第24話 私、ここに永住します!
ホーウ、ホーウ――
フクロウの鳴き声が静かな村に響き渡っている。
「のどかな村ねぇ……」
荷馬車から顔を覗かせ、周囲の景色を伺う。
私たちは今、村長さんに教えられた木造三階建ての家屋を目指して進んでいた。
村の中心には小川が流れ、岸辺に生えた可愛らしいピンクの花が夜風に揺れている。
粉ひき小屋でもあるのか、風車がカラカラと回っている様子も見えた。
「うん、私。この村がとても気に入ったわ」
「確かにのどかで素敵だとは思いますが……少し寂し過ぎませんか?」
手綱を握るジャックが振り返る。
「そう? 私は好きだな、こういう村。だって懐かしいんだもの」
「懐かしい? もしかして以前この村に来たことがあるのですか?」
「え……? ううん、ないけど。変ねぇ、どうして懐かしいと思ったのかな?」
一瞬、何か思い出した気がするけれど……。
「あ! シーナ様。あれじゃありませんか?」
顔を上げると、大きな木造三階建ての屋敷がどっしりと佇んでいた。
屋敷の周りには背の高い木が何本も植えられている。
「わぁ~、素敵じゃない!」
「そうですね。もっと近づいてみましょう」
「うん、お願い」
ジャックが馬車を近づけていくと、さらに外観がはっきり見えてきた。
「わぁ……」
思わず声が漏れた。
月明かりの中にそびえていたのは、村の家々とは明らかに違う建物だった。
石積みの土台の上に、太い木の柱と梁が組まれた三階建て。
二階には手すりのついたバルコニーがついている。
玄関の扉は重厚そうなアーチ形の木の扉で、壁からは大きな石の煙突が突き出していた。
窓がたくさんついているので日の光は存分に取り入れられそうだし、見たところ崩れている箇所は一つもない。
「大きい……うん、十分に住めるじゃない!」
「そうですね、思っていた以上に大きいです」
ジャックが頷く。
「ここは昔、宿屋だったからね~」
村長さんの話では、かつてサンドリー村は宿場村として賑わっていたらしい。
この屋敷は旅人の宿として使用されていたのだ。
『別の馬車道が開通したために、旅人が立ち寄らなくなってしまったのですよ。それで、サンドリー村はすっかり寂れてしまったのじゃが……』
食事の時に話してくれた村長さんの言葉が蘇る。
「勿体ないわね~、この村はこんなに素敵なのに」
私は周囲を見渡した。
ポツンポツンと点在する石造りの家々。
村に漂うハーブの香り。
「何もかも気に入ったわ。私、ここに永住することに決めたから!」
「えぇ!? もう決めたのですか? まだ屋敷の中に入ってもいないのに!?」
「そうよ。どうしてそんなに驚くの?」
「え……そ、それは、こんな大きい屋敷にこれから一人で暮らすなんて……そ、その、怖くないのですか?」
「ははぁん……もしかして……」
でも、それ以上言うのはやめておいた。
男のプライドがあるだろうし。
「シーナ様、今何か言いかけませんでしたか?」
「ううん、別に。それより中へ入りましょう」
私たちは先ほどから馬車を止めて話をしていた。
考えてみれば、何故外で話をしていたのだろう?
「そ、そうですね。それでは中へ入りましょうか……」
どこかビクビクした様子で、ジャックは御者台から降り立つ。
私もすぐに荷台から降りると、元夫から預かっていた屋敷の鍵をポケットから取り出した。
この鍵は、執事から手渡された封筒の中に一緒に入れられていたもの。
「シーナ様、それじゃあ荷物を運びますね」
すでに旅行バッグを二つ抱えていたジャックが声をかけてきた。
「うん。お願い」
私も荷台の中から旅行鞄を取り出そうとしたとき。
「ぎゃああああっ!!」
背後でジャックの悲鳴が、静かな村に盛大に響き渡った――
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