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「もう、うんざりだ」と言われたので、出ていきますね  作者: 結城芙由奈@コミカライズ連載中


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第52話 もしかして、あなたは……メイド長さん?

 見覚えのない熟女に突然指さされ、私はきょとんとして後ろを振り返った。


「ちょっと! 何よそ見してんだい!」


「あ、すみません。見覚えのない方なので、もしかして私の背後に別の誰かでもいるのかと思って」


「お前に言ってるに決まっているだろう! この悪女め!!」


「悪女……?」


まさか、初めて会う人物からいきなり「悪女」呼ばわりされるなんて。

店から商品を盗んで逃げたこの人の方が、余程悪女に見えるのだけど。


「おい! シーナ様に何て口の利き方をするんだ!! 泥棒の身分で!」


地団駄を踏みながらわめく熟女に向かってジャックが憤慨するが、捕まえようとはしない。


(女性だからかな? それでカイルさんは……と)


先ほどから深々と帽子を目深にかぶり、まるで貝のように固く口を閉ざしたまま俯いている。


一体どうしたというのだろう?


「ちょっと! 人の話を聞いてるのかい! だいたいさっきは、よくも私を派手に投げ飛ばしてくれたね! 腰を打ったじゃないの! もう痛くてたまらないよ……どうしてくれるんだい!」


「あ、すみません……」


相手は紛れもなく泥棒だというのに。

こういう強烈なクレーマー気質の人を目の前にすると、反射的に謝ってしまうのが私の悪い癖だ。


「シーナ様! 別に謝る必要なんてまったくありませんよ!」


「あ、あぁそうだ! 謝る必要など微塵もない!」


いつの間にか帽子をさらに深くかぶり直したカイルさんが、声色を少し変えて声を張り上げた。


「あんたたちは黙ってなさいよ! 私はこの女狐に用があるんだからね! 侯爵家を出て行ったかと思えば、こんな田舎で一体何をしているんだい! しかも厭味ったらしくメイド服まで着ているなんて! ここは侯爵家の領地なんだよ、さっさと出ておいき! このカプシーナめ!」


「えっ……? カプシーナ? もしかして私のことをご存知なんですか?」


私は目の前の熟女の顔をじっと見つめ――ピンときた。


「あ! もしかして、あなたは……メイド長さん?」


「元! メイド長だよ! ! お前のせいで、私はあの家を追い出されてしまったんだからね!」


「え? 私のせいで……?」


私はこの人に一体何をしてしまったのだろう?

ただでさえ記憶喪失の私にはさっぱり覚えがない。


「人のせいにするな! それは、お前自身の素行に重大な問題があったからだろうが! 自業自得だ!」


「そうだそうだ! お前の性格があまりに悪すぎたからクビになったんだろ!」


帽子ですっかり顔を隠したカイルさんに続き、ジャックまでが勢いよく加勢してくれた。


「ハンッ! あんたがたはこの女の恐ろしい本性を何も知らないから、そんな綺麗事が言えるんだよ!」


「おい、いい加減にしろ! それ以上口を滑らせるな!」


カイルさんが頭を両手で押さえ、大声で叫ぶ。


「この女はね、もともと侯爵家のお荷物妻だったんだよ! 旦那様にはずっと心に決めた思い人がいたっていうのに、この泥棒猫が――」


「泥棒は、どう見てもお前の方ではないか!!」


背後から、空気を切り裂くようなものすごい怒声が響き渡った。

驚いて振り返ると、そこには手に手に農具や棒を持った村人たちを引き連れた、元村長さんの姿。


「な、なんだい、あんたたちは……」


流石の彼女も三十人ほどの群衆? 達から敵意の目を向けられ、怖気づいた様子を見せる。


「いいか、よく聞きな! シーナ様が俺たちサンドリー村の発展のために、どれほど身を粉にして頑張ってくださったと思っているんだ!」


スミスさんがそう吠えたのを皮切りに、次々と村民たちが声をあげた。


「そうだ! 不便で仕方なかった井戸を、シーナ様が最新のポンプ式に替えてくれたんだぞ!」


「シーナ様は俺たちに新しい仕事を与えてくれて、生活できるだけの十分すぎる給料だって払ってくれているんだ!」


「シーナ様のお陰で、毎日の洗濯が劇的に楽になったのよ!」


「シーナ様をいじめる奴は絶対に許さないぞ!」


なんと、あのイワンまでが一緒になって叫んでいる。


(イワン……もう、大好き! あとで頭を思いっきりなでなでしてあげたいわ!)


両手をしっかり組み、可愛いイワンをじっと見つめた。


「な、なんだい一体……! あんたたちは頭がおかしいんじゃないのかい! さっきからシーナ様だの何だのって……! だいたいこの女の名前は……!」


「いいから、さっさとこの村から出て行けよ!」


ジャックが怒鳴りつける。


「そうよ、今すぐ出ていきなさいよ!」


「この村の敷居を二度と跨ぐな!」


「出ていけーーっ!!」


村人たちの怒りは頂点に達し、ついに一斉の「出ていけコール」が巻き起こった。

中には、手元の野菜くずを投げつける過激な村民まで現れ始めている。


うわぁ……これが、リアル炎上というものなのかもしれない!


「わ、分かったよ、出てきゃいいんだろ……!  出て行けば満足なんだろうよ!! まったく、どうかしてるよ! こんな悪女の味方をするなんて、この村の連中も頭がおかしいね!」


この場に及んで、まだ私を非難してくるとは……ある意味すごい人かも。


(あ、そうだ!)


「あの、ちょっと待ってください!」


凄まじいバッシングの嵐の中、村を出て行こうとする元メイド長を引き留めた。


「な、なんだよ……まだ私に何か文句でもあるのかい!?」


「いえ、そうじゃなくて。すみません、その手に持っているバスケットをちょっともらってもいいですか?」


私は群衆の中にいた一人の女性に声をかけた。

彼女はバスケットを手にしている。


「え? ええ。他ならぬシーナ様のお願いですから。どうぞ」


「ありがとうございます」


私はバスケットを受け取ると、元メイド長に差し出した。


「これ、持って行ってください」


「……は? なんだい、急に」


「このバスケットの中にはレーズンパンが入っています。お腹空いてるんですよね?」


「えっ……!?」


余程驚いたのか、元メイド長が目を見開く。


「これでも、あなたには感謝しているんですよ? 私の名前を教えてくれた人ですから」


「はぁ……?」


「ぶっ……!!」


隣で聞いていたカイルさんが、突然拭きだした。


……一体なにがそんなにおかしいのだろう?

まあ、いいか。


「フ、フン! 何がなんだかよく分からないけど……折角だから貰っておいてやるわよ」


彼女は私からバスケットを乱暴にひったくった。


「あ、でも先ほどコンビニで盗んだ品はちゃーんと返してくださいね?」


私は笑顔で右手を差し出した――


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