第23話 村の名前はサンドリー
「そうですか、領主様の奥様でいらっしゃいましたか」
サンドリー村の村長さんが目元をほころばす。
「はい、そうなんですよ」
私も目元をほころばして頷く。
それにしてもサンドリー村か……初めて聞いたとき、妙に懐かしいような。
それになぜか良く利用していた? ような記憶が一瞬蘇った。
あれは一体何だったんだろう?
でも、まぁいいか。それより今は食事だ。
テーブルの上には野菜とお肉の煮込み料理、丸パン。
それにチーズが乗っている。
「申し訳ございません。まさか夕食を御馳走していただけるなんて、恐縮です」
「自分までご馳走になって、すみません」
ジャックと一緒にペコペコ頭を下げながらお礼を述べる。
それに、もう私は侯爵の妻ではないのだけど……この説明は後程しようかな、うん。
「大した料理を用意できず、申し訳ございません」
村長さんの娘でイワンのお母さん――
アナさんが申し訳なさそうに謝ってくる。
「いえいえ! そんな! こんなに素晴らしい料理を頂けるなんて、まさに感無量です! ね? ジャック」
私はすかさずジャックに声をかけた。
「はい、シーナ様」
「こちらの方は、シーナ様の付き人ですか?」
アナさんが尋ねる。
「いえ、彼は……」
「はい、俺はシーナ様の付き人です」
素早く返事をするジャック。
彼はただここまで連れてきてくれただけなんだけど……ま、別にいいか。
「この野菜はうちの畑で作ったもので、お肉も自家製だよ」
イワンが得意げに説明する。
「それはすごいわね~」
……うん、詳しい入手先や製造方法は聞かないでおこう。
「さぁ、どうぞ食べてください」
村長さんが食事を勧めてくる。だけど……。
「あの~。イワンのお父さんがまだ帰っていませんけど?」
一家の大黒柱が不在中にお邪魔して、夕食を頂くのはいかがなものだろう?
「何、もうすぐ帰って来るでしょうから。気にせずとも……」
村長さんが言いかけたとき。
「お~い、帰ったぞ~」
声が響き渡り、麻のシャツに胸当てズボン姿の男性がふらりと食卓へ現れ、怪訝な顔をする。
「おや? お客様……?」
「こちらの方は領主さまの奥方、シーナ様じゃよ」
村長さんが紹介してくれた。
「え……? 領主さまの……?」
なぜか男性の顔が青くなる。
「初めまして、シーナと申します」
立ち上がり、にこりと笑顔で挨拶する。
「も、申し訳ございません!!」
突然男性は床に座り込むと、床に頭を擦り付けてきた――
****
「いや~。勘違いして、大変申し訳ございませんでした」
イワンの父――ヨゼフさんが食事をしながら、恥ずかしそうに笑っている。
「いえ、こちらこそ説明不足で申し訳ございませんでした」
私も食事をしながら、謝罪の言葉を述べる。
ヨゼフさんがいきなり謝罪してきたのは、てっきり私がずっと未納だった税の回収にやって来たかと思ったらしい。
聞くところによると、もうここ20年以上、誰も何も言ってこなかったので税を納めていないそうだ。
そこへいきなり私が現れて、いよいよ取り立てに来た……と勘違いしたらしい。
「安心してください、私がここに住む以上、取り立てなんてしませんから」
「本当ですか!?」
「おぉ、何とお優しい。まるで女神さまのようだ」
「本当にありがとうございます。大した料理ではありませんが、お好きなだけお食べ下さい」
ヨゼフさんと村長さんが大喜びし、イワンのお母さんが料理の皿を私の前に置いてくれる。
うん、人から感謝されるのはやっぱり嬉しい。
何しろ、あの屋敷では誰からも厄介者扱いされていたからなおさらだ。
「はい! お任せください! 今後もこのサンドリー村からは一切税を徴収しませんので、ご安心ください!」
私は笑顔で返事をした。
だって、この村は私が離婚の財産分与で与えられている場所なのだから――!
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