第28話 ワイルドでいこう
「メイド服を五着持ってきて良かったわ~」
掃除をするのに、これ以上適した服はないだろう。
鼻歌を歌いながら扉を開けると、屋敷の中へ足を踏み入れた。
大きな窓から太陽の光がサンサンと差し込み、昨夜よりも屋敷の内部が露わになる。
「うわぁ~、すごい蜘蛛の巣!」
真っ先に目に飛び込んだのは、いたるところに張り巡らされた蜘蛛の巣だった。
「これじゃまるでお化け屋敷ね」
天井からは見事なシャンデリアがぶら下がっているけれども、あいにく蜘蛛の巣で覆われてしまっている。
「大掃除には、まず換気しないと」
とりあえず埃を吸い込まないようにポケットからハンカチを取り出し、三角に折ると鼻と口元を覆った。
「これで準備ばっちり」
早速片っ端から部屋の窓をバタンバタンと開けていく。
幸いなことに、窓ガラスは一枚も割れていなかった。
……まぁ、すっかり曇りガラスにはなっているけど。
「まずは掃除用具を探さなくちゃ」
私は早速、部屋の捜索をすることにした――
****
家探しをして見つけられたのは、箒二本とちりとり二つ。
それにブリキのバケツが四つに、木製脚立。
結局、はたきはどこにもなかった。
「どうしてはたきがないのかなぁ?」
腕組みをして考える。
でも、収穫はあった。
家探しをしたおかげで、一階部分だけの間取りを知ることができた。
今いるのは玄関を開けてすぐの広々とした部屋。
その奥に廊下があって、左側に厨房。
階段を挟んで左側に納戸。ここには、まだまだお宝がありそうな予感がする。
「さて。まずは、はたきを作ろうかな」
やっぱり掃除をするには、はたきは必需品。
なければ作るしかない。
「手近な棒でも落ちてないかな~」
棒を探しに外へ出たとき。
「シーナ様ー! 魚が焼けました!」
焚き火の傍――岸辺でジャックが手を振っている。
「本当!? 今行くわ!」
掃除は後回し、今は食事が最優先。
私は笑顔でジャックの元へ駆け寄った。
「魚はどれ!?」
「アハハハ。そんなに慌てなくても魚は逃げたりしませんよ。こちらです」
ジャックが石で囲んだ焚き火を指さした。
パチパチと音がする方へ近づいてみると、地面に何本もの枝が斜めに刺さっている。
枝には魚が四匹串刺しにされていて、焚き火にじりじりと炙られていた。
時々、脂がぽたりと火に落ちて、ぼっと小さく燃え上がる。
「わぁ……なんか、ワイルドねぇ」
素朴を通り越して、原始的で何だかワクワクする。
「もう、食べごろですよ。ところでワイルドって何ですか?」
ジャックが不思議そうに首を傾げる。
「え? ワイルド……? 何だろう? なぜか今ふと頭に浮かんだのよ」
「そうなのですか。でも、ワイルドって言葉いいですね。気に入りましたよ」
「そう? じゃ、これからもワイルドって言葉を取り入れましょうか?」
「いいですね。二人だけの言葉として!」
「そうね。ところで、ジャック。もう食べてもいいかしら?」
私の目は先ほどから串に刺した魚に釘付けになっていた。
「あ、すみません。どうぞ、シーナ様」
ジャックは地面から串を抜くと、手渡してきた。
「ふふ。ありがとう」
こんがり焼けた皮はパリッとしてそうだし、匂いだけでもう美味しそう。
「いただきまーす」
「いただきます!」
二人で焚き火の周りに座ると、焼き魚にかぶりつく。
「おいしー」
「はい、おいしいですね。ワイルドな味ですね」
「そうね、これからもワイルドでいきましょう!」
そこで大事なことに気が付いた。
(あ……でもジャックは今日帰るんだっけ……。そうだ! いいことを思いついたわ!)
隣で焼き魚を頬張るジャックをそっと見つめた。
後で彼に交渉してみよう。
私のこれからの生活のために、彼は必要な存在だから――!
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