第29話 リフォームって何だっけ?
「あ~、美味しかった。ごちそうさまでした」
食べ終えると、ジャックが私をじっと見つめてくる。
「……」
「何? どうかしたの?」
「い、いえ。昨夜も思ったのですが……『ごちそうさまでした』ってどういう意味ですか?」
「え? 意味……?」
そういえば何故だろう。
食べ終えると自然と言葉が出てしまう。
しかも、絶対に言わなければいけない義務感のようなものがある。
これは一体……?
(う~ん……謎だわ……)
でも、まあいいか。
いくら考えても分からないものは分からないのだから。
「え、ええと、そうね。『食べ終わりました』という意味合いの言葉かしら? 『ごちそうさまでした』の方が響きが良くない?」
「言われてみればそうですね。では、『いただきます』も同じ意味合いですね?」
ジャックが納得したようにポンと手を叩く。
「そう、そう。そんな感じよ。ところでジャック。大事な話があるのだけど……聞いてくれるかしら?」
「え? だ、大事な話……ですか?」
「そう、とても大事な話」
「ど、どうぞ」
緊張した様子でジャックが頷く。
「ジャックは、もう自分の家に帰るのよね?」
「え……は、はい。そう……ですが」
「それなら私も連れて行ってくれる?」
「えええっ!? シ、シーナ様……こ、この村に永住されるのでは……?」
ジャックの顔が真っ赤に染まる。
「ええ、永住するわよ」
「……へ?」
「ここへ来るまでに、いくつか町を通過していったでしょ? 一番近い町で降ろしてほしいのよ。いろいろ買いたいものがあるから。え~と、まずは布団でしょ? それに枕。カーテンも買いたいし……」
指折り数えると、ジャックが慌てた様子で止めてきた。
「ま、待ってください! 仮に俺がシーナ様を一番近い町まで送ったとして、その後はどうやってこの村に帰ってくるつもりですか? 荷物だってたくさん増えますよね?」
「大きな町なんだから。荷馬車くらいあるでしょ? ここまで送り届けてもらうわよ」
「え? ……あの、シーナ様……」
ジャックが神妙な顔つきに変わる。
「どうかしたの?」
「この村に着いた時から、ずっと考えていたのですが……」
ズザッ!
突然ひざまずくと、ジャックが地面に頭を擦り付けてきた。
「ちょ、ちょっと! いきなりどうしたの!?」
「お願いします! 俺もシーナ様のお屋敷に住まわせてください! 何でもお手伝いいたしますので!」
「え? だって、ジャックはあの町で荷馬車の貸し出し業を行っていたんじゃないの?」
考えてみれば、私は自分が何という町に住んでいたのかも分かっていなかった。
……まあ、もうどうでもいいか。
未練もないし。
「あんな町、どうだっていいんです!! 未練もありませんから!」
「ええっ!? ジャックもなの!?」
「それに、もう住む家だってないんです……」
「ええっ!?」
まさかの宿無し!?
「俺、天涯孤独なんです……。父親は十年前、母親は五年前に亡くなりました。家賃を滞納してて、もう家も追い出されているんです」
顔を上げるなり、いきなり身の上話を始めてきた。
「それは苦労したのねぇ……。でも、荷馬車のお仕事は?」
「実は、あの荷馬車……独立の借金のカタに、もう侯爵家に売っていたんです。あの日はその納車をしに行っただけで、荷馬車を届けたら、俺の仕事は終わりのはずでした」
「え? そうだったの?」
まさか、あの日が本当に彼の最後の仕事だったとは
何だか運命を感じる。
「どうかお願いします。俺もここで暮らしたいんです! シーナ様と一緒に……! あ!」
突然バッと口を両手で隠すジャック。
その顔は真っ赤に染まっている。
「……そう、分かったわ」
私はゆっくり頷いた。
「え? わ、分かってくださったのですか……? 俺の気持ちが......」
「ええ。よく分かったわ。ジャックもサンドリー村がすごく気に入ったってことがね」
「は?」
「どう? 当たりでしょ?」
「は、はい……そうです……」
呆けた顔で頷くジャック。
「いいわ。一緒に暮らしましょう? 何と言っても、あーんなに大きい家なのだから!」
振り返ると、新しいマイホームを指さした。
「これから二人で協力して、あの家をリフォームして住みやすい屋敷にしましょうね」
「はい! シーナ様! ……ところで、リフォームって何ですか?」
「リフォーム……?」
はて?
またしても妙な言葉が口をついて出てしまった。
だけど……まあいいか。
「リフォームとは……とても素敵なことよ!」
私は笑顔で答えた――
面白いと感じたら、ページ下部の【☆☆☆☆☆】から評価やブックマークをいただけると嬉しいです。




