※第31話 お前たちは全員クビだ
「ハンナッ! 執事のウィリアムから聞いているぞ! 彼女は屋敷を出る前夜、お前たちに食事の用意を頼んだそうだな! だが、用意しなかった。何故だ!」
当主である俺の問い詰めに対し、ハンナは悪びれもせず言い放った。
「決まっているではありませんか! あの女はここを出ていく。つまり離婚されたということですよね? もう侯爵夫人ではなくなる相手に、何故食事の用意をしなくてはならないのです!」
な、何だって……!?
一度ならず二度までも、当主である俺に言い返すとは。
ハンナにとって、俺はいつまでたっても「お坊ちゃま」扱いなのか!?
だが、これ以上舐められてたまるか!
「黙れ! 俺は当主だぞ! それに、彼女のことを『カプシーナ』と呼んでいたそうだな!」
確かに、あいつはピーマンが嫌いだった。
だからといって、あだ名で呼んでいいはずがない!
「あの不躾な女にぴったりのあだ名ではありませんか。 頭だって、ピーマンみたいに空っぽだったのですから」
「な、何だと……!?」
不敵な笑みを浮かべるハンナに、怒りで震える。
分かっているのか?
彼女は俺よりもずっと格上の身分だということを。
「大体、お坊ちゃまには元々、恋仲だった御令嬢がいたではありませんか」
「やめろ! その話はするな!」
彼女の話は聞きたくない!
俺のトラウマを掘り起こすな!
「私は指折り数えてお坊ちゃまの婚約発表を待っておりました! それなのに、あの公爵夫妻は頭の悪いことで有名な自分の娘を、お坊ちゃまに押し付けたのですよ!? エリザベス様に大金を渡して!」
「やめろと言っているだろう!!」
エリザベスのことは、もう二度と思い出したくもない!
それなのに執事のウィリアムを含め、他の使用人たちは目を輝かせて俺とハンナの言い争いを興味深げに聞いている。
……それもまた腹立たしくてならない。
「だから私は他のメイドたちに命じて、あの女を冷遇したのです。全てはお坊ちゃまの為。それの何がいけないとおっしゃるのですか?」
「うるさい!! もう一言も口をきくな!」
今までにない大声を張り上げると、執務室は水を打ったように静まり返った。
メイドたちは皆、引きつった表情で震えている。
それでもハンナだけはツンとしたままだ。
……もう決めた。
「ハンナ! そしてここにいるメイドたち! お前たちは全員クビだ! 本日中にここから出ていけ!」
「そんな! お坊ちゃま!?」
ここに来て初めて、ハンナの顔から色が消える。
他のメイドたちも真っ青だ。
「ウィリアム!」
「はい、旦那様」
「このメイドたちを全員連れていけ! 本日中に全員クビだ!」
「はい、至急手続きをいたします」
「何ですって!? 本日中に!? もう高齢に手が届く私を追い出して路頭に迷えとおっしゃるのですか!?」
叫ぶハンナ。
もはや雑音でしかない。
「うるさい! 出ていけ! 最後の給料が欲しければな!」
我ながらセコいセリフだとは思ったが、勢いで言い放ってやった。
「わ、分かりました……出ていきましょう」
ハンナは悔しそうに唇を噛み締める。
「よし、ならとっとと消えろ!」
扉をビシッと指さすと、ハンナたちも観念したのだろう。
シュンとして口を閉ざした。
「行くぞ」
ウィリアムが淡々と声をかけ、先頭に立って歩き出す。
その後を追うように、ぞろぞろと全員が執務室を出ていく。
「はぁ……疲れた」
ようやく、この執務室に平穏が訪れた――
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