表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「もう、うんざりだ」と言われたので、出ていきますね  作者: 結城芙由奈@コミカライズ連載中


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
27/33

第26話 今夜、屋敷で寝るのは不可能ね

 その後。


お隣さん御夫婦――

スミスさんとメアリーさんに軽く夜空の下で世間話を済ませると、二人は帰っていった。


その姿が見えなくなるまで見送ると、私はジャックに向き直る。


「さてと。それじゃ、とりあえずは旅行鞄を屋敷の中に運ばない?」


「はい、シーナ様」


返事をするジャックの膝が笑っている。

……もしかして怖いのかな?

なら、私が先に入ってあげよう。


「じゃ、行くわよ」


ジャックの前を素通りして、改めて扉の前に立った。


「あの、シーナ様……?」


「開けるわね」


ノブを掴むと、ガチャッと扉を開けた。


キィイイイイ……


扉が軋んだ音を立てて開く。


「わぁ~」


思わず感嘆の声が出てしまった。


窓から差し込む月明かりで、室内が青白く浮かび上がる。

床板はフローリングで、壁も木製。


壁際には木製カウンターが設置され、かつてここが宿屋だったことを思わせる名残が残っていた。


「すごいですね。ソファやテーブルが残されていますね」


ジャックが驚いた様子で隣にやってきた。


「家具が残されているって書いてあったけど、本当だったみたいね」


ソファの上にはご丁寧にクッションがいくつも乗っている。


(あれなら使えそうね。でも本当に広い部屋だなぁ。この分なら、恐らく……。)


「うん、テニスコートくらいの広さはありそうね」


「え? テニスコート? それなんですか?」


ジャックが尋ねてきた。


「あのね、テニスっていうのはラケットでボールを打ち合って……ん?」


そこまで口にして、疑問が生じる。


あれ? テニスってそもそもなんだっけ?

一瞬何か頭に浮かんだ気がだけど、すーっと消えてしまった。


「シーナ様?」


「うーん。まぁいいか。とにかく荷物を運びましょう」


「はい、分かりました」


そう、まず大事なのは引っ越し準備。

とジャックは手分けして、旅行鞄を屋敷の中に運び込んだ。


「……これで最後の一個です」


ジャックが最後の旅行鞄を室内に運び込んだ。


「ありがとう。……ゴホッ。それにしても埃っぽいわね」


右手で口元を隠すと、空いている手で埃を振り払う。


「た、確かに埃っぽいですねぇ……クシャン! クシャン!」


ジャックが盛大なくしゃみを連発する。

う~ん、この分では屋敷全てが埃とカビまみれかも。これはきっと……。


「ここで今夜、屋敷で寝るのは不可能ね。ジャック、一緒に荷馬車で寝ましょう」


隣に立つジャックを振り返る。


「ええええ!? い、い、い、一緒にですか!?」


「そうよ、荷馬車でね」


「えええええ!! に、に、に、荷馬車でですかぁ!?」


先ほどよりも驚いている。


「だって、こんな埃とカビまみれの室内で寝るのは身体に悪いじゃない。アレルギーが出るかもしれないし」


「は? アレ……ルギー……? あの、アレルギーって何でしょう?」


「えぇと~、アレルギーっていうのは……あれ? 何だっけ? まぁ多分、身体に良くないことの言いようなのよ。そういうことにしましょ」


何だかこの村に来てから、身に覚えのない言葉が口から出てきている気がする。

まぁ、どうでもいいか。


「で? どうするの? ジャック」


隣に立つジャックを見上げる。


「た、確かにここへ入ってからくしゃみは出るし、鼻がムズムズします。なるほど、これがアレルギーというものなのでしょうね。わ、分かりました。で、では今夜は荷馬車で寝ましょう」


覚悟を決めたかのように、コクコクと頷くジャック。


「なら、早速あのクッションを外に運びましょ。並べて敷布団代わりにするわよ」


「はい、シーナ様」


私とジャックは手分けして、すべてのクッションを外に運び出した――



ホーウ

ホーウ……


林の奥からフクロウの声が聞こえている。


「う~ん。やっぱりこのクッション埃っぽいわね」


どれくらいこの屋敷が放置されていたか分からないけれど、まぁ当然だよね。


「どうします? シーナ様」


「そうねぇ。とりあえず……」


足元に転がっていた適当な枝を拾い上げる。


「え? シーナ様? 一体何を……」


「こうするのよ!」


クッション目指して棒を振り下ろした――



****


「いや~棒を振り上げたときは何をされるのかと思いましたよ」


ジャックが肩をすくめている。


「ふふ、そう? あれは埃をはたくために、クッションを叩いたのよ。……ところでジャック。どうして荷馬車の外に立っているの?」


クッションを荷台に並べながら尋ねた。


「え? そ、その……外で寝ようかと思って……ですね」


「中で一緒に寝ましょうよ」


「い、いえ! け、結構です!」


恐縮したようにブルブルと首を振る。


「でも……外で寝たら虫に襲われるかもよ?」


「ひっ! そ、それだけは……!」


ついに観念したのか、クッションを抱えると荷台に登ってきた。


「そうそう、素直が一番よ」


「は、はぁ……」


隅っこの方にクッションを並べるジャック。


「どうしてそんな隅っこに置くの?」


「あ、あの、隅っこが落ち着くんです!」


「そう? はい、ジャック。これ使って」


ブランケットを差し出した。


「あの? これは?」


「一応念の為に家を出るとき用意しておいたの。二枚あるから使ってちょうだい」


「シーナ様……なんて、お優しい……」


うるんだ瞳で見つめてくる。

よほど感動したのだろう。たかがブランケット一枚なのに。


「さて、それじゃ今夜は寝ましょう」


「はい、シーナ様」


「「おやすみなさい」」


二人で挨拶を交わすと、クッションの上に横たわった。


(うん、ちょっと寝心地はいまいちだけど、硬い床で寝るよりはずっとマシね)


目を閉じると、すぐにまどろみ……私は眠りに落ちていった――

面白いと感じたら、ページ下部の【☆☆☆☆☆】から評価やブックマークをいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ