007 バースデーソングス・メドレー
診療所・兼・自宅。
小山の上に建った洋館に、ピアノの音が響き渡っている。
一階リビング。
背もたれなしの丸イスに座った柔曽が、キーボードを弾いているのだ。
野外ロックフェスでも使えそうな、本格的な大きさ。巨体の柔曽が両腕を広げたよりも、鍵盤のボディーは長い。
サウンドは、「グランドピアノ」にセットしてある。デジタルの音だが、なかなかどうして、荘厳な響きだ。
曲目は、有名・無名なバースデーソングをいくつか、メドレーにしたもの。演奏しながら、柔曽が即興で編曲しているのだ。
手を両方とも盛んに動かして、たっぷりの音色を、小刻みに奏でていた。無論、一朝一夕で身につく技術ではない。
若い頃、柔曽はミュージシャンを目指したことがあり、ピアノが弾けるのも、その名残なのだった。
腕前は、一応、アマチュアのコンクールで上位入賞が可能なレベル。ちょっとしたミニライブとかホームパーティーでなら、充分、人に聴かせられる。
毎年、誕生日には、こうやって、柔曽は自分で自分にバースデー曲を演奏する。
独り暮らし、特に家族もおらず、誰も祝ってくれないからだ。
(まア、今年は、さっきマリモちゃんがくれた花束があるから、寂しくないけどな)
楽譜から目をそらして、ちらと、窓ぎわの花びんを見やる。もらったブーケを、早速、生けたのだった。
先ほど、マリモは、花を渡したら、早々に帰って行った。マリモの住む孤児院は、小山のふもと、街の片隅にある。
陽光に照らされた花びんに見とれるうち、指の動きが乱れて、ピアノの演奏が徐々に雑になる。
(ん。そろそろ、終わるか)
柔曽は、鍵盤をたたく指を止めた。
「ふう」
伸びをしてから、キッチンへ移動し、コーヒーを淹れ始める。
考え事を再開。
(――いや、マリモちゃんからの花束だけじゃないな。今年の誕生日は、もう一つイベントがある。もし、予定通りなら、今日は、もう一個、プレゼントが届くはずなんだが……)
と、その時だった。
家の外で、大型車両が停まる音。直後、玄関のベルが鳴らされる。
「おいおいおい、本当かよ。もう来たのかイ?」
マグカップのコーヒーを一口だけ飲み、インターホンに出ると、
「おはようございます。ブリエン運輸です。宅配便でございます」
外のロボットが答えた。人工知能の合成音である。モニターには、運送業者のトラックが映っている。無人の、自動運転だ。
――
「柔曽、あなたの五十歳の誕生日に、人工冬眠させた女の子が届く手はずになっています。軍事関係の巨大運送会社の倉庫に預け、厳重に管理してあります。ゼルボク王国、最後の姫君です。届くその日までに、医学と科学をしっかり習得しておきなさい。姫を丁重にお迎えし、あなたが目覚めさせ、そして病気を治すのです」
……
幼少の頃、母から、繰り返し柔曽が聞かされた言葉である。
「本当に来やがった……」
スキンヘッドの後ろをポリポリかきながら、柔曽は、廊下を小走りに、玄関先へ向かった。




