第38話 無ければ、自分で作ればいいじゃない!
チュン
チュン……
眩しい太陽の光がカーテンの隙間から、目元に差し込んでくる。
「う~ん……ま、眩しい……」
ゴロリと寝返りを打ち、ぱちりと目が覚めた。
壁も床も天井も、木の温もりに包まれた小さな部屋――
「そうだ……やっと三階の掃除が終わって、昨日からこの部屋で寝ることにしたんだっけ」
布団をめくり、私はベッドから起き上がった。
約六畳ほどの小さな部屋。
ベッドとクローゼット、それに文机を置けばほぼスペースはなくなってしまう。
けれど、この部屋を私はすっかり気に入っていた。
「何故かしら? 狭い部屋の方が、なんだか落ち着くのよね」
ベッド脇に置いた室内履きに足を通して、壁掛けの時計を見る。
「五時半か……。朝の支度をするには、ちょうど良い時間ね」
クローゼットに向かうと、私はいつものメイド服に手を伸ばした――
****
「さて、朝ごはんの用意をしようかな~!」
広さ十畳ほどの炊事場にやって来ると、自分の腰丈ほどの大きな水がめの蓋を開けた。
「え? 水が満タンに入ってる……?」
昨日までは半分くらいしか入っていなかったはずなのに。
「まさか……」
「あ、おはようございます。シーナ様」
ちょうどその時、ジャックが炊事場に顔を出した。
「おはよう、ジャック。井戸からお水を汲んできてくれたのね? ありがとう」
「い、いえっ! これくらい男の仕事ですから!」
ジャックの顔が、ポンッと真っ赤に染まる。
最近、すぐに耳まで赤くなるけれど……もしかして赤面症なのかな?
「でも、井戸汲みの仕事は大変でしょう? 重い桶で水を何杯も汲まないといけないのだから」
「まぁ、確かに少しは大変ですけど、大事な仕事ですから当たり前のことです!」
「でも大丈夫よ、私に良い考えがあるの。今に、画期的に水汲みが楽になる仕組みを作ってあげるからね」
「は? はぁ……?」
首をかしげるジャック。
「さてと、料理を始めようかな」
私はカゴから立派なジャガイモを手に取った――
****
――七時過ぎ。
炊事場の一角に置かれた小さなテーブルセットを挟んで、私とジャックは向かい合わせで座っていた。
「じゃーん! 本日の朝ごはんは、ジャガイモのガレットにジャガイモのスープ。それに、特製ポテトサラダよ。それじゃあ、いただきましょう」
「うわぁ~っ! 今日もジャガイモづくしですね。とっても美味しそうです!」
ジャックの目がキラキラと輝く。
この屋敷で暮らし始めて三日目。
ジャックにジャガイモの本当の美味しさを教えるために毎食のように工夫して作っているのだけれど……。
「アハハハ……さすがに毎食ジャガイモじゃ、もう飽きてきちゃったわよね?」
「いいえ、そんなこと全然ありません! 毎回、目が飛び出るほど美味しいジャガイモ料理を作っていただいて、俺は本当に幸せです。どれもすごく美味しいですよ。それにしても驚きです、シーナ様は本当にお料理がお上手ですね。貴族の方なのに……」
ジャックは美味しそうにガレットを口に運んだ。
「う~ん。それが、自分でも不思議なのよね……。どうしてこんなに自然に料理が作れるのかしら? なんていうか、勝手に体が動いちゃうって言うのか……」
一瞬。
大鍋に向かって大きなしゃもじで混ぜている……。
そんな記憶が脳裏をかすめたような気がする。
「シーナ様。そういえば今朝、村の人たちが話をしていたのですが……」
ジャックがスープを一口飲みながら、少し真剣な顔つきに変わる。
「なんでも、不審な人物が村の周辺をうろついていたらしいですよ。しかも、すっぽりとマントを被っていて、かなり挙動不審だったとか……」
「ふ~ん。そうなの?」
ジャガイモのスープをゴクンと飲み込む。
うん、今日も我ながら絶品の出来栄えだ。
「目深にフードを被っていたから顔までは見えなかったそうですが、村の人たちは『恐らくよそ者だろう』って言っていました」
「よそ者ねぇ。ま、でも私たちもこの村から見ればよそ者みたいなものだからね」
私は気にせず、カリッと焼けたガレットに手を伸ばした――
****
――太陽が真上に登る頃。
「ふ~洗濯完了! やっぱり、洗濯板で一枚ずつ洗っていくのは結構体力を使うわね~」
すべての洗濯物をピンチロープに干し終え、私はふうっと大きく伸びをした。
(洗濯機があればどんなに楽か……って、ん?)
その時、なぜかふっと頭の中に、見慣れない「洗濯機」の精巧なイメージが浮かび上がってきた。
「そうだわ……無ければ、自分で作ればいいじゃない!」
忘れないうちに、あとでちゃんと設計図に描いておこう。
「ん?」
不意に背後から誰かの強い視線を感じて振り返る。
「あれは……誰かしら?」
少し離れた木立の陰から、こちらをじっと窺うように見つめる「マント姿の人物」の姿があった。
首を傾げたとき。
「シーナ様――っ! ただいま戻りました―!」
ガラガラガラ……と荷馬車を走らせ、ジャックが元気な声を上げながら戻ってきた。
「おかえりなさい、ジャック。どうだった?」
「はい! 村の皆さんから、山のようにおいしそうな葡萄を分けていただきました!」
荷馬車の中には大きな籠から葡萄がはみ出ている。
「ありがとう、これでレーズンがたっぷり作れるわね」
「そうですね。それじゃあ、馬車を納屋に置いてきますね」
「うん、よろしく」
荷馬車を置きに行くジャックの後ろ姿を見送り、もう一度先ほどの木陰を振り返ってみたけれど――そこにはもう、マント姿の人物の姿は影も形もなくなっていた。
「あら? いつの間にかいなくなってる……。まぁ、いいか」
私は気にせず、軽い足取りで屋敷の中へと向かった。
画期的な「洗濯機」の設計図を描くために――!
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