008 ブリエン運輸
扉をあけ、門の外へ出ると、眼前に、停車したトラック後部があった。装甲車を思わせる、頑丈そうな大型トラック。
既に、荷物受け渡しの準備は整っているようだ。
(おーおー、仕事が早えや)
トラックのリヤドアが左右に開いており、積み荷を下ろす昇降装置も飛び出ていた。
「うおォ、でけえナ、おい」
門のすぐ外に、巨大な銀色の直方体が下ろされていた。横置きなのに、高さは、柔曽の腹より上である。
まるで、工場や港に置かれたコンテナ……と言ったら大げさだが、それを連想させる雰囲気はある。
そこへ。
地面を、円筒形のロボットが、ホイールを滑らせて、足元に寄ってくる。
特に、擬人化はされておらず、動物などにも似せていない。のっぺりした小型ロボットだ。色は、主に黒と銀。
中性的な合成音で、
「おはようございます。毎度、ブリエン運輸でございます。宙端 柔曽様へのお届け物です。お間違いがなければ、サインをお願いいたしますです」
柔曽は、両ひざに手を当てて中腰になり、ロボットの言葉づかいを注意する。
「最後の『です』は、いらねえよ」
「ですです」
「ッたく!」
プッ。ククッ。
(くそっ。ちェっ)
不覚にも、ちょっと笑ってしまった。
ブリエン運輸といえば、英米軍御用達の、知る人ぞ知る運送・宅配企業である。かの第二次大戦中に創業。
機密や兵器類を運ぶ場合が多く、民間人は余り利用しない。個人で頼むには料金が高く、審査も厳しい。
ロボットの日本語が変なのも、日本人客の少なさゆえか。もしかしたら、お国柄の違いで、この企業なりのユーモアなのかもしれないけれど。
届いたコンテナのラベルには、手書きの住所、宛名が書かれていた。母の筆跡だった。
(おーおー、母ちゃんの字だ。懐かしいねエ)
差出人も、母の氏名、「宙端 カヲルコ」と記入されている。
カヲルコは、戦火から紗良葉を連れ出して、海外を転々とした猛者である。ブリエン運輸とつながりがあったのも、さもありなん、ではある。
それら、ラベル内容を素早く読んでから、
「ほい、確認したよ。おッ疲れさん」
しゃがんだ柔曽は、ロボット頭部に取り付けられたパネルに、顔を近づける。
パネルは、タブレット端末に似た機能を持つ。のぞき込んだ柔曽は、視線を送って上下左右へ動かし、画面上の電子書類に署名をした。
・2056/9/19 宙端 柔曽
一方のロボットも、顔認証システムで、柔曽の本人確認を実施している。これで、手続き終了。
ロボットは、水筒のフタのような頭部を、グルリと回し、
「それで、お荷物はどちらへ搬入いたしましょうか?」
届いた荷物――銀色の直方体には、よく見ると、下部に着脱式の台車、キャスターが取り付けられていた。ブリエン運輸の備品であろう。どうやら、近距離なら、機械制御で移動できるようだ。
ロボットの質問に、柔曽は、うーんと腕を組み、
「そうさなア、このデカさだからなァ……。診療所の裏口の、救急搬送口に回ってくれや。あっちなら、なんとか入るだろうよ。扉も、両開きだからよウ」
「かしこまりました」
ロボットが返答した直後、ギギッとキャスターがきしむ音。自動操縦である。
銀のコンテナを載せた台車は、ゆっくり動き出し、短い草をかき分けて進み、建物の裏手へと向かった。




