第41話 これが、レーズンです!
――早朝五時。
夜明けの太陽とともに、目が覚める。
すっかり習慣になっていた。
「う~ん……今日もすがすがしい朝ね」
ベッドから起き上がり、私は大きく伸びをする。
「フフフ……ついに今日は、楽しみにしていたあの日だわ!」
室内履きに足を通すと、いつものメイド服に着替えて階下へと降りて行った――
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「あ、おはようございます、シーナ様!」
庭に出てみると、そこには既にジャックの姿があった。
「おはよう、ジャック。今朝は随分早いのね?」
「ええ、それはもう! 待ちに待った、あの日がやってきたのですから!」
庭先に並んだ樽の上。
その蓋に置かれたザルの中には、水分が抜けてしっとりと仕上がったレーズン。
まるで宝石のように黒く輝いている。
「仕込みから一週間……ついに完成ね。さっそく食べてみましょうか!」
「はいっ!」
私たちはザルからレーズンを一つずつ摘まんで、口に放り込み……。
「「美味し~っ……!!」」
思わず、二人揃って顔がほころぶ。
「な、何ですか……!? この甘さは! あの葡萄は、そのままじゃすっぱすぎて、とても食べられたものではなかったはずなのに……!」
余程の衝撃だったのか、ジャックは目を丸くして体を震わせている。
「フフフ、驚いた? 乾燥させることで、すっぱい成分が水分と一緒に抜けて、甘みがギュッと凝縮されるのよ」
「なるほど……! だから、こんなに濃厚な甘さになるのですね!」
「そうよ。でも、今日はこれだけで終わりじゃないわよ?」
「はいっ! あれを作るんですよね?」
「そうよ、ジャック。朝から大忙しになるから、手伝いよろしくね!」
「任せてください、おまかせを!」
ジャックは頼もしい笑顔で大きく頷いた――
****
――そして正午。
屋敷の井戸を囲むように、サンドリー村の村民たちが続々と集まってきた。
昨日、私が手書きの告知メモを一件一件配って回った成果だ。
「皆様! 本日はお忙しい中、お集まりいただき誠にありがとうございます!」
私は集まった村人たちを笑顔で見渡した。
「シーナ様、今日は一体どのようなご用件で我らを呼ばれたのですかな?」
村長さんが代表して尋ねてくる。
「はい! 皆様に、嬉しいお知らせがあります。実はこの度、サンドリー村でたくさん栽培されているあの『すっぱい葡萄』を、新しく生まれ変わらせました! ジャック、お願い!」
背後に控えるジャックに声をかける。
「はいっ、シーナ様!」
レーズンがたっぷり入った器を持ってジャックが進み出ると、列の端にいた男性に手渡した。
「わぁ……これ、なんだ?」
「初めて見るぞ……」
「真っ黒な粒だな……」
周囲の村人たちが興味津々で覗き込む。
「まずは皆様、味見をしてみてくださいね。一粒取ったら、隣の人にどんどん回してくださいな~」
私も反対側から、別のレーズンの入った皿を手渡す。
「どうぞ、食べてみてください」
「は、はい……」
村人の女性が一粒摘まんで、恐る恐る口に入れ――
「……っ! 美味しい……! 何これ、なんて甘いの!?」
パッと彼女の目が輝いた。
「私にもちょうだい!」
「僕も! 僕も!」
レーズンの皿は次から次へと村民たちの間に回され、あっという間に空っぽになってしまった。
「みなさーん、レーズンのお味はいかがでしたか~!?」
皿を回収しながら声をかけると、あちこちから手が挙がる。
「甘くて美味しかったー!」
「あんなの初めて食べたぞ!」
「もっと食べたかった~!」
大盛り上がりの村人たちを見て、私はふふんと胸を張る。
「ふふ、それだけじゃありませんよ~。実はこのレーズンをたっぷり練り込んで、今朝から大急ぎで焼いた自慢のパンがあるんです! その名も『レーズンパン』! 皆様にぜひ食べていただきたくて、朝からジャックと一緒に大量に用意しちゃいました!」
次にジャックが、焼き立てのパンが山盛りに乗ったワゴンを押しながらやってくる。香ばしい小麦と甘い香りが周囲にフワッと広がった。
「みなさーん! では一列に並んでくださいね、ちゃんと全員分ありますから!」
私の呼びかけに、村人たちは我先にと言わんばかりに嬉しそうに整列する。
「はい、どうぞ。熱いから気をつけてね」
笑顔で声をかけるジャック。
「おいしーい……!」
「レーズンがすごく甘くて、パン生地もふっくらだ……!」
「何もつけなくても、これだけでご馳走だわ……!」
井戸を囲みながら、次々と美味しそうにパンを頬張る村人たち。
「シーナ様……皆さん、本当にものすごく喜んでくれていますね」
私の隣に立つジャックが、自分のことのように嬉しそうに囁く。
「ええ、そうね」
でも、ここからが本番なんだから。
「……さて、皆そろそろ食べ終えた頃ね」
村人たちの手がパンの最後の一口を口に運び終えたのを確認し、私はコホンと小さく咳払いをした。
「皆さん、レーズンパンはいかがでしたでしょうか?」
村人たちを見渡す。
「最高でした!」
「こんな美味しいパン、生まれて初めて食べたよ!」
「毎日でも食べたいくらいだ!」
大絶賛の嵐に包まれる中、村長さんの娘であるアナさんが代表して尋ねてきた。
「あの、シーナ様……このレーズンというものは、私たちにも簡単に作れるものなのですか?」
(ついに、その質問が来たわね……!)
「フッフッフ……よくぞ聞いてくださいました! はい、このレーズン作りはとっても簡単です! ですから、皆様にその技術をすべて伝授いたします。そして、このサンドリー村の新しい特産品として、一緒に大量生産して売り出していきましょう!」
私が大きく両手を広げて宣言すると、村人たちは「特産品!?」「私たちが作れるのか!?」とどよめいた。
「もちろんです! 私が経営者となって、皆様にきちんと対価としての賃金をお支払いします。売り上げが伸びれば、もちろん賃金もどんどん値上げしていきますからね!」
村民たちを働き手として雇用し、収益をしっかりと分配する。
これこそが、私の一大村おこし計画の第一歩なのだから――!
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