第33話 町の名前は『カントリー』
ガラガラガラガラ……
朝食の川魚を食べた後。
私とジャックは、サンドリー村から一番近い町へ向かって馬車を走らせていた。
御者台で手綱を握りしめているのは、この私。
「馬車くらい一人で操れるようにならないと!」とジャックに頼み込んで、手綱を握っているのだけれど……。
「自分で馬を走らせるって、超――気持ちい―い!」
どこまでも広がる青い空を見上げて叫んだ。
「本当にシーナ様はすごいですね。こんなに見事な手並みで馬を走らせることができるなんて……とても初めてとは思えません」
隣に座るジャックが目を丸くする。
「そうなのよ! 自分でもどうなることかと思ったけど、手綱を握った途端、なぜか昔の記憶が蘇ってきたのよねぇ」
「え? 昔のって……子供の頃の話ですか?」
「ううん、もっと昔の話……ん?」
……もっと昔って、いつのこと?
今、なんかすごく重要なことを思い出しかけた気がするのだけど……。
「シーナ様? どうかされましたか?」
「ううん、なんでもない。それよりも今日はやることがいっぱいあるんだから、ちょっと急ぐわよ。それっ!」
手綱を揺らすと、馬車は速度を上げて進み始めた――
****
馬車を走らせること、三十分。
ジャックに手綱を譲り、私は荷台から外の景色を眺めていた。
サンドリー村の周りにあった鬱蒼とした木々が、徐々にまばらになってくる。
代わりに緩やかな丘陵地帯が広がり、畑らしき景色が見えてきた。
遠くでは金色の穂が風に揺れている。
「わぁ、景色が一気に開けてきたわね! あれはもしかして小麦畑かしら」
「はい。間違いないでしょうね」
「そうなんだ……」
フフ……あれだけ広大な土地なら、さぞかし小麦が取れるだろう。
美味しいパンが沢山焼けそうだ。
(それにしても、何だか少し眠くなってきたかも……)
欠伸をかみ殺していたその時。
「シーナ様。もうそろそろカントリー町が見えてくる頃です」
ジャックの言葉に、私の脳が一気に覚醒した。
「カントリー町!? 私たちがこれから行く町って、そのまんま『カントリー』って名前なの!?」
なんだか、どこかで聞いたことのあるような……無いような。
懐かしい気持ちを感じる響きだ。
「え? ええ、そうですけど……?」
ジャックが目をぱちぱちさせる。
「ふ~ん……。なんだか、急に謎の歌を口ずさみたくなってきたわ」
「歌ですか!? まぁ、旅の道連れに歌はいいですけど……」
「でしょう?」
息を吸い込むと、頭の中に突如として湧き上がってきた軽快なメロディを鼻歌で口ずさんでみた。
「ふんふんふ~ん……ふふふんふ~ん……」
「……ステキな歌ですねぇ。シーナ様、何ていう曲ですか? 今まで一度も聴いたことがないメロディですけど」
「う~ん……」
首を傾げるジャックに答えようとしたが、駄目だ。
いくら脳みそをフル回転させても、題名も歌詞も一切浮かんでこない。
「そうねぇ、よく分からないわ。ただの即興よ」
「即興!? 凄すぎます!」
「ほんとう? ありがとう、他にもいろいろ口ずさめるんだからね〜♪」
「ぜひお願いします!」
「任せて!」
私とジャックは、謎の即興ソングを大合唱しながら一本道を進んでいった――
****
ガラガラガラガラ……
しばらくすると、でこぼこだった道がしっかりとした踏み固められた道に変わった。
きっと、さぞかし多くの馬車が行き交っているに違いない。
「あ! 見えてきましたよ、シーナ様!」
ジャックの声に、私は思わず身を乗り出した。
遠くの丘の向こうから、細く立ちのぼる煙がいくつも見え、やがて木造の建物が姿を現す。
中には尖った屋根の建物もある。
「あれは……教会かしら?」
「はい多分教会です」
教会の周囲には、平屋や二階建ての店が所狭しと立ち並んでいる。
「思ったより、ずっと賑やかそうね」
「はい。サンドリー村とは比べ物にならないくらい栄えていますよ」
馬車は町の入り口に近づいてきた。
道の両脇には木製の看板を掲げた店がちらほら見え始め、活気ある人々の姿が行き交っている。
「ここでなら、生活必需品がなんでも揃いそうね!」
「そうですね、シーナ様。まずはどこへ行きましょうか? やはり雑貨屋さんでしょうか?」
真面目な顔で尋ねるジャック。
「もちろん……まずは食べ物屋さんでしょ!」
私は笑顔でビシッと親指を立てた――




