第54話 私、最高に興奮してます!
元メイド長のハンナさんが、カイルさんに連行されてから半月後――
「みなさーん、おはようございまーす!」
――午前九時。
私はサンドリー村の近くにある果樹菜園へとやってきた。
「あ、シーナ様! おはようございます!」
「おはようございます、シーナ様」
「本日もよろしくお願いします!」
畑で作業をしていた村の女性たちが、次々と明るい笑顔で声をかけてくれる。
「みなさんお疲れ様です。どうですか? ブルーベリーの様子は?」
「はい、こちらをご覧くださいシーナ様。こんなに立派な実をつけているんですよ」
村長の娘であるアナさんが、カゴいっぱいのブルーベリーを見せてくれた。
朝露をまとったその実は、太陽の光に照らされてキラキラと美しく輝いている。
「素晴らしいですね……! 一粒一粒がこんなに大きくて、まるで紫色の宝石みたいです」
うっとりとブルーベリーの群生を見つめた。
ここの果樹菜園にあるブルーベリーの木は、全部で三十本ほど。
もともとは村の人たちが近隣の森に自生していた木をここに植え替え、細々と育てては自分たちだけで楽しんでいたものだった。
けれど、いかんせん収穫量が多すぎて、毎年どうしても消費しきれずに困っていたらしい。
「では、この採取したブルーベリーも早速乾燥させて『ドライブルーベリー』を作りましょう! そうすればレーズンのように長く保存が効くし、甘みも凝縮されて美味しくなります。もちろん、ブルーベリー酒だって造れますよ」
「ドライブルーベリー……」
「ブルーベリーのお酒なんて、素敵ですねぇ」
女性たちが、うっとりとした表情を浮かべる。
「それだけではありませんよ。ブルーベリーには『アントシアニン』っていう素晴らしい成分が含まれていて、これがすごく目に良いです。抗酸化作用やアンチエイジング効果で、お肌の老化予防も……あ」
ハッと気づけば、女性たちがポカンと口を開けたまま見つめていた。
「え、えぇと……いまのはですね……」
しまった。
つい調子に乗りすぎて、脳裏に浮かんだ言葉を口にしてしまった。
「すごい! やっぱりシーナ様は物知りで凄いです!」
「いつものシーナ様の豆知識ですね?」
「本当に、なんでもよくご存知でいらっしゃるから尊敬しちゃいます……!」
女性たちは気にするどころか、一斉にパチパチと楽しげに拍手を送り始めてくれた。
「い、いえいえ、それほどでも……アハハハ。では早速、このブルーベリーを工房へ運びましょう!」
ブルーベリーの入ったカゴをヒョイと持ち上げたとき。
「大変だよー! シーナ様ーーっ!!」
遠くからイワンが両手をブンブンと大きく振りながら、こちらに向かって駆け寄ってきた。
その後ろを、村の少年たちもドタドタと追いかけてくる。
「あら、こんにちはイワン。それにチャドにトムも」
チャドは八歳、トムはイワンと同じ十歳の少年。
この三人は大の仲良しで、どこへ行くときもいつも一緒だった。
「聞いてよシーナ様! 向こうですごいことが起きたんだ!」
「地面を掘ってたら、なんだかお湯がポコポコ湧いてきたんだよ!」
チャドとトムが、興奮のあまり息を弾ませながら訴えてきた。
「えっ……!? いま、何て言ったの……!?」
「大人たちが、とにかく大急ぎでシーナ様を呼んできてくれって! シーナ様、早く来てよ!」
イワンが私のエプロンの裾を引っ張る。
「もちろん行くわよ……! そんな一大事件、行くに決まってるじゃない!」
大きく頷くと、背後にいる女性たちを振り返った。
「皆さん! 申し訳ありませんが、私は今から温泉が湧いた場所へ行ってきます!」
「温泉?」
「何だか分からないけど、どうぞ行って来てください」
女性たちが笑顔で返事をする。
「ありがとうございます! みんな行きましょう!」
「「「うん!!!」」」
私は子供たちに案内されて、お湯が沸いたという場所へ大急ぎで向かった――
****
息を切らせてたどり着いたのは、村の少し外れにある一帯。
最近は移住してくる家族が増えてきたため、新しく土地開発を進めているエリアだった。
現場の周辺には、すでに十人ほどの男性たちが集まっている。
「あ! シーナ様!! こちらですよ!」
土木作業を請け負っていたカントリー町の職人さんが私を見つけ、手を振ってきた。
「お疲れ様です! それで、お湯が湧いたという場所はどこですか!?」
思わず、鼻息が荒くなってしまう。
「ここですよ、ここ! 地面を少し深く掘っていたら、突然こんなふうにお湯が吹き出してきたんです」
そこは村を流れる川の近く。
見ると、ポコポコと湧き出るお湯だまりが出来ていた。
「信じられない……! この村は昔から栄えた宿場町だったから、もしかしてとは思っていたけれど……まさか、本当に源泉が眠っていたなんて!」
「げんせん……?」
「一体、なんのことだ……?」
村人たちの間に困惑が広がる中、イワンが手を上げた。
「ねぇ、シーナ様。源泉って何?」
「それはね、地下から温泉のお湯が湧き出てくるところのことなの。つまり、ここに素晴らしい温泉の源泉が眠っていたってわけ 実は私、昔ちょっとだけ温泉を掘るお仕事に携わったことがあってね……」
「な、なんと……! シーナ様は温泉を掘るお仕事までされていたのですか!?」
職人さんが、目を丸くする。
マズイ。
またしても、一瞬脳裏をよぎった記憶に流されてしまった。
「えっ、えーっと……そうなんです。 詳しいお話は、その……ちょっと複雑な大人の事情があって、残念ながらここではお話しできないのですけど」
匂わせてきな言葉でごまかしてしまえ。
「シーナ様は本当に、私たちが知らないようなことまで何でもご存知なんですね……!」
「あぁ、本当だ」
「まるで千里眼をお持ちのようだ」
千里眼……!?
これ以上ことが大きくなる前に収めないと!
「そ、それよりも! この源泉、うまく活かせばこの村にとって最高の宝物になると思うんです!」
プクプクとお湯が湧き出る水たまりを、ビシッと指差した。
「この村を、温泉に入れる『宿場村』として復興させるんです! 大きな湯船を作って、旅の疲れを癒せる場所にしましょう! 皆で力を合わせて、もっともっとこの村を発展させるのです!」
『はい!!』
村人たちの元気な声が青空に響き渡った――
面白いと感じたら、ページ下部の【☆☆☆☆☆】から評価やブックマークをいただけると嬉しいです。




