第51話 泥棒が来たので、投げ飛ばしました
「な、なんだ!? 今の叫び声は!」
「あの声は、ジャックだわ!」
「なにっ……!! ジャックだとぉっ!!」
ジャックの名前を聞いた瞬間。
カイルさんの声のトーンが、先ほどよりも一段とドスの効いたものに変わる。
「あ! あそこに!」
見ると、百メートルほど先にあるコンビニの入り口から、ボロボロにくたびれたマント姿の人物が飛び出してくるのが見えた。
その人物はまっすぐ村の外へ向かって、ものすごい勢いで逃げて行く。
「あれが泥棒か!? おい、ちょっとその手綱を持っていてくれ!」
カイルさんは私に手綱を押し付けると、ヒラリと見事な身のこなしで御者台から飛び降りた。
「待てーっ! 泥棒!」
同じ頃、店から飛び出してきたジャックも、マント姿の人物を追い始めている。
前からカイルさん。
後ろからジャックと挟まれる形になり、完全に逃げ場を失った人物。
あろうことか今度は私の方へと急に向きを変えて突っ込んできた。
「あ、シーナさん!!」
「アイ……! い、いや! シーナッ!!」
ジャックとカイルさんが同時に叫ぶ。
「邪魔だ、そこをどきなっ!!」
マント姿の人物が、私目掛けてまっすぐ突進してくる。
私は 反射的に相手の片腕をガシッと力強く掴み取った。
そのまま絶妙な力加減で背負い投げを決め、道端のふかふかした草むらの方へと投げ飛ばす。
ズシーンッ!!
ものすごい重い地響きとともに、マント姿の人物が草むらに叩きつけられた。
「痛ったーーいっ!!」
耳をつんざくような悲鳴が、あたり一帯に響き渡る。
「「は……?」」
ジャックとカイルさんは余程驚いたのか、その場で固まった。
「う、うううう……痛たたた……」
フードで顔は見えないけれど、地面に大の字のまま倒れ込んだ人物は苦し気に呻いている。
(ちょっと、やり過ぎちゃったかな……)
でも仕方ない。
身体が勝手に反応して動いてしまったのだから。
「あの~、大丈夫ですか?」
心配になって声をかけると、ようやく正気に戻ったジャックとカイルさんが駆け寄ってきた。
「シーナさん!」
「ケガはしていないか!?」
二人は同時に声をかけてくると、今度は互いに睨みあう。
「カイルさん……でしたっけ? また性懲りもなくここへ来たんですか? よほど暇人なんですね? 毎週末この村へ通ってこれるなんて」
「若造、一体誰に対して、そんな口を聞いている? あいにく目が回るほど忙しい。だがスケジュール管理が完璧でな」
「なんだと、この野郎……」
「なんだ、その態度は。それが年上に対する態度か?」
え? この二人……そんなに仲が悪かったっけ?
大の字で倒れているマント姿の人物のすぐ傍で、激しく花火を散らしている。
(うーん……今は、そんな言い争いをしている場合じゃ……)
「うっ……」
足元で、マント姿の人物が苦しげに小さく呻いた。
「あの~、お怪我はありませんか?」
私が再び声をかけると、ジャックとカイルさんはハッと気づいて同時に叫んだ。
「そいつから離れてください、シーナさん!」
「危ないぞ、そいつは卑劣な泥棒だ!」
すると地面に転がっていたマントの人物がガバッと起き上がり、逆ギレしたように叫んだ。
「誰が泥棒ですって!? お金は置いてったでしょう!? それは確かに、ちょっとお金は足りなかったかもしれないけれど……!」
おおっ……!
あまりにも図々しく、そして苦しすぎる言い訳!
「代金が足りなければ、それは十分に泥棒だろうが!!」
「そうだ! しかも店の品物を勝手に持ち出して走り去ったんだから言い逃れはできないぞ!」
息の合ったコンビネーションで、二人はマントの人物を糾弾する。
「うるさい! うるさい! うるさいーい!! 私だってねぇ、好き好んでこんな泥棒みたいな真似をしているわけじゃ……あっ……! お、お前は……!」
突然、その人物は自分の頭にかぶっていたフードをバッと乱暴にむしり取った。
「ろ、老婆……!?」
「え? おばあさん……?」
そう、驚くべきことに窃盗犯は老婆……。
「何ですって! 誰が老婆ですって! こう見えて私はまだ五十二歳だよ!」
喚くおばあさん……もとい、熟女。
一方、カイルさんは真っ青な顔になって震えている。
「ま、まさか……」
「カイルさん? どうしたのですか?」
首を傾げたとき。
「お前!! 何だってここにいるんだい! この盗人猛々しい雌狐め!」
熟女は立ち上がると私をビシッと指さし、「イテテテ……」と腰をさすった――
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