因果か隣同士でそれ以降は争い続けている。
大きな会戦は22回。今回のような小競り合いなら三桁を超す。
もっとも今回のは小競り合いというよりも会戦に近い規模だ。
だが、会戦であれば国家間条例の元、宣戦布告文を打つはずだが、それがない以上、小競り合いとして処理されることになる。
それでは森林官として大いに困る。
いくら緩衝地帯の村であれ、自国の民を苦しめるのはいかがなものだろうか。
そして、しわ寄せがこちらに全て来る。
森林官が好かれるのは個人としてはいいが、国家間として、それはその担当されうる国が信用がならないという証にほかならない。
それ故にさっさと自国に取り入れて「こちらに大義があった」と触れ回りたいところなのだろう。
だから、多額の金品や高い地位を贈ろうとする。
俗物が。
以前会った二人の王もそうであった。
こと軍事に関しては両国の歴代の王は才の多寡はあれど武辺国家の頂点にいるだけに戦術戦略、そして資金に関しての政略は非常に頭抜けたところがあった。
会い、そして現状の国力を考えたら当世はエイル王の方に軍配があがるか。
現にここの争い以外でもエイルは北のガーランドを、ガラセンナは南東のフィルドリを攻め、つい先日ガーランドは降り国ではなくエイル国ガーランド領となり、フィルドリも援軍が間に合わなければ落ちること明確になる。どちらも小国ながら聖堂騎士団が立ち上げた8つある国々よりも古い国だ。
それでも今のエイルとガラセンナの勢いには抗すべくもなかったか併呑され、またされていくだろう。
そして、その手はまた別の国へと。
確かにあった二人からは自国の繁栄を強く望む意志が感じられた。
別にそれに関しては良いことだと思う。
だが、両国が行っているのは拡張し続けることでなくば意義は見いだせない行為である。戦費が嵩めば得た領土から吸い上げ、反抗の意思をそらすために別の国へと出兵して戦意高揚へとつとめる。
ちょっと考えるとこのまま継続していけばいずれ破綻することは目に見えている路線だ。
だが、それでもやっているのはなぜなのだろうか。
知識や知恵、多くの話をきくことを好む自分には現世欲は少ないと以前同僚から言われたことがあるが、あった二人の王にはどれほど相手は王様だと、様々なことを教養としてもっていると言われても好きにはなれない、俗物以上の欲の塊のような王だった。
相手を蹴落とし自国を広げんと躍起になる姿は物語にしかいない魔物ようですらあった。
そんな自分とかけ離れた王だからわからないのか・・・・
わからないとすれば、昼前にあった角人種<ホーン>だ。
大陸北方の自由都市連合には数多くいるがこちらには傭兵としているだけで数は少ない。
それだけにその身体能力は非常に優れており、傭兵としては破格の値で取引される逸材だ。
もっともどの角人種も気風が自由気ままであるだけに一国家に所属するのは無理な話だ。
そんな気風なだけに昼前にあった角人種にはその気風があまり見られなかった。
こちらの言い分を全て聞いているような様子だ。
また、定住希望となると一層奇異な気がする。
本で読んだり、耳目で聞く分には北方でも定住はせず、都市連合内でランバートの歓楽街を除けば家畜たちと移住しながらお重視続ける民とも聞いている。
また、私たちのような平人種<オール>に対しても多少なり抗う素振りや嫌そうな顔をするはずが、はじめの接触以外は特にそれは見られなかった。
それ以上に会話をすれば口の動きも違う。
疑問もあったが、昼は昼で人的被害も多く、村民たちの保護もあり、また、争いの推移も密偵からの報告で聞きたいこともあってなかなか話をする機会がなかった。
終わって家に招き、話を聞くに連れよりいっそうその思いが強くなった。
どうにも聞いたことのない言語で話す客人。
話は通じるが別の何かが全く通じない、そんな御仁である。
歳を聞けば、私よりも6つも上の30というが、もっと歳若く見える。
寧ろ、私と同じくらかそれよりも若くすら見える。
眉目秀麗であれば歳はわかりづらいのかもしれないが。
各言語もわかるようだが話せる様子ではないし、一般的な知識が欠如しているのかもしれない。
遠い地の難民とは言え非常識すぎる気もする。
それと同じく、抱えている子もおかしな子であった。
部屋をあければ靄がかかり、煙みたいにも見えて火事かと思ったが、靄の向こうでうっすらと見えていた父親のラス殿からは
「自分の子が、すみません。はいはいはい、ヒィロちゃん、だいじょうぶですよぉ。ごはんでちゅよぉ」
と、慌てた口調であやして、大切そうに抱きかかえている丸い球のようなものに先だって村の女親たちの一人からもらった離乳食をあげていた。すっと靄が消えて気づけばベッドで笑って抱かれている赤子がいたから驚いたものだ。
靄の発生源がそれとなると、元素石のようなものか。
母親の存在を見かけないだけにどこかの拾い子か。
だが、しゃべる元素石なぞ見たことも聞いたこともないが世の中は未知に溢れているものだ。
大切そうにしていることからほんとうに実の子のように育てているのだろう。
やましさは一切なく紛れもなくこの子の父親であると心身から訴えかけている感じだった。
にこやかに笑い合って、お互いもう今日はいいだろう。明日にしようということになり、こうして私は自室にいるが、ふと調査している密偵の一人からの情報と今さっきの事柄をからめた考えが脳裏に浮かんだ。
エイル王が霧の魔獣を退治したということを。
このことについての意見を明日、朝食のときにでも聞いてみることにするつもりだ。
何か、有益なことを聞けるかもしれない。
とにかく今もまだ続いている争いを止めるべく動かねばならない。
また、あすも多忙な一日になるだろう。
願わくば、明日は今日より良き一日でありますように<ella>・・・




