第34話 お金なら、まだまだあります
賑わう町の中を、ゆっくりと荷馬車を進める。
「わぁ~、色々なお店があるわね!」
サンドリー村には、ぱっと見で店らしい店はなかった。
うん、これから何か買い物をするときは、この町に来ればいい。
馬車で片道1時間くらいなら、全然余裕だわ。
「シーナ様、とりあえず食堂に行きますか?」
「そうねぇ……」
キョロキョロと周囲を見渡していると、どこからともなく、たまらなく良い匂いが漂ってきた。
これは――パンの焼ける匂いだ!
「ねぇ、ジャック。あっちから、すごく良い匂いがしない?」
「そうですね……確かに、香ばしい匂いがします」
鼻をひくつかせて頷く。
「あれはパンが焼ける匂いよ、行ってみましょう!」
「はい」
ジャックは馬を香りの漂う方向へと向けた――
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「う~ん、美味しいわねぇ」
「はい、シーナ様」
私とジャックは木陰の下に荷馬車を止め、買ったばかりの焼き立てパンを味わっていた。
「このロールパン、美味しいですね」
ジャックが嬉しそうに話しかけてくる。
「うん、本当に美味しいわ。このパンにレーズンも混ぜて焼いたら、もっと美味しくなるわねぇ」
何しろ、私はレーズンが大好きだったから。
「レーズンって何ですか?」
「え? レーズンを知らないの? ドライフルーツのことよ」
「ドライ……フルーツ……?」
「え? ドライフルーツを知らないの!? すごく美味しいのに」
「は、はい……面目ないです」
ジャックがシュンと肩を落とす。
「別に謝らなくていいわよ。ドライフルーツっていうのは、文字通りフルーツを乾燥させたもの……で……」
って、あれ?
どうして私、作り方まで自然に知っているんだろ?
今、何かすごく大事なことを思い出しかけた気がするけれど……。
「シーナ様? どうかなさいましたか?」
「ううん、なんでもないわ。食べ終わったら、まずは寝具を買いに行きましょう!」
「はい!」
ジャックは元気よく頷いた――
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その後、私たちは様々なお店を巡って買い物をした。
万屋では二人分の寝具やカーテン。
雑貨屋では灯り取りのためのオイルランプとキャンドル。
他にも細々とした日用品を購入した。
八百屋では何種類かの新鮮な野菜をチョイス。
お肉屋さんではソーセージや燻製肉、ついでにスパイスも手に入れた。
ジャックからは「そんなに買い込んで、日持ちしますか?」と心配されたけれど、私には秘策がある。
食材を日持ちさせる、とっておきの秘策がね。
「それにしても、本当にたくさん買い込みましたねぇ」
最後の必需品を荷馬車に詰め込むと、ジャックが目を丸くする。
「ふふん、まぁね~」
いつの間にか荷馬車の中は荷物でぎっしり溢れかえっていたが、私の懐はこれくらいではびくともしない。
何しろ、元夫から貰った金貨がまだまだたっぷり入っているのだから。
それに金貨が無くなったとしても、まだまだ売れそうな高級貴金属が旅行鞄にパンパンに詰め込まれている。
(フフ。あの人意外とケチそうに見えて、いざという時は太っ腹な性格で助かったわ。元夫には心から感謝しないとね)
買い物も大方終わったし……あとは。
「ねぇ、ジャック。そろそろ必要なものは買い終えたし、洋品店に行ってみたいのだけど」
「え? 洋品店ですか?」
「ええ。いつまでもメイド服のままではいられないでしょう?」
自分のメイド服を摘まんでみせた。
なにせ、店に行くたびに「お屋敷勤め、ご苦労様です」と声をかけられてきたからだ。
「そうですね、行ってみましょうか」
「ええ、行きましょう!」
ジャックが手綱を握りしめると、馬は軽快な足取りで走り出した。
そして到着した洋品店で、私は自分の常識を根本から疑うことになる――!




