※第47話 本当にカプシーナだと思っているのか!?
「あ、新しい村長……?」
嘘だろう?
だって、おまえは……。
「はい、そうです。つい最近村長になったばかりのシーナ・サンドリーと申します」
「シーナ・サンドリー!?」
何言ってるんだ!?
お前の名前は……。
「あ、こちら名刺になります。どうぞお受け取り下さい」
エプロンポケットからカードを取り出すと、俺に渡してきた。
「ど、どうも……」
震えながら受け取り、さらにショックを受ける。
カードには「カプシーナ・サンドリー」と書かれているではないか。
「あ、こ、この……カプシーナって……」
駄目だ、尋ねる声が震えてしまう。
「はい、実は本当の名前は、カプシーナと言うのです。訳あって、この村で暮らすようになりました。そこでこの際、古い名前は捨てて新しく人生をやり直そうと思い、シーナと言う名前に改名しました」
ニコニコ笑顔で答える妻に、もはや言葉が見つからない。
嘘だろう……!?
本当に自分の名前がカプシーナ(ピーマン)だと思っているのか!?
しかも新しく人生をやり直すって……。
これは俺に対する嫌がらせなのか!?
プルプル震えながらカードを見つめていると声をかけられた。
「あの、どうかしましたか?」
「い、いえ……何でもありません……」
「そうですか。元村長さんに伺ったのですが、旅商人の方だそうですね? よろしければお名前を教えていただけませんか?」
「私の名前はセ……い、いえ。カイルと申します」
危ない、危ない。
危く本名を口にするところだった。
「カイルさんですか、どうぞよろしくお願いいたします。確かレーズンに興味を持ってこの村にいらしていただけたのですよね?」
「え、ええ。そ、そ、そうですね」
本当は、お前の様子を見に来たのだ!
……とは言えるはずもない。
「嬉しいです。実は今このレーズンですが、近隣の町でしか販売ルートが無かったんです。でも旅商人の方なら、もっと販売先を広げていただくことが可能ですよね?」
妻は目をキラキラさせながら見つめてくる。
いや……そんな期待の眼差しで見つめられても困るのだが。
第一、俺は商人ではない!
「え、ええ。そうですね」
商人と名乗った手前、仕方なく頷く。
「本当ですか! ありがとうございます。では早速レーズン作りをしている工房へご案成しますね。どうぞ、こちらへ」
笑顔で先に立って歩き出す。
俺も馬の手綱を引いて一歩進み出たとき――
「いって!」
両足の靴擦れに、思わず声をあげてしまった。
「どうしたのですか!?」
素早く振り向く妻。
「い、いえ。実は靴擦れを……」
「ちょっと見せてください」
「分かりました……」
仕方なく木靴を脱ぐと、靴擦れは酷いことになっていた。
かかとは両足とも、擦れて血が滲んでいる。
「これは……かなり酷いですね。さぞかし痛かったのではありませんか?」
「まぁ、確かに痛かったです」
「ちょっと待っててくださいね!」
妻はそれだけ言い残すと、踵を返して軽やかに走り去っていく。
その後ろ姿はまるで別人のようだった。
「一体、どうなっているんだ……? 本当に、彼女は俺の知ってる妻なのか……?」
****
「……遅いな」
先程と同じ、花壇の前のベンチに座りながら空を見上げる。
(ちょっと待っててくださいと言って、あれから五分くらい経過していないか? もしや、最初から俺の正体に気付いていて、嫌がらせの為にこのまま放置する気では……?)
「もう限界だ」
立ち上がろうとしたとき。
「すみません! お待たせして!」
大きな声に振り向くと、妻がこちらへ駆け寄って来た。
右手にはバスケットを握りしめている。
「ハァハァ……す、すみません。お待たせしてしまって」
「いいえ。少しも待っていませんよ」
「用意するのに少し手間取ってしまいまして」
「用意?」
「はい、そうです。手当てをするので靴を脱いでください」
彼女は小瓶を取り出すとポンッと音を立てて蓋を開けた。
言われるまま靴を脱ぐと小瓶の液体を布にしみこませて、俺の靴擦れにあてがってきた。
「これは、ハーブで作った消毒液です。あとは靴擦れの傷が靴に触れないように包帯を巻いておきましょう」
慣れた手つきで包帯を巻いていく。
(まさか、傷の手当てが出来たとは……)
「……随分手際がいいですね」
「ええ、当然ですよ。だって私はナース……」
「ナース?」
聞きなれない言葉に、思わず首を傾げる。
「い、いえ。何でもありません。はい、もうこれで靴を履いても大丈夫ですよ」
しゃがんでいた妻が笑顔で立ち上がった。
「ありがとう……ございます」
「では、レーズン工房へ行きましょう。ついでに今手掛けているプロジェクトも説明させていただきますね」
「はい」
プロジェクトとは、いったいどういう意味なんだ? そんな言葉は聞いたこともないぞ。
(フフフ……だがまぁ、いいだろう。ついて行けば、プロジェクトと言うものが何なのか分かるだろうからな)
俺は彼女の後についていき……たっぷり三時間以上かけて村の説明を受ける羽目になるのだった――
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