第58話 今すぐ、しょっ引きましょう!
「ええっ!? 毒!? 一体それはどういうことなんだ!?」
真っ先に激しく反応したのはジャックだった。
ガタンッと大きな音を立てて席を立ち上がり、絶叫する。
「ううっ……! 申し訳ございませんでした!」
ビビアンさんは未だに顔を上げず、額をテーブルにすりつけたままガタガタと震えている。
そうか……ジャックは事情を何も知らないから。
興奮するのも無理はないかも。
「申し訳ございませんじゃ済まされないだろ! 保安官を……いや、今すぐこいつをしょっ引くべきだ!」
「まぁまぁ、ジャック。少し落ち着いてちょうだい。ほら、見ての通り、今の私はこうしてピンピンしているでしょ? だからそんなに怒らないの」
「ですが! この女はシーナ様に毒を盛ったのですよ!? そんな危険な奴を野放しにしていいわけないじゃないですか!」
ひれ伏すビビアンをビシッと指さしながら、ジャックは息を荒くする。
うわぁ……普段の温厚な彼からは想像できないほど興奮している。
(ジャックは普段は温厚なのに、時々暴走しちゃうんだよね……)
「ほらほら。そんなに大声を張り上げていたら、ビビアンさんがますます萎縮しちゃって話ができなくなるでしょ?」
「……あ。言われてみると、確かに……。わかりました、俺はもう口を出さないでおきます」
「うん、それがいいわ。さてっと……」
私は改めて、恐怖で縮み上がっているビビアンさんに視線を向けた。
「もういいから、そろそろ顔を上げてもらえるかしら?」
「は、はい……」
恐る恐る顔を上げてくる。
「先ほども話した通り、私は毒を飲んで目を覚ましたところからしか記憶がないの。当時何があったのか、最初から詳しく教えてもらえるかしら?」
にっこりと微笑みかけると、彼女は「ヒッ!」と小さな悲鳴を漏らした。
私の笑顔を見るだけでも恐怖なのかも。
「わかり……ました……。す、すべてお話しいたします……」
ビビアンさんは肩を震わせながら、ポツリポツリと語り始めた――
****
公爵家からあの家に嫁いできた私に、元メイド長のハンナは(まさか、あのトラブルメーカーの名前がここで再び繋がってくるとは!)『強引な押しかけ妻には、専用の侍女も専属メイドもつける必要はない』と、冷たく言い放ったのだという。
それでメイドたちが日替わりで、最低限の人数のローテーションを組んで私の面倒をみていた……らしい。
ハンナの嫌がらせや暗躍はそれだけにとどまらなかった。
私と元夫の寝室をわざわざ遠ざけるように仕向けたのも、すべて彼女の悪巧みだったらしい。
ふたりで落ち着いて一緒に食事すらとれないように、食事の時間を意図的にずらしていたのもハンナの仕業だった。
当時の私は、「旦那様は、それほどお仕事でお忙しい方なのね」と疑うこともなく納得していたけれど……。
夫と顔を合わせることもできない寂しい状況が続いたせいで、私は徐々に
不満を口にするようになっていった。
そこで夫に構ってもらうために、色々なことをやらかすようになっていった。
仕事中に書斎に強引に押し入っては、何時間も居座る。
貴族同士の集まりに参加すれば、夫の傍にへばりついて離れない。
挙句に自分の興味がない話だと分かると、大欠伸をして夫に恥をかかせる。
等々、数え上げればきりがないほどに――
****
「なるほど。そういう経緯だったの」
話を聞き終えた私は腕組みしながら頷いた。
「は、はい。そう……です……」
(まぁ、当時の私の性格を客観的に考えれば、確かにあり得そうな話ではあるけれど……)
「でも正直に言って、自分のことなのにあまりに信じたくない話だけどね」
「俺だって到底信じられませんよ! シーナ様がそんな大迷惑な振る舞いをしていたなんて……」
間髪入れずに、ジャックが叫んだ――
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